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週刊ダイヤモンド連載コラム第115回:ヒトの臓器を動物で作る 射程に入ったキメラの実現

今週発売している4月29日号の週刊ダイヤモンドに拙連載コラム第115回が掲載されています♬ 
「iPS細胞Xゲノム編集でどこまでできるか?」という時代に突入したことをヒシヒシと感じる今日このごろです……。

大人のための最先端理科【生命科学】
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by osumi1128 | 2017-04-25 23:37 | サイエンス | Comments(0)

2017年日本国際賞生命科学分野受賞者の言葉:基礎研究をする喜び

一つ前のエントリーの続きです。

2017年の日本国際賞生命科学分野の受賞者二人の生い立ちや共同研究に至る経緯などを説明した動画が国際科学技術財団のHPより視聴できます

最後の部分で、若い方々へのメッセージが載っていますので、こちらにもクリップしておきます。
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ダウドナ博士の最後の部分、英語では下記のようになっています。

The joy of making discoveries through collaborations is another great aspect of science.
Science is fun!

この気持を持ち続けたいと思います。



by osumi1128 | 2017-04-25 23:23 | サイエンス | Comments(0)

2017年日本国際賞生命科学分野の授賞はゲノム編集研究者に!:生命倫理についての早急な議論と合意が必要

4月19日に2017年の日本国際賞の授賞式が行われました。今年は客席からの参加でしたが、自分が分野検討委員会の最後の年に定義文(後述)作成から関わったという意味でも、また、ゲノム編集という画期的な技術に対する授賞としても、その対象が女性研究者2名だったという点においても、感慨深いものがありました。

今年33回目となる日本国際賞は、現天皇がまだ皇太子殿下であった時代に設立され、数年前までは陛下ご自身がご祝辞を述べられました。日本国際賞の30年の歩みをまとめた動画では、お若い頃の天皇陛下や、これまでの多数の受賞者のお顔など、懐かしく思いました。


今週は授賞式関連の種々の行事がありましたが、翌日の20日に、東大伊藤記念ホールにて市民向けの公開シンポジウムが行われ、エレクトロニクス・情報・通信分野含めて3人の受賞者の講演を聴いて来ました。
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エレクトロニクス・情報・通信分野の受賞者であるアディ・シャミア博士は現在ワイズマン研究所の教授で、暗号研究・情報セキュリティの研究で著名な方ですが、幼いころに同研究所のサマーキャンプのイベントに参加したことで科学への興味を抱いたと仰っておられました。

エマニュエル・シャルパンティエ博士はパリ第6大学を経てパスツール研究所で学位を取得、ウィーン大学、ウメア大学などを経て、現在はベルリンにあるマックス・プランク感染生物学研究所の所長です。もともとは細菌がウイルス等の感染に対してどのように立ち向かうのかを研究しておられました。

方やジェニファー・ダウドナ博士は、ポモナ大学で学士を、ハーバード大学で博士号を取得し、コロラド大学のポスドクを経てイエール大学で独立し、現在はカリフォルニア大学バークレー校の教授であり、ハワード・ヒューズ研究員ですが、リボザイムという、RNA酵素を研究して来られました。

二人の研究者が出会ったのは2011年3月のプエルトリコで開催された微生物関係の学会。それぞれ専門の異なる二人の研究者が意気投合して共同研究を開始することになり、細菌の適応免疫にCRISPRの配列が関わるということを見いだしたのです。実は、この配列は1987年にすでに当時阪大におられた石野良純先生が見出されたものだったのですが、その意義はわからなかったというものでした。

「ここから研究は思いもよらぬ方向に発展していきました」とダウドナ博士は話されました。それは、純粋な興味として始まったCRISPR研究が、思いのままにゲノムに変異を入れたり、新たな遺伝子を挿入したりする「ゲノム編集」という技術に応用できるということが分かったからです。

これまでも、いわゆる遺伝子工学、バイオテクノロジーという言葉で人為的な遺伝子の「切った貼った」は行われていましたし、組換えDNA作物の作出や、ES細胞と組み合わせて遺伝子ノックアウトマウスを作製するという使われ方もありました。ところが、彼らが開発したCRISPR/Cas9によるゲノム編集は、より正確に、より高率良く、より素早く遺伝子改変を行うことが可能です。誰でも簡単に行うことができるため、瞬く間に生命科学研究者の間に広まりました。

つまり、石野博士の繰り返し配列の発見から四半世紀を経て、その生物学的意義が理解され、生命科学の技術として応用されるようになった訳です。最初から応用だけを考えていても、画期的な技術は生まれないでしょう。

まだアラフィフの二名の女性研究者はどちらも颯爽としていて、ロールモデルとして本当に素晴らしいと思いました。講演の後では、高校生や大学生の女子も食いついて質問していました。頑張れ、未来の研究者さん!
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ところで、ダウドナ博士はすでにTEDでもトークを行っていますが、ゲノム編集技術の生命倫理的な側面について、社会での深い議論が必要だと主張されています。つまり、人類はゲノム編集を生殖細胞に用いてデザイナーベビーを作れるところまで来ているのです。この点に関して、日本の動向が気になるところです。直近の新聞報道では、国側と研究者の集団である学会側との間での意見がまとまらなかったということでした。


おそらく、この倫理的問題が一定の解決を見ないと、ゲノム編集にノーベル賞が授与されることにはならないと私は予測しています。これまでノーベル委員会は生命倫理が関係する成果については慎重な態度で臨んで来ました。例えば、ジョン・ガードン博士の確立した「クローン技術」は、それ単独ではなく、山中伸弥先生の「iPS細胞」と抱き合わせで「初期化(リプログラミング)」としての授賞となりましたし、さらに遡れば、初期胚から作られるES細胞も、相同組換えとセットで病態モデルとしての「ノックアウト動物の作製」という内容で認められました。人工受精でさえ、最初の例であるルイーズちゃんの誕生から四半世紀以上の時間が必要でした。

遺伝子工学が可能となったとき、アシロマ会議が開催され、組換えDNAによって作られた生物の「封じ込め」が合意され、さらにカタルヘナ議定書が取り交わされたように、ゲノム編集についてもきちんとした議論と合意形成が必要と思います。

関連情報:
連休中ですが、4月30日に日本学術会議主催による公開シンポジウムが開催される予定です。

関連拙ブログ:

*****
ちなみに、2015年の秋に作成した定義文はこちらです。

2017年「生命科学」定義文
「生命、農学、医学」領域
授賞対象分野:「生命科学」
(背景、選択理由)
生命科学の分野は近年、いっそうの広がりと深化を見せ、生命の成り立ちについての理解が飛躍的に進みつつあります。
例えば、次世代シークエンサーを用いたゲノムおよびエピゲノム解析、質量分析器を用いた各種オミックス解析、超解像度顕微鏡や三次元電子顕微鏡などを用いた分子形態学的解析、種々のゲノム編集技術を用いた細胞・個体レベルの解析などが現在、目覚ましい勢いで進展しつつあり、こうした革新的な解析技術により、これまでの概念を大きく変えるような発見が次々と為されています。生命倫理や個人情報の取り扱いに配慮しつつ、このような生命現象の理解を進めることは、人類の叡智に寄与するものであるとともに、未来の新しい医療の創造や普及につながることが期待されます。
(対象とする業績)
2017年の日本国際賞は「生命科学」の分野において、科学技術の飛躍的発展をもたらし、新たな生命現象の発見や、生命機能の理解を可能にする解析・分析技術の革新など、社会に大きく貢献する業績を対象とします。

たった400文字程度(英語バージョンは160 words程度)の文章に、多数の先生方が知恵をしぼり時間をかけて練り上げるというプロセスも、この賞の重みに関わるということを身をもって体験させて頂きました。改めて、財団関係の皆様には心から感謝申し上げます。

おまけ:
2016年の授賞式の動画では、分野検討委員として壇上にいたのですが、両陛下の後ろに映りこむことができて光栄でした♬



by osumi1128 | 2017-04-22 11:03 | サイエンス | Comments(0)

大人のための最先端理科第110回:精子の老化は自閉症に関連? 父の高齢化と次世代への影響

今週発売された週刊ダイヤモンドに連載コラムが掲載されています。今回は現在、我々の研究室の中心テーマとして位置付けている研究に絡んだお話です。

書店で、あるいはオンラインでお読み頂ければ嬉しい限りです。
週刊ダイヤモンド「大人のための最先端理科」第110回「生命科学」:
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by osumi1128 | 2017-03-20 22:38 | サイエンス | Comments(0)

グンナー・エクイスト先生の講演:How to make scientific research more transformative

2月27〜3月2日に第9回HOPEミーティングが東京国際フォーラムにて開催され、5名のノーベル賞受賞者とウメオ大学名誉教授であるGunnar Öqvist(グンナー・エクイスト)先生の講演とともに、世界22カ国からの約100名の学生および若手研究者のポスター発表、グループディスカッションが為されました。その前日には「ノーベル・プライズ・ダイアログ2017」も行われ、充実した1週間になったことと思います。(大学入試と重なって、ダイアログの方に出席できなかったのは個人的には残念でした。人工知能のテーマで盛り上がったと聞いています。)どちらも主催は日本学術振興会現在の理事長は元慶應義塾大学塾長の安西祐一郎先生)。

個人的には、2015年の東北大学知のフォーラム脳科学国際シンポジウムにもお招きしたEdvard Moser先生のご講演で、グリッド細胞発見のその後の最新の研究成果を伺うことができ、現役の研究者としてさらに研究に邁進する様子が見られたのがもっとも刺激になりました。

また元スウェーデン王立科学アカデミー事務総長を務められたグンナー・エクイスト先生のお話は初めてだったのですが(今、探しましたら、ちょうど昨年、本学にもご訪問されておられました)、ノーベル賞の委員会はどんな研究を受賞対象として求めているのかについての内容が興味深かったので、拙ブログに載せて皆さんとシェアしたいと思います。(ご発表に使われたPPTファイルを許可を得て入手させて頂きました。画像はウメオ大学のHPから拝借)
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How to make scientific research more transformative

エクイスト先生によれば、研究には2種あるといいます。
Dual nature of research:
●Incremental research: research formulated within the conceptual frame of long-standing hypotheses and theories.
●Transformative research: challenges long-standing hypotheses and theories.
例えばノーベル委員会のような組織では、この2つのうち「transformative research」を求めています。いわば「世界を変える研究」です。
Drivers for excellence in research:
●A Nobel Laureate has on average had 7.4 other Nobel Laureates as colleagues during a career
●On average a Nobel Laureate has worked in 4.6 environments (universities or institutes) before receiving the Nobel Prize
The environment seems to be contagious
このデータは面白いですね。研究において「エクセレント」であるには何が必要か、ということについて、ノーベル賞受賞者のデータを振り返ると、平均7.4名のノーベル賞受賞者と同僚や共同研究者であり、受賞までに4、5箇所の異なる大学・研究所で仕事をした、ということから、良い刺激のある「研究環境」を渡り歩くことが大きな影響を与えると導いています。「contagious」という英語は元の意味は「感染性のある」ということですので、周囲の環境からの「良い影響」が伝染る、ということですね。確かに、ケンブリッジ大学、ロックフェラー大学、マサチューセッツ工科大学、ベル研究所などでは、これまでに多数のノーベル賞受賞者が輩出されています。

(もっとも、7、8名のノーベル賞受賞者と同僚にならないと、あるいはいくつもの研究室を体験した後ではないとノーベル賞に繋がらないということではなく、例えば東北大学工学部卒の田中耕一先生は、なんと学部時代の発見が2002年のノーベル化学賞受賞対象(質量分析法)となっています。田中先生は2015年に御一緒したノーベル・プライズ・ダイアログで、日本独自のユニークさを追求することも大事なのではないか、というご発言をされていました。大事な視点だと思います。詳しくは拙ブログ参照。)

また、そのような研究環境を作るのに何が求められているかについては、以下を引用されていました。
The EU Aarhus Declaration 2012:
(www.excellence2012.dk)
●Recognising and nurturing talents
●Trust and freedom
●Long-term perspectives
●Creative and dynamic research environments
●Beyond and across disciplines
同様の提言はスゥエーデン王立アカデミーからも為されています。その中で挙げられていたのは以下。
The Academy report highlights:
●better support of individuals with new ideas
●better career opportunities for young scientists
●more focus on international recruitment
●the role of the academic leadership
●money was not the issue
最後の部分、「お金の問題ではない」といいう点は、再度認識した方が良いかもしれませんね。実際には若い研究者にキャリアの機会を与えるには、国としてのお金はかかるのですが、高い給与が必要なのではなくて、エクセレントな研究を行うことができる国際的な環境を整える、そのためにアカデミアがリーダーシップを発揮するということなのでしょう。ここしばらくの間、選択と集中が続きましたが、もう少し裾野を広げる施策に切り替えた方がサステナブルに人材育成できるのではないかと考えます。
Organizational concepts facilitating the making of major discoveries:
●Scientific diversity
●Communication and integration
●Leadership capacity
●Adaptiveness
●Organizational flexibility
そのような組織に何が必要なのかをまとめると、サイエンスの多様性、コミュニケーションと連携、リーダーシップ、寛容性、組織の柔軟性が大事とのことです。
Organizational concepts hampering the making of major discoveries:
●Differentiation
●Hierarchical authority
●Bureaucratic coordination
●Hyper diversity
逆に、重要な発見が生み出されるような組織構築を阻害するものとして、差別化、階層的権威主義、事務系の調整力(事務仕事が過剰になる、というようなことでしょうか)、多様性が大きすぎること挙げられていました(ちょっと和訳が難しいですね……)。最後のメッセージとして……
Take home message:
People with novel ideas, exchange of knowledge and ideas in an environment with complementary skills, are key elements for shaping creative environments that are brave enough to address important, ground breaking questions also having a fair chance to make transformative discoveries, innovations and improvements that may merit for a Nobel Prize. People with novel ideas are the strongest drivers for excellence in research.
ちょうど、日本でこのような組織を目指して作られたのが「世界トップレベル研究拠点」(World Premier Institute, WPI)だと思います。
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第一期の拠点形成から10年経ち、新たな拠点の公募が始まるようです。







by osumi1128 | 2017-03-05 21:19 | サイエンス | Comments(1)

大人のための最先端理科第105回に岡田節人のことを書きました

5週に1回担当している週刊ダイヤモンドのコラム「大人のための最先端理科 生命科学」に、1月17日に亡くなられた岡田節人先生のことを記しました。改めてご冥福をお祈りいたします。
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デジタル版はこちら

by osumi1128 | 2017-02-12 23:07 | サイエンス | Comments(0)

大人のための最先端理科第100回:ヒトへの応用も始まったゲノム編集の未来と倫理

ただいま発売中の週刊ダイヤモンド「大人のための最先端理科」の連載第100回を担当しました。「ゲノム編集」シリーズの最終となる第3回目で、うちの元大学院生の関係した論文のことも、少しだけ触れています♬ ご笑覧あれ!
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週刊ダイヤモンドのオンライン版でも読めます♬
大人のための最先端理科第100回:ヒトへの応用も始まったゲノム編集の未来と倫理



by osumi1128 | 2017-01-12 08:24 | サイエンス | Comments(0)

大人のための最先端理科第95回:源流は日本人研究者にあり! 4年で普及したゲノム編集

5週に1回担当させて頂いている週刊ダイヤモンドの連載コラム、本日より発売されている12月3日号に、ゲノム編集シリーズ第二弾を執筆しました♬

この記事の最後に記しましたが、ゲノム編集の最先端と、その生命倫理的な課題について、12月2日(金)に日本分子生物学会市民公開講座において専門家の間で議論します。一般公開されていますので、どなたでも参加可能です。

週刊ダイヤモンド記事で取り上げた、CRISPRの発見者、石野先生にもご登壇頂きます♬


開催日時

12月2日(金)18:15~20:15

会場

第18会場(パシフィコ横浜 会議センター 5階 「503」)

パネル討論者

石井 哲也(北海道大学 安全衛生本部 教授)
生命倫理研究者。遺伝子組換え 作物、幹細胞研究、生殖補助医療、遺伝子治療などに関心がある。

石野 良純(九州大学農学研究院 教授)
分子生物学者。1986年に大腸菌よりCRISPRを発見。

斎藤 通紀(京都大学大学院医学研究科 教授)
幹細胞から生殖細胞を分化させることに成功。

武藤 香織(東京大学医科学研究所 教授)
生命倫理研究者。とくに生殖補助医療や遺伝性疾患に関して、患者や被害者の立場からの問題を扱う。

モデレータ

瀬川 茂子(朝日新聞社科学医療部 記者)
防災、脳科学、幹細胞生物学などを専門とする。

企画

大隅 典子(東北大学大学院医学系研究科 教授)

by osumi1128 | 2016-11-27 19:48 | サイエンス | Comments(0)

父加齢の次世代への影響はもっと知られても良い

やり直しを命じられて難産でもあった共同研究論文が、本日、PLoS ONEという国際誌に発表されました(オープンアクセスなので、どなたでも読むことができます)。また、合わせて、東北大学および理化学研究所よりプレス・リリースして頂きました(リンク先よりPDFがダウンロードできます)。

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海外出張等により記者会見などができませんでしたので、拙ブログにて背景等について補足しておきたいと思います。

加齢に伴って妊孕性が減少することはよく知られていると思います。でも、実際には子どもができればOKかというと、それだけではない影響があることは、あまり知られていません。

例えば、自閉症の発症リスクは疫学研究のメタ解析(複数の報告を合わせて解析したもの)によれば、20代の父親からの子どものリスクを1とした場合に1.64倍に、統合失調症の場合は、ある報告によれば2.96倍に増加します。他にも精神遅滞、社会性の異常なども父加齢の影響があることが知られています(詳しくは、拙著『脳からみた自閉症 「障害」と「個性」のあいだ』を御覧ください)。

ヒトの場合には、このようなデータはあくまで「相関関係」を示していて、さまざまな影響がありえます。そこで純粋に父加齢と次世代の行動異常に「因果関係」があるのかについて、すでに野生型マウスを用いた動物実験が為されました。現時点で3本の論文がありますが、やはり学習の低下、社会性行動の低下、不安の低下などが見られるようです。

これらの背景をもとに、私たちは発達障害の遺伝的リスクの1つと考えられるPax6遺伝子の変異に着目し、父加齢の影響についてマウスを用いた実験を行いました。今回は、父側からの影響(交配時の影響や養育行動など)を限りなく少なくすることを目的として、体外受精を用いています。精子はPax6変異ヘテロ接合マウスより、卵子は常に若い野生型雌から得ています。なお、遺伝学の基本ですが、この場合に得られる仔マウスでは、理論的には1:1の割合で、野生型とPax6変異ヘテロ接合マウスが得られます。

その結果、精子を得た父が若い3ヶ月の場合と、12ヶ月以上の場合で、父から遺伝的リスクを受け継いだ仔マウスの行動に違いが見られました(ちなみに、3ヶ月のマウスは、ヒトであれば性成熟に達している若い成人期、12ヶ月は60歳前後と見積もられます)。その結果、若い精子に由来する仔マウスでは、野生型との違いは、母子分離による音声コミュニケーションのみでしたが、加齢精子に由来する仔マウスでは、この表現型は見られず、多動の傾向が認められました。

これは、同じように遺伝的リスクを受け継いだ場合に、精子の加齢具合によって次世代への影響の現れ方が異なることを示しています。

この研究はまず、動物の行動研究をする方々に向けた重要な示唆を含みます。多くの実験において、雌の週齢・月齢は気にされることがあっても、雄は「仔が生まれればOK」という認識で、かなり加齢するまで交配に用いられることがあります。しかしながら、高齢の雄に由来する仔マウスは、若齢の雄に由来する仔マウスとは性質が異なる可能性があることになります。各種ノックアウト・マウスの表現型などのばらつきや、データが再現できないことなどには、このような背景がありえるかもしれません。

もう一つは社会的なインパクトです。これまで「卵子の老化」については、ダウン症発症のリスクが上昇することなどについて広く知られていましたが、「精子の老化」については、あまり気にされて来なかったと思います。以前にも拙ブログで取り上げたDOHaD仮説では、健康状態や疾病の起源が発生期にある、ということでしたが、さらに前の世代の生殖細胞系列にまで遡れると言っても良いでしょう。

このことは、少子化に加えて発達障害の増加もあって労働人口が減少する現代において、長期的な健康対策を立てる上でも知られるべきと考えます。最低賃金などの問題もありますが、もっと子育てがしやすい社会になって、父親母親ともに若いうちに出産できるようになることが何よりも望まれます。

末筆ながら、共同研究として多数の行動解析をして頂いた理化学研究所バイオリソースセンターの若菜茂晴先生とそのチームの皆様、マウスの超音波発声の測定システムの立ち上げでお世話になったイタリア科学技術研究所のValter Tucci先生、短い時間でプレス・リリースに対応して頂いた東北大学医学系研究科ならびに本学と、理化学研究所の広報の皆様に、心より感謝申し上げます。

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ちょうど同じ日だったのですが、西川伸一先生がご自身のNPOのサイトに、論文紹介として挙げられていたものが関連するので取りあげておきます。
最後のまとめにかかれていた「自閉症を社会性の欠如ではなく、もう一つの社会性として積極的に評価することで、人類進化に対する新たな視点が生まれる。」という視点は、私自身も拙著『脳からみた自閉症』で繰り返し触れておいたことですが、人類の寿命が長くなっていく間に、父加齢の影響としてポジティブな側面もあるのではないかと妄想を広げています。

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科学新聞2016年12月2日付で記事掲載されました。許可を得ましたので、こちらに載せておきます。
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英語でのプレス・リリースも出ました!

【関連拙著・拙翻訳本】

【関連拙ブログ情報】

by osumi1128 | 2016-11-18 18:07 | サイエンス | Comments(0)

研究ビッグデータのオープンソース化:RIKEN BSIマーモセット脳アトラス

ノーベル生理学医学賞の受賞が決まった大隅良典先生は、あちこちでのご発言で「基礎研究の重要性」訴えておられます。ノーベル賞だけが科学の重要な賞ではありませんし、賞を取ることが研究の目的となってはならないのですが、次のノーベル賞受賞のような成果に繋がるための研究環境は、研究費をどのように配分するかという問題以外にも、種々の環境整備が必要です。

昨日、学部生相手のゼミで、良典先生のオートファジー論文として見なされている最初の論文を取りあげました。1992年のJournal of Cell Biologyという雑誌に掲載されたもので、発表されたのは担当の医学部医学科の5年生が生まれる前とのこと……。彼曰く、「図が拡大できなかったんです! 画質が悪くてすみません……」と驚いていました。「あぁ、印刷されたものをPDFしているだけだからね。今の雑誌のように、テキストはテキストとして埋め込まれていたり、図は別々にオリジナルサイズに拡大したりはできないのよね……」ということで四半世紀の間のディジタル化、IT化を改めて感じました。

論文の図は8つ。といっても、現在、いわゆる「ハイ・インパクト・ジャーナル」に載っているように、Figure 1がaからmまで細かく分かれている、ということはなく、いたってシンプルです。この四半世紀の間には、1つの論文で扱われるデータ量も、膨大になりました。「ビッグデータ」の時代です。

ビッグデータを得るには、もちろんそれなりの研究費が使われています。また、ビッグデータはそれを得た研究者だけで十分に解析できないものも含まれています。したがって、データ・シェアリングや、データのオープンソース化は、研究費の有効活用という意味で、より重要になっています。とくに、研究費のほとんどをまだ国の予算に頼っている我が国では、税金の有効活用という意味でも、データはオープンなカタチで再利用できることが望ましい。

もちろん、最初からそういう目的でアーカイブされるデータもあります。本日ご紹介するのは理化学研究所、脳科学総合研究センター(BSI)の「マーモセット脳遺伝子発現アトラス」です。こちらは、下郡智美シニアチームリーダーが中心となって、小型霊長類であるマーモセットの脳の切片を作製し、染色したものを高画質の画像として取り込んでデータベース化しています。研究者がマーモセットの脳の構造を理解する太助になるだけでなく、ある遺伝子はマーモセットの脳のどこで働いているか、などを調べるのに役に立ちます。
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たいへん質の高いデータベースとなっていて、下郡チームの素晴らしい技術と多大なエフォートに敬服します。ぜひいちど、ご覧になってみて下さい🎶

なお、BSIは今年、設立20周年を迎え、関連行事を行っています。利根川進先生、山中伸弥先生の2名のノーベル賞受賞者をはじめ、豪華キャストで下記のように市民公開シンポジウムが開催されます(不肖ながら末席に登壇します♬)。興味のある方はどうぞお申込みを!



by osumi1128 | 2016-10-29 11:15 | サイエンス | Comments(0)