複数の選択肢を考えよう!(若い方々へ)

本日は医学部・歯学部合同慰霊祭があった。
うちは脳解剖を担当しているので、このような行事の参加は必須。
本年4月付けで東京医科大学の解剖学教授にご栄転された石先生の後任として、10月1日付けで着任した勝山講師にも出席してもらった。

さて、ここしばらく続けている〈若い方々へ〉シリーズの続き。
本日のお題は「複数の選択肢を考えよう!」。





先日、母校でのセミナーの際にも授業の合間に折り込んだつもりだが、科学者になるには(違う職業でもそうかもしれないけど)当初の目的以外の可能性について、常に頭の端に置いている方がよい。

ところが、ビギナーの多くは「今日の実験はこれこれを目的として行う!」と思うと、一通りの実験が終わって結果が出たときに「当初の仮説に合っていたかどうか」しか考えない。
いや、それはそれで大事なことなんだけど、それしか考えない、それしか見ないのはモッタイナイ。
多くの場合、最初に考えた仮説は、いわば〈想定内〉のこと。
それを超える〈想定外〉のことの方が、より面白かったり、本質的だったりすることもある。

先日「間違い探しクイズ」として示した例では、「目鼻が形成されないPax6変異ラット胎児で、本来目鼻の部分に伸びていく神経には、どんな異常があるか?」というのが当初の目的。
それで末梢神経を染める実験をして、得られたサンプルをじっくり観察すると、「あれあれ? なんか、染まっていないところがあるぞ?」ということに気がついた。
最初は「あれ〜、何か失敗しちゃったかな……」と思って、再度実験しても、同じようになる(=再現性がある、というのは科学のお作法で大事)。
そこで、いったいこれはどうなっちゃってるんだろう……?
ということを考えたのが、私が「顔面形成」というフィールドから「脳神経科学」に入ってきたきっかけだ。
そのお陰で、自分の研究の世界が大きく広がった。

あるいは、実験を組むときに「転んでもタダでは起きない」ような具合にする。
一つの実験で一つのことが分かる、のではなくて、メインの実験で失敗しても、サブの結果が得られるような計画を立てる。
実験は往々にして失敗することもある訳で(苦笑)、それでも何かちょっぴりでもポジティブな成果が得られれば、精神的にも良い。

こういうトレーニングは、結果の解釈についてだったり、論文のストーリーの立て方だったり、いろいろなところで役に立つ。
常に複数の選択肢を考えるべし。
きっとそれは、多様な人間を受け入れたり、異分野の方々とコミュニケートしたり、言語や宗教の違う世界の人たちと仲良くするのにも大事なんじゃないかな。

【参考までに】
仙台通信:私的科学コミュニケーション、あるいは河北新報一面に載った記事の裏話
うまくいかないと思ったことが、実は大きな発見につながることもあるという例。
by osumi1128 | 2010-10-26 18:00 | 若い方々へ | Comments(0)

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