鯨噺三題

朝、研究室の毎週の掃除の後、K洋大学のK籐さんから携帯に電話がかかってきた。
「あ、お久しぶりです。お元気でいらっしゃいますか?」
「ええまあ、いろいろ大学では青息吐息ですが・・・ええと、つかぬことを伺いますが、お父様は携帯電話は持っておられますか?」
「申し訳ありません。父は旧人類でして、生憎、そういうモノは持っておりませんが・・・」
「ああ、そうですよね。きっと先生はそうだと思っていましたが、どうしても緊急に連絡しなければならないことが生じまして・・・」
「たぶん、今は太地か名古屋だと母から聞いておりますが」
「分かりました。なんとか手を尽くしてみます」

きっと、第4の鰭を持つイルカの関係の御用だったのだろう。
「先祖返り」したのかもしれないこのイルカには、海洋哺乳類関係者だけではなく、進化発生学者なども大きな興味を抱いている。

「父は鯨の生態学者で、母は酵母菌の形態学を研究しています。私は真核生物でその間のネズミを研究材料としています」というフレーズは、よく知らない外国人研究者と雑談をして、話題がなくなったときに重宝している。
(Chinese calenderで子年だから、というバージョンもあり)
父の学位論文は「耳垢で鯨の年齢を知る方法」という内容。
南氷洋の鯨は1年の間に餌の豊富な時期とそうでない時期を過ごすので、耳垢に年輪のような模様ができるのだという。
実物の論文を読んだことはないのだが、なんだかスケールが大きくて羨ましいと思った。

ところで先日とある席で、M日新聞のM村記者から「ヒトの細胞数が60兆個なら、鯨は何個なのでしょう?」というお題を頂いた。
そもそも「ヒトの細胞数が60兆」というのは、本当に数えた研究者は誰もいないだろうに、オリジナルの出典がどこかも分からないまま、授業でも繰り返し話している。
きっと同じようなセンセイは世界中にいるはずだ。
で、そもそも60兆の根拠は何?と思って計算してみると、体重60kgのヒトを想定し、細胞を10ミクロンメーター角の立方体と近似し、水っぽいものと見なして、その比重を1.0と仮定すると、60兆という数字になる。
(きっとこのあたりが出所なのでは、と勝手に考えたのだが、もしどなたかちゃんとした論文などご存じでしたらお教え下さい!)

で、ではクジラは? ということだが、クジラにも種類は多数あるが、大きな方が面白いので、体重100トンのシロナガスクジラにしてみよう。
ヒトと同じ割合と考えると、単純な比例計算では100京という数字がはじき出される。
ただし、ここで問題なのは、「もし、クジラの細胞も同じ大きさだったら」という仮定が入っていることだ。
実は、細胞の大きさは種によっても違いがある。
ニワトリ胚の細胞はマウス胚よりも小さい。
クジラの細胞の大きさについて母にメールを出し、父に訊いてもらったら「よく分からないって。精子はヒトより小さいらしいけど・・・」
うーん、専門家でも案外知らないものである。

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本日発売のアエラにサイエンス・エンジェルの記事が掲載されました。
12月にはまたイベントを行います。
近日発表予定!
by osumi1128 | 2006-11-06 23:12 | サイエンス | Comments(3)
Commented by kshojima at 2006-11-07 00:53
まだまだ未知の部分は多いのですね。
最先端技術を用いなくてもまだまだ調べれることはたくさんありそうです。昨年高校生(大隈さんの後輩?)がプラナリアの摂食行動について調べていましたし。親知らずが痛み、顎の進化を考えたりしてます。昔の人はどうしていたのだろう。。。
Commented at 2006-11-07 10:52
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2006-11-07 10:53
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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