原稿を書きながら

たいていいつも何かの締め切りに追われている。
上には上がおられてたいへんなのだと言い聞かせながら、動き回っているのは子年のせいなのか?
今抱えているのは『言語科学の百科事典』の分担執筆5項目、それぞれ2000字プラス図1点というものを月末までというお約束。
5つのうち2つは何度も書いてきた「神経発生」や「分子メカニズム」のテーマなので、すでに書いた原稿のファイルのつぎはぎから出発すればよいので、そう大変なことではない。
(あ、こういう原稿の作り方も、進化の過程で起きた遺伝子重複と機能分担に似ていなくもないと思う)
だが、残り3つはなにせ「言語」というお題を頂いているので、初挑戦。
話を振ってこられたのは岡ノ谷さんで、先日の進化学会のシンポジウムとセットで付いてきたようなものだ。

原稿を書くときは必ず素材を集めることから始まるが、今ではインターネットのお世話になることが多い。
英語の論文ならもちろんPubMedで、日本語の抄録はJ-STAGEで検索できるし、キーワードをGoogleに放り込むと、信頼度の高そうなホームページからそうでない個人のブログまで、さまざまな情報を手に入れることができる。
本当の専門分野でないテーマでミニ総説のような記事を書くのは、大学時代に書いた生物学のレポートのようだ。
クラブとバイトに明け暮れていた教養時代に唯一自主的に勉強したのがこのレポートだった。
2つが必須だったところに3つ書いて出したと思うが、そのうちの1つが『生命の起源』というテーマ。

海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。
そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。

三好達治の「郷愁」からの引用を冒頭に冠した手書き(!)のレポートは、原始の海、やらコアセルベートやら、オパーリンの受け売りオンパレードに近いもので、当時としてもやや古めかしかったと今は思うが懐かしい。


さて、今回ちょっと「自閉症」について検索をかけていたのだが、患者団体による日米の公式サイトの差が目に付いた。
例えば「社団法人日本自閉症協会」の公式サイトには病気の説明やいろいろな情報が載っているが、「参考文献」のところにちゃんとした学術論文がリストされていないことに気が付いた。
アメリカでは患者団体の数も多く、そのうちのいくつかのサイトではきちんとした引用文献付きの立派な総説が掲載されていて大いに参考になった。
そんなこんなでネット検索を続けていると、患者の母親のホームページやブログにいくつもぶつかった。
全部読み切った訳ではもちろんないが、「脳日記」というホームページを書いている方は、自閉症の息子さんの病気を治す手段はないかと、インターネットを使って一生懸命勉強したことを書き留め、考える姿勢に胸を打つものがあった。
以前飛行機の上で観て、涙が止まらなかった「ロレンツォのオイル」を思い出した。

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発達障害のあるR太の、日々の脳の記録を含む、雑多な日記です。
日々の療育のこと、脳に関するさまざまな本を読みかじった感想、脳障害という現実に対峙しながら錯乱を極める母親のぼやき、等々、なんでも書きなぐっているので、かなり読みにくいかと思います・・・・・。
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最新の日記は9月13日のもので、Wikipedia英語版のOmega-3 fatty acidの記事について<以下引用>
ニフティの翻訳サイトを利用しつつ、読んでみた。

なにしろバカ翻訳サービスなので、ところどころ、ものすごいことになっているが、私が自力で翻訳していたら人生が終ってしまうので、しかたなくりようさせてもらった。
<引用終わり>

このような翻訳サービスは確実に利用者を広げつつある。
日本語で普通の人が正確な情報を集められるためには、日本で専門家が正確な内容を市民のために説明するサイトがもっと立ち上がるべきだろうし、一方で世界共通語になってしまった英語による情報を楽に取り込める「翻訳ソフト」を賢くすることは大切だろう。
by osumi1128 | 2005-09-27 01:14

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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