過日、某大学図書館から持ち出された多量の書籍の「背表紙だけ」が廃棄されていたという事件があった。おそらく「自炊」されたのだと想像される。紙の本には紙の本の良さがあって、五感を刺激して記憶を強化することができるが、電子書籍の便利さも捨てがたい。
ところで、昨日の
附属図書館での会議の席で、書籍のバリアフリー化、とくに視覚障害の方向けの対応について話題になった。
日本は現在、マラケシュ条約を批准していない。この条約は2013年に発行されたもので、正式には「視覚障害者およびプリントディスアビリティのある人々の出版物へのアクセスを促進するためのマラケシュ条約」という名前が付いている。
日本がこの条約を批准していないのは、著作権法の第37条3項において、視覚障害者の方が利用できるように、公表された著作物の文字を音声に変更したり、『利用するために必要な方式により、複製し、又は自動公衆送信(送信可能化を含む)を行うことができる』と定められているという背景があるためだ。
しかしながら現実において、例えば附属図書館の所蔵する学術書を視覚に不自由のある方に利用できるようにしようとすると、学術書のほとんどは電子書籍ではないので、
●書籍をスキャンする
↓
●OCRにかけてテキスト化する
↓
●音声変換アプリを利用して音読してもらう
という作業が必要となる。そのために投入できるだけの余剰人材(スキルを含め)が公的図書館にいないというのが現状だ。
せめて最初から、電子化されたテキストとしての提供を公的図書館に認めてもらえると良いのだが、日本の出版社は基本的には紙の本を販売することによって利益を得ているので、勝手にコピーされてしまったら大損だと考える。Kindle版が存在するのは、大手出版社の新書や文庫がメインで、持ち歩きにもたいへんな教科書などほど電子化されにくい。
障がいのある方のみがアクセス権を持つなどの対応など、情報科学に詳しい方にぜひ工夫してもらえないかと考える。
参考記事