小保方さん関係(その5):いまどきの生命科学研究は(たいてい)チームで行う

註:その後、STAP細胞についてのNature論文2本は7月2日付で取下げられました。

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ソチ・オリンピックも近づいて、STAP細胞関連報道も少し下火になったのではと思いますが、現代の生命科学研究について考える良い機会なので、こちらは淡々と続けますww

小保方さんはこれまでに9本の論文を出していることは、PubMedという医学生命科学系を中心とした雑誌検索サイトですぐに調べられます。
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新しい順に挙がってくるので、それを遡っていくと、その方の研究の歴史が見えてきます。

小保方さんの最初の論文は、女子医科大学の岡野光夫先生が責任著者として出されている、組織工学系、より広く言えば再生医療の基礎研究です。

Subcutaneous transplantation of autologous oral mucosal epithelial cell sheets fabricated on temperature-responsive culture dishes.

Obokata H, Yamato M, Yang J, Nishida K, Tsuneda S, Okano T.

J Biomed Mater Res A. 2008 Sep 15;86(4):1088-96.

大学院の所属先である早稲田大学理工学研究科の常田聡教授が後ろから2番目に名前が入っており、おそらく直接指導された女子医科大学の大和雅之先生(現教授)が第二著者ですね。


その次の論文は共著者となっていて、常田先生がlast authorです。

Hollow-fiber membrane chamber as a device for in situ environmental cultivation.

Aoi Y, Kinoshita T, Hata T, Ohta H, Obokata H, Tsuneda S.

Appl Environ Microbiol. 2009 Jun;75(11):3826-33. doi: 10.1128/AEM.02542-08. Epub 2009 Mar 27.


博士課程時代の留学先であるハーバード大学のVacanti教授のところでの研究は2011年に発表されています。

The potential of stem cells in adult tissues representative of the three germ layers.

Obokata H, Kojima K, Westerman K, Yamato M, Okano T, Tsuneda S, Vacanti CA.

Tissue Eng Part A. 2011 Mar;17(5-6):607-15. doi: 10.1089/ten.TEA.2010.0385. Epub 2011 Jan 10.

こちらも、大和先生、岡野先生、常田先生のお名前が含まれます。


岡野先生のところから出た別の論文では第二著者として加わっています。

Development of osteogenic cell sheets for bone tissue engineering applications.

Pirraco RP, Obokata H, Iwata T, Marques AP, Tsuneda S, Yamato M, Reis RL, Okano T.

Tissue Eng Part A. 2011 Jun;17(11-12):1507-15. doi: 10.1089/ten.TEA.2010.0470. Epub 2011 Apr 12.


また、同じ年(豊作ですね)には筆頭著者としてNature Protocolという、最新の画期的な実験方法を中心とする雑誌の筆頭著者の論文が出ています。

Reproducible subcutaneous transplantation of cell sheets into recipient mice.

Obokata H, Yamato M, Tsuneda S, Okano T.

Nat Protoc. 2011 Jun 30;6(7):1053-9. doi: 10.1038/nprot.2011.356.


その次の論文はVacanti研からのものの共著者。

Effect on ligament marker expression by direct-contact co-culture of mesenchymal stem cells and anterior cruciate ligament cells.

Canseco JA, Kojima K, Penvose AR, Ross JD, Obokata H, Gomoll AH, Vacanti CA.

Tissue Eng Part A. 2012 Dec;18(23-24):2549-58. doi: 10.1089/ten.TEA.2012.0030. Epub 2012 Sep 24.


そして、STAP細胞の「多能性」(未分化な細胞がさまざまな種類の細胞に分化しうる性質)についてマウス個体を用いた実験で検証するために、若山照彦先生(現山梨大学)のところと共同研究を開始し、今回の論文の前に出た論文が以下になります。

Successful serial recloning in the mouse over multiple generations.

Wakayama S, Kohda T, Obokata H, Tokoro M, Li C, Terashita Y, Mizutani E, Nguyen VT, Kishigami S, Ishino F, Wakayama T.

Cell Stem Cell. 2013 Mar 7;12(3):293-7. doi: 10.1016/j.stem.2013.01.005.

エピゲノム研究で著名な東京医科歯科大学の石野史敏教授のお名前も見えますので、そのような実験も為されたのだと思います。


そしていよいよ(笑)以下の2本が今回の大きな報道に繋がったNature誌同時掲載の論文です。

Articleというより「大作」がこちら。

Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency.

Obokata H, Wakayama T, Sasai Y, Kojima K, Vacanti MP, Niwa H, Yamato M, Vacanti CA.

Nature. 2014 Jan 30;505(7485):641-7. doi: 10.1038/nature12968.


Letterという少し短い(それでも、Supplemental Information入れるとかなりの分量です)方がこちら。

Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency.

Obokata H, Sasai Y, Niwa H, Kadota M, Andrabi M, Takata N, Tokoro M, Terashita Y, Yonemura S, Vacanti CA, Wakayama T.

Nature. 2014 Jan 30;505(7485):676-80. doi: 10.1038/nature12969.


どちらも小保方さんは筆頭著者であり、main contributorですが、Articleの方のlast authorはVacanti先生、Letterの方が若山先生ですね。

ただし、「責任著者corresponding autor」としては、Articleでは小保方さん「かor」Vacanti教授、Letterでは小保方さん、若山さん、もしくは笹井さんとなっています。

若山先生はArticleの方では第二著者、第三著者に入っているのが笹井芳樹先生(理化学研究所発生再生総合研究センター<CDB>副センター長)、さらに丹羽仁史先生(同CDBのチームリーダー)と前述の大和先生のお名前も見えます。

Letterの方は、笹井先生が2番目、丹羽先生が3番目、その他、CDBの電子顕微鏡室の米村信重室長も加わっています。


このように、現在、生命科学研究では「チーム研究」が一般的になりつつあります。

実験物理学などとは異なるので、巨大な装置を皆で使って研究する、というのとはちょっと違い、それぞれの研究室の「得意技」で、より複合的な解析を行うことにより、仮説が正しいかを検証する必要があるからです。


もう少し詳しく見てみるとよくわかります。

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これらの方々が、どのようにNature Letterに貢献したのかについては、次のように記載されています。

Contributions
H.O. and Y.S. wrote the manuscript. H.O., Y.S., M.K., M.A., N.T., S.Y. and T.W. performed experiments, and M.T. and Y.T. assisted with H.O.’s experiments. H.O., Y.S., H.N., C.A.V. and T.W. designed the project.

著者名はイニシャルで書かれるので、ちょっとわかりにくいですが、スペース削減のためですね。

論文を執筆したのは、小保方さんと笹井さん、M.T.さんとY.T.さんは小保方さんの実験補助で、さらにVacanti教授以外が実験に加わったこと、プロジェクトのデザイン、つまり方向性などの方針を決めたのは小保方さん、笹井さん、丹羽さん、Vacanti教授、若山さん、ということになっています。

同様のことをArticleの方でも見てみましょう。

Contributions
H.O. and Y.S. wrote the manuscript. H.O., T.W. and Y.S. performed experiments, and K.K. assisted with H.O.’s transplantation experiments. H.O., T.W., Y.S., H.N. and C.A.V. designed the project. M.P.V. and M.Y. helped with the design and evaluation of the project.

こちらも、論文を執筆したのは、小保方さんと笹井さん、実験は小保方さん、若山さん、笹井さんが行い、小保方さんの実験補助をされたのがK.K.さん、プロジェクトをデザインされたのは、小保方さん、若山さん、笹井さん、丹羽さん、Vacanti教授で、Vacanti教授の弟さんと大和さんがプロジェクトのデザインや評価を助けた、とされています。

こういう論文著者のスタイルは、例えば数学科の友人K先生にはほとんど「意味不明」となります。

それは「アイディアは誰のものなの? 実験をしたのは誰なの? それ以外のヒトの名前を入れる必要はあるの?」ということなのだと思いますが、上記のContributionsに必ずしも表されないこととして、研究費としてのcontributionもありますし、お名前が挙がらない方で実験の補助を行った方もさらにいるのではと思います。

生命科学研究は、この半世紀くらいの間に、どんどん「ビッグ・プロジェクト化」してきたといえます。

一人の研究者のオリジナルなアイディアだけで「世間から注目される」研究成果として発表することが困難な時代となってきました。

これは、ある意味、研究者の「小さな喜び」を剥脱するものだと思います。

2012年のノーベル生理学医学賞を受賞されたJohn Gurdon先生の受賞対象論文が単著(single autor)であったことが懐かしいです。


243.

The developmental capacity of nuclei taken from intestinal epithelium cells of feeding tadpoles.

GURDON JB.

J Embryol Exp Morphol. 1962 Dec;10:622-40. No abstract available.


【追記】

ちなみに今でももちろん、single-authorだったりtwo-authorの論文は出ます。

two-authorの場合には研究を遂行した本人と、それを助けたボス(研究室主催者)というケースがほとんどですね。

例えば、こんな論文。

Parental olfactory experience influences behavior and neural structure in subsequent generations.

Dias BG, Ressler KJ.

Nat Neurosci. 2014 Jan;17(1):89-96. doi: 10.1038/nn.3594. Epub 2013 Dec 1.

これも、もしほんとだったらすごい! という画期的な神経科学の論文です。

マウスの親の代の「匂い経験」が仔や孫に伝わり、その差違に精子の嗅覚受容体遺伝子のDNAメチル化が変化していたというもの。

ただし、この2つの事象の因果関係などは、今後のお楽しみ。


【拙ブログ関連リンク】

小保方さん関連(その1):多能性幹細胞をつくる簡便な方法:幹細胞は実はストレスで誘導される

小保方さん関連(その2):リケジョと割烹着

小保方さん関連(その3):いのちを見つめる女性研究者

小保方さん関連(その4):目利きとしての発生再生総合研究センター








by osumi1128 | 2014-02-05 08:13 | サイエンス | Comments(0)

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