統合失調症と脂肪酸

昨日は宮城県第一女子高等学校(通称一女)での講演でした。
本当は本学の川内記念講堂を使用する予定だったのですが、ただ今百周年記念の改修工事のために使えず、全校生徒の総合学習の時間を体育館で、という設定になりました。
一女はこの5年間スーパーサイエンスハイスクール指定校だったために、理系の進学率が増えたそうです。
やはり効果があるということですね。
体育館は当然ながら講演のために造られた建物ではないので、どうしても声が反響します。
また、1000人の聴衆を相手に行う講演は、自分の声が向こうまで届いてから、次の言葉を喋るようにしないといけません。
それでも、数分喋ると何となく遠くの方からざわめきが多くなってきます。
ここでめげては駄目で(助手になりたての頃、90分の授業をこなすのがとても辛かったことを今でも思い出します。)、ときどき「これこれ、知っているひと、手を挙げて」などと質問を投げかけたりして注意を呼び覚まします。
ちゃんと手は挙げるので、要するに聴いてはいるのですよね。
お家でお喋りしながらテレビを見ている感覚に近いのでしょう。

ところで、一女の校長先生は片足に松葉杖の方でした。
どのような経緯でそうなったのかについては存じませんが、こういう校長先生の元で育つ女子高校生たちは、障害を持った方と共生することが普通という感覚になるのかもしれませんね。

*****
本日は、今週オンライン発表された共著論文のご紹介です。

理化学研究所の吉川武男先生のところで為されている統合失調症の原因遺伝子を探る一連の研究の中で、「神経新生の低下が発症の脆弱性に関わる」という仮説に関係する部分について、CRESTのプロジェクトとして共同研究させていただきました。
1000匹を超える2系統のマウスを用いた遺伝学的解析で、統合失調症の生物学的な指標の一つと考えられる「プレパルス抑制」にもっとも関係する遺伝子座を突き詰めていくと、脂肪酸結合タンパク質をコードする遺伝子Fabp7が浮かび上がったのですが、この脂肪酸結合タンパク質は神経新生に必須ということを見出しました。
精神疾患に遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合っていることの良いモデルと思われます。

詳しくは、こちらのプレス発表をご覧下さい。

元論文はこちらになります。
共同研究が開始してから3年、投稿してからも1年以上かかった超大作です。
筆頭著者の方の学位などが関係しないので、時間をかけても良い作品を作り上げることができました。

発表したPLoS Biologyというのはオンラインのみのジャーナルでまだ新しいのですが、Trends in Geneticsなどの編集者を引き抜いたりして良いオフィスやシステムを作っているようです。
中でも、サイエンス・ライターによるSynopsesというコーナーがあり、今回の論文も取り上げてもらいました。
著者自身が一般読者に向けたAuthor Summaryというのも、中身のSummaryとは別に書くのですが、Synopsesについては公益性を重視した雑誌作りとしてとても参考になります。
Commented by ポスドクW at 2007-11-16 12:45 x
[発表したPLoS Biologyというのはオンラインのみのジャーナルでまだ新しいのですが、ーーー]
このような雑誌への発表でもプレスリリースになるんですね。 

JSTって 異常 or 過激 or not?

業績主義、自己宣伝の弊害が強く叫ばれていますが、これらと無縁であることを祈念しています
Commented by saury at 2007-11-16 20:51 x

>このような雑誌への発表でもプレスリリース

ポスドクWさんが普段どんなジャーナルに論文発表されているかわかりませんが、PLoS Biologyって、けっこうレベル高いですよ。一昨年のIFで14くらいあったはず。

しかも、雑誌のレベルでプレス発表の有無がかわるわけじゃないでしょう。一般にわかりやすい研究を表に出して行けばいいわけで。逆に、Nature 姉妹誌に載ったからって、専門的すぎる成果をプレスリリースするようなトコのほうが権威主義的でダメだと思います。

Commented by Early-Bird at 2007-11-17 06:11 x
プレスリリースに関しての論議を興味深く拝聴致しました。
本質は「学術遂行者の社会に対する説明責任・社会還元」と「情報過多による学術への弊害・歪曲」にあるように思われます。 
論文捏造問題や研究費の不平等分配など多くの問題が生じているようですし、”真に価値ある研究”はしばしば社会や時代から見放され評価されていないことも歴史の示す通りです。
マスコミに取上げられるような研究は「説明責任・社会還元」に役立つとはいえ、内容が軽く浅かったり、問題が多い事も事実ではないでしょうか。 sauryさんのご意見は凡庸ですが、ポスドクさんの感想は鋭い警告を含んでいるように思います。
Commented by osumi1128 at 2007-11-17 08:48
ポスドクWさん、sauryさん、Early-Birdさん、コメントを有難うございます。が、論文の中身を読まれた上でのご意見でしょうか(20個ほどのSupplemental Materialsも含め)? あるいは少なくとも、日本語のプレス発表そのものは読んで頂けたでしょうか?
Commented by oxlife at 2007-11-18 10:32 x
ここ一週間ほどのうちの大学のサイエンスに関するプレスリリース
を拾ってみました。

New target for MS treatment found using old drug
http://www.ox.ac.uk/media/news_stories/2007/071112_2.html

Violent galaxies ‘spew out’ energetic cosmic rays
http://www.ox.ac.uk/media/news_stories/2007/071109_1.html

Obesity gene acts on DNA
http://www.ox.ac.uk/media/news_stories/2007/071109.html

ポスドクWさん
> このような雑誌への発表でもプレスリリースになるんですね。 
> JSTって 異常 or 過激 or not?

これらを見る限り、JSTのプレスリリースが特別おかしいとはおも
えないのですが…。

sauryさん
> しかも、雑誌のレベルでプレス発表の有無がかわるわけじゃない
> でしょう。一般にわかりやすい研究を表に出して行けばいいわけ
いや、やはり、発表した雑誌のレベルは重要な指標でしょう。

(続きます)
Commented by oxlife at 2007-11-18 10:34 x
> で。逆に、Nature 姉妹誌に載ったからって、専門的すぎる成果
> をプレスリリースするようなトコのほうが権威主義的でダメだと
> 思います。
白状すると、このPLoS Biologyの論文の内容は専門的すぎて、生物
学者の私でも咀嚼しきれていない。単に私に能力がないからなんで
すけどね。ただし、どんなに専門的であったとしても、税金によっ
てなされた研究の成果を一般向けに発表するのは、研究機関の義務
ではないかとも考えます。

Early-Birdさん
> 本質は「学術遂行者の社会に対する説明責任・社会還元」と「情
> 報過多による学術への弊害・歪曲」にあるように思われます。
前者の本質は良いとして、後者は十分に意味を汲み取ることができ
ませんでした。どういう意図なのか、もう少し詳しく書いていただ
けませんか?

> ようですし、”真に価値ある研究”はしばしば社会や時代から見
> 放され評価されていないことも歴史の示す通りです。
「真に価値ある研究」は時間、即ち歴史が証明することで、研究が
遂行された時代や社会からは評価できない可能性が大きいとおもい
ます。天動説とかメンデリズムとか。

(続きます)
Commented by oxlife at 2007-11-18 10:37 x
科学が日常生活に直結している現代において、その研究がサイエン
スとテクノロジーにどのように寄与するのか検証する努力を放棄し
ろとは言いませんよ。

> マスコミに取上げられるような研究は「説明責任・社会還元」に
> 役立つとはいえ、内容が軽く浅かったり、問題が多い事も事実で
これについては同意します。リソース(執筆者や紙面)が限られて
いる以上、内容が軽く浅くなるのは不可避かな。ただ、内容が著し
く偏向されていないがきり、伝えること自体に問題はないでしょ
う。Early-Birdさんは、どのような問題があるとお考えですか?

私は在住地の関係で日本のTVや新聞紙面に関してはよく分かりませ
ん。情報収集はインターネットに頼っています。主に閲覧している
サイトはBBCのニュースサイトなのですが、サイエンスやテクノロ
ジーに関する記事は非常に豊富です。この数ヶ月、BBC、
Guardian、Times、International Herald Tribune、Reutersと日本

(続きます)
Commented by oxlife at 2007-11-18 10:39 x
の代表的全国紙(日経、朝日、読売、毎日、産経)の各サイトの科
学欄を巡回していて気がつくことは、日本のメディアの科学へ対す
る関心の低さと、日本発の研究成果への偏重です。もちろん、英国
の3メディアにもその傾向はありますが、日本が関与したブレーク
スルーをBBCのサイトで最初に知ることは度々です。例えば、こ
れ。

Dolly scientist abandons cloning
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7099758.stm

あるいは、以下はアイスランドのバイオテクノロジー企業に関する
記事ですが、技術的には日本からも応募できるので、是非について
日本でも議論を喚起する記事があっても良さそうです。

Firm offers online DNA analysis
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7098998.stm

長々と書いてしまいましたが、結局、何が言いたいのかというと、
少なくとも日本の有名メディアがサイエンスやテクノロジーにリ
ソースを割かない現状では、研究機関が公表する努力をするしかな
い、ということです。ただし、一般の人々が各研究機関のサイトを

(続きます)
Commented by oxlife at 2007-11-18 10:40 x
巡回するのは無理でもあります。研究機関のプレスリリースや世界
のメディアが発表した科学関係の記事へのリンクを集積したハブの
ようなサイトを、ウィキのような形で立ち上げるとか、そういう努
力を研究する側が考える時期なのかも知れません。もしかして、そ
のような日本語サイトは既にある?英語が苦にならない人なら、
BBCを利用するのも手。

大隅さん
> ございます。が、論文の中身を読まれた上でのご意見でしょうか
> (20個ほどのSupplemental Materialsも含め)? あるいは少な
PDFをダウンロードして斜め読みしました。Supplemental
Materialsまでは手が回っていません。私に対するご質問ではない
のですが、参考までに。

> くとも、日本語のプレス発表そのものは読んで頂けたでしょう
> か?
これは、PLoS BiologyのSynopsesの日本語訳に手を加えたものなの
でしょうか。いえ、本文の構成や言い回しが似ていたもので…。で
も、ここまで詳細に書く必要があるかどうかは別問題として、この
プレスリリースはとても丁寧に書かれた力作だとおもいます。

長文失礼いたしました。
Commented by osumi1128 at 2007-11-20 00:44
oxlifeさん、詳しいコメントを有り難うございました。
Synopsesの方とプレス発表はまったく独立ですが、どちらも我々が確認して手を入れたものではあります。プレス発表の原稿が長文なのは、元論文が非常にdenseであるために生じたことであり、Synopsesではそこまで反映されてはいないと(私は)思いますが。いずれ「業績評価」などのタイトルで別エントリーを立てたいと思います。いろいろご指摘ご教示いただきましたこと、心から感謝いたします。
by osumi1128 | 2007-11-16 10:21 | サイエンス | Comments(10)

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


by osumi1128
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