STAP騒動について海外在住日本人研究者のご意見【追記しました】

欧州の学会を2つはしごして、帰国の途に着いたところです。ミラノの欧州神経科学学会は7000人くらいの参加者があり、日本人は200名くらいとのこと。北米神経科学大会(SfN)のように3〜4万人ほどは大きくなく、一応、基礎から臨床までカバーされており、欧州各国で開催(次はコペンハーゲン)というのも、DCやサンディエゴと場所が固定されているSfNよりも嬉しさがありますね。

さて、国外で活躍されている日本人研究者にお目にかかって、外から見てこの騒動はちょっとどうなのか、ということになり、以下のようなご意見を頂きました。ご本人の許可を得て掲載させて頂きます。【末尾にさらにコメントを追加しました】

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大隅さん

おっしゃられる通り、こちらには情報が不足しており、不正確な点や、的外れな点もあるかと思いますが、私の意見を聞いていただいてありがとうございます。以下、少し加筆修正しましたが、これでよければ、大隅さんのブログに掲載していただいて結構です。

研究者も含めて、人々がひたすら理研、CDBの側を責めているのを見ると、とても異常な感を持たずにはいられません。理研も正すところは正し、今後も間違った方向に進んでいるときには、周りから意見すること必要だという点は私にも良く分かります。追試が必要かどうかは、理研と周りの科学者が、科学的根拠に基づいて冷静に議論をするべきだと思います。もし追試の必要性が明らに否定された場合、つまり、STAP 細胞を支持する実験結果が何も存在してなかったことが明らかになれば、追試を中止すべきだというのは正しいと思います。税金を使っているのだから、、、という点も分かります。

私が憂慮していることは、第一に、不正が起きたときに責められるべきは、不正をはたらいたもの、および場合によっては、それを見逃した他の論文著者であるという第一原則が、はっきりしないようになっていることです。会社が何か不祥事を起こした場合は、会社のトップが責められますが、それと同じ論理で、マスコミ、一般市民が理研の責任を追求しているように見えます。このような構図が科学の世界で当たり前になると、今後苦労するのはほかの大学、研究所です。不正を完全に防ぐことは不可能です。将来不正が起こらないように、いろいろなシステムを改善することは必要ですが、同時に、今後起こった場合にどういう対応が求められるか、そのルールをはっきりさせておくことが必要です。大学、研究所が過剰に責められる前例を作っては今後のためになりません。また、不正の調査を徹底的に行うには、聞き取りや、データの解析等、様々な要素を総合的に考慮して判断する必要があるため、一定の時間がかかること。調査委員会の結論は重いものですので(最終的に法律問題にもなりますので)、中途半端に不正を認める発表はできないこと。従って、裁判の判決と同様、調査委員会の発表は、保守的になってしまうことが多いこと(疑いだけでは罰せられないこと)。これらのことが十分理解された上で、粛々と手続きが行われる環境が保証されていることが必要です。

一方で、こういった点に反して、改革委員会の報告書、提言には「推測」の範囲を超えない記述が多々存在し、それに基づいて理研の批判をしているのには、とても違和感があります。

今回の論文取り下げまでに半年しかかかっていない一因はもちろん不正があまりにもひどかったことがあると思いますが、一部の著者が抵抗する中、半年という短い時間で(他の不正のケースと比較して)、これまでに分かった誤りのリストを詳細に与えたうえで、取り下げまでこぎつたことについて、理研に一定の評価を与えてもいいのではないかと考えます。取り下げの申請は基本的には著者によるもので理研によるものではないことがルールだと思いますが、理研の働きかけがあって取り下げをまとめることができたのだと理解しています。

小保方さんの採用過程が通常の手続きを経ていない点が指摘されていますが、アメリカでは公開セミナーなしで、教授たちの推薦に基づいて、大学院を出たての若手にフェローなどのポジションで小さい研究室を持たせて自由に研究をする機会を与えるような制度があります。若手にチャンスを与えるということは当然危険がともなうことですが、独立のassistant professorのポジションも含めて、こういう機会が比較的たくさんあることが、アメリカでの研究者のモチベーションを高めること、ひいては科学の発展の土台を作っているのだと思います。独創的なアイデア、可能性を持っている人をいかに引きつけるかは大学にとってなによりも大事なことで、大学同士がしのぎを削っているわけです。CDBがこれまで先進的なシステムで若手にチャンスを与えてきたことは評価こそされるべきで、結果的にたった一人の悪い研究者を生んでしまったことで、そのようなシステム自体を否定してしまうことは、今後に悪影響を与えるのではないかと思います。CDBがこれまで若手にチャンスを与えて来たことは、評価されるべきことで、結果的にこういうことが起きたことによって、そういうシステム自体が否定されるべきではないと思います。もちろん、長期間、同じ幹部で運営してきて、チェック機構がはたらかなくなってきていた点等、改めるべき点があることは大事な点です。

常々、日本のマスコミの、政治家の言葉尻だけを捕まえて喜んでいる低レベルな姿勢に飽き飽きしていましたが、いまはそのターゲットが理研になっているようで心配です。日本の研究システムをいかに良くしていくか、それに向かってこれまで行われてきた試みの客観的な評価という、より大きな、建設的な問題を棚において、これまで少なくともいろいろな点でうまく機能していた組織の解体を、短絡的に言い出すのはとても危険に思われます。日本の科学者が、もっと大局的に、長い目で物事を考え、建設的な方向に物事が進んでいくことを望んでいます。


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【追加コメント】

建設的な議論が行われるためには、結局何が目指すところなのかということを見失ってはいけないと思います。

1、不正ができるだけ起こらないようにすること。
2、不正が起こったときに対応するシステム、ルールを作ること。
3、一日も早くみんながこの問題から解き放たれること。
4、若手や女性が十二分に才能を発揮できる環境を作ること。

これらの4つを頭に入れて、そのために何をするべきかを考えるべきだと思います。
いま人々がやっていることは、こちらから見ると「ボトムアップ」の間違い探しではないでしょうか。
もちろん、1あるいは2を大儀にやっているのだと思いますが、

行き過ぎると本当に大切なものを見失ってしまうのではないでしょうか。

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<以下追記>
日本分子生物学会はリンク先に示しますように、STAP論文疑義についての実態解明を求めており、まさに上記の1〜4を望んでいます。(中身を読んでいないと思われる?方々の)伝言ゲームの間に意図とは異なる受け取られ方をされている場合もあるようですが、関係者の処分や当該研究機関のあり方については、一切述べておりません。また、個人的には、当該研究機関でまったく今回の不正に関係の無い皆さんが一日も早く、良い研究に専念できることを祈っています。



by osumi1128 | 2014-07-10 00:09 | サイエンス | Comments(5)
Commented by 海外在住細胞生物学者 at 2014-07-10 03:59 x
同じく海外在住の研究者です。
「解体」という言葉が悪いのだと思いますが、改革委員会は「今までCDBがやってきたことを全部チャラにしろ」という話はしていないように思います。会見で委員長が「ミッションを再定義しろ」とくり返していたのが印象的ですが、「若手研究者にチャンスを与えてきたことは高く評価されるべきだ」というならば、新組織のミッションは「若手研究者にチャンスを与えること」でも良いはずです。解体の真意は明らかに新組織からの現CDB幹部たちの追放です。にもかかわらず、雇用が保障されることになっている、すなわち、新組織に参加することになるはずのCDBの若手研究者たちが自分の研究時間を削ってCDBを守ろうと必死になっている姿を不思議に思います。若手研究者たちは新組織のミッションを考えて提言した方がいいのでは? 間違いなく多くの支持を得られるはずです。


Commented by 海外在住細胞生物学者 その2 at 2014-07-10 04:00 x
若手フェローというポジションは初めて聞きましたが、そういうことをしている大学もあるのかもしれません。少なくとも一般的な制度ではないと思います。そういう制度がアメリカの大学にあるとしても、それを理由にして小保方氏の選考過程を正当化するのはムリがあると思います。小保方氏が選ばれたのは「内部の推薦に基づいて選ぶ若手フェロー」のポジションではなく、国際公募によるポジションです。その過程で不透明なことをしたことを、「アメリカにもこういう制度があるからいいんだ」と正当化するのはおかしいと思います。また、10年くらい前に所長は「CDBは内部からはPIに昇進させない」とおっしゃってました。今回はそれも反故にしています。時間が経って当初の理念が失われつつあるのでは? 今、解体的出直しをしてミッションを再定義しなければ、「若手にチャンスを与える場所」としても機能しなくなると思います。
Commented at 2014-07-10 14:32 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2014-07-11 22:08 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 私のサイトではありませんが。 at 2014-07-15 00:09 x
若手の研究者がデータをいいかげんに取り扱ったことが明るみに出ると、そのような逸脱行為によって信用を傷つけられた研究機関は、事態を調査するための特別委員会を組織することが責務であると考える。しかし、そうした委員会は結局、予定された筋書きに従って行動するだけである。委員会の基本的な役割はその科学機関のメカニズムに問題があるわけではないことを外部の人びとに認めさせることにあり、形式的な非難は研究室の責任者に向けられるが、責任の大部分は過ちを犯した若い研究者に帰せられるのが常である。本人はすでに不正の現場を押さえられているので(しかも、不正を発見するのは多忙な指導教授ではなく、きまって仲間の若い研究者である)、自分に割り当てられたスケープゴートとしての役割を果たす以外に選択の余地はない。つまり、彼は”悪者”のレッテルを貼られて、自分の罪だけでなく組織すべての罪をかぶって社会から放り出されるのが常なのである。
— 『背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?』(ウィリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド/講談社)
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