ソーク研究所見学ツアー:All by design
2010年 11月 18日
私にとっては、海外で2回目にセミナーをさせて頂いた場所で思い出深い。
施設見学、ラボ見学、の前に、建物見学ツアーをしたのだが、この案内役をして下さったスコットさんは地元の建築家のボランティア。
こういう交流は素敵ではないか!
「皆さん、どちらからですか?」
「仙台からです」と答えると、「メディアテークをご存じですか?」と!
「もちろん! 伊東豊雄さんの有名な建築ですね。ご存じなのですね!」と嬉しくなった。
本当はこの先に青い海と空が続くのだけど……。
(画像せっかくなのでちょっと重たいけどお楽しみ下さい)
ルイス・カーンの有名な建築だが、彼がこれをデザインしたのは60歳のときだという。
それまでに大きな建造物は数点しかデザインしていなかったらしい。
見事なまでのシンメトリー。
春分と秋分にはこの水路の向こうに日が沈む。
この日に合わせて中庭でコンサートが開かれるというのも素敵。
側面には、木を使った窓。
なんと、この研究所ができて、もう50年という。
コンクリート打ちっ放しの側面は、今もなお美しい。
水路は海側で滝になる。50年の間に、コンクリートや大理石の一部は削られて角が甘くなっている。
こちらは少し晴れてきたお昼過ぎに撮影したもの。
スコットさんによれば、ポリオワクチンを開発したソーク博士は、国から表彰されて多額の賞金をもらうことになったのだが、それを注ぎ込んで研究所を作りたいと思った。
ソーク博士はフィラデルフィアからサンディエゴに講演に来たときに、この土地が気に入ったのだが、米軍キャンプに近い広大な土地は、なんとサンディエゴ市から無償で提供された。
建築家を誰にしようということになったときに、ソーク博士はルイス・カーンに誰かを推薦してもらおうと思ったのだが、カーンの魅力に惚れ込んで、彼にデザインを依頼することになった。
その際に出した条件が3つ。
・研究者のコミュニケーションが良くなること
・メンテナンスの費用がかからないこと
・アートを飾るのに適していること(例えばピカソなど)
そのため、各フロアは続きの大部屋と共通に使うコアファシリティーのスペースを基本とし、窓に面したところにPIのオフィスがあって、(地下の部屋以外は)中庭と海が見える。
各所にくつろぎスペースや討論するための黒板(ラボ内はホワイトボード)が多数。
初代の研究所長はフランシス・クリック。
その部屋はRon Evansに受け継がれていて、実は私が最初に訪問したのがこのエヴァンス研だった。
まだ、故梅園さんがポスドクの番頭だった頃の話。
さて、ソーク博士がサンディエゴに来たとき、彼は市で最初のユダヤ人だったらしい。
そのときシングルだったソーク博士は、パブロ・ピカソの前の奥さんフランソワーズ・ジローと再婚し、フランソワーズは研究所の一角にアトリエを持っていたこともあるとか。
(拙ブログの以前の記事は、ちょっと間違いだったようだ)
ソーク研究所でのジョークは「ソークはピカソより良いものを手に入れた」ということらしい。
スコットさんの説明は、建築に対する愛があって、具体的で、とても楽しめた。
「そうして、この研究所からノーベル賞受賞を含め、素晴らしい研究が為されました。すべてはデザインによる、ということですね…」
もちろん、All by designだけではないことは当たり前だけど、人を取り巻く環境がいかに創造性に影響を与えるか、というのは、日本でもっと重要視されても良いことだと思う。
灰色の事務机と、白木の棚と、どちらが和めるだろうかは自明なのに……。
夕方の雰囲気も素敵。
ちなみに、50周年のお祝いイベントの会期中には、この中庭含め、Dale Chihulyの作品が多数飾られていたらしい。
ソーク研究所に限らないが、米国では共通機器化が進んでいて、独立したての若手PIでもいろいろな技術を駆使した研究がやりやすい環境がある。
もちろん、ソークのFred GageやRon Evansなどは20名以上のポスドクを抱えていて、持っている研究費も多いから、自分のラボの機器も充実してはいるのだが。
技術員等の人的リソースが充実していることも、研究の合理化や省力化に繋がっていると思う。
研究所見学して留学について現実的に考える学生さん・ポスドクがいることを願う。
【参考サイト】
ソーク研究所website
Dale Chihulyのアート展
仙台通信:梅園さんの思い出