生命シンポジウム「生命科学の新しい地平を拓く」

というタイトルのシンポジウムが金曜日、土曜日と日本科学未来館で開催された。
「生命シンポジウム実行委員会」主催、共催が、理化学研究所、科学技術振興機構、日本学術振興会、協力が日本学術会議。

この実行委員会のメンバーは、井村先生、岸本先生、黒川先生、高久先生、和田先生、豊島先生、本庶先生、廣川先生、西川先生に学術振興会の木曽氏、科学技術振興機構の北澤先生、理化学研究所の大熊氏となっている。
ミレニアムプロジェクトが2005年に終わり、その後の日本の生命科学研究はどうあるべきか、ということを語り合う会として、合宿形式で開催された。
以下、とりあえずまずプログラムを概説する。

総合科学技術会議の岸本先生と、学術会議の黒川先生のご挨拶から始まり、第1セッションは「ゲノムーゲノムを超えて生命現象をどう解明していくか」というテーマで、廣川先生の座長により、大石先生、小原先生、林崎先生がいわゆるゲノムサイエンスについて、竹市先生と廣川先生がボトムアップ的生命科学研究について話された。

夕方に宿泊先のホテルに移動し、夕食後にノーベル賞受賞者である野依先生と江崎先生が特別講演をされ、その後、本庶先生の座長の第2セッションとして「遺伝情報に基づく生命機能の再現はどこまで可能か」というテーマで、川人先生、永山先生、冨田先生が10分ずつの話題提供をされた。
その後、夕食会場で24時までアルコール付きのナイトセッションとなった。

翌土曜日は朝の9時から、豊島先生の座長により第3セッションとして「生命科学によるがんの理解はがん克服の展望を示したか」というテーマで、宮園先生、武藤先生、廣橋先生が講演をされた。
お昼の後は総合討論として「生命科学の新しい地平を拓く」というテーマでディスカッションとなった。

さて、上記のように、はっきり言ってゴージャスなスピーカーであった。
これらの先生方が一同に会する日程が設定できたのは、天文学的確率といえよう。
だからこそ、招待状が来たときに、年度末ほかいろいろ忙しいだろうなあと思いつつ出席することにした訳なのだが、スピーカーでない100名余りの参加者もかなりのものであった。
誰かが「今ここで未来館が大きな災害になったりしたら、日本を代表する生命科学者が大変なことになりますね」「いや、そうなったら若手にポジションが移っていいんじゃないの?」というようなブラックジョークを言っていた。

それぞれの方が、普段の学会発表でも市民公開講座でもないプレゼンをされ、非常に興味深いものであった。
しかしながら、本来のテーマである「生命科学の新しい地平を拓く」にはどうしたらよいのか、というディスカッションの掘り下げ方は今ひとつ足らなかったように思う。
特別講演の野依先生が「生命科学王国、物理帝国、化学連邦共和国」というキーワードを使ったことを引きずったからか、今日の総合討論も「生命科学研究における物理化学的アプローチの是非」のようなところに時間が割かれてしまったのは非常に残念である。

第一セッションの小原先生のプレゼンの後に、「ポストゲノム研究で<ヒトらしさ(例えば言語)>を理解するというのは、それだけでは無理があるのではないか?」とツッコミを入れたが、このあたりはもう少し総合討論で蒸し返すべきだったかもしれない。

竹市先生は海野さんの撮影された、オトシブミという昆虫が産卵の際に、どのようにして卵を産み付ける葉を丸めて最後に切り落とすかというプロセスを見せられたが、これはなかなか見応えがあった。
1ミリくらいの脳の中に、あるいはその個体のゲノムの中に、たぶん1時間くらいはかかるであろう複雑なプロセスをやり遂げるプログラムは、一体どのように書かれているのだろうか?
理研のGSCの初代所長であられた和田先生は「獲得形質が遺伝すると考えるよりほかにないのでは? あるいは、実は非常に簡単な仕様書になっているのか?」と言っておられたが、普通の生物学者の常識に反してそうだとしても、それはどんな情報として、どのように書かれて、次世代に伝わるのだろう?

それにしても、総合討論で壇上に上られた7名のうち、和田先生以外が医学部の先生だというのも、むしろ、日本の生命科学がこれからどこにいくのか?を心配させる象徴に思えた。

そうそう、江崎先生のお話の最後の方に、「年齢に比例して<分別力>は向上するが、<創造力>は低下する、その交点が45歳くらい」というスライドがあり、これも発言するときに「すでに創造力が分別力より低下している者ですが・・」などという枕の言葉としてウケていたので、総合討論のときに「女性の平均寿命は10歳くらい長いので、分別力と創造力の交点はやや高い年齢にシフトすると思うのですが・・・」という枕言葉を入れてみようかと思っていたのだが、残念ながら時間切れ。
というか、あまり自分の発言が多くなってもなあ、と思って、ちょっと引いた次第。
フロアの参加者100余名のうち、女性は片手くらいだったかな。
そのほとんどが「発生生物」and/or「神経科学」関係であったことは特記すべきであろう。

*****
会が終わってから、神保町の三省堂で4月22日(土)に行う学術会議主催サイエンスカフェの打合せを現場で行った。
共催(?)は株式会社リバネスという、バイオ教育を行う会社である。
こちらは、ボランティアの学生さんなどにより、小中学校などに生物学の実験教室を出前するような活動を行っている。
どんなカフェになるのか、自分でもとても楽しみである。

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実は、このエントリーがちょうど300本目だったことに後から気が付いた。
ブログを始めてやがて1年である。
by osumi1128 | 2006-03-11 23:24

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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