ストリートミュージシャンと研究者

結局のところ、バンコク行きがキャンセルになって神様から頂いたはずの時間に、メインの原稿を上げることができませんでした……。
次から次へと、あまりcreativeではない書類書きがあり、いったいバンコクに行っていたらどうなっていたのだろう?と思えます。
唯一、「何が何でも、何かは書く!」と決めて、共著で書いている翻訳本の1章分のチェックを仕上げて出版社に送りましたが。

*****
日付は戻る話ですが、金曜日に東北大学サイエンスカフェの一貫として「第41回スペシャル版 うまくやってる?人とまちと科学技術と」というイベントが開催され、対談そのものは聴くことができなかったのですが、終了後の懇親会に途中から参加させてもらいました。
講師のお一人の平川秀幸さん(阪大)は科学コミュニケーション関係の行事ですでに存じ上げていましたが、もう一人の五十嵐太郎さん(東北大・建築)とお話ししてみたかったので。
居酒屋での会話で、五十嵐さんと平川さんがハードロック関係の話題で大盛り上がりになり、さらにそこに二十歳前の学生さんが「パープル、知ってます! ツェッペリン、いいですよね!!」と加わってきて、「キミ、それ何で知ってるの? リアルタイムじゃないでしょ?」「母が好きで、その影響です」「お母さんっていくつ?」「44歳です」
……という話を訊いて、はー、そうですか……orz
となりました(笑)。

皆さん、さらに二次会などに行かれた模様ですが、私は参加せず歩いて帰りました。
途中、一番町のアーケード街を通ったのですが、ギターを弾きながら歌っている青年がいました。
この場所は、人通りもそれなりにあり、雨に濡れないこともあってか、こういうストリートミュージシャンやら、ミュージシャンに憧れている予備軍やらの若者が、それなりに上手だったり、ちょっと人に聴かせるレベルか?というものまで、いろいろ見られるところです。
そのときの青年の歌は、まぁ、耳を覆いたくなるほどではないけど、もの凄く上手いという訳でもない、くらいのものだったので、立ち止まって鑑賞はしませんでした。
その後さらに歩きながら、あぁ、でもあの青年はきっと、歌うことが何より好きなのだろうな、歌いたくなる衝動に突き動かされているのだろうな、歌うことこそが生きている証だと思えるのかもしれないな……などと考えました。

サイエンスに身を投じる人間も似たようなメンタリティーを持っているのだと思います。
「自然の中の真理を知りたい」だったり「病気を理解したい」、人によって個別の思いはそれぞれ違うと思いますが、誰かに「しなさい」と言われるからするのでも、お金を稼ぐためにするのでもない(もちろん、サイエンスを仕事としてお金ももらえたら、なお幸せなことですが)、そういう志向性があるのですね。
だからこそ、毎日12時間研究室にいるのも平気だし、週末に研究室に来ることもデフォルトだし、研究室にいなくてもサイエンスのことを考えているし……それは、ワーク&ライフバランスという観点から見たら、ワークの方に偏っているのでしょうが、そもそもワークとライフを切り分けられないところもあり、仕方ないという気もします。

アカデミアに所属する研究者の問題は、ストリートミュージシャンとは違って、ただ「好きだから」ではすまないことですね。
その研究を行うための資金がほとんど国からの研究費なので、その額が大きければ大きいほど、投資に見合う成果を求められます。
ただ、才能や発見はどこにあるのかわからないものですから、それなりの投資はやむを得ないところがあります。
この辺がとってもムズカシイ。
下村さんは「綺麗だから」オワンクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を抽出精製したのだけど、ご本人にはその「利用の仕方」は分からなかった、でも、後の研究者が「これは使える!」と思って、今や、生命科学系の研究室でありふれたツールとなっているのですね。

音楽の世界は、アマチュアからプロまで、一般に鑑賞する市民から評論家まで、あるいは、アマチュアからプロになれそうな人材を発掘する人、レコード会社(今は何と言うのでしょう?)、コンサートなどのイベントをアレンジする人、などなど、いろいろな人たちが関わって成り立っています。
美術だったり、建築だったり、あるいはスポーツの世界も似ているかもしれません。
サイエンスの世界も、もっとそんな風になったらいいな、と願っており、そのために自分でできることを少しずつ進めているつもりです。
by osumi1128 | 2008-12-07 11:34 | 雑感

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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