シンガポールのグローバル化

シンガポール3日目、夕方に知り合いのラボを訪問しようと思ったらスコールが降ってきて、街にクリスマスの電飾が溢れていても、やっぱりトロピカルなのだと実感。

その研究室はWaseda-Olympus Bioscience Instituteといって、オリンパスが早稲田大学のシンガポール進出にお金を出して作ったものの1つ。
神経科学関係で4つのラボがあり、知り合いのOさんはラボヘッドであり、副所長という立場。
この10年の間に開発されたBiopolisというエリアに位置し、その他に6つか7つの建物が林立し、企業やシンガポール大学の特殊なラボが集まっています。
全体のサポートとして、シンガポール政府からの援助によるA Star Allianceという組織が出来ており、基本的な技術サポートをしているそうです。
培養液の作製や器具の洗浄サービスだけでなく、高価で精密な機器がオペレーター付きで維持されていて、遺伝子発現解析から光学的形態解析、バイオインフォマティクスなどなど。
つまり、個々のラボでテクニシャンを雇用しなくてもよい訳ですね。
彼女のラボもスペースがゆったりした中で、シナプスにおける1分子の光学的解析から、簡単なマウスの行動解析までできる設計になっていて、今後の展開が楽しみなところです。

「あと2年もしたら、シンガポールに日本が進出することは難しいのではないかしら?」とはOさんの意見。
昔は頼んで来てもらっていたのが、最近では立場が逆転して、例えばJohns Hopkinsの医学部のブランチも撤退「させられた」のだそうです。
その後釜はDukeが狙っているとか……。
何十年も前に公用語を英語にし、大学院生の70-80%が外国人という状況は、ある意味、すでに非常にアメリカ的なのかもしれません。
しかも「新興」であるがために、てらいなく最先端の研究の「いいとこどり」をしようという勢いは、(良いか悪いかは別として)日本とはまったく違うセンスなのだと思います。

「効率」を重視することにおいては、日本にも共通する精神基盤があるように思うのですが、シンガポールではそこに徹底した「合理性」が働いているとも言えます。
日本の場合には(何度も繰り返して言っていますが)ひたすら「内需拡大」していて、無駄なところに労力や経済力が使われ、何も残らないような仕組みが出来上がってしまっていて、古い大学のようなところほど、その旧態然としたシステムの網にがんじがらめになっているのではないでしょうか。

10年ぶりに訪れたシンガポールですが、変わらなかったのは食べ物が美味しくて安いこと(アルコール飲料を除く)ですが、とても違う印象を受けました。
一言で言えば、「もの凄く勢いがある」ということです。
日本のグローバル化を図るのであれば、この土地を利用しない手はないと思いました。
例えば、基地を持つ沖縄に投資しなければならないのはわかるのですが、今からぼちぼちとそこに国際的大学院を作るよりは、文科省直轄の研究・教育拠点をシンガポールに作る方がはるかに手っ取り早いと思われます。
シンガポールだったらアジア諸国だけでなく、欧米からも「普通の感覚」で研究者や学生が来られる環境がすでに出来上がっているのですから。

* ****
今回のシンガポールはクリスマスシーズンで、目抜き通りが電飾だらけ。
さらに、デパートやホテルのロビーもそれぞれ趣向を凝らしたツリーなどの飾り付けで、とても活気がありました。
泊まっていたホテルの3日目の晩に入り口のツリーを飾り付けていたのですが、しばらくそのメイキングを観て楽しみました。
翌朝、携帯のデジカメで撮影したのですが、うっかり転送せずに、成田で返してしまって残念。

シンガポール〜成田間は7時間あまり。
Changi空港まではタクシーで18$(2000円)くらい。
もっと頻繁に来ても良いところだと思いました。
そういえば、オーストラリアもシンガポールも自動車が右ハンドル、左側通行でした。

*****
さて、すでに成田経由で名古屋に移動してインターネットにアクセスしているのですが、成田空港でのトラブル(?)の披露です。

今回の旅程では、成田空港からスルーで名古屋に移動するような手配になっていて、つまり、入国手続きは名古屋になるはずでした。
ところが、メルボルンの友人がくれたマグナムのワインや、夏物衣類のトランクを宅急便で送ってしまいたいと思い、さらに成田で借りた携帯も返さないといけないし、ということでシンガポールの空港で「トランクは成田止まりにして下さい」と言ってしまったのです。
機内アナウンスで「国際線扱いで名古屋乗り継ぎ」ということを知って、キャビンアテンダントの比較的年かさのお姉様に聞いてみると、「大丈夫だとは思いますが、ちょっとご面倒でございますね……」
結果的には、乗り継ぎ時間は2時間はあったので、トランクのピックアップも、宅急便も、携帯返却もすべてこなせたのですが、もう一度あの成田の「セキュリティー」を通り「出国」手続きをしなければならない、という面倒までは思い至りませんでした。
ちょうど米国西海岸便がたくさん出発する夕方の時間帯で、あまりの人の多さに辟易しました。
やれやれ……、旅行社のお勧めには素直に従うべきでしたね。
でも、国際線のゲートから出る名古屋便というのも不思議な経験でした。
by osumi1128 | 2006-12-06 22:06 | 科学技術政策

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