高村薫の『神の火』を読み直す

本日は震災で1ヶ月余遅くなった医学部新入生オリエンテーション。
東北大学全体での入学式は中止となり、各学部に分かれての行事になった。
124名の新入生は朝からオリエンテーションを受け、お昼は4,5人のグループにつきアドバイザーをする教員2名とお弁当を頂く。
うちの班はこちらのオフィスに来てもらっての昼食会。
(そのおかげで、事前に無理矢理片付けてディスカッションテーブルが綺麗になったww)

その後、B型肝炎の抗体検査等があり、さらに講演を3つも聴く(ご愁傷様)。
うち1つが私の講演だった訳だが、いろいろな意味で今年の1年生は記憶に残る学年になるかもしれない。
皆さん、それぞれ、素晴らしき人生を歩んでほしい。

*****
さて、本日は管首相が浜岡原発の中止を要請なんていうニュースもあったのだけど、数日前に小説家の高村薫がNHKのインタビューに答えていた。
高村薫さんが語る “この国と原発事故”




高村薫の『神の火』を読み直す_d0028322_22181382.jpg
ハードな科学技術モノを得意とする高村薫の作品の中でも、『神の火』(新潮文庫)で取り上げられているのは原子力発電所である。
高村は1986年のチェルノブイリ原発事故を契機に、原子力を「人間が神から盗んだ火」として、ギリシア神話のプロメテウスの逸話を下敷きにし、この原発を襲撃する「トロイ計画」を小説の中に描いた。

書き下ろしが1991年、大幅な加筆修正を加えて文庫化されたのが1995年、手元にあるものは平成12年(2000年)の12刷なので、もうすでに日本各地に原発が造られた後に読んだことになる。
なので、ちょうどその翌年の2001年9月11日にニューヨークのワールドトレードセンターに航空機が突っ込むというテロ事件が起きたときに真っ先に考えたのは、そうか、原発めがけて航空機がぶつかったらヒロシマ・ナガサキ以上のことになるのか、ということだった。

インタビューの中で高村薫は次のように言う。
…"想定外"という言葉が使われたが、今回の場合にはそもそも想定しなければならないことが想定されていなかった。『人間のやることに限界がある』以前の問題で"問題外"の自体だった。『これで大丈夫だろうか』という想定をするとき非常に恣意的に自分たちの都合のいいように作ってきたという感じがする。これは"科学技術のモラルの問題"だと思う。客観的事実を論じる前に政治家が原発を"政争の具"にしてしまった。村が二分されて賛成反対に分かれて対立する不幸な歴史がずっと続いてきた。その中で本当の技術的な問題が結局誰も理解できないまま、あるいは、正しい情報が出ないままになってきた。…

Togetter高村薫さんの原発に関するNHKインタビューから借用させて頂きました)

今回の311震災で思い至ったことは多々あるが、速攻でバリバリと働き始めた自衛隊やJRの方々、被被災地(仙台含む)の医師・看護師の方々に比べると、科学者とはなんと脆弱な生き物であることか。
世の中が平和で平穏であればこそ、研究に没頭して能力を発揮できるのであって、非常時にはまったく人様のお役には立たない。
溶けて失われたサンプルを嘆き、オロオロと床に散らばった実験器具を片付け、さていったい実験開始はいつ頃になるのかとげんなりしつつ、余震がくるたびにドキドキし、空いた時間に全国放射線量を眺めるくらいがオチだ。

であればなおのこと、平常時において自分の研究のアウトカムとしてどのようなことが想定されるのか、じっくり考えておくことを習慣にしなければならない。
「復興のためにお金が必要です」というからには、震災に強い研究室レイアウト、くらいのことは考えておくべきだろう。
最低でも、高額な機器は高層階に設置しないことが大事だし、この際コアファシリティー化を進めて研究室で維持する機器の数を減らすべきかもしれない。

……なんてことを考えつつ、『神の火』を読み直そうか。

*****
そういえばちなみに、有川浩の『図書館』シリーズ完結編『図書館革命』でも原発テロのことが、ちょっとだけ扱われている。
by osumi1128 | 2011-05-06 23:19 | 311震災

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