ダイバーシティを考える:野田聖子議員の講演から皇室問題まで

過日、仙台同友会・拡大ダイバーシティ委員会が主催する講演会に出席し、野田聖子衆議院議員の講演を聴く機会に恵まれた。タイトルは「人財輝く日本を創る」。
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最初に取り上げられたのが、こちらの日本の人口動態推移のグラフ。将来の年齢別人口構成はその年の出生率によってある程度予測できる。もちろん、寿命は今のところ、さらに伸びているから修正も必要だろうが。日本の人口は2008年をピークとして減少に転じており、2050年に9,515万人となることが予測されている。絶対数としての人数も問題だが、高齢者人口の割合が現状の約20%から約40%に到達しようとしていることが、さらに困った問題。
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さて、かつてこのグラフが作成されたときに「こんな危険なモノを国民に見せたらたいへんなことになるから、表には出さないように」ということになっていたらしい。ところが、政権交代で民主党(当時)の時代になって、「さすがにこれはマズイでしょう。このまま人口減少したら、日本の将来どうなるの?」という根拠として出回るようになったという。私にとってはものすごいインパクトということはなく、もしかしたら医療系では以前より知られたことだったからかもしれない。(個人的に改めてびっくりしたのは、第2次世界大戦の頃の人口減少は全体から見ればマイナーなものであったことだ。当時はまだ出生率も高く、乳幼児期の死亡率が非常に高かったからだろうか……)

日本という小さな国土で平地が少ない国を考えた場合、サステナブルな生態系として人間という環境に負荷をかける生き物の数がどの程度が適切なのか、つまり、例えば江戸時代の人口なら、いい塩梅にサステナブルなのか、などは不学にして知らないが、年代別人口構成を考えた場合に、働くことが困難な世代を支えるのに適切な就業人口が必要であることは自明である。外国人労働者を急激に受け入れるには種々のインフラ整備も必要であるし(東京2020オリンピックは、そのための準備段階とも言えるが)、300年以上も鎖国をしてきたメンタリティもあって、まずは自国の中で解決せねば、ということで、年金支給開始年齢は引き上げられ(支給を減らすという直接的な効果に加えて)、さらに「女性ももっと働いてね」ということになった。

野田議員曰く、国民の人口減少問題に対して「少子化対策」として捉えられており、「それは女性が産まないからでしょ?」という受け取られ方になってしまって、女性だけの問題になっていたことが大きなムーブメントにならなかった原因と分析(……でもそれって、想像力の欠如ですよね……)。現内閣も、「当初『女性の活躍促進』だったのだけど、このキャンペーンだと抵抗も多かったので、『一億総活躍!』に変わったのです」。こうして、女性の人権や参政権がフォーカスだった「フェミニズム」の時代から、雇用機会均等法に象徴される「男女共同参画」の時代を経て、今は「ダイバーシティ」がキーワードとなっている訳だ。ただし、「どんな組織でも人的構成の多様性が大事。多様性に配慮することが大事」という本来の哲学というよりも、「これまで働いていなかった人たちも働いてね!」という意味で。

人口減少、ワークフォースの減少を手っ取り早く改善するのなら、外国人労働者をもっと受け入れれば良いはずだ。だが、「目の前にいるワークフォースである女性や障害者を活用できない状態で、それは無理」と野田議員はバッサリ。

野田議員はすでに衆議院で連続8期の当選を果たし、1998年に37歳で郵政大臣に就任されたり(当時史上最年少!)、その後、内閣特命大臣も2回経験されているほどの経験をお持ちだが、ご自身が初めて議員になられた頃から、女性議員の割合はほとんど変わっておらず、未だに1割もいないと嘆かれる。現在、北欧のように女性議員の割合を規定する「クォータ制」の導入について議論が為されているというが、なかなか簡単なことではないようだ。

女性が働きやすくする上で「夫婦別姓」は一つの要素なのだが(すべてではない)、日本では明治時代の民法がほとんど改正されておらず、未だにそのまま。そういえば、本学法学研究科長もされた水野法子先生からもう10年以上前に「自民党議員の勉強会で夫婦別姓について説明したら、<そんなことをしたら、孝行娘が村八分になる!>といって怒られた」というエピソードを思い出す。マイナンバー制度にしたのだから、別姓になっても問題無いだろう。「非嫡出子の権利」は認められるようになった。もう一つの砦は「配偶者控除」。国会に女性議員がもっと多くなれば、このあたりも変わることが期待される。

「大学の無償化よりは、幼稚園、保育園の無償化の方が重要」とも言われた。幼児教育の程度と大人になってからの生活保護の割合に負の相関があるらしい(今度、データを探してみよう)。勉強したくない学生がモラトリアムに高学歴化することは確かにワークフォース減少に拍車をかける。ただし、大学院生への経済的支援は欧米並みになってほしいと個人的には考える。「男性の育休は100%保障すべき、液体ミルクの普及も育児のしやすさに繋がる」とも。

野田議員は「経営者が女性を活用した方が儲かる」と発想することが重要と指摘。「女性が参画したら、うまくいかないのではないか?という恐れから、お上から決められた数値目標に嫌々従うということになりがちなのは、成功例を知らないから」ということで、いくつかの会社の事例を挙げられた。「それって外資系だよね?」という予測を大いに裏切り、例えば某食品メーカーであったり、電気機器メーカーであったり、バリバリの純国産企業。

例えばカルビーでは、ジョンソン&ジョンソンから社長を招いて大成功。現在、管理職の女性率は二割、やがて三割になるが、7年連続の増益。働き方に柔軟性を持たせることが大事。営業職だったら、自宅から直接、顧客のところに行き、直帰して報告書は自宅で書けば、満員電車での通勤による体力・気力のロスも避けられる。

例えば日本電産は「24時間働けますか?」的なポリシーだったのが、数年前に「残業0」を掲げるようになったという。その社長に「方針転換されたのですか?」と野田議員が問うと、「そうではなくて、すでに日本人の割合が1割に減って、良い人財をグローバルに集めようと思ったときに出てきた方針が残業0だった」という答え。

つまり、トップがどう考えるかが重要なのだ。だが、野田議員曰く「現在、経団連メンバーもほとんど皆、男性社長、しかも叩き上げ。関係性に縛られるとリストラ含めて合理的な判断がしにくくなる」。また「むしろ、中小企業の方がこれからはトップがリーダーシップを発揮して良い改革がやりやすいはず。ダイバーシティを受け入れることは、むしろ男性の人生の支えになる。日本ほど自殺の多い国は無い。男性が幸せでない国には将来が無い」とも言われた。

講演の1時間があっという間で、すべてメモにすることはできなかったが、大いに刺激を受けた。野田議員には内閣特命科学技術担当大臣をされていた頃、2008年にお目にかかったことがある(実はアポイントの時間をミスるという大失態だったのだけど)。本も出されて知られていることだが、生殖補助医療により卵子提供を受け高齢出産され、そのお子さんには種々の特別なケアが必要という状況が続いており、それでも政治家として活躍されているバイタリティには敬服するしか無い。ご自身が政治の世界でマイノリティであり、さらにハンディを持った人への理解も深いことは、野田議員のポリシーに影響を与えていると推測する。これからのご活躍に期待したい。

話は変わって、というか実は大いに関連するのだが、先週、秋篠宮家の眞子さまが御結婚を予定されているというスクープが飛び出した。お若いカップル誕生はたいへん喜ばしいことなのだが、なぜこのタイミング? しかも正式なご婚約ご発表としてではなく……、ということの背景にはいろいろあるのだろう。ともあれ、日本での報道は「相手はどんな人か? どんなところでデートしたのか?」などのゴシップが多いように思うが、国外での報道は「プリンセスが皇族から離れることになる」という点がタイトルになっているものがほとんどだ。

眞子さまと同世代の皇族の中で男性は唯一、悠仁さまだけなので、このまま「宮家を継げる、創設できるのは男子のみ」で続けると、皇族の数はどんどん減ってゆく。これまた冒頭の日本の人口動態と同様に火を見るより明らかな予測なのだが、なぜか「女性宮家」の問題についての議論も後回しにされてきた(直近では民進党の中で議論されている。もしかしたら付帯決議に持ち込まれるかもしれない)。日本はつくづく、都合の悪いことは見ようとしない国だとしか言いようがない。

さらに言えば、「女性天皇」の問題や「女系天皇」の問題が控えている。今上天皇の御譲位に関しては、直近の実務的な問題として19日に閣議決定されたが、もし我が国がローマ法王よりも長く続く皇室をこれからも維持したいと考えるのであれば、21世紀の社会状況や皇族の方々のお気持ちも踏まえた上で、ぜひ「生物学的な観点」も入れた議論をして頂きたいと願う。生物の世界では、(皇室問題に使うには乱暴な言葉ではあるが、ここでは敢えて使わせて頂くとして)「雑種強勢(すなわち純系は弱い)」は定説であり、DNAレベルでのダイバーシティが重要ということは了解事項である。

【関連拙ブログ】

# by osumi1128 | 2017-05-21 09:45 | ロールモデル | Comments(0)

『ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密』は面白い!

もしも大学受験前まで戻れるなら、言語学の道にも進んでみたかった。残念ながらリアルな世界では身は一つしかないので、理系選択をし、歯学部に進学して、今は神経発生や発達障害の動物モデルを中心とした研究を行っているが、「ことば」に対する興味はかなり小さい頃からだ。

例えば保育園時代、「プリンセス」と「王女」の定義はどのように異なるのか、大いに悩んだという記憶がある。当時は「プリンセス」も「王女」も「princess」という英語を元にしているという意識は無かったので、確か、読んだ絵本の文脈から、年齢で異なるというという結論にたどり着いたはずだ。子どもはそうやって、自分の得た知識から法則を導き出そうとする。

本書『ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密』(岩波科学ライブラリー)はニューヨーク市立大学で言語学博士号を取得された東京大学准教授の広瀬友紀さんが、ご自身のお子さんK太郎くん(現在7歳)が言葉を覚える過程で気づいた、子どもならではの「言い間違い」から、言語のルールやその習得メカニズムについて紹介したもの。子どもはむしろ「原理原則」に忠実であり、大人は恣意的に決まった「ルールアウト」を多数知っているので、子どもらしい言葉を「言い間違い」と思うのだ。

オビにも使われている「これ食べたら死む?」や「死にさせるの?」という子どもならではの活用形は、可愛らしい「あるある」だ。つまり、どの子ども(この場合は、国籍等に関わらず、日本語を学ぼうとする段階の子ども)も、共通した「一般化」のルールを自然に習得している。このことは、ノーム・チョムスキーの「生成文法」の話をちょっと思い出させる。チョムスキーは、どんな母語でああれ、人間が数年でその言語体系を習得できるのは、「普遍文法」が生得的に備わっているからだと説明した。「文法」が生得的なものかどうかはわからないが、人間の子どもが一般的に、どのような言語であれ、周囲で話されている言葉を聞いて「普遍化」するという脳の性質を備えていることは確かだろう。

子どもの言い間違いは賞味期限が短くて、成長する過程で無くなってしまう。今子育て中の方なら、「あ、うちの子も同じ!」という発見がたくさんあるだろうし、その時期を過ぎてしまった方も「そうそう、昔、こうだったよね……」と共感を覚えるに違いない。自分自身がそんな子ども言葉を使っていたこと自体は、残念ながら記憶に残っていないからこそ、本書を読むと楽しくなる。

広瀬先生とはまだ面識は無いが、『心を生み出す遺伝子』(岩波現代文庫)の翻訳でお世話になった岩波書店の編集者、浜門麻美子さんを介してFacebookで繋がった。今年の言語学会にシンポジストとしてお邪魔することになっているので、リアルにお目にかかってお話しできることを期待している。
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# by osumi1128 | 2017-05-18 08:11 | 書評 | Comments(0)

第50回日本発生生物学会に行ってきた

日本発生生物学会が今年50周年とのことで、演題は出していなかったのですが、情報収集のために3日目のみ参加してきました。ちなみに、関連イベントとして企画展「卵からはじまる形づくり〜発生生物学への誘い〜」が国立科学博物館で開催中です(6/11まで)。

夕方にプレナリーレクチャー2題で、その後、懇親会という「3日目の午前中で帰らないでね」作戦のスケジュール。50周年を記念して最終日のプレナリースピーカーは、Eddy De Robertis先生とLowis Wolpert先生ということになっていました。残念ながらWolpert先生は怪我によって来日できなくなって、ビデオメッセージを送って頂きました。
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学会長の上野先生がイントロとまとめを話されたのですが、「人生でもっとも大事な時は、誕生でも結婚でもなく、原腸陥入である」というウォルパート先生の言葉を引用され、「でも、実は先生は最近、御結婚されました。きっと怪我も早く良くなることでしょう♬」と締めくくられました。
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ウォルパート先生の講演がキャンセルされたので、急遽、岡田節人先生の追悼講演会となり、個人的には有難かったです。

一人目は、岡田先生のお弟子さんとして阿形清和先生@学習院大が登壇され、タイトル画像はブルーバックスの『細胞の社会ー生命の秩序をさぐる』。生体を「細胞の集団」として捉えるということが、それまでの発生学とは異なる視点だったのです。これに感銘を受けて発生研究の道に進んだとのこと。私が持っているのは1987年の改訂新版の方。こちらはまだ売っています。阿形さんは節人先生の研究からご自分のプラナリア再生研究への道筋について話されました。
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二人目は三浦正幸先生@東大薬学。やっぱり同世代だからか、表紙スライドには同じ本のカバーが。
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三浦先生もやはりこの本にインパクトを受けて研究の道へ。岡田先生との直接の接点は、基礎生物学研究所の所長をされていた頃に、御子柴先生の客員研究室に参画していたとのこと。岡田先生のテニス姿は存じ上げなかったので新鮮。やっぱり緑がトレードマーク♬
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さらに3人目は、岡田先生が京大生物物理の研究室を開いたときに教員として参画した近藤寿人先生@京都産業大。近藤先生のタイトルは「The Developmental Biology played by Tokindo S. Okadaas a solist and a conductor」というちょっとスノッブで洒落たものでした。
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さすが緻密な近藤先生らしく、節人先生のご研究の流れや、研究プレイヤーとしての業績と、研究チームを率いるリーダーとしての成果を分析されたお話でした。Developmentという国際誌に、東北大学名誉教授である仲村春和先生と共著で追悼文も書かれています。ダウンロードはこちら
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京都時代にJohn Gurdon先生(2012年に山中伸弥先生とともにノーベル生理学平和賞授賞)やNicole Le Douarin先生(1986年に京都賞授賞)などを日本に招かれたことも、その後、多くの研究者に影響を与えたことになります。

改めて、節人先生というのは、今風に言えば「ビジョナリー」だったのだと思います。そういう意味で、今、私たちの世代に、これからの若い方々を惹き付けるだけの魅力や先見性を持った研究者が、どれほど可視化されているのか疑わしい……。節人先生が『細胞の社会』を書かれたのは1972年、45歳のときでした。今の40代半ばの生命科学研究者は、本を著すよりも、インパクトのある原著論文や、各種の申請書・報告書を書くのに必死で余裕が無いかもしれません。

三浦さんの発表の中で節人先生の言葉として「無駄する余裕、もたんとあかんで」と挙げられていましたが、本当にその通りですね。

【関連拙ブログ】

# by osumi1128 | 2017-05-13 11:26 | サイエンス | Comments(0)

週刊ダイヤモンド連載コラム第115回:ヒトの臓器を動物で作る 射程に入ったキメラの実現

今週発売している4月29日号の週刊ダイヤモンドに拙連載コラム第115回が掲載されています♬ 
「iPS細胞Xゲノム編集でどこまでできるか?」という時代に突入したことをヒシヒシと感じる今日このごろです……。

大人のための最先端理科【生命科学】
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# by osumi1128 | 2017-04-25 23:37 | サイエンス | Comments(0)

2017年日本国際賞生命科学分野受賞者の言葉:基礎研究をする喜び

一つ前のエントリーの続きです。

2017年の日本国際賞生命科学分野の受賞者二人の生い立ちや共同研究に至る経緯などを説明した動画が国際科学技術財団のHPより視聴できます

最後の部分で、若い方々へのメッセージが載っていますので、こちらにもクリップしておきます。
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ダウドナ博士の最後の部分、英語では下記のようになっています。

The joy of making discoveries through collaborations is another great aspect of science.
Science is fun!

この気持を持ち続けたいと思います。



# by osumi1128 | 2017-04-25 23:23 | サイエンス | Comments(0)

2017年日本国際賞生命科学分野の授賞はゲノム編集研究者に!:生命倫理についての早急な議論と合意が必要

4月19日に2017年の日本国際賞の授賞式が行われました。今年は客席からの参加でしたが、自分が分野検討委員会の最後の年に定義文(後述)作成から関わったという意味でも、また、ゲノム編集という画期的な技術に対する授賞としても、その対象が女性研究者2名だったという点においても、感慨深いものがありました。

今年33回目となる日本国際賞は、現天皇がまだ皇太子殿下であった時代に設立され、数年前までは陛下ご自身がご祝辞を述べられました。日本国際賞の30年の歩みをまとめた動画では、お若い頃の天皇陛下や、これまでの多数の受賞者のお顔など、懐かしく思いました。


今週は授賞式関連の種々の行事がありましたが、翌日の20日に、東大伊藤記念ホールにて市民向けの公開シンポジウムが行われ、エレクトロニクス・情報・通信分野含めて3人の受賞者の講演を聴いて来ました。
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エレクトロニクス・情報・通信分野の受賞者であるアディ・シャミア博士は現在ワイズマン研究所の教授で、暗号研究・情報セキュリティの研究で著名な方ですが、幼いころに同研究所のサマーキャンプのイベントに参加したことで科学への興味を抱いたと仰っておられました。

エマニュエル・シャルパンティエ博士はパリ第6大学を経てパスツール研究所で学位を取得、ウィーン大学、ウメア大学などを経て、現在はベルリンにあるマックス・プランク感染生物学研究所の所長です。もともとは細菌がウイルス等の感染に対してどのように立ち向かうのかを研究しておられました。

方やジェニファー・ダウドナ博士は、ポモナ大学で学士を、ハーバード大学で博士号を取得し、コロラド大学のポスドクを経てイエール大学で独立し、現在はカリフォルニア大学バークレー校の教授であり、ハワード・ヒューズ研究員ですが、リボザイムという、RNA酵素を研究して来られました。

二人の研究者が出会ったのは2011年3月のプエルトリコで開催された微生物関係の学会。それぞれ専門の異なる二人の研究者が意気投合して共同研究を開始することになり、細菌の適応免疫にCRISPRの配列が関わるということを見いだしたのです。実は、この配列は1987年にすでに当時阪大におられた石野良純先生が見出されたものだったのですが、その意義はわからなかったというものでした。

「ここから研究は思いもよらぬ方向に発展していきました」とダウドナ博士は話されました。それは、純粋な興味として始まったCRISPR研究が、思いのままにゲノムに変異を入れたり、新たな遺伝子を挿入したりする「ゲノム編集」という技術に応用できるということが分かったからです。

これまでも、いわゆる遺伝子工学、バイオテクノロジーという言葉で人為的な遺伝子の「切った貼った」は行われていましたし、組換えDNA作物の作出や、ES細胞と組み合わせて遺伝子ノックアウトマウスを作製するという使われ方もありました。ところが、彼らが開発したCRISPR/Cas9によるゲノム編集は、より正確に、より高率良く、より素早く遺伝子改変を行うことが可能です。誰でも簡単に行うことができるため、瞬く間に生命科学研究者の間に広まりました。

つまり、石野博士の繰り返し配列の発見から四半世紀を経て、その生物学的意義が理解され、生命科学の技術として応用されるようになった訳です。最初から応用だけを考えていても、画期的な技術は生まれないでしょう。

まだアラフィフの二名の女性研究者はどちらも颯爽としていて、ロールモデルとして本当に素晴らしいと思いました。講演の後では、高校生や大学生の女子も食いついて質問していました。頑張れ、未来の研究者さん!
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ところで、ダウドナ博士はすでにTEDでもトークを行っていますが、ゲノム編集技術の生命倫理的な側面について、社会での深い議論が必要だと主張されています。つまり、人類はゲノム編集を生殖細胞に用いてデザイナーベビーを作れるところまで来ているのです。この点に関して、日本の動向が気になるところです。直近の新聞報道では、国側と研究者の集団である学会側との間での意見がまとまらなかったということでした。


おそらく、この倫理的問題が一定の解決を見ないと、ゲノム編集にノーベル賞が授与されることにはならないと私は予測しています。これまでノーベル委員会は生命倫理が関係する成果については慎重な態度で臨んで来ました。例えば、ジョン・ガードン博士の確立した「クローン技術」は、それ単独ではなく、山中伸弥先生の「iPS細胞」と抱き合わせで「初期化(リプログラミング)」としての授賞となりましたし、さらに遡れば、初期胚から作られるES細胞も、相同組換えとセットで病態モデルとしての「ノックアウト動物の作製」という内容で認められました。人工受精でさえ、最初の例であるルイーズちゃんの誕生から四半世紀以上の時間が必要でした。

遺伝子工学が可能となったとき、アシロマ会議が開催され、組換えDNAによって作られた生物の「封じ込め」が合意され、さらにカタルヘナ議定書が取り交わされたように、ゲノム編集についてもきちんとした議論と合意形成が必要と思います。

関連情報:
連休中ですが、4月30日に日本学術会議主催による公開シンポジウムが開催される予定です。

関連拙ブログ:

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ちなみに、2015年の秋に作成した定義文はこちらです。

2017年「生命科学」定義文
「生命、農学、医学」領域
授賞対象分野:「生命科学」
(背景、選択理由)
生命科学の分野は近年、いっそうの広がりと深化を見せ、生命の成り立ちについての理解が飛躍的に進みつつあります。
例えば、次世代シークエンサーを用いたゲノムおよびエピゲノム解析、質量分析器を用いた各種オミックス解析、超解像度顕微鏡や三次元電子顕微鏡などを用いた分子形態学的解析、種々のゲノム編集技術を用いた細胞・個体レベルの解析などが現在、目覚ましい勢いで進展しつつあり、こうした革新的な解析技術により、これまでの概念を大きく変えるような発見が次々と為されています。生命倫理や個人情報の取り扱いに配慮しつつ、このような生命現象の理解を進めることは、人類の叡智に寄与するものであるとともに、未来の新しい医療の創造や普及につながることが期待されます。
(対象とする業績)
2017年の日本国際賞は「生命科学」の分野において、科学技術の飛躍的発展をもたらし、新たな生命現象の発見や、生命機能の理解を可能にする解析・分析技術の革新など、社会に大きく貢献する業績を対象とします。

たった400文字程度(英語バージョンは160 words程度)の文章に、多数の先生方が知恵をしぼり時間をかけて練り上げるというプロセスも、この賞の重みに関わるということを身をもって体験させて頂きました。改めて、財団関係の皆様には心から感謝申し上げます。

おまけ:
2016年の授賞式の動画では、分野検討委員として壇上にいたのですが、両陛下の後ろに映りこむことができて光栄でした♬



# by osumi1128 | 2017-04-22 11:03 | サイエンス | Comments(0)

再び奈良女子大学に行ってきた:シンポジウム「理数教育における魅力の創造」に参加

前回は2015年の11月に講義のために伺ったのですが、奈良女子大学の理系女性教育開発共同機構Core of STEMという組織が主催するシンポジウム「理数教育における魅力の創造」の講演に呼ばれて、再び奈良へ。

学長、担当理事の先生もご出席の中、同プロジェクトに関わる吉田信也先生が3月に行ったシンポジウムの報告として、「なぜ、女子生徒は理数系の科目に魅力を感じないのか、ではどうすれば良いのか?」についての奈良女子大の取り組みについてお話になりました。

興味深いと思ったのは、国語、社会、数学、物理、化学、生物、地学の教科に対するイメージとして「情緒的である」という感じ方に関しての高校生徒で男女差が見られたこと。もちろん、国語に対しては男女ともに情緒的であると捉えている人数が多いのですが、数学や物理に対して男子生徒は「情緒的である」と捉えているのに対して、女子生徒はそうではない。

これは、男子生徒は数学や物理に対して「ロマン」を感じることができる、そのような先人のロールモデルの気持ちを共有したり、追体験できるということなのではないかと思いました。

ともあれ、女子が好まない物理に対して、もっと身近なところから導入する工夫ができるのではないか、ということで、そのような教材やテキストを作ろうとしているようです。例えば「光」を学ぶのに、日焼け止め、虹、ダイヤモンドの輝きなどの入り口が考えられるなど。

私の講演は「なぜ理系に進む女性は少ないのか?」という、訳本のタイトルと同じ題目で60分の時間を頂きました。過日のTEDxTohoku Universityのときは15分の持ち時間でしたが、60分あると、かなり多数の事例を挙げて話すことができます。小さいときからの「刷り込み」が女性の理系進学を阻むこと、「無意識のバイアス」に気づくことや、「意識を変えること」、「ネットワーキング」などの重要性などについて話しました。
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その後、東北大学サイエンス・エンジェルの2名もショートトークを行いました。
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環境科学研究科および理学研究科の女子大学院生です。

奈良女子大からも、学部生(なんと、一家4人のうちお父さん以外が奈良女関係とのこと)と大学院生が発表。
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参加者の中には、奈良女子大学附属高校の女子生徒さんも。
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終了後の懇親会では、さらに意見交換を。個人的には、女子大が女性のリーダー育成に果たす役割も大きいと思っています。
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# by osumi1128 | 2017-04-16 22:39 | 科学技術政策 | Comments(0)

大英自然史博物館展とセットで行こう!:科博企画展「卵からはじまる形づくり」

年に1回の社会人向け講義のために神保町の東京堂さんへ行った帰り、かねてより訪問しようと狙っていた国立科学博物館の企画展「卵からはじまる形づくり〜発生生物学への誘い(いざない)」を観てきました。

日本発生生物学会が設立50周年という節目でもあり、科博さんとのコラボで成立した企画。学会挙げての豪華企画陣もさることながら、オープンキャンパスのレベルをはるかに超えたプロっぽい展示制作物になったのは、工藤光子さんというキーパーソンのおかげ。流石です♬
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展示会場には多数の「生の標本」があり、顕微鏡などを使って実際に自分の眼で見ることが可能です。説明のパネルもとてもわかりやすいものになっています。それでも、ちょっと難しいと思うことがあれば、遠慮なくアシスタントに入っている現役研究者やその卵たちに訊いてみると良いと思います。

今日はちょうど、トークショーの時間に重なったこともあり、東北大学から企画運営に関わっている生命科学研究科の田村宏治さんと、倉永英里奈さんにもお目にかかれました。画像はDuoトークをされた太田欽也さん@Academia Sinica, Taiwan(真ん中)と新美輝幸さん@基礎生物学研究所(右)と、MCの田村さん(左)。太田さんがキンギョの尻尾が二股になる仕組みについて、新美さんはカブトムシの角の二股についてトークをされました。
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毎週末、トークショーが企画されています。事前申し込みは必要ありませんので、気軽に立ち寄れそうです。詳しくはwebをご参照あれ。

また、大型連休の間には、実際にニワトリ胚を取り出して観察する実習もあります! 子どもさんに是非、観て欲しいです。胚の心臓がバクバク動いているのを観ると、本当に感動します。こちらは要予約です。申し込みはこちら

発生生物学の歴史の最初は「観察」でした。その後、イモリの胚などを用いた「実験発生学」の時代となり、さらにショウジョウバエが導入され、線虫が導入され、ノックアウトマウスが作られるようになり、それらの学問の潮流の中で、2012年のジョン・ガードン先生&山中伸弥先生のリプログラミングに繋がったことを忘れてはいけないと思います。発生生物学に関係する分野のノーベル賞をたどるだけでも、そのことがわかります。科学者の純粋な興味が、やがて他の方の手で大きなイノベーションに発展するのです。

ちなみに、パンフレットの最後の方にうちの助教の木村君が撮影した精細管におけるPax6の発現の美しい画像が載っていたのは想定外ww(訊いてないですよ!) ピンクが精母細胞の核で発現しているPax6です。精子形成における機能の解析はこれからのお楽しみ♬
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同じく、6月11日まで開催されている大英自然史博物館展のチケットで、こちらの企画展も観ることができますので、ぜひお立ち寄り下さいね。
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大英自然史博物館展の方では、個人的には、実物観たのが初めての始祖鳥の化石が、思っていたよりずっと小さかったこと、ドードーのCGがよく出来ていたことが印象に残りました。あと、藻類学者のKathleen Drewや植物学・地質学者のMarie Stopesなどの女性科学者がいたことも覚えておこうと思いました。日本にも、もっと本格的な自然史博物館があると良いですね。
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# by osumi1128 | 2017-04-08 17:27 | 科学 コミュニケーション | Comments(0)

第1回TEDxTohoku Universityに参加

「Ideas to spread」をコンセプトに世界中で展開されているイベントのTEDの姉妹版、TEDxTohoku Universityが本学学生さんの企画運営により開催され、トークをしました。

TEDは今や「TED風プレゼン」という言い方ができるほど、現代のトークやプレゼンの仕方にインパクトを与えました。もちろんその「スタイル」が重要というよりも、15分のトークの中にいかにストーリーを組み込むか、何がメッセージなのか、そのシンプルさ、メッセージ性が強い影響を与えたのだと思います。東北大学工学部キャンパスのカタール・サイエンス・ホールを会場として、TEDxTohokuや日本のTEDxの経験者で本学出身の方が力を合わせて、本日のイベントが成立しました。

私のトークは、オープニング・セレモニーの後、10名のトークの中の最初でした。事前の打合せによりテーマは「もっと科学に女性を! Women need science, Science needs women」として、科学分野において女性の参画が足りないこと、その背景となっている無意識のバイアス、それに気づくことや、メンター・ネットワーキングの重要性について話をしました。トークの後のブレイクや懇親会で、何人からも声をかけて頂けたので、昨日のリハーサル含め、週末返上で行った甲斐がありました。
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東北復興関係のトークもいくつかありました。もっともスタンディングオベーションを得たのは、予想通り、ライフブリッジの櫻井亮太郎さん。東北の魅力について発信しているユーチューバー、Chris Broadさんの活動も素晴らしい。真ん中の花魁の衣装の方はLily Norikoさん。同時通訳の会社Lily's Transupportを運営いる方です。最後のトークをされました。留学の経験は無しって、すごいなぁ……。
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今回の企画運営チームの約半数が留学生というのもユニークな点だったと思います。辛子色のトップスの女子たちは、その隣の2名の男子とともにエンターテイメントとして2曲披露した、本学学生のブルーグラスのユニット。
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個人的には、学友会に昇格したアカペラコーラス部del mundのユニット、Cloverさんたちが良かったかな。披露したのは「ふるさと」と「なごり雪」でした。
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全体代表はChanon君。タイからの留学生。
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お疲れ様! そして、次もイベント開催できるように頑張って下さい!

TEDxTohoku UniversityのFacebookページはこちら

(いずれ、プレゼンはスクリプト付きでウェブにアップされる予定)

ちなみに、本日は「世界自閉症啓発デー」でもありました。もう一言、自分のイントロ、加えた方が良かったと反省……。最後になってスライド2枚削ったので、あと18秒あったのに。

# by osumi1128 | 2017-04-02 22:17 | 東北大学 | Comments(0)

大内憲明先生ご退職おめでとうございました

今年の3月は、お世話になった先生方の退職が重なりました。医学系研究科ではともに脳科学グローバルCOEの活動を行った森悦朗先生とともに、元医学系研究科長・医学部長の大内憲明先生もご退職。21世紀COEの頃からTUBEROプロジェクトや医工学研究科立ち上げで御一緒させて頂きました。年は違うのですが、東北大学の教授に同期着任ということもあり、過日のご退職祝賀会に馳せ参じました。
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出席者が270名ほどの、しかも着席という大掛かりなご宴席で、さすが、外科の先生は違う……と思いました。同門の方々の結束が硬いというのも、個人主義な基礎とは違う雰囲気ですが、それでないとチーム医療がうまく回らないということもあるのだろうと思いました。

この日は御一緒の画像を撮るような雰囲気ではなかったので、記念に退職教授記念講演会のときのショットを上げておきます。
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4月からは宮城県北部の登米市の医療管理者として従事され、新たなお立場で地域医療に貢献されるるとのこと。これからもご指導宜しくお願いします!




# by osumi1128 | 2017-03-31 22:42 | 東北大学 | Comments(0)