日本発生生物学会年会@徳島

すでに5号館のつぶやきさんのところからもこちらのような記事が掲載されていますが、今年の日本発生生物学会は国際発生生物学会と合同ということもあり、基調講演、シンポジウム、ワークショップの発表や質疑応答が英語になりました。
ポスターも書かれているのは英語です(発表については、相手次第)。
私としては何の違和感もないことではあったのですが、一部には「参加者が少なくなるのでは?」というような危惧の声も聞かれました。
蓋を開けてみれば、約700名という、例年を上回る参加者とのことです。

実際、シンポジウムやワークショップで、若い方達が積極的に英語で質問している光景をよく見ました。
(うちの学生さんも、頑張っていました!!!)
少なくとも、若手が元気なこの学会では、英語化問題はオトナが心配するほどではなかった、というのが私の印象です。
よく考えますと、昨今はCOEやらなんやらで、英語で行うシンポジウムなどが、かつてよりずっと増えていて、若い方達は最初からそれに慣れているのですね。

昨日は、朝9時からのシンポジウムで「神経発生」をテーマにしたセッションをオーガナイズしました。
Invited speakersにはゆっくりと話していただきたかったので、人数を少なめに設定しましたが、200名ほどの会場に人の出入りがありましたが、だいたい100名〜150名くらいが常時聴いていたという印象でした。

午後のワークショップはパラレルセッションでしたので、あちこち行きましたが、熱気の感じられる発表・議論でした。
そういえば、古巣に戻ってきたような、とても懐かしい感じがしたのは、昨年はグローバルCOEの申請等でバタバタとしていて、発生生物学会にまともに参加できなかったからですね。

今日はメイン会場でPlenary Lecturesが続く、というスケジュールだったのですが、Andrew Parker博士の講演を聴くことができたのが一番の収穫でした。
以前、翻訳者のお一人の渡辺政隆さんから『眼の誕生ーーカンブリア紀大進化の謎を解く』をご恵贈頂いて読ませて頂いたのですが、その本の作者だったのですね。
化石の事実から、カンブリア期に不思議な形の生き物が多数出現したことが分かっていますが、この「カンブリア大爆発」の原因が「眼」という器官が生じ、捕食者・被捕食者の間でさらなる進化や淘汰が為された、という興味深い仮説を展開しておられます。
眼の発生にとっての大事な役者である「Pax6」は、実は、ウニなど、眼のない生き物でも存在して、触角のような感覚器の構造で使われているのですが、それがどのような経緯で「眼」を作ったり「神経系」を作ったりするのに使われるようになったのかは、Pax6の機能についての研究をしている人間からも興味深いところです。
この方の英語は典型的なOxbridge Englishで、慣れていれば聞きやすいものでした。

*****
発生生物学の中心的な命題のいくつかが解かれ、誘導や濃度勾配などの重要な分子メカニズムが明らかになってきた現在、その潮流は3つに分かれて進んでいると思います。
一つは「進化」をどのようにして説明するか、あるいは可能であれば証明するか、という流れで、より具体的にはcisエレメントの解析などについての解析が進んでいます。
もう一つは「細胞生物学的アプローチ」だと思います。
こちらは各種のイメージング技術の開発とあいまって、生体内の状態に近い状態で細胞の振る舞いを可視化できるようになって、とても面白い展開になっていると思われます。
3つ目は「再生医学」への応用を見据えた方向でしょう。
幹細胞生物学や、再生力の強いモデル動物を用いた研究などが相当します。

いずれにせよ、発生生物学は、日本の強い分野で研究人口もそれなりに多い分野だと思います。
『学術の動向』5月号にも書きましたが、iPS細胞研究を生みだす流れの中には、日本の発生生物学の基礎研究があったことは大いに認識しておくべきことです。
トップの卓越したアチーブメントが広い裾野の人材や業績に支えられていることは、芸術にせよ、スポーツにせよ、同じ構造でしょう。
by osumi1128 | 2008-05-29 18:39 | サイエンス | Comments(0)

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