リケジョと割烹着:小保方さん報道に関連して(その2)

注:タイトルに絡んだ話題は後半に出てきます。後日談があります。
【追記】
なお、本記事は、STAP細胞についての疑義が生じる前に書かれたものであり、現時点での認識とは異なります。2014年12月26日に、STAP細胞は実はES細胞であったという調査結果が発表されました。

*****
「酸性の溶液でマウスのリンパ球を処理すると、多能性の高い細胞を誘導することができた」という理化学研究所発生再生研究センター(注:理研ビタミンの会社ではありません。歴史的には関係ありますが)の小保方晴子ユニット・リーダーの研究成果について昨晩取り上げました。
さっそく今朝の新聞各紙の一面を飾ったようで何よりです(つまり本日、日本が平和な日であるという証拠です)。

「多能性のある(英語ではpluripotent)」すなわち、いろいろな種類の細胞を生み出すことができる細胞には、これまでから、胚性幹細胞(ES細胞)とiPS細胞がありました。
今回のSTAP(Stimulurs-Triggered Acquisition of Pluripotency)細胞作製の仕方は、それよりも簡便であるところが一つのメリットと考えられます。
つまり、コストの面でたいへんお得になることが見込まれます。
ただし、もし移植細胞などに利用する場合には、ES細胞やiPS細胞のように、培養下でどんどん増やせるような工夫がさらに必要になるでしょう。
(また、今回、生後間もないマウスのリンパ球からはSTAP細胞が作れたのですが、大人のマウスからはできなかったという問題もあります。)

それよりも学術的な意義としては、STAP細胞がES細胞やiPS細胞よりもさらに多能性が大きい点があります。
マウスも人間ももともとはたった1個の受精卵に由来しますが、その細胞が2個に分裂し、4個、8個と増えていって、だいたい128個くらいまでになる頃に、まず、身体を構成する細胞になるか、胎盤などの組織になる細胞かに分かれます。
その後、身体を構成する細胞に「体細胞」と「生殖細胞」が分かれ、体細胞はさらに「三胚葉」に分かれて、最終的には、神経の細胞、筋肉の細胞などになる訳です。
ES細胞やiPS細胞は、生殖細胞を含めて身体を構成するすべての細胞をつくり出すことができますが、STAP細胞が、さらに加えて胎盤や胎仔膜の組織もつくり出すことができたのです。
これは、受精卵と同等とみなすことが可能な「全能性」の獲得を意味するのかもしれません。
酸性の溶液処理という環境ストレスがなぜ、そのような性質を誘導させるのかについては、今後の研究成果が楽しみです。
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(画像はCDBのプレス発表のサイトから拝借しました)

……さて、報道で話題となっていた小保方さんのラボ・ウェアはお祖母様譲りの「割烹着」ということでちょっと面白い話題を。

「割烹着」という言葉から、この衣服はもともと料理のために創られたように思われるかもしれませんが、実は「割烹着」は、理科実験を含む「作業着」として開発された、ということをご存知でしょうか?

割烹着は、実は日本女子大学校(現在の日本女子大学)で生み出されたものです(Wikipediaの情報は正確ではありません)。

私はこの話を、同女子大を幼稚園から定年まで過ごした母から聞いていたのですが、裏を取るために出典を探すのにちょっと苦労しました。
ようやく見つけたのは「夏目☆記念日」というテレビ朝日の報道番組案内です。
これは、1901年4月20日が日本で初めて女子に対する高等教育を行った日本女子大学校の創立記念日であることから、4月20日が「女子大の日」と制定されていることにちなんで昨年の4月21日に報道されたようなのですが、以下のような番組内容が残っていました。

女子学生たちは自学自動の教育方針により、実験の際に使う作業着を開発。これは後に割烹着と呼ばれるようになる。さらに創設者の成瀬は遠方から来る生徒のために寮舎を建設し、女子に団体競技を挑戦させることで自主性などを育成。これにより学生自らが運営する女子だけの運動会が開催されるようになった。卒業第1期生の丹下ウメは東北帝国大学に入学し、日本初の男女共学校が誕生。さらに平塚らいてうもこの学校の卒業生で、自らの著書「元始、女性は太陽であった」で成瀬のことを讃えている。


日本女子大学校を卒業後に1913年に東北帝国大学に入学した丹下ウメも、もちろん割烹着を来て化学実験をしていたに違いありません。
ちなみに、髪を覆う「三角巾」も同時に開発されたものと聞いています(こちらはまだ出典がつかめていません……)。

つまり、小保方さんが割烹着を来て発生生物学の実験をされているというのは、実は明治以来のリケジョの伝統なのです♬
小保方さんとの繋がりをちょっと感じた次第です。

本日はいろいろと報道がフィーバーしているようですが、瞬間最大風速ではなくて、リケジョに、そして基礎研究者に穏やかな追い風がずっと吹いていてほしいと願っています。

【リンク】
女子大の日
日本女子大と割烹着の話:2014年入試用学校説明会レポート日本女子大附属中学校・高等学校(校長先生のご挨拶文の中に記載あり)(PDF)
東北大学女子学生入学百周年記念事業
拙ブログon小保方さん(その1):多能性幹細胞をつくる簡便な方法:幹細胞は実はストレスで誘導される

Commented by 通りすがりです。 at 2014-01-31 02:31 x
大隅先生、参考になるか分かりませんが。。。
女性初の薬学博士である鈴木ひでるは割烹着で実験されていたようです。平成21年に国立女性教育会館で開催された「女性科学者の誕生」展で彼女の割烹着が展示されています。また日本女子大学叢書の「女子理学教育をリードした女性科学者たち」という本に当時の様子が記述されています。  
三角巾は(衛生用として)最初に製作されたのは明治6年(1873)で、西南戦争で使われていたようです。髪用の三角巾と違うのかは分かりませんけど。。。  
Commented at 2014-02-01 00:40 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by osumi1128 | 2014-01-30 20:58 | サイエンス | Comments(2)

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


by osumi1128
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