データシェアリングから見る未来

方向音痴の私でも、宿泊先のIrvins HouseからHarvard Squareまで歩いて行けるようになりました。
このケンブリッジ界隈は建物の高さが条例によって規制されているらしく、地上は5階建てくらいまでになっているのが景観の美しさを生んでいます。
こちらの建物は、Biological Laboratoriesの建物の向かい側にあるPeabody Museum of Archaeology and Ethnology(ピーボディー民族学人類学博物館)です。
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本日は、New York Timesに最近掲載された署名記事「Sharing of Data Leads to Progress on Alzheimer's」について述べてみたいと思います。

元記事のリンク先はこちら
元記事の拙訳はこちら




このニューヨークタイムズの記事は、2003年から開始された米国のアルツハイマー病研究において「参加する大学、企業等の研究者が得られたデータをシェアするプロジェクト」について書かれています。

このアルツハイマー病プロジェクトの鍵となっているのは、そのゴールと同様に野心的な取り決めである。資金を調達するだけでなく、大規模に研究を行うだけでなく、すべてのデータを共有し、個々の発見をただちに公開して、世界中どこでもコンピュータを持つ誰にでも使えるようにするというのだ。

誰もデータを保持しない。誰も特許申請を行うことはできない。しかしながら、私企業は究極には、このプロジェクトの結果として得られる薬物やイメージングテストから利益を得ることになるだろう。


このような臨床に近い研究においては、得られたデータを皆で共有することに多大な意味があると考えられます。
研究資金が税金に基づいているのであればなおのこと、その成果がなるべく早く公開されるべきでしょう。
通常、論文になって世に出るまでには、データをまとめて、図表を作って、論文を(英語で)書いて、査読者のコメントと戦って…と、数年の月日が必要です。
それから、さらに応用的な開発に進むのでは、時間がかかりすぎるという面は重要です。
また、企業にとっても、すべてを自社で抱え込んで開発するには、資金が足りないということがあります。

最終的に、National Institute on Agingは4100万ドルを支払い、他の研究所は2400万ドルを、20の企業と2つのNPOがさらに2700万ドルを支払い、プロジェクトを運営し、最初の6年間の間、それを据え置くことに合意した。昨年の終わりに、NIHはさらに2400万ドルを投入することとなり、財団はこのプロジェクトをさらにリニューアルして5年間継続し、連邦政府や私企業が当初と同程度の貢献をすることとなった。


企業はアカデミアの研究者とともにこのデータを利用している。膨大なデータ・セット全体のダウンロード数は3200異常に上り、脳画像のデータセットからはほぼ100万件がダウンロードされている。


ただし、基礎研究では、このようにデータ・シェアリングすることが難しい研究分野もあるだろうと想像されます。
より複雑な実験技術を必要とするような分野であったり、同じ手法を用いる研究者の数が少ないような場合が該当するでしょう。

基礎研究でも、先日の日米シンポジウムでは、心理学の研究者の方が、子どもの発達過程の様子を撮影した動画をデータベース上に置いて、共同研究者とシェアするプロジェクトのことについて述べていました。
この場合には、サンプルから得られるデータのうち、ある研究者が利用するのは、その一部であって、他の部分を違う研究者が有効利用できれば、お互いにハッピー、というものですね。

基本的に、今後、膨大なデータが得られていく過程においては、データ・シェアリングする方が主流になっていくのではないかと想像します。
それはまた、真理が研究者だけのものではない、という意味でもあります。
公的であれ私的であれ、研究資金に貢献した市民も、データに直に接する権利があると思うのです。
さらにそのようなプロジェクトの進行により、研究室に所属しない研究者が生まれる可能性があるのではと期待します。
データベースを元にしたメタ解析なら、実験装置は必要なく、インターネットに繋がるコンピュータがあれば「どこでもラボ」が可能でしょう。

例えば、新種の昆虫を見出す分類学や、新しく生まれた星を探す天文学などのように、「在野の研究者」が生命科学や脳科学のような分野においても活躍する日が来るかもしれません。
by osumi1128 | 2010-08-16 11:43 | サイエンス | Comments(0)

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