「狼少女」神話の虚妄さ

所要で東京に出る新幹線の中で、『動物たちの社会を読む―比較生態学からみたヒトと動物』(小原秀雄著、講談社ブルーバックス)を読みました。

この中に「二つオオカミフィクション」というセクションがあり、先に紹介したエントリー『狼少女は捏造だった』に頂いたコメントの元になった記述がありました。

それによると、「狼少女」の虚妄さを明らかにしたのはアメリカのオグバーンという人だそうで、「心理学の専門誌に論文として協同調査間のインド人ボースと共に1995年に載せられていた。しかもそれは、日本でも翻訳されたベッテルハイム編著『野生児と自閉症児』(福村書店刊)に採録されている」ということです。
日本では、「権威ある心理学ゲゼルの著作であるが故に、今でも(大隅注:昭和62年時点)池月雅子氏の訳で家政教育社から戦後半を重ね」られていると書かれています。
さらに興味深いのは、「ベッテルハイムの著作の訳者が、オグバーンの調査に対する反論を示さないままに、その中に収録されている論文を信じられないとしている。「狼少女」は事実だと「信じて」いるとしている。諸外国の学問的なレベルの話では、人間の学習の重要さを強調する著作にも、この「引例」はほとんど見ない。日本とは異なり、心理学や社会学の人々が動物学との接点をもっているためであろうか」という記述です。

「ジェンダー」関連のエントリーに対するいくつかのコメントから、この本が著されてから20年近くたっているにも関わらず、もしかしたらほとんど状況は変わっていないのではないかと思いました。
さまざまな学問領域の間でのアウトリーチの必要性を痛感しています。
あるいは初等中等教育にも問題があるのかもしれません。
by osumi1128 | 2006-01-07 23:16

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