STEM分野における男女共同参画推進

ベルリンへ3泊5日の弾丸出張。目的はSTEM Gender Equality Congressという国際会議への出席。科学・技術・工学・数学分野における男女共同参画を推進するにはどうしたらよいか、現状分析や成功事例の情報交換のために、大学や研究所などの研究機関、研究資金配分機関、種々の企業、NPO、財団などの関係者、約200名が集まった。日本からの参加者は私の他に、笹川平和財団からの1名。韓国からはCenter for Women in Science, Engineering, and Technology(WISET)という機関の代表者と随行者が参加していたが、マジョリティは欧州各国で、さらに米国、カナダ、オーストラリアなどからの参加者がいた。私は東北大学の取組みについてポスターを発表

9割が理系の東北大学では、第三期中期目標中期計画の期間内に女性研究者比率を19%にまで引き上げるというアンビシャスな目標を掲げている。これは実数にすると230名余の増加を意味するので、生半可なことではない。また、本学の努力だけではどうにもならない部分もあると思っているので、世界各国の取組みについての情報は非常に為になった。

●顕彰制度
不肖ながら今回初めて知ったのがAthena SWAN (Scientific Women’s Academic Network)という顕彰制度だ。これは英国のEquality Challenge Unitという組織が2005年に設立したもので、現在ではSTEM領域だけでなく、人文社会系にも拡大されている。男女共同参画に関する達成目標を設定してメンバーとして登録し、その成果が認証されるとランクによって金銀銅の賞がAthena SWAN Awardとして与えられる。

日本では子育てに関して厚労省の認定マークとして「くるみん」や最近では「プラチナくるみん」があり、地方自治体が認定する「男女共同参画推進事業所」などがあるが、大学が世界ランキングを気にするのであれば、こういう世界的な顕彰制度に手を挙げる方が良いかもしれない。

●研究資金配分機関、アカデミー、NPOの参画
この国際会議では、もっとも最初のKeynote Lectureを行ったのがUNESCOのDivision for Gender EqualityのDirectorであったし、その次がドイツのGermany Research Foundation(DFG)のHead of Department for Scientific Affairsの発表、欧州委員会、カナダの研究費配分機関であるCanadian Institute of Health Researchや、米国科学アカデミー、AAASなどからの参加者の講演もあった。さらに、もっと新しい組織としてEDGE Certified Foundation、Gapsquare、World Economic Forum、Accenture’s Accelerated R&D ServiceなどのCEOやCo-Founderなどの女性によるパネル討論も行われた。

このような参加者のバラエティから感じたことは、研究環境を構成する層の厚さである。それぞれの立場で「研究環境を良くするにはどうしたら良いか」に取り組んでいる。これらの組織は当然ながら博士人材の就職先でもある。Gender Equalityを推進するだけでなく、持続的な研究推進のためにも、こういう繋がりが必要だろう。行政の外郭団体としてではなく、ボトムアップにそういう組織ができることを日本でも期待したい。

●バイオメディカル研究におけるジェンダーのもう一つの意味
研究における男女の参画という意味に加えて、誰を研究対象とするか、という観点も重要。例えば、マウスを用いた行動実験では、「雌は性周期があるので、結果がブレやすいので使いにくい」と見なされている。結果として、雄のみ用いた実験が多い。また、よく使われてきた培養細胞でHeLa細胞というのは、黒人女性のがんに由来するものである。細胞レベルで実は性差があることがだんだんわかりつつある。したがって、とくにバイオメディカル研究においては、両性を扱うことが重要、ということをカナダの方が主張されていた。すでに2010年時点でNatureのコラムなどにも出ていたことではあるが、こういうシチュエーションでの話題として聴いたのは初めて。日本でもより浸透させるべき点と思った。

●Equality, Diversity, Inclusion
もっとも最初は人権運動としてのFeminismだったかもしれないが、その後、時代はgender equalityとなり、さらに人的構成のdiversityという概念に広がり、今もっとも先端はinclusionとなっている。日本語の定訳は「一体性」なのだろうか? 組織を構成する人々の多様性を受入れるということだが、その中にはdisabledだったりLGBTだったり、人種やジェンダーをさらに超えた多様性が含まれる。参考までに、今回発表を行ったAnglia Ruskin Universityのパンフレットから引用しておこう。
To harness the benefits of equality and diversity, we need to foster an inclusive environment for everyone. Allowing people to be themselves, encouraging everyone to think inclusively and to share with others.
This is why we consider the inclusivity of our curriculum, our services and our workplace. We don’t do this because the law tells us to, we do it because this will create a better environment for everyone.
ちなみに、女性を採用すると競争力が下がると懸念される方がいるかもしれないが、5月に東京で行われたGender Summit 10で発表されたエルゼビア社の分析によれば、日本では(他の国と異なり)研究者一人あたりの論文数は実は男性(下図の緑の棒グラフ)より女性(同紫の棒グラフ)の方が多い。上位10%に占める割合も同様。発明者における女性の割合(8%)よりも、特許申請における女性の割合(16%)の方が多いことも、女性が良い発明を特許に繋げていることを示唆する。
d0028322_04021101.jpg
思わず膝を打ったスライドはこちら(日本語は拙訳)。この手の講演を行うときに使わせていただこう。最後の6は、男女共同参画に限ったことではないだろう。
6 misconceptions about gender balance
1. It is just a matter of time(時間かかるけどそのうち変わるでしょ)
2. Promoting gender balance is harmful to excellence(女性参画は競争力低下だ!)
3. Gender equality is in place(もうやってるじゃない)
4. We should do something about this --- to help women(女性を助けるのに何かしてあげないとね)
5. We have to fix the women(女性を変えないとーシステムではなく)
6. What once worked, will always work(今までうまく行ってたじゃない……)

個人的には、韓国のWISETの代表のDr. Wha-Jin Hanと面識を得ることができた。この機関は韓国アカデミアのジェンダー関係を取りまとめており、バラバラだった女性向けの研究費や分析調査などを集約しているとのこと。代表は3年間、エフォート100%で務めた後に、出向元の大学に戻ることができるらしい。我が国では内閣府に男女共同参画局が置かれ、文科省では科学技術人材育成支援事業として現状のモニタリングや研究機関への支援が為されているが、とくに自然科学系における女性研究者の育成支援については、研究者の出向も含めた韓国のような取組みが、今、必要かもしれない。

また、笹川平和財団のDr. Lily Yuと再会し、意見交換できたことも良かった。同財団では東南アジアの少女や女性たちにICTのスキルを教えるプロジェクトなどを展開しているが、Dr. Yuは今後、日本のアカデミアと行政を繋ぐ役割などにも活動を広げたいと考えている。彼女は実は理化学研究所脳科学総合研究センターでポスドクをされた神経科学者でもある。その後、ブリティッシュ・カウンシルの東京オフィスを経て現在のポジションに就かれた。Dr. Yuは東京でのGender Summit 10および沖縄科学技術大学で開催されたサテライトイベントそれぞれで講演をされた。これからのご活躍に心から期待したい。

【エルゼビア社の分析資料】

【東北大学発表のポスター(PDF8.7MB)】

by osumi1128 | 2017-06-10 04:03 | 科学技術政策 | Comments(0)
<< 岩田誠先生の『ホモ ピクトル ... 大人のための最先端理科第120... >>