科学技術立国と呼ばれた日本の行方【コメント受け付けます!】

オバマ大統領が来日した今日は忙しい日でした。
といっても会議のせいではなく、行政刷新会議の事業仕分けの動向チェックのためだったのですが。
本日の第3グループは文科省の科学技術予算関係が仕分けの俎上に載っており、文科省および内閣府の第4期科学技術基本計画の委員をお引き受けしている立場上、フォローしておりました。

会議の様子をリアルタイムに公開したことは画期的なことだと思います。
それ以上に、会議を傍聴して、それをネット上にアップした方があり、そのサイトはTwitterと連動していて、日本全国、海外からも発言がタイムラインとして流れ、最盛期には1分間に数十くらいの数に上っていたと思われます。

また、録音されたファイルをアップして下さっている方もおられます。
「事業仕分け」第3ワーキンググループ 録音ファイル
(ダウンロードに結構時間がかかるようです)

それにしても、今年度来年度の予算について、こんなやり方で決めていって良いものなのでしょうか?
ちょっと乱暴ではありませんか?
科学・技術関係事業に関する今日の仕分けについての私見を3点だけ述べておきたいと思います。
<追記>
このメールへのコメントを受け付けます。
これからの第4期科学技術基本計画の委員会の方に意見を持ち込みたいと思いますので、「仕分け」だけでなく、科学技術政策等についてもご意見をお寄せ下さい。



【仕分けは仕分けとして国のビジョンを!】
今回は政権交代した民主党さんとしては、何が何でも「仕分け」をしないと気が済まない面もあったと思いますし、国の行う事業の無駄を洗い出すこと自体は大事であると思います。
「天下り」については鬼の敵のようにつつくのはどうかと思いますが、「渡り」は確かに問題かもしれません。
そういうことは分かった上で、日本はどのような国を目指すのかについて、きちんと深い議論がなされるべきだと思います。
これからの委員会がそういう場であってほしいと思いますし、日本学術会議は今こそ日本のブレインとしての立場を高め、発信していくべきと考えます。
そのためのサポート体制は必須であり、他省庁からの出向の内閣府の方だけでなく、ポスドク等の経験も持った方がシンクタンクの実行部隊として活躍すべきではないでしょうか。

資源のない日本では、人財こそが生産できる資源です。
(「人は宝」という意味で、ここでは「財」という字を使います)
これまでに高い評価を得ている科学技術の分野において、グローバルに活躍できる人財を輩出していくことこそ、平和的な世界貢献であると信じます。
これからの制度設計は、初等中等教育から高等教育まで含め、このような観点の上に為されるべきと思います。

【若手の力を活かそう!】
民主党の掲げるCO2削減にしろ、少子化対策にしろ、それらを科学的に進めるためには、基礎から応用まで、さまざまなレベルの研究が必要です。
それは「今年、これだけのお金をつぎこんだのだから、来年、成果を見せて欲しい」という短期的な成果を焦るべきではありません。
さらに言えば、100年後の社会において何が役にたつのかを見通すことは不可能であり、基本的な学術研究をないがしろにはできないと思います。

そのような研究をささえる人財の育成やキャリアパスについて、国はきちんとヴィジョンをもつべきです。
高校までの実質無料化を行うとして、その上の高等教育はどうするのか、研究人財はどのように育成するのか、輩出された人材にどんな分野で活躍してもらうのか、育てておいて梯子を外すようなことをすべきではありません。
もちろん、一定の競争は必要だと思いますが、何度でもチャレンジできるべきでしょう。
経済的な背景により、やる気のある若者が高等教育を受けることができないことはあってはならない。
あるいは、小さいうちから科学の才能を伸ばす教育が為されるべきかもしれない。
石川遼が5歳からクラブを握ったように。
モーツアルトが3歳から鍵盤を叩いたように。

この10年余の間に、大学院生の数は増加し、逆に若手のアカデミアのポストは減りました。
このアンバランスは解消しなければなりません。
既得権が優遇されすぎるのはよろしくない。
皆が研究室主催者になれる訳ではなく、それぞれの方の専門性に応じた能力の活用が望まれます。
若い方々もアカデミア以外にもチャレンジすべき場がたくさんあること、あるいはそれを自分で作ることをもっともっと考えても良いでしょう。

【科学の面白さや意義が伝わるように!】
今回の仕分けの議論を聞いていて、一番心に残ったのは、仕分けられる側で発言された毛利衛さん@未来館館長の言葉でした。
「館長がアシモを連れて全国行脚に回ったらどうですか?」
「はい、すでにあちこち行っています!!!」
「そんなに熱意を持ってやっていらっしゃるのに、未来館は何故赤字なのですか?」
「それは展示物でも世界最高を目指していて、お金がかかるのです。そもそも、高校大学で赤字を問題にしますか?」
現場にいる方の熱意に溢れていて、仕分け人を切り返していらっしゃいました。

毛利さんのキャラクターということだけでなく、「未来館の来場者はこんな風に増加しています」ということを説明するための大きなパネルを事前に用意されて来てたことも、プレゼンの準備としては大事ですね。
Twitterに流れたつぶやきの中には「<ジャパネットたかた>に学んだらどうでしょう?」というものがありましたが(笑)、確かに1分で重要なことを相手に「伝わる」ようにコミュニケートするのは難しい。
皆がそうならなければならないとは思いませんが、仕分け会議のようなこういう大事な場ではきいてきますね。

もう一つ関連して、今回の仕分けの様子を見聞きした研究者やその卵は、それなりの数に上ったと思います。
そのような方々は、研究費が税金であることを初めて、あるいは改めて痛感したことでしょう。
これは、現代の研究者としては重要な認識です。
自分の研究の立ち位置を認識しておくこと。
その上で、自分の、あるいは自分の分野の研究の面白さを伝え、意義を話し、市民の共感を得ることが、科学を社会に支えてもらうための拠り所なのは間違いない。

個人的には、いわゆる「学会」がそれぞれの専門の学術分野の面白さや意義を市民に伝える主体であるべきと考えます。
学会はそれを構成する学会員(=研究者)だけのものではなく、もっと開かれているべきです。
あるいは、いわゆる患者さんの団体などにも、専門性を持った方がインターフェースとして活躍されたらよいなと思います。

科学を伝えるのは研究者だけなく、小中高校の先生も重要ですね。
小さいうちの方がより影響力は大きいかもしれません。
小学校でも理科専門の教師が必要な時代になっているかもしれないですし、博士課程まで進んだような高い専門性を持った方が生徒さんたちに向き合うことも大事でしょう。
「仕分け」では「理科支援要員制度」が切り捨てられることになりましたが、こちらは確かに抜本的な改革が必要でしょう。

*****
いろいろな意味で「仕分け」は(少なくとも第3ワーキンググループ関係者には)大きなインパクトがありましたが、海外からはどんな風に見えているのでしょうね?
by osumi1128 | 2009-11-13 23:20 | 科学技術政策

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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