SfN2014出張(その2);Non-profit organizationの存在感

毎年、土曜日から翌週の水曜日まで開催される北米神経科学大会SfNに参加しました。参加者が3万人を超える大きな大会なので、開催地が限られていて、昨年はサン・ディエゴ、今年がワシントンDC、来年はシカゴと、だいたいこの3ヵ所を回ります。そういう意味では、面白そうな土地に行くという楽しみはまったく無く、ひたすらサイエンス面でのメリットを追求することが目的です。このあたり、参加者6000人くらいの欧州神経科学連合(FENS)の2年おきの大会はヨーロッパ各地を周り、一昨年はバルセロナ、今年はミラノ、再来年はコペンハーゲンという楽しみが加わります。
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参加者3万人の学会というのは、いろいろな意味でスケールメリットがあります。例えば、機器展示の充実度は素晴らしくて、関係する企業がこぞって立派なブース展示を行い、多数の社員を派遣して営業活動を行います。また、SfNはとくにキャリア・ディベロップメントのためのセミナーを充実させていて、毎日何らかのセミナーが開催されていますし、今年はさらに、多数の脳科学教育コースの展示がHall Eで為されていました。もちろん、何も宣伝しなくても学生が集まる有名どころの大学院は別ですが、優秀な学生さんを集めたいという大学院がブースを出して、パンフレットを置いたり、直接、訪れた志望者の質問に答えたりしていました。ちなみに、日本の大学院で出展していたのは沖縄科学技術大学院大学(OIST)だけでした。今後、日本の大学院がグローバル化を図るのであれば、こういうところにも打って出ないといけないのですが、いかんせん、日本の大学院は奨学金が充実していないので、見劣りがしますね。今年、東北大学も「スーパーグローバル大学(SGU)」に選定されましたが、その資金はインフラ整備用なので、直接学生さんの支援には使えません。かつてのグローバルCOEでは、リサーチ・アシスタント(RA)経費として大学院生の経済的支援も行っていたのですが、事業仕分けのあおりを食って、このプログラムは続きませんでした(注:「リーディング大学院」という後継プログラムもあるのですが、こちらは研究者育成より産業界との連携を重視しているように思います)。

スケール・メリットに加えて、SfNのannual meetingが日本の学会の年会と異なるのは、non-profit organizationの参画がとても大きいということです。展示会場には、米国の科学研究を支援する国立衛生研究所(NIH)や米国科学アカデミー(NSF)が圧倒的な大きさのブース展示を行っていましたし、アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症等、各種の患者団体も出展しており、それらの病気の認知を高める活動を行っていました。そのような患者団体の一つであるAutism Speaksのブースを覗いたら、研究費支援のパンフレットがありました。見てみると、なんと、$100,000(つまり11/21のレートで1,184万円!)の研究費を配分しているというのにびっくりでした。「採択率は低いですが、画期的な研究を支援しています」という説明でした。米国においては、富裕層が多額の寄付を行ってこのようなNPOを支えるという文化があり、患者さんやそのご家族と研究者がいかに近い関係にあるのかを象徴していると思います。
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今回、最終日の午後という最悪のスロット(泣)でポスター発表をしたのですが、初日の活気が薄れた中で訪れて下さった方の一人は自閉症関係のサイモン財団が運営しているSimon Foundation Autism Research Initiative, SFARIのプレス担当の方でした。患者団体にプレス担当があるというのも、その規模の大きさを想像させますが、その方から頂いた名刺を見るとPhD(博士)の肩書がありました。つまり、博士号取得者の方のキャリア・パスとして患者団体に就職するという道があるということですね。確かに、年会でその団体の関係者に意味がある発表を探して、その場で取材をし、その内容をまとめて財団のweb pageに掲載する原稿に起こす、という仕事は、研究経験が活かされる仕事だと思います。ちなみに、掲載された記事はこちらです。


SfNの学会本体には80名ほどの方々が、財務、企画、分析など種々の立場で働いているのですが、もちろんその中にも多数のPhDの方がおられます(正確な数字は不明)。学会の執行部(Council)や委員会(Committee)に所属する現役研究者とともに、学会事務局の方々が一緒になって作戦を練り、種々の資料等の作成を行って、例えばNIHやNSFにその分野の研究費を増やすように訴えるとともに、市民へのアウトリーチを行うなどのアドボカシー活動を展開しているのです。その他、子どもたち、生徒たち、その教育に携わる方々への啓発活動なども行っており、次世代の神経科学者をどのように育てるか、神経科学の重要性を広く伝える努力が為されています。戦後60年の間に、日本の研究レベルが上がって欧米に追いついたというのは、少なくとも生命科学分野においては、私は幻想だと思っています。表面的には、高額な機器を備えたビッグ・ラボも多数誕生し、山中さんが2012年のノーベル生理学医学賞を受賞したというような象徴的な成果も挙がりました。でも、生命科学をサステナブルに支える体制が構築されてきたかというと、決してそうではありません。いわば、見掛け倒しの張りぼて状態です。アカデミアと社会をどのように繋ぐか、そのための仕組みや人材育成、キャリア形成まで考えないと、国際的な環境の中で良い研究体制を支えることができない……そんなことを感じながら帰国の途につきました。


by osumi1128 | 2014-11-22 23:26 | 科学 コミュニケーション

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