Twitterでやってみました:遺伝子の働き方〜神経新生

Twitterより
仙台で過ごす日曜日の朝。掃除、洗濯(これは昨日の積み残し作業)、お花の水替え、コーヒー、新聞、それにTwitterチェックが加わった(笑)。昨日の「遺伝子」でRTされたせいか、フォロワーが一気に増える。動的で面白い。言い足りないので、夕方につぶやく予定。午後は論文リバイスの打合せ
posted at 11:23:17


ラボでディスカッションの後、Twitter Lecture(?)をしてみました。



●仕事柄、市民向けの講演会など多いのですが、遺伝子の話は概して嫌われます。「遺伝子=設計図」という概念が強すぎて、「遺伝子で決まって欲しくない!」という抵抗のある方が、文系のみならず理工系の方にも多いと感じます。脳科学者の一部もそうです。
posted at 01:23:54

●さて「遺伝子」のお話です。「"遺伝子は設計図"」でGoogle検索かけると3万件くらいヒットします。文脈として「そうではない」ものも含んではいますが、一般的によく使われる喩えですね。でも、遺伝子は設計図のようには出来上がったものに対応していません。
posted at 14:42:47

●それで、「遺伝子はレシピのようなもの」という喩えが、ドーキンスあたりから出てきました。私が翻訳をした『心を生みだす遺伝子』(岩波)では、原著者のゲアリー・マーカスがやはり「レシピ」を使っています。 この本絶版になりますが文庫化されます。http://ow.ly/AoQ8
posted at 14:45:08

●「遺伝子=レシピ」の喩えの例として「パウンドケーキ」でお話ししてみましょう。パウンドケーキは、小麦粉、バター、卵、砂糖を元々は1ポンドずつ配合するところに名前の由来がありますが、卵を卵黄と卵白に分け、卵黄に砂糖を加え、室温に戻して攪拌したバターに加え、小麦粉をさらに加え、
posted at 14:50:27

●さらに泡立てた卵白を加えてから、型に入れてオーブンで数十分で焼き上げる、というのがレシピです。出来上がったパウンドケーキはどんなに細かくしても、「この部分がバター、この部分が卵」という対応関係はもはや成り立ちません。こういう「非一対一対応」「不可逆性」という点が遺伝子の働き方
posted at 14:52:32

●としてまずあります。それから、遺伝子は柔軟に使い回せるものである、ということもあります。レシピの喩えで言えば、今日は1ポンドずつだと多いから、半分に減らそう、とか、卵が小さめだから、それに合わせて他の材料もちょっと減らそう、などのように、置かれた状況によって使い方を変えられます。
posted at 14:54:27

●もう少し現代的な観点を取り入れるとすれば、環境によって遺伝子の働き方が変わるということが、もっと一般に伝われば良いと思っており、こういう「エピジェネティクス」の話を少しずつ市民向けの講演会などに取り入れています。DNAの塩基配列は滅多に書き換わりませんが、
posted at 14:57:18

●DNAやクロマチンというDNAの鎖が巻き付いているタンパク質に化学修飾が加わるのです。例えば、ストレスや食習慣などによって。運動などもそういう可能性があるでしょう。だから「遺伝子に運命が書き込まれている」と考えるよりも、「遺伝子をいかに上手く使うか」が大切なのです。
posted at 15:00:27

●うちの研究成果の例として一つ挙げておきましょう。それは、脳の中にある「神経幹細胞」というタネのような細胞を活性化して、神経細胞をたくさん作らせる、というお話です。その前に、皆さん、脳の神経細胞は3歳くらいが数のピークで、後は死んでいくだけ、
posted at 15:02:46

●お酒を飲んだらもっと死んでいく…(笑)という風に思っていませんか? 私が大学生の頃はそう思われていました。でも、違うんです! 脳の中の例えば「海馬」のような部分では、死ぬまで神経細胞が産生されます。これは海馬に「神経幹細胞」が存在するからです。
posted at 15:04:22

●神経幹細胞という未熟な状態の細胞は、分裂して、自分自身(=神経幹細胞)を生みだすとともに、神経細胞を作ります。神経細胞自体は神経伝達機能に特化した細胞なので、もはや分裂することはできないのですが、幹細胞というタネの細胞があるために、いつまでも神経細胞を作り続けることができるのです
posted at 15:06:23

●で、このような現象のことを「神経新生neurogenesis」を呼びます。これ以降は「神経新生」の方が短い言葉なので、こちらを使わせて頂きます。神経新生は、季節毎に歌を覚えるカナリヤなどの鳴禽の研究をきっかけに「再発見」されました。実際は1960年代に報告されたのですが。
posted at 15:08:00

●この話ははしょります。で、繁殖シーズンに雄の鳴禽は新しい歌を覚えて、雌に求愛のラブソングを歌うことでつがいを探します。雌は複雑な歌を歌える雄をつがいとして選びます。性選択ですね(人間の世界でカラオケがこれに対応するものかは不明ー笑)。
posted at 15:09:53

●で、このとき鳴禽の雄の脳の中で歌学習に関わる部分で「神経新生」が生じていることが分かったのです。これが1983年のGoldman & Nottebohmの論文。これ以降、ラットやマウスだけでなく、サルやヒトでも神経新生が生じるということが次々に調べられ、
posted at 15:14:19

●業界的に認知されるようになったのが1990年代の後半。そこから10年かけて、一般向けにも話が浸透しつつあるという段階です。神経新生は学習と関係し、学習能力の高いラットでは神経新生が良い一方、学習させると神経新生が向上します。逆に、ストレスによって神経新生は低下します。
posted at 15:16:33

●動物実験において抗鬱剤に神経新生向上効果があることから、鬱と神経新生の関係に着目されています。また我々やいくつかの研究グループは統合失調症などの精神疾患にも関係するのではないかと考えています。このあたりはまだ、一般の方向けに「絶対そうです」と言える段階ではないと思いますが。
posted at 15:19:05

●ですので、神経新生を向上させることが、学習効果を高めたり、精神疾患の予防・治療に繋がるのではないか、という点については、世界中で着目されて「神経新生向上剤」の開発が進められています。私たちも内在する神経幹細胞を活性化し、神経新生を向上させる方法に取り組んでいます。
posted at 15:21:41

●そこで注目したのは「脂質」です。脳はとっても「脂っぽい組織」で、乾燥重量の約60%が脂質です。中でも多い成分はドコサヘキサエン酸(DHA)やアラキドン酸(ARA)という脂質で、これらは「多価不飽和脂肪酸」と呼ばれます。コレステロールなどは飽和脂肪酸。
posted at 15:23:07

●また、鳴禽が歌学習する際にも、不飽和脂肪酸にくっつく「脂肪酸結合タンパク質」という物質が多くなることが報告されており(前述のロックフェラーのグループから1997年に)、私たちはラットやマウスでもこの脂肪酸結合タンパク質が神経新生に重要であることを見出していました。
posted at 15:25:29

●これらの論文については、Researchmapの業績の中の「MISC」のところに和文総説がいくつかありますので、ご参照下さい。http://researchmap.jp/sendaitribune/ すみません、ご質問等も来ていますが、とりあえず一通りTweetしてしまいます。
posted at 15:27:23

●そこで、ラットにDHAやARAを投与するという実験を試みました。これらの脂肪酸は栄養素であり、消化管から血中、そして脳の中に容易に移行できるものです。我々が今年発表した論文では、生後2日目から4週間のARA含有餌投与によって約30%海馬の神経新生を向上させることができました。
posted at 15:30:41

●別のグループでは、3世代に渡ってDHA欠乏食で育てたラットにDHA餌を投与すると神経新生が向上したと報告しています(Kawakita E, Hashimoto M, Shido O: Neuroscience 139, 991-997, 2006)。
posted at 15:33:09

●現在、我々もDHAやARAの効果の詳細を調べているところです。あと1年くらいの間に培養細胞系での結果を論文化できるのではと見積もっています。研究成果が論文になっていくのには、こういう実験動物等を使う研究では、どうしても年単位での時間がかかります。
posted at 15:35:10

●図の1つのみでも出せるようにすべきでは、という御意見もありますが、いくつかのデータを組み合わせないと、その意味が見いだせないことから、論文という単位になっています。つまり、データのディジタル化ですね。
posted at 15:36:16

●さて、我々はさらに、ARAの効果として、精神疾患様行動異常を改善できないだろうかと考えました。ちょうど「感覚フィルター機構」に異常を示す遺伝子変異ラットの解析を並行して進めていますので、このラットをモデルとして使うことにしました。
posted at 15:37:49

●「感覚フィルター機構」というのは、例えばカクテルパーティーのときに、雑音の中から自分の友人の声を聞き分けたりできるように、ノイズからシグナルを検出できる神経機能です。あるいは、過剰な刺激に対しては反応を抑えて、無駄に反応しない仕組みでもあります。
posted at 15:39:09

●統合失調症などの精神疾患では、この機構が弱まっていることが知られており、我々の遺伝子変異ラットでもやはりこの機構の低下が認められるのです。そこで、このラットに対して、先程のARA含有餌を投与して育てました。
posted at 15:41:30

●すると、このラットでも普通のラットと同様にARA投与によって神経新生は向上し、さらに数週間後において感覚フィルター機構の検査を行うと、正常なラットと有意差が無いくらいまで改善することができました。この結果の詳細は以下のプレス発表を参照下さい。 http://ow.ly/Aphc
posted at 15:44:01

●つまり、餌の成分を変えることによって、神経幹細胞を活性化することが可能であり、神経機能を改善することができる可能性を示したことになります。もちろん、現段階ではあくまで動物実験レベルのことであり、すぐさま人間に応用できるかどうかについては、慎重に研究を進める必要があります。
posted at 15:47:15

●さて、話の発端は「遺伝子の働き方を環境で変える」というところだった訳ですが、この点についてはウチの研究ではまだ「作業仮説」段階です。餌の成分によって本当に遺伝子の働き方が変わったのかどうかについて、今後調べてみたいと思っています。
posted at 15:49:02

●ストレスによって遺伝子の働き方が変わる例については、BDNFという神経栄養因子と言われる分子の元となる遺伝子に関しての報告があります。Tsankova et al., Nat Neurosci, 2006(ときどきTweetが遅くなるのは、根拠を調べて載せたりしているせいです)
posted at 15:52:52

●という訳で、神経が働く場合にも遺伝子は働いているし、その遺伝子の働き方に、経験や生活習慣が関わるということです。以上、Twitter講座「遺伝子の働き方編」でした。ちなみに、本日18:30TV朝日「奇跡の地球物語」にコメント出演しますので、良かったら見て下さい。
posted at 15:56:13
*****

という訳で、1時間ちょっとの間、ずっとつぶやき続けてみたのでした。
(ちょっと読みにくいかと思いましたが、Tweetした時刻を残しておきました)
何人かの方々にはリアルタイムでフォローして頂き、ご好評を博しました。
140字ずつで述べていく、というスタイルは、それなりにリズムがあって面白かったですね。

ちなみにsmorkyさんがTogetterにまとめて下さいました。
Togetter「遺伝子のお話」
こちらには他の方からのコメント等も載っています。
by osumi1128 | 2009-11-08 20:54 | サイエンス | Comments(0)

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


by osumi1128
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