研究アプローチ

時差呆けはあるけど朝早く起きるのは、ロンドンからボストンに移動したときもそうだったので、さほど苦にはならない。
この際、朝型人間になれるかどうかは大いに疑問だけど……(まったく、朝の6時半からコートでラケット振っていたのは同じ人間なのだろうか???)。
オフィスの片付けは出張前状態まで回復したけど、本当はもう少し機能的になるようにしないと駄目なんだけどなぁ…。

ボストンでは自分で手を動かして実験をする感覚を思い出しつつ、モニタでラットの行動を見ながらいろいろなことを考えられたのが良かった。
日本にいるとどうしても自分の時間は切り刻まれてしまいがちなのだが、それも今年は改善したいと心に決めた。

ところで、ハーヴァードの内田さんのところでセミナーをした後、言われたのが「研究スタイルが随分違いますね」ということ。




まぁ、今回のセミナーではちょっとpersonal history的な組み方をしてみたということもあるのだが、その部分は置いておいたとしても異なるところは大きい。
例えば内田さんは「メカニズム」に興味を置いていて、目下、彼が解き明かしたいメカニズムとは、「意志決定に報酬系の神経回路がどのように関わるか」というあたりで、そのために、最新のoptogenetics(光遺伝学)的手法を駆使して、脳内の特定のニューロン(だけ)を破壊したときに、意志決定がどのように変化するかを調べようとしている。

例えば、今回セミナーで取り上げた「自閉症の動物モデル」というテーマは、「自閉症」という精神機能の病態があって、近年、患者数が増加していることもあって、社会的に大きな問題であり、どのようにして発症するのか、どのような病態なのか、を理解することによって、どのように診断したらよいか、どのように治療したらよいのか、を明らかにするということが最終的なゴールになる。

「どのようにして発症するのか」については、最近の強力なツールはゲノム解析だ。
自閉症の場合には、遺伝的素因が大きいことがこれまでに分かっている。
そこで、患者さんの集団と対応する健常者の集団のDNAサンプルを多数集めて、全ゲノム解析をして、どのような染色体領域が、例えばこの場合なら自閉症と関係するかを調べる。
その上で、絞り込んだ遺伝子が関係ありそうかについて、さらに詳しく解析する。
こういうやり方で、「風が吹けば桶屋が儲かる」のうちの「風」に相当する部分を明らかにすることが可能である。

「どのような病態なのか」については、もちろんこれまでから臨床的にさまざまな検討がなされ、自閉症の場合であれば、脳の発生・発達に異常があることが予測され、社会性の異常、コミュニケーションの異常、興味の制限や常同行動という三大徴候に加えて、知的障害、運動系の異常や感覚の異常などの合併が指摘されている。
しかしながら、ヒトで詳しい解析を行う場合の制約もあることから、動物モデルの確立が不可欠となっている。
つまり、上記のような自閉症に関連すると考えられる遺伝子に異常があり、ヒトの自閉症患者でみられる病態が再現されるマウスやラットを用いて、どのような脳の部位や神経回路が関係するのか、どのような特定の神経細胞が関係するのか(もしそういうことがあるのなら)、どのような発生・発達の異常なのか、といったことをつまびらかにしていく必要がある。
マウス・ラット用の脳イメージング技術の開発も進んできているので、ヒトの脳との大きな違いはあるにせよ、共通する異常を明らかにすることは今後可能であろう。
また、患者から得た細胞からiPS細胞を作製し、その細胞から神経細胞を作って正常な神経細胞との遺伝子プロファイルの違いを見ようとする研究なども進行している。

おそらく、この部分はかなり時間と手間のかかる話であり、それは、自閉症に関わると目される遺伝子のリストには少なくとも数十の遺伝子があり、その効果が少ないもの(common variants)から、効果は大きいが、集団での頻度は低いもの(rare variants)まで多々あって、それぞれのモデルでの解析が進まないと全体像は見えてこない。
ちなみに、我々が今、解析しているPax6/PAX6はrare variantと考えられる。

どのように診断したら良いか、については、臨床的には現状では3歳くらいの時点で確定診断としているが、今後の介入・治療を考える場合には、なるべく早く診断できた方が良い。
したがって、それ以前の徴候から判断することが必要であろうし、場合によっては将来的に遺伝子診断という可能性も出てくるであろう。
あるいは、治療の効果と合わせて検討できる生化学的な診断などが可能になれば(血糖値などのように)好ましい。
今回、我々が報告した論文では、Pax6変異ラットにおいて血清中のセロトニン量の減少が認められており、ほぼ同時期に発表された広島大学の内匠先生のところのマウスモデルにおいても同様の結果が得られていることから、この点はさらに追求されるべきであろうと考えている。

どのように治療したら良いかについて、臨床的にはこれまでから種々の介入方法が工夫されてきているが、例えば一日8時間の高密度トレーニングなどは、おそらく行う方も患児も大変なのではないかと想像する。
今回の我々の論文では感覚運動ゲート機構を表すプレパルス抑制という一つの指標について、その低下をセロトニン系にも作用する向精神薬で改善することができることを報告している。
この知見が臨床に応用可能なことなのかについては、今後慎重に検討がなされるべきであると考える。

内田さんの研究アプローチが、いわば還元論的であるのに対して、おそらく私の方は東洋医学的というか、「全体を理解したい」という気持ちが強いように思う。
近代西洋科学的には、「部品をばらばらにして調べる」「なるべく狭い境界条件の下でピュアにして考える」のがお作法であることは理解しているが、それはもしかすると「まるごとの個体」が置かれた状況とはちょっと異なるかもしれないと考えているのだ。
by osumi1128 | 2011-01-10 15:40 | サイエンス | Comments(0)
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