吉田直哉さんのスピーチ

ご縁があって、財団法人癌研究所の有明移転開所式に参加しました。

日本の癌研究を支えてきた拠点の一つである癌研究所が、大塚から有明にお引越しして、お披露目の会が開かれました。
癌研究で著名な先生方が、吉田肉腫で知られる吉田富三先生のお名前を冠した講堂で記念のスピーチされましたが、吉田先生のご子息である直哉さんのお話がとてもtouchyだったので、ここに記します。

吉田直哉さんは元NHKのプロデューサーですが、10年ほど前に食道癌の手術をされました。
もちろん、当時大塚にあった癌研究会の病院です。
消化器系の癌は上部ほど予後が良くないというのは一般的な見解なのですが、直哉氏は見事に立ち直られました。
オペ後8年くらいは声も出ない(食道は声帯に近く、オペによって神経にダメージがあるため)状態だったということは、直哉氏のエッセイから存じ上げていましたが、今日は見事に講演されていました。

エッセイによれば、「癌研究者の吉田富蔵の息子である自分が、癌で死ぬわけにはいかない」という強い意志を持って闘病に立ち向かわれたということでした。
それだけでも感動的なことなのですが、感銘を受けたのはその暖かいスピーチの内容でした。

「・・・当時、大塚の病院の病室からは、研究所がよく見えました。寝付けない夜に、ふと見ると、研究所で白衣を着た人達が忙しそうにしている様子が伺えました。もちろん遠いので、何をしているか、何を話しているかは分かりません。でも、そんな風に夜中まで研究所で働いている人達を見ると、そういう研究をしている人達が側にいる病院に入院できて、本当に良かったと思いました。・・・」

こういう話に素直に感動してくれる研究者がいることを私は切に望みます。
by osumi1128 | 2005-04-29 01:17

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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