Productive stupidity

昨日はやたら風の強い日でした。
そのせいかどうかわかりませんが、ラボには人影がまばら。
こちらは常に追われている原稿締切等を片付ける(もとい、少しでも前進する)ためにオフィスでキーボードに向かいます。
自宅でもかなりの仕事はできるのですが、PubMed検索した後、ジャーナルにアクセスできないという点が、まだ完璧な在宅勤務環境になっていません。
ま、かかえている仕事はいろいろなので、自宅と研究室と、あるいはスタバだったりどこかのカフェだったり、と場所を変えるのも良い気分転換。
これは昔からの行動パターンで、大学受験の前はマクドナルドでコーヒーとポテト小だけ頼んで2時間くらい過ごしたりしたものでした。
悪い客です(笑)。
でも、同様の注文で4人集まって数時間、コントラクトブリッジしていたこともありますので、こっちはさらに悪い客です(汗)。

先日、業界の友人がJournal of Cell Scienceという雑誌に載ったエッセイのPDFを送ってくれました。
Schwartz M: J Cell Sci, 121: 1771 (2008)
タイトルはこうなっています。
The importance of stupidity in scientific research

筆者はヴァージニア大学の微生物学の研究室に所属している方ですが、最初のパラグラフで、大学院時代の友人が途中退学してハーバードのロースクールに行ったというエピソードが語られます。
現在彼女は環境関係の大手企業の上級弁護士になっているのですが、学業優秀な彼女が何故、大学院を辞めたのか、というと……
…she said it was because it made her feel stupid. After a couple of years of feeling stupid every day, she was ready to do something else.

筆者はびっくりし、しばらく考えた挙げ句、自分も実はそう思っていることに気付きます。
ただ、とてもそれに馴れてしまっていたのだと。

このあとの説明はなかなか面白いので、是非、原文をお読み頂きたいのですが、筆者は「大学院で研究を行うということは、高校や大学までの学業で良い成績を修めるのとは根本的に違う」と指摘します。

What makes it difficult is that research is immersion in the unknown. We just don’t know what we’re doing. We can’t be sure whether we’re asking the right question or doing the right experiment until we get the answer or the result.

「誰も知らないことを追い求める」というのは生易しいことではなく、ある意味「stupid」にならなければできないだろうと筆者は続けます。
Productive stupidity means being ignorant by choice. Focusing on important questions puts us in the awkward position of being ignorant. One of the beautiful things about science is that it allows us to bumble along, getting it wrong time after time, and feel perfectly fine as long as we learn something each time.

締めくくりとして、サイエンスの世界において大学院教育ですべきことは、他人の発見を学ぶことから、自分自身の発見を探す段階にうまく移行させることであろうと述べています。

*****
抱えている原稿の一つがとある本の翻訳なのですが、タイトルは「Why aren't more women in science?」となっていて、「なぜ科学技術分野に女性が少ないか?」ということについての、さまざまな研究者の考察です。
で、今、翻訳のチェックをしている章では、高校時代の志向性がその後のキャリア形成に影響するということが話の中心なのですが、その中に「成功と働く時間は比例する」という分析がありました。
あまりにも当たり前なのですが、33歳の科学技術分野で能力の高い米国の男女に「仕事に捧げても構わないと思う時間」を質問すると、男性の方がより多くの時間(例えば週50-59時間)の回答をし、そこにピークがくるのです。
これは乱暴に扱うべきことではないと私は思うのですが、つまり、多くの女性が仕事だけに時間を割いてはいられない、と思っていることが、どちらかというと長時間労働になりがちな科学技術分野を避けることにつながっているだろうと、この章の筆者らは分析しています。
上記のエッセイの話も合わせると、女性の方がある意味「賢い(not stupid)」とも言えますが(笑)。

たぶん大事なことは、男性でも働きたくない、働かない人もたくさんいますし、女性でも仕事に没頭したいという志向性の人はいるでしょうから、「男性だからそろそろ昇進させよう」や「女性だからこのポストは無理」ということではなく、個人個人の能力や意欲に適したキャリアパスが開かれていくことなのだと思います。
by osumi1128 | 2008-11-09 11:26 | サイエンス | Comments(0)

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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