神経堤細胞のシンポジウム@歯科基礎医学会

神経堤細胞のシンポジウム@歯科基礎医学会_d0028322_23533516.jpg金曜日に第53回歯科基礎医学会という学会のサテライトシンポジウムで講演を行った。
昭和大学歯学部生化学教室の上條先生にお声がけ頂いたので、オーガナイザーといっても「雇われマダム」のようなカタチで、いろいろな手続きは皆、上條先生側にお世話になった。

5年ほど前にも、そのもっと前にも、同様なシンポジウムは開催したり、呼ばれて話をしたりしたことはあったのだけど、今回ほど盛り上がったのは初めて。
自分にとっては「神経堤細胞」という、とっても変わった細胞は、研究のお作法を学んでいた時代の対象であり、倉谷滋さんと共著でUPバイオロジーに選書を書かせて頂いたこともあり、今でもラブ♡なのだが、なにせ、研究人口は多いとは言えない。
そもそも医学・歯学を学んだ方でさえ、「神経堤細胞? 何それ?」「むかーし、解剖学で習ったっけ……」くらいの、影が薄い存在だったのだけど、ここにきてにわかに研究人口が増加傾向にあるようだ。




その神経堤細胞(neural crest cells)というのは、ヒトだったら受精後第4〜5週くらいの時期(マウスだったら受精後8日目くらい)に、中枢神経系の元となる「神経管」という管状の構造物ができるときに、その背中側の端に作られる特殊な細胞群。
この細胞群は胎児の体の中を増殖しつつ移動して、定着した先で実にさまざまな種類の細胞になるという特徴を持つ。
末梢神経系の神経細胞やグリア細胞だけでなく、顔の骨や軟骨も作るし、血管の周囲の細胞にもなる。
このような「増殖能」と「多分化能」はまさに「幹細胞」の性質なので、「神経堤細胞=幹細胞」として発生生物学の業界では見なされてきたのだが、ここ数年の間に「本当に幹細胞のソースとして使えるかも?」という方向性の研究が増えてきた。
歯の中の歯髄(しずい)や歯根膜(しこんまく)等には、神経堤由来の細胞が多数存在しているのだ。
実際、今回のサテライトシンポジウムの直前のセッションは「歯の幹細胞」という名前だったこともあり、そのまま聴衆が残ったこともあったのだろう、立ち見も出るくらいの大入り満員だった。
セッションの内容を記しておく。

【神経堤細胞の未知なる可能性ー個体発生から再生医療へ」
オーガナイザー:大隅典子(東北大・医)、上條竜太郎(昭和大・歯)
1.大隅典子(東北大・医):組織幹細胞としての性質を備えた哺乳類頭部神経堤由来細胞の脳への浸潤と分化様式
2.山崎英俊(三重大・医):様々な器官に於ける間葉細胞の由来と神経堤の間葉系幹細胞としての可能性
3.高見正道(昭和大・歯):顎口腔組織における神経堤細胞の新所見
4.國定隆弘(岐阜大・医):ES細胞からの神経堤細胞の誘導
5.名越慈人(慶應大・医):神経堤幹細胞:その多様性と再生医療における有用性


【参考】
倉谷滋、大隅典子著『神経堤細胞ー脊椎動物のボディプランを支えるもの』(UPバイオロジー、東大出版会)

ちなみに、シンポジウム後に演者の皆さんと行った和食のお店がとても良かった。
食べログ:たか田八祥
by osumi1128 | 2011-10-01 09:07 | サイエンス

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