留学は何のため?:NIH-Tohoku-JSPS国際シンポジウムのワークショップから

5月9日、10日、NIH-Tohoku-JSPS国際シンポジウムが開催されました。
河北新報:学術交流より密接に 東北大とNIH、仙台でシンポ
東北大学からNIHに留学された先生も多く、震災直後からいろいろなご支援を受けました。
今後のさらなる連携のための覚書を交わし、5つのセッションの講演とポスターセッションの間、2日目のランチタイムにキャリア・デベロップメントのためのワークショップ(WS)が開催され、パネリストとして登壇しました。

ちなみに、WSを企画された井樋先生もNIHへの留学をされた方で、もうひとりNIHからのオーガナイザーの外山玲子先生は発生生物学がご専門ですが、キャリア・デベロップメントの部署のご所属です(実は高校の先輩でした〜世間は狭い)。

種々の統計がありますが、海外に留学する日本人研究者が減少しています(文科省発表によれば、ピークの平成16年に比して、直近データの平成22年は30%減少で5万8060人)。
ここで見過ごされがちな点は、この10年くらいの間、米国への留学が激減しており、中国・韓国への行き先シフトが見られることです(留学全体には文系も含まれます)。
これは、日本企業の取引先が米国からアジアにシフトしたことも反映していますし、米国でのフェローシップが獲得しにくくなったことも影響しているかもしれません。
また、フェローシップに「アジア枠」があったとすると(very likely)、その中を中国、韓国と食い合って減ったという可能性があるように思います。

ともあれ、ハーバード大などの日本人留学生は激減で、NIHも同様。
関係者もそのことを苦慮しており、今回のWSの議論の入り口として、留学に関するアンケート結果が、東北大学側およびNIH側から示されました。

そもそも「留学」っていう言葉は不思議ですね。
英語はstudy abroadかwork abroadでなのでしょうが、日本でこの言葉はポジション的には圧倒的に後者のケースで使われているのですが、実際には「海外の<進んだ成果>を日本に持ち帰る」ことを念頭に置いてきたので、文部省(当時)在外研究員もそういう意味では「お勉強しに」行った訳です。

でも、時代はもう世界に追いつくことを目指した「坂の上の雲」ではなくなりました。
生命科学の分野においても、日本国内の方が良い設備だったり、良い研究環境であるところもいろいろあります。
なので、私は単に「若者の内向き志向」だけが原因とは思いません。

また、アンケートでは医学系(いわゆる医師免許、歯科医師免許を持っている人)と非医学系(PhDやnon-MDと呼ばれる人)の間で「帰るアテがあるか」の違いがあって、non-MDの人たちには「日本から離れると戻ってこれるか不安」と思う人が多いようです。
このあたりは、私の世代だと日本にポスドク相当の職があまり無い時代だったので、大学院を出て助手(当時)にならない場合には必然的に海外に出ることになり、また「一発当てなければ帰ってこれない」と思っていた人たちも多かったように思います。

パネル・ディスカッションに登壇した中の一人は、医学部5年生の男子学生さんだったのですが、彼は医学部卒業後に米国の大学院進学を希望しています。
その彼の発言が象徴的だったので記しておきます。
海外の大学院は給料が出ますよね。それに結局、このアンケートの回答からは、大学院修了後に留学する意味がほとんど無いように思えます。語学の習得や外国人の友人を作る、異分野や異なる文化の理解など、あってもいいけど、別に直接的に研究に役立つ訳ではないですよね?(テープ起こしではないので正確ではありませんが、このような意味のことをはなしました)

まぁ、そのあたり、回答した方の自由記載に「ノーベル賞学者の研究室という環境で数年過ごしたことは大きな価値があった」というようなものでもあれば、きっと印象も違ったのかもしれませんし、明らかに立身出世を目指して米国に行く中国の方たちに比べたら、平均的な日本人留学生は「ぬるい」意識のままで外に出ているのかもしれません。
また、多くの留学経験者は、単なる語学研修などで短期に滞在することと、文化や習慣の違いに戸惑い苛つきながらも克服して得られるものを感じておられるでしょうし、よりエスタブリッシュされている方には論文出版などにおいて人的交流の持つパワーを活かしておられると思います。
もちろん、より若い時代に海外に出る意味はありますし、でも、いくつになっても得られる経験はあると思います。
ちなみに、日本で初めての女子大学生の一人、丹下ウメが留学したのは40代後半であり、ジョンズ・ホプキンス大学で学位を取得したのは54歳のことです。

留学のスタイルも20年前とは異なっています。
海外にいてもインターネットを介して日本と繋がることができますし、そもそも日本にいても海外の情報が簡単に手に入る時代です。
かつては留学するまで外国に出た経験が無かった人が多かったかもしれませんが、今は家族での海外旅行の経験も豊富だったり、高校生の修学旅行先がオーストラリアだったりします。
昔よりも時間の流れが早くなっていることを思えば、3年新しいラボで一仕事するよりも、海外の共同研究先で3ヶ月でデータを出してくる、という短期留学の方が現代に相応しいかもしれません。

パネル討論後に、同僚の教授が言われたのは「日本人って結局<引っ込み思案>なんじゃないでしょうか?」ということでした。
私はそれに加えて「みんないっしょ」が好きなんだと思います。
自分の回りの友人で3人「えー、留学なんて行ったら戻ってこれないよー」と言う人がいたら、「そっか、じゃぁやっぱり国内でポジションを探そう」になるというメンタリティ。
「じゃぁ、私は違うキャリアパスを歩もう」にならないのは、みんな一緒にお手々繋いでゴールイン、という刷り込みがあるのでしょうか……。

私自身はいわゆる留学の経験が無く、その分、海外とのコネクションを作るための努力は人一倍したつもりですし、ラボのジャーナル・クラブとプログレス・ミーティングは英語で行なっています。
そのせいか、初代の大学院生含め、欧米に行った元学生さんは5名。
NIHに留学した人はグリーンカードを取って今はFDAに勤務しています。
助手(当時)の後に留学した方は、関西の大学で准教授ですね。
現在の学生さんも、留学に興味のある人も、「外国は嫌い」という人もいろいろです。

私自身はより広くキャリア・デベロップメントの上で「メンター」の重要性を指摘したのですが、この件は別立てのエントリーにします。
by osumi1128 | 2013-05-11 20:11 | 若い方々へ | Comments(0)

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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