博士号取得者のキャリアパス

午後に工学部で会議があったので、医学部のあるキャンパスから、青葉山まで車を走らせました。
ちょうど桜が3部から5部咲きくらいなのがあちこちに見えたのですが、気が付くと梅や木蓮の木も花をつけているのです。
そういえば、今年は梅の開花が50日くらい遅れたとか。
木蓮も、東京圏の感覚では2月の花でした。
北国の春というのは、いろいろな花がいっぺんに開くゴージャスな季節ですね。

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さて、科学技術週間が始まっています。
前にも話題にしたことですが、ポスドクという職種が定着してきたのは、この10年のことです。
ポスドクが増加したのは、大学院の定員拡大を受けてという面もあります。
その大学院の定員増加の背景には、もちろん、学術領域の拡大と深化ということもありますが、15年前の時点ですでに見通されていた少子化に対応して、教育の期間を長くすることによって、教員の定員を確保する、という意味もあった訳です。
結果として、教員あたりの大学院生の数は(平均値でいえば)倍増したことになります。
当然ながら、元々官庁の定員削減に対抗する施策でしたから、大学院生の数に比例してアカデミアのポストが増えた訳ではありません。
しかも、自分が受けてきた「一子相伝」的教育スタイルしか知らない、アカデミアに残る人材育成しか分からない先生達が、倍増した大学院生を教えるのですから、多様なキャリアパスなど考える余裕もなく、ただただ、実験の手技や論文の書き方を伝授してきたというのが、全国の国立大学で起きたことではないかと思っています。
ポスドク問題はその延長です。
(ここでは、主にライフサイエンス系の大学院生やポスドクを念頭においています。工学部系ではやや異なったカルチャーがあり、いたずらにポスドクが増えた訳ではないように思えます。)

昨年から文科省の科学技術・学術審議会人材委員会のメンバーとして、この問題についてはいろいろ意見を述べてきました(委員会は公開であり、その内容は議事録として文科省のHPに掲載されています)。
その中で、常勤のいわゆる技官的な形で専門的な技術を持った人が長く同じ研究室で仕事を続けることができるような仕組みや、行政や初等中等教育の現場にポスドクや博士号取得者が採用されるようなポストを作れないかと思うように至りました。
前者は、いわゆる定員削減問題があり、研究機関の自助努力が求められています。
後者に対しては、現行の公務員採用試験(年齢制限)や教職免許制度(教育実習等の単位取得)が大きな障害となっています。

後者に関して、ほぼ同じことを柳田先生が本日の(実際の日付は昨日ですが)エントリー博士号取得者の資格としてブログに書かれていたことを知りました。
私はとりあえず法律改正なしでも、英会話を教えるネイティブの補助教員と同様に、専門的な理科教育(理科実験でも)を教える教員というポジションなら作れるのではと考えていますが、どうでしょうか?

最近、大学関係者で安易に「科学技術コミュニケーター養成」ということを言う方々が急に増えて、ちょっと危惧を覚えています。
誰かがいいと言い出したらすぐに乗りやすい国民性があるのでしょうか。
本当に、養成したその先を見据えているのか心配になります。
フリーのサイエンスライターとして食べていくには何らかのキャリアを積まないといけないでしょうし、全国の科学博物館の定員も急に増えるとは思えません。
5号館のつぶやきさんは、映画「アイランド」というエントリーの中で科学アーティストなどもと言っておられましたが、サイエンスの素養+アーティストの感性の両方が必要ですね。
いわゆるメディアが、実は一番入りにくいような印象もあります。
学部卒で海外でサイエンスライターのコースを納めた方などはいますが、修士号、博士号まで持つとなるとどうでしょう?

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昨日のエントリーに対してコメント頂いた方から「検証・なぜ日本の科学者は報われないのか」という本を教えて頂きました。
宿題として読みましたら、またコメントしてみたいと思います。
by osumi1128 | 2006-04-18 02:12

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