アラキドン酸のこと

世の中のボスにはひっきりなしに電話して、情報収集や根回しをされる方も多いですが、私は電話が苦手なタイプです。
会ってお話しするのは良いのですが……。

ですので、受ける電話も、そう多くはないのですが、今朝(って水曜日のことですが)メールの処理をしていたら最初にかかってきた電話は知らない方からでした。
ご家族に精神疾患の方があり、今回の報道を知って、「実験台にして下さい」と。
「申し訳ありません。臨床は行っておりませんし、個別のお問い合わせにはお答えできないのです。また、私たちは臨床につなげるための動物実験などの基礎研究を行っていて、臨床研究については、別の研究者がされることになると思います。云々」とお答えしました。
「何年かかったら臨床研究に進むのですか?」という電話の向こうの声の切実さに胸が痛みました。
最後には「是非、研究頑張ってください。応援しています」と仰って電話を切られました。

秘書さんや広報室の方で御対応頂いていることも多いのですが、新聞数紙に出たり、ネットでニュースクリップされているために、依然としてこういうお問い合わせ等が来ます。
きっと、山中さんのところなんて、日々たいへんなのではと推測します。

一番クリップされているのが下記の毎日新聞2009年4月8日付けの記事です。
<以下引用>
アラキドン酸:心の病に予防効果?…卵・海藻含有の栄養素

 卵や海藻に多く含まれる栄養素「アラキドン酸」が脳の神経細胞の生成を促すことを、東北大などが動物実験で突き止めた。神経細胞の生成の減少は精神疾患に関係しているとの説があり、食品が精神疾患の予防や治療に役立つ可能性を示した成果という。7日付の米科学誌プロス・ワンに発表した。

 アラキドン酸は脳の発生に重要な役割を担う脂肪酸の一種。全脂肪酸中に4%のアラキドン酸を含む餌を与えた母ラットの母乳を、生後直後の子ラットに飲ませると、神経細胞の生成数は、アラキドン酸なしの場合に比べ30%増えた。生まれつき神経生成が少ないラットに同じ餌を与えると、それまで見られた不要な音に反応しやすい状態が改善した。この状態は統合失調症患者らに見られる。

 アラキドン酸は体内で合成できない。大隅典子・東北大教授(神経発生学)は「脳の発生期に適切な栄養を取ることで、心の病を予防できる可能性がある」と話す。【西川拓】


こちらを読み直していまして、ちょっとだけ補足したいと思います。

アラキドン酸はリノール酸から酵素によって代謝(=変換)されることによりできますが、例えば遺伝子を元にしてタンパク質が合成される、という風には「合成」されません。
また、ヒトは比較的この代謝機能が十分ではなく、とくに新生児や老人では落ちていることが報告されています。
したがって、食物等から取り入れるべき必須脂肪酸として位置づけられています。

ちなみに、2007年7月、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)により設置された国際的な政府間機関であるコーデックス委員会の総会で、ベビーミルクの規格において、DHAを配合する場合同量以上のアラキドン酸の配合を推奨することが合意されたということがあります。
脳は乾燥重量の60%が脂質であり、その中の15%がDHAで10%がアラキドン酸であること、世界一健康だと思われている日本人の母乳のDHAとアラキドン酸の割合から、粉ミルクでも約1:1になるように、との規格に決まったと聞いています。
各国別に見ると、母乳中のDHAの量は(おそらく食生活の違いにより)大きな違いがあるのですが、アラキドン酸はほとんど一定であるということも、重要性を示唆する気がします。

食品でアラキドン酸の含有量が多いものは、100gあたりですと卵、豚レバー、わかめ、というような順番です。
(魚にも含まれますが、魚はDHAの含有量も多いということです。)
だからといって、もちろん単一の食品ばかり食べることはお勧めしません。
みのもんたさんが、毎日違うものを「お嬢さん、これです!」と勧めて下さることで、多様性が生まれている訳ですね(笑)。

誰かが「アラキドン酸って、何かの恐竜みたいな名前ですね」って言ってたけど、なるほど、確かに、そんな響きもありますね(^_^;)
by osumi1128 | 2009-04-16 01:42 | サイエンス | Comments(0)

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