May-Britt Moser先生の北米神経科学学会基調講演

今回の北米神経科学学会(SfN)年会でもっとも参加したかったセッションの1つが、2014年のノーベル生理学・医学賞受賞者であるMay-Britt Moser先生のPresidential Special Lectureでした。ノーベル・レクチャーはノーベル財団のHPから視聴できるのですが、やっぱり、同じ空間で、ライブで聴いてみたいと思ったのでした。
d0028322_00555596.jpg
話の最初は、ノーベル賞の共同受賞者であるJohn O’Keefeが、どのようにして海馬の中のplace cells(場所細胞)を見つけたのかというエピソード。ライブ記録電極を付けて自由に動き回るラットが、特定の場所に来ると「バリバリ……」という神経細胞発火の音がする、というところから、場所に対応して活動する神経細胞があるのではないか、と考えたというのが、1970年代後半のことでした。その実験系を習得しにMoser夫妻はO’Keefe labに短期滞在したのですが、このとき、いったいどこからどのようにして場所細胞に刺激が入るのかについて解析し、大脳皮質の嗅内野という領域でgrid cells(グリッド細胞)を見つけました。これがノーベル賞の授賞につながりました。

SfNの基調講演ではむしろ、その後、発見されたborder cells(ボーダー細胞)や、現在進行形のhead direction cells(頭部方向細胞)、speed cells(スピード細胞)についてなど、unpublished data満載でした。スピード細胞の同定のために、ラット専用の乗り物を開発するところから始まるという、手作り感あふれた研究だと思いました。

どうもグリッド細胞やスピード細胞と、ボーダー細胞や頭部方向細胞は、異なる仕組みがあるらしく、これは「地図の読める・読めない」に関わるのかなぁ、などと考えながら聴いていました。ちなみに、私はグリッド細胞が欠けているタイプで、スピードも苦手ですが、たぶんボーダー細胞や頭部方向細胞はあるのではないかなと思っています。

さらに、このような細胞の「作られ方」、つまり「発生」についても研究されているらしく、胎生中期の中でも早い時期に生まれたものは嗅内野の背側に位置して、その部分のグリッド細胞の配置は狭く、後から作られたものは腹側に位置して、グリッド細胞の配置が広いとのことでした(ちなみに、発生が気になるのは、女性研究者に比較的多い気がしています)。きっと、一人ひとりの違いも、こういう発生の時期の微妙な差で生まれそうだなぁと思いました。

講演の一番最後に、「科学者は子どものようなものです。子どもが友だちと楽しく遊ぶように、研究室にアーティストが来ると、とても素敵なことが起きます。」というイントロで繰り広げられたのは、実験に用いられたラットの様子の動画や、脳の切片と、音楽を組み合わせたヴィデオでした。まさにサイエンスとアートのコラボレーション! そういう意味で言えば、May-Brittがノーベル賞授賞式で纏っていたドレスも、アーティストのオリジナルで素敵でしたが、この日もカラフルなデザインのミニスカートとタイツという出で立ち。
d0028322_00590392.jpg
今年のSfNでは4名の基調講演者のうち、3名が女性でした。それぞれ個性があり、Cori Bargmannは、米国のBrain Initiativeの中心となっている方で、もっとも優等生的なタイプなのに対して、May-Brittはもっとも芸術家タイプと言えます。Coriの英語は完璧なAmerican Englishで、そのままテキストに起こして添削が必要が無いような話し方なのに対して、May-Brittの場合は英語が母国語ではないので、たどたどしく聞こえますが、強いパッションを感じます。途中で笑いを取るところも多々ありますが、受けなくても気にしないというか、強引に引き込まれる感じでした。彼女のヴィデオを観れば「そうか、英語はコミュニケーションのツールとして大事だけど、流暢に話すのが問題ではなくて、中身やパーソナリティーなんだな」とわかるでしょう。

東北大学知のフォーラムは9月末で終了! というつもりだったのですが、実は追加があり、11月末にEdvard Moser先生(ご主人の方)とノルウェー工科大学脳科学関係者様ご一行が来仙され、ジョイントシンポジウムを開催予定です♬

興味深いヴィデオは以下から視聴できます。
ノーベルレクチャーのヴィデオ:Grid Cells, Place Cells, and Memory

by osumi1128 | 2015-10-25 01:00 | サイエンス | Comments(0)

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


by osumi1128
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31