基礎研究と臨床研究【加筆】

研究費を頂いている新学術領域山森班(大脳皮質構築)の班会議と包括脳ネットワーク夏のワークショップ参加のために神戸に来ている。
いろいろ新しい情報をびしっと詰め込む毎日で、ちょうど夏期講習会のような気分。

本日、午前中に「精神医学と脳科学のコラボレーション:今後の展望と戦略」というセッションがあり、広島大学の山脇成人先生がオーガナイズされ、基礎研究者と精神科医の発表があった。
そのお一人、理化学研究所の加藤忠史先生のご発表から印象深かったスライドを掲載する。
【追記】その後メールのやりとりをして、加藤先生のご厚意によりスライドをPPT版に変更しておきます。



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もちろん、これはかなり極端に「臨床研究と基礎研究の違い」を強調している訳で、基礎研究者だって、目の前の患者さんではないけど、将来、世界の多数の患者さんを治したい、と思っている人はいるだろうし、臨床の研究者だってハイインパクトジャーナルに自分の論文を掲載したいという思いはあるだろう。
ただ、改めてこうして対比してみると「あぁ、たしかに、なるほどね」と思った次第。
(加藤さん曰く、基礎=先輩でも「さん」付け、臨床=後輩でも「先生」というのも付け加えればよかった、とww)

ネガティブデータでも論文になるのは、確かに基礎研究では(今のところ)ありえないのだけど、これはヘルシンキ宣言に基づく。

ヘルシンキ宣言全文
30. 著者、編集者および発行者はすべて、研究結果の公刊に倫理的責務を負っている。(中略)消極的結果および結論に達しない結果も積極的結果と同様に、公刊または他の方法で一般に公表されるべきである。


このセッションは「基礎と臨床の連携を図るにはどうしたらよいか?」を考えるワークショップだったので、最後、総合討論で山脇先生は「精神医学と脳科学のコラボレーションのためにはどうしたらよいか?」という問いかけをされて、「基礎研究者も是非、患者さんを見るべき」と仰った。
私自身は必ずしも100%これに同意する訳ではない。
もちろん、精神科の先生方の日々の臨床が大変なものであることは心からリスペクトしている。
患者を診ないでモデルマウスを作っても意味が無いだろう、というご意見はもっともである。
だが、医師免許等の資格を持たない者が医療の現場に入ることを望まない患者さんもいるだろうし、臨床の先生方が何年も症例を見続けて得られる理解と、素人が数名の患者と接してわかることの間には大きな隔たりがあると思うからだ(少ない症例でバイアスがかかった印象を持つ可能性だってある)。

より適切なモデル動物を打ち立てるために、ということであれば、例えば、本人や家族の合意のもとに、問診の様子等の動画をなんらかのサイトにアップロードして、その疾患に興味がある基礎研究者が閲覧できるようにする、という方法もあるだろうし、加藤先生や臨床の立場でご発表された名古屋大学の尾崎先生も指摘されたように、患者団体との会合に参加するのは意義深いと思う。
Needs-drivenの研究推進のためには、患者さんやそのご家族が何を望んでおられるのかを、肌で感じることは基礎研究者にとっても良い刺激になるだろう。
米国のように、患者団体が直接、研究費を配分するような場合には、そういう機会はより多い。

そんな背景もあって、9月に主催する第34回日本神経科学大会では「患者団体連携企画」を開催する。
今回は初めての試みなので、精神疾患ではなく、日本せきずい基金日本ALS協会の方々にご参加頂き、「神経科学研究”が”治療薬”になるまで―HGFの20年を例に」というテーマを立てている。
是非、多くの基礎研究者がこのセッションを聴きに来て頂けたらと思っている。
セッションがまだ大会HPにアップされていないので、こちら↓
第34回日本神経科学大会日程表(PDF)
by osumi1128 | 2011-08-23 00:20 | サイエンス | Comments(0)

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