向田邦子『源氏物語・隣の女』を読んだ

自分と同じ誕生日の有名人といえば、宇野千代と向田邦子と覚えていたが、先日それに蓮舫が加わって、かなり微妙なことになってきた……(汗)。
向田邦子はリアルタイムで読んだことが無く、また、その脚本によるテレビドラマも見たことが無いのだが、家庭画報だったか婦人画報だったか、骨董関係の話題経由で妹の向田和子による『向田邦子の青春:写真とエッセイで綴る姉の素顔』を読み、さらにいくつかのエッセイは読んでいた。
先日、日本美術ライターとして知られる橋本麻里氏が、どういう経緯だったかTwitterで源氏物語の種々の訳のことを連投でつぶやいておられ、そういえば、高校の古典で桐壺の冒頭「いづれのおほんときにか……」を暗誦させられて以降、原著はおろか、谷崎源氏も、寂聴源氏も、さらには橋本治の現代語訳さえも、全編読破はできていないなぁ、と思った。
さらに橋本麻里氏が「向田邦子の脚本の源氏もある」と書いておられたので、さっそくAmazonで探して1クリック!してしまった(苦笑)。




数日して届いた中古の新潮文庫は、それなりに古色が付いていたが、幸いなことにスピン(栞)も残っていた。
余談だが、BOOK OFFなどでは、書籍の天や地をグラインダーで削る、という話を聞いて、そんな可哀想なことをするのなら、普通の古本屋さんへ持って行こうと思っている。

件の「源氏物語」はTBSテレビ(資生堂スペシャル)として1980年1月3日に放映された番組の脚本。
久世光彦がプロデューサーの一人で演出も手がけ、音楽が都築俊一、タイトル美術が横尾忠則……とこれだけでもゴージャスなお正月番組であることが伺えるが、キャストがまた豪華絢爛(笑)。
光源氏が沢田研二(なるほど)、桐壺・藤壺が八千草薫(ほぅ)、六条御息所が渡辺美佐子(微妙)、葵の上が十朱幸代(順当?)、朧月夜が倍賞美津子(うぅむ)、そして紫の上が叶和貴子(まぁね)……という具合。
源氏五十四帖を、正月特番の3時間ものくらい(?)にまとめるのだから、かなりの無理がある訳ではあるが、雨夜の品定めとか、六条御息所と葵の上の牛車がぶつかる事件とか、押さえるべきところは押さえてある。

それにしても、本歌である源氏物語が書かれたのは平安時代、11世紀までには成立していたとのことで、その時代に紫式部と清少納言という女流作家の二大巨頭がいたというのは(本当だと信じるとして)、改めて考えると凄いことだ。
さらに時代を遡って万葉集の頃でも、女性が詠んだ歌がかなり収録されており、女性が古くから文化に参画していたというのは日本文化の大きな特色。
(日本女子大学と東北大学ゆかりの青木生子先生の『萬葉にみる女・男 (青木生子著作集)』受け売り)
そんな訳で、源氏物語は千年以上にわたって、女性も男性も親しむ古典で有り続けたことにより、日本人の恋愛観や、女性観、男性観に影響を与えてきたことは間違いない。
見た目の美しさだけでなく、歌を詠める、字が綺麗、古典を知っている、管弦を扱うのが上手い、など、男女ともに教養を高く評価している。

脚本というジャンルを今回初めて読んだが、これはなかなか面白い。
ほとんどのストーリーは登場人物の「台詞」で語られる。
稀に「ナレーション」となっている部分やト書きもあるが、基本は会話。
で、向田邦子が優れた脚本家であるという(今更言うほどでもない)ことを、一緒に収録されていた「花嫁」「当節結婚の条件」「隣の女」等を読み進めるうちに合点した。
脚本に書かれた文字を追うだけで、脳の中にドラマが展開していくのだ(しかも、登場人物が実際に誰によって演じられたのか書いてあるから、よりリアル)。
描かれていたのは、戦後の安定的な成長期からその終焉くらいまでで、時代的な懐かしさも影響したのだろう。
「花嫁」なんて、思わず涙腺が緩んでしまったくらいだ(ネタバレになるので、詳しくは書きませんww)。

家の中に家族が集い、それぞれの役割がはっきりしていた時代から、世の中は加速度的に「個」が中心となる方向にシフトした。
祭りやコンサートがウォークマンが出現してiPodへ。
お茶の間の団欒から、コンビニ調達の個食へ。
隣の人間と別のYouTubeコンテンツをそれぞれのPCやiPadで観て、ネットの中の誰かと会話する……。

この流れを変えることは、もはや不可能であることは確かだが、ヒトは「社会性」を獲得することによって数十万年にわたって進化してきたはずだ。
「個」が偏重されすぎる関係性により、種々の弊害を生じている。
リアルな、フィジカルな、直接的な繋がりを大事にする必要がある。
by osumi1128 | 2010-11-06 14:28 | 書評

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