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May-Britt Moser先生の北米神経科学学会基調講演

今回の北米神経科学学会(SfN)年会でもっとも参加したかったセッションの1つが、2014年のノーベル生理学・医学賞受賞者であるMay-Britt Moser先生のPresidential Special Lectureでした。ノーベル・レクチャーはノーベル財団のHPから視聴できるのですが、やっぱり、同じ空間で、ライブで聴いてみたいと思ったのでした。
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話の最初は、ノーベル賞の共同受賞者であるJohn O’Keefeが、どのようにして海馬の中のplace cells(場所細胞)を見つけたのかというエピソード。ライブ記録電極を付けて自由に動き回るラットが、特定の場所に来ると「バリバリ……」という神経細胞発火の音がする、というところから、場所に対応して活動する神経細胞があるのではないか、と考えたというのが、1970年代後半のことでした。その実験系を習得しにMoser夫妻はO’Keefe labに短期滞在したのですが、このとき、いったいどこからどのようにして場所細胞に刺激が入るのかについて解析し、大脳皮質の嗅内野という領域でgrid cells(グリッド細胞)を見つけました。これがノーベル賞の授賞につながりました。

SfNの基調講演ではむしろ、その後、発見されたborder cells(ボーダー細胞)や、現在進行形のhead direction cells(頭部方向細胞)、speed cells(スピード細胞)についてなど、unpublished data満載でした。スピード細胞の同定のために、ラット専用の乗り物を開発するところから始まるという、手作り感あふれた研究だと思いました。

どうもグリッド細胞やスピード細胞と、ボーダー細胞や頭部方向細胞は、異なる仕組みがあるらしく、これは「地図の読める・読めない」に関わるのかなぁ、などと考えながら聴いていました。ちなみに、私はグリッド細胞が欠けているタイプで、スピードも苦手ですが、たぶんボーダー細胞や頭部方向細胞はあるのではないかなと思っています。

さらに、このような細胞の「作られ方」、つまり「発生」についても研究されているらしく、胎生中期の中でも早い時期に生まれたものは嗅内野の背側に位置して、その部分のグリッド細胞の配置は狭く、後から作られたものは腹側に位置して、グリッド細胞の配置が広いとのことでした(ちなみに、発生が気になるのは、女性研究者に比較的多い気がしています)。きっと、一人ひとりの違いも、こういう発生の時期の微妙な差で生まれそうだなぁと思いました。

講演の一番最後に、「科学者は子どものようなものです。子どもが友だちと楽しく遊ぶように、研究室にアーティストが来ると、とても素敵なことが起きます。」というイントロで繰り広げられたのは、実験に用いられたラットの様子の動画や、脳の切片と、音楽を組み合わせたヴィデオでした。まさにサイエンスとアートのコラボレーション! そういう意味で言えば、May-Brittがノーベル賞授賞式で纏っていたドレスも、アーティストのオリジナルで素敵でしたが、この日もカラフルなデザインのミニスカートとタイツという出で立ち。
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今年のSfNでは4名の基調講演者のうち、3名が女性でした。それぞれ個性があり、Cori Bargmannは、米国のBrain Initiativeの中心となっている方で、もっとも優等生的なタイプなのに対して、May-Brittはもっとも芸術家タイプと言えます。Coriの英語は完璧なAmerican Englishで、そのままテキストに起こして添削が必要が無いような話し方なのに対して、May-Brittの場合は英語が母国語ではないので、たどたどしく聞こえますが、強いパッションを感じます。途中で笑いを取るところも多々ありますが、受けなくても気にしないというか、強引に引き込まれる感じでした。彼女のヴィデオを観れば「そうか、英語はコミュニケーションのツールとして大事だけど、流暢に話すのが問題ではなくて、中身やパーソナリティーなんだな」とわかるでしょう。

東北大学知のフォーラムは9月末で終了! というつもりだったのですが、実は追加があり、11月末にEdvard Moser先生(ご主人の方)とノルウェー工科大学脳科学関係者様ご一行が来仙され、ジョイントシンポジウムを開催予定です♬

興味深いヴィデオは以下から視聴できます。
ノーベルレクチャーのヴィデオ:Grid Cells, Place Cells, and Memory

by osumi1128 | 2015-10-25 01:00 | サイエンス | Comments(0)

週刊ダイヤモンド連載コラム掲載予定

5週おきに連載コラムを書かせて頂いている週刊ダイヤモンド「大人の最先端理科」、次号に大村智先生のことを取り上げました。ご笑覧あれ!
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by osumi1128 | 2015-10-13 23:58 | サイエンス | Comments(0)

祝! 大村智先生ノーベル生理学医学賞授賞!

毎年、ノーベルウィークは、生理学医学賞の発表から始まります。今年は夕方に学内セミナーがあったので、リアルタイムで授賞のビデオを観ることができませんでしたが、セミナー終わってiPhoneを見てみると、大村智先生が共同受賞とのニュースがポップアップしていました(画像はノーベル財団HPより取っています)。

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直接は面識ありませんが、2億人もの人々を寄生虫病から救う薬を開発された方、という大村先生のお名前は各所で耳にしたことがありました。今回の共同受賞は3名で、ノーベル財団の発表順に言えば、共同研究者のWilliam C. Campbell博士と大村智博士が賞金の4分の1ずつを、そして、中国の女性研究者Youyou Tu氏が残りの2分の1を授与されるとのことです。


土壌微生物や植物から同定された化合物をもとに実用化された薬剤で、すでに多数の方々の寄生虫病やマラリアなどを治すことに成功している、という成果に今年のノーベル生理学医学賞が授与されたことには大きな意味がありますね。大村先生のキャリアの最初が定時制高校教諭、留学から帰国する頃からメルク社との大きな産学連携研究を進めた、というのも、美術に造詣が深く、美術館を故郷の韮崎市に寄贈したなども興味深いですが、Tu氏の授賞も、中国の女性で博士号は持っていないという点できわめてユニークだと思いました。

本日お昼をタリーズで頂いたときに話題がノーベル賞のことになり、生命科学研究科のS先生が、「線虫コミュニティーはmicroRNAなど、誰か線虫の研究者が取ってくれないかなぁ、と話しているのですよね」と仰っていましたが、決定後にメールで伺ってみたところ、大村先生の抗寄生虫抗生物質イベルメクチンの決定は、線虫のイベルメクチン耐性変異体の解析により為された、とのことでした。なるほど。大村先生はもともとは、動物の寄生虫(線虫など)対策の薬物として開発されようとしたという経緯もあります。

とりあえず、目についた関係記事をクリップしておきます。






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(これは来年の「大隅お勧め本」に入れなければ……)

【おまけ】
ちなみに、大村先生は北里大学薬学部教授でしたが、うちにも北里大学卒(ただし薬学ではない)の元学生さんがいます。あ、そうだ、かつて北里から卒研に来てくれた学生さんが、その後、修士になり、富山大学の井ノ口馨先生のところの技術員になったのでした。元ポスドクさんが現在、北里の医学部で助教をしています。……って書いてみると、よりノーベル賞を楽しめるかも。



by osumi1128 | 2015-10-05 23:35 | サイエンス | Comments(0)

「DOHaD」という概念

先日、第4回DOHaD研究会という学術集会にお招きを受けて講演をしてきました。「DOHaD」というのは「Developmental Origin of Health & Disease」という言葉の頭文字を合わせたもので、「健康や病気の起源が発生過程にある」という概念を表す良い日本語が見つからないので、とりあえず「ドーハッド」と発音しています。幕末から明治の頃、「細胞」やら「神経」やら「皮質」やら、漢字を上手く使って西洋から輸入した専門用語の訳語を作っていった頃に比べて、今の研究業界が忙しすぎるのでしょう。「mitochondoria」の「糸粒体」という訳語は廃れて「ミトコンドリア」という片仮名になったり、同様に「astroglia」が「星状膠細胞」よりも「アストロサイト」と呼ばれるように、漢字の訳語を作っても定着しなかったものもありますが。ともあれ、「細胞」は中国で発明された用語ではないことは、日本人として覚えておこう、と学生に伝えています。

話がズレました……。
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DOHaDの概念は、例えば第二次世界大戦中にオランダが大飢饉に陥り、その頃に胎児期を過ごした方に、各種の代謝病などが多いということが、フォローアップでわかったことなどが元になっています。私自身は、このときに統合失調症の発症も増加したという論文に出会ったのがDOHaD説を知るようになったきっかけですが、研究の最初に触れたのが発生生物学であり、奇形学にも近かったため、DOHaDはある意味当然すぎる概念にも思えました。

現在、DOHaDは「種々の病気の罹りやすさに胎児期の影響がある」という見解であり、母体を取り巻く環境、つまり、栄養や感染や薬物暴露に注意しましょう、というキャンペーンに繋がるのですが、私はこれは狭すぎる考え方だと思います。英語の「Development」は日本語の「発生」と「発達」の両方を含むものであり、胎児のみの影響ではなく、幼児期の発達も重要だと思われます。2013年に発表した論文では、そのような観点で思春期前の神経新生に、その後の不安やびっくり度に影響する「臨界期」があるのではないかということを示しました。
プレスリリース:精神疾患発症脆弱性の臨界期を示唆(PDF)

今回のDOHaD研究会の講演では、さらにその概念をもっと広げることができるのではないか、という主張を行いました。それは、「生殖細胞形成」の過程での微妙な不具合が、受精後の個体の発生〜成長、最終的に行動に影響を与えうるということです。具体的な事例として、父親が加齢すると自閉症の発症率が上昇します(例えばReichengerg et al., 2006)。我々は、父親マウスが加齢すると、その仔マウスが生後初期に示すコミュニケーション行動や、さらに成体になってからの社会性や常同行動にも影響することを見出しています。これらは、我々の論文としては未発表ですが、例えば以下のような論文が出ています(多数ありますが、1つだけ挙げておきます)。


父親加齢によりDNAに変異が生じることや、DNAのメチル化というエピジェネティックな変化が生じることについて、ここ数年で多数の論文が出ています。精子形成は1個の幹細胞が多数分裂し、数千個の精子を作る過程なので、種々の変化が生じやすいともいえます。子どもの発生というと、つい母親側の影響を重視しがちですが、実は父から受け継ぐ影響も無視できないのです。このような「次世代継承エピゲノム変化」は、今後、もっと追求されていくべきと思っています。




by osumi1128 | 2015-08-13 23:03 | サイエンス | Comments(0)

北村さん@利根川ラボのセミナー

昨日、MITの利根川先生のラボでポスドクを4年半ほどされている北村貴司さんのセミナーを開催しました。
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北村さんは海馬と神経結合している嗅内野と呼ばれる脳の領域に、島細胞(island cells)と海細胞(ocean cells)という構造を見出し、時間的に数秒程度離れ2つの出来事を結びつけて記憶することを負に調節していることを発見し、2014年にScience誌に発表されました。アイランド細胞とオーシャン細胞は、昨年のノーベル賞受賞者の4名のうちのお二人、モーザー夫妻が嗅内野で見出したグリッド細胞としても働いているとのこと。画像は理研のプレス発表より拝借(日本語版英語版)。
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今回は日本神経科学大会でのシンポジウム発表のために一時帰国され、各地でセミナーをして回られ、この日が最後のセミナー。元々のお人柄もありますが、ジョークも折り込みながら、クォリティーの高いデータを披露して下さいました。井ノ口馨先生の元でも2009年のCell誌の筆頭著者であり、利根川研での4年の間に4本の論文発表に関わり、きわめて生産性が高い。ちょうど、日本神経科学学会奨励賞も受賞され、若手のホープとして期待されています。

個人的には、利根川先生のエピソードが面白かったです。50名ほどのメンバーがいるラボなので、ラボ内野球大会を毎年行っていて、利根川先生のチームが負けそうになると、「チェンジ!」と言われて4番のエースを引き抜いて勝利。そこまで勝負に拘るからこそ、1987年に日本人として始めてノーベル生理学・医学賞を受賞されるという栄誉に繋がったのでしょう。その後、なぜ神経科学に転じたのか、是非、今度詳しく伺いたいと思います。
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9月の知のフォーラムの国際シンポジウムに利根川先生をお呼びしていますが、その前日、9月27日に読売新聞社との共催により市民公開講演会を開催します。現在、参加者受付中です。とくに、高校生・大学生・大学院生は登壇して直接、利根川先生に質問する方を募集しています。詳細は以下を御覧ください。

科学者の卵HPより:利根川先生講演会のお知らせ
(現在、読売新聞のサイトに不具合があるようです……)
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by osumi1128 | 2015-08-07 21:06 | サイエンス | Comments(0)

東北大学知のフォーラム脳科学<技>無事終了とLichtman先生のこと

2年以上前から準備を始めたTohoku Forum for Creativity (TFC), Frontiers of Brain Science, Tools & Technologiesが今週月曜日に無事に終了しました。その後、引き続き第38回日本神経科学大会が神戸で開かれており、TFCのメインゲストのProf. Jeff Lichtmanをエスコートしつつ移動。アテンダント役を慶應大学の芝田さんにバトンタッチしてほっとしました。
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Lichtman(発音はリクトマンのように聞こえます)先生は、セントルイスのワシントン大学でMD/PhDを取得され、神経筋結合部のシナプス形成についての研究を展開。2004年に、Joshua Sanes先生とともにハーバード大学に移られた頃から、いわゆる「コネクトミクスconnectomics」を立上げ始められました。
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簡単に言うと、nmの分解能がある電子顕微鏡を用いて徹底的に細胞同士の繋がり(connection)、つまりシナプス形成を観察しよう、というアプローチなのですが、そのための連続超薄切片作製装置や撮影装置の開発、撮像された二次元画像からそれぞれの細胞の繋がりを手作業かつ人海戦術で色分けしていく、など、前人未到の世界を展開されています。

興味のある方はぜひ、こちらのTEDの動画を御覧ください。
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さて、アテンダントの役得として、仙台から神戸までの飛行機ではずっとお話をさせて頂きました。その中で「多くの神経科学者は、脳がどのようにして構築されるのか、発生発達現象にあまり興味を持たないが、実は哺乳類の神経機能発露にとって大事なのは、遺伝的に決められているプログラムよりも、活動は経験によって決まっていく神経結合である」という自説を展開されていました。これは、発生生物学出身の私にとっては、まさに膝を打つお話でした。

「昆虫などは、それぞれの生態系に合わせた神経プログラムがインストールされていて、個体ごとのバリエーションは限りなく少ない。でも、哺乳類は、決まっている部分よりも、後から経験によって変わりうる部分の方が圧倒的に大きい。ヒトはその最たるもの」とも言われていました。ちょうどまさに「個性の脳科学」についてどんな風に展開したら良いかと考えているところでしたので、非常に参考になるお話でした。

これまで、生命科学や医学は集団ごとの平均値にばかり注目しており、そのばらつきは「無い方が良いもの」と捉えてきたと思います。そのこと自体はもちろん大切なのですが、「はずれ値」に注目するような科学は成り立たないのかと思うのです。そうでなければ「天才の脳はどのように使われているのか、それはどのようにして出来上がってきたのか」などを理解することは不可能でしょう。あるいは「一回性」の科学は、科学になるためにはどうしたら良いのかと考えています。

知のフォーラム8月のテーマは「Development & Disease」です。脳の発生発達、進化、そして自閉症などの発達障害を扱います。ポスター発表や参加登録を受付中です!
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by osumi1128 | 2015-07-30 21:22 | サイエンス | Comments(0)

東北大学知のフォーラム脳科学:サテライト・シンポジウム@神経科学大会のお知らせ

連休明けにはいよいよ東北大学知のフォーラム「脳科学の最前線」の7月イベントが谷本拓先生と松井広先生のオーガナイズにより開始します。21日からまずは顕微鏡関係5社によるデモ機を使った技術講習会です。初日はハーバード大学の水谷治央さんの講義の他、顕微鏡会社さんによるセミナーを行い、夕方からは6号館アトリウムにて懇親会です。土曜日25日から場所を片平に移して国際シンポジウム。Jeff Lichtman先生、Valentin Nagerl先生、重本隆一先生などをはじめとする多用な技術のエキスパートにより、講演を頂きます。登録されていない飛び込みの方も歓迎します(参加者多数の場合には、知の館1階ラウンジモニターで視聴できるようにします)。25日の懇親会も参加を受け付けます。

続いて、神経科学大会初日の28日の夕方に神戸国際会議場5階において、以下のようなサテライト・シンポジウムが開催されます。参加費無料、軽食付。学会本体に参加されない方含め、どなたでも参加できます。是非お立ち寄り下さい!
(下記、ポスター・チラシデザインは有賀雅奈さんです)
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日本神経科学大会サテライトシンポジウム
「Neuroimaging and its impact on our lives」 のご案内

初夏の候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。この度、第38回日本神経科学大会の公式サテライト行事として、ヒトの脳機能・分子イメージング領域の最前線で活躍する研究者を招き、「Neuroimaging and its impact on our lives」を開催することとなりました。
脳機能イメージングはポジトロン放出断層法(PET)や機能的核磁気共鳴画像(fMRI)、近赤外線分光計(NIRS)などの多様な手法を用いて研究が推進されてきました。その後、分子イメージングとして確立され、種々の神経精神疾患の臨床評価、認知症の早期診断・発症予測への貢献が期待されています。
下記のように、国内外で注目すべき成果を上げている研究者をシンポジストとして招くことができました。特に、Steven Laureys博士のグループは、重度の脳障害により昏睡や遅延性意識障害に陥った患者の痕跡的な精神活動を外部から評価し、回復をサポートするための方法を一貫して研究しており、世界的な第一人者として認知されています。Laureys氏の研究は多大な社会的インパクトを与え、バチカンのローマ教皇庁やTED Paris、TED Brussel等でも講演を行っていますが、日本で講演を聴く機会はほとんどありませんでした。また、岡村信行博士・田代学博士らのグループは、Alzheimer病患者の脳内に蓄積するタウタンパクを特異的に画像化するPET薬剤の開発及び臨床試験に成功し、その研究は世界的に注目されています。
東北大学の連続シンポジウム「Frontiers of Brain Science」の企画として開催される本サテライトシンポジウムを一つの場として、将来の脳科学の発展およびその社会的意義を見据えつつ、基礎研究者と臨床系研究者がそれぞれの立場から議論を交わす良き機会となれば幸いです。また、学部生や大学院生の参加も歓迎いたします。人間存在や哲学にも迫りうるこの新しい学際的環境の中で、若い感性からの率直な発言をぜひとも期待しております。奮ってご参加下さい。

平成27年6月吉日

Frontiers of Brain Scienceシンポジウム 総合オーガナイザー
東北大学大学院医学系研究科・教授 大隅典子
東北大学大学院生命科学研究科・教授 飯島敏夫


日時: 2015年7月28日(火) 18:30-21:30 (20:30より情報交換会。軽食を用意しております。)
会場: 神戸国際会議場 501室

シンポジスト:
田代 学 (東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター)
岡村信行 (東北大学大学院医学系研究科機能薬理学分野)
Steven Laureys (リエジュ大学、ベルギー)

by osumi1128 | 2015-07-19 17:21 | サイエンス | Comments(0)

90分で脳の発生を概説してみた

とある取材のために、脳の発生について90分で語ってみました。相手の方、二名は、いわゆる「文系」で、高校の生物学もあまり印象に残っていない、というリテラシーレベル。パワポ無しでバランス良く話せるか、やっつけ勝負だったのですが、案外上手くいきました。というよりも、パワポに頼らず板書(実際にはホワイトボードにマーカー3色で図を描きながら)での説明だったことが功を奏した気がします。普段の授業では、総説から引用した模式図などを多用していますが、「時間が足りない!」と思っていたのは、実はエッセンスではないことまで盛り込み過ぎだったのかもしれないと気付かされました。話しながら、絵を描きながらの説明は、聴く側の理解のスピードとも合うのでしょう。来年の発生学の講義では今年よりもさらに板書を増やしても良いと思いました。正確に言えば、脳の発生について、そのエッセンスを語るには、質問を受けながらですと90分では少し足りませんでした。60分X2回分くらいがミニマムでしょうか……。135名相手の講義で、質問がほとんど無しだと60分に収まるかもしれませんが、できればインタラクティブにやりたいですね。
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by osumi1128 | 2015-07-08 21:44 | サイエンス | Comments(0)

カヴァー・アーティクル

3月末に受理された大学院生が筆頭著者の論文が、このたび2015年7月号の表紙を飾りました。Journal of Anatomyという1867年に創刊された伝統ある雑誌で、解剖学・形態学に関する20誌の中の5位という位置づけです(Wikipediaによる)。内容は、これまで眼鼻の発生、脳の発生の鍵因子とされてきたPax6という名前の転写制御因子が、なんと精巣の中でも発現し、興味深い局在パターンを示すというものです。
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精巣の中では日々、精子が作られていますが、精巣でもやはり「幹細胞」というタネの細胞が存在していて、それを元にして「減数分裂」という特殊な細胞分裂により、遺伝子のセットを一揃えだけ備えた生殖細胞、すなわち精子の細胞が生まれます。遺伝情報が書き込まれている染色体を百科事典に例えると、ヒトの普通の細胞は、核と呼ばれる構造の中に、全23巻の百科事典を父方、母方から受け継いで2セット持っています。23巻の最後の1巻は特別で、Xという巻とYという巻があります。女性はお父さん由来とお母さん由来の2つのXという巻をもらい、男性はお母さんから受け継ぐXの巻と、お祖父さん、お父さんと男性にのみ受け継がれるYの巻を持っています。生殖細胞ではこの百科事典が1セットになります。このときに、お父さん由来、もしくはお母さん由来の1セットをそのまま受け継ぐのではなく、第1巻はお父さん由来、第2巻はお母さん由来、と異なる組み合わせのセットになって受け継ぎます。なので、同じお父さん、お母さんから生まれる子どもでも、もともとのお祖父さんのもの、お祖母さんのものがランダムに混ざるので、異なる百科事典のセットを受け継ぐことになります。

このような百科事典の受継ぎが起きるのが減数分裂という現象です。生殖細胞が作られる間、実は同じ巻の百科事典がいったん集められ、部分的にお父さん由来の部分とお母さん由来の部分が混ざった巻が新たに作られます(専門用語で言うならば、染色体の対合、交叉、組換えが生じます)。したがって、生殖細胞に持ち込まれる百科事典のバリエーションは途方も無い数になります。いわば、減数分裂という現象は、単に百科事典のセットを1つずつに分けて細胞に分配するだけでなく、有性生殖により卵子と精子が受精して2セットの遺伝情報を受け取る際の多様性を増す仕組みでもあります。

さて、学生K君が発見したのは、精巣の中のタネの細胞(精祖細胞もしくは精原細胞)や精母細胞において、これまで報告されていないPax6の局在と、精子形成過程における、そのダイナミックな変化でした。とくに、精母細胞のXY体と呼ばれる特殊な構造が形成される時期にPax6の非常に集積し、その段階から約24時間後には排除されて核全体に分布するという、非常に興味深い現象を見出しました。減数分裂の間に同じ号の百科事典が集められますが、Xという巻に比べてYという巻はとても薄い(すなわち、X染色体に比して、Y染色体はとても小さい)ので、かなり特殊なことが生じていると考えられています。例えば、これらの百科事典から情報が読み出されないように、特殊なタンパク質で回りを囲んでロックしてしまうような仕組みがあります(meiotic specific chromosome inactivation; MSCI)。ただし、百科事典のXの巻に記載されている「精子形成に必要な情報」のところだけは読み出しできるような機構もあります。XY体に集積したPax6がその間にいったい何をしているのか、大きな興味がわきます。(下の画像は、論文より転載。左よりステージI-III, V, VIII, X, XIIにおけるマゼンタがPax6タンパク質の局在を、緑は染色体対合に関わるタンパク質を示していますが、非特異的な染色が精細管周囲に見られます)
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今回の論文では「Pax6の機能」については解析せずに、まず「現象の観察」を報告しました。それは、機能解析のためには、いろいろな仕込みの実験をする必要があり、それにはとても時間がかかるからです。学生さんの学位取得を考えて、このタイミングでまず論文化するという作戦でした。また、そもそも脳の発生発達をメインに研究している私たちの研究室で精巣を研究したかというと、父親から次世代の脳の発生発達やその結果としての行動に及ぼされる影響について知りたいと思ったからです。Pax6について説明されていたweb上の情報では「精巣におけるPax6の発現はほとんど無い」ことになっていたのですが、Pax6遺伝子が傷ついた変異マウスの父に由来する仔マウスにおいて行動異常が見られたことから、「やっぱり自分の目で確かめた方が良いのでは?」ということから始まったプロジェクトでした。現在、今までの研究人生で、もっとも仕込みの長い研究をしています。Pax6とX染色体という手がかりの先に、本質的に重要な事象が隠されていると感じています。

  1. Ryuichi Kimura,
  2. Kaichi Yoshizaki and
  3. Noriko Osumi*

Article first published online: 1 JUN 2015

DOI: 10.1111/joa.12318


by osumi1128 | 2015-07-01 08:30 | サイエンス | Comments(0)

黒木先生によるiPS細胞解説本

今年の4月25日付で上梓された『iPS細胞 不可能を可能にした細胞』を、著者である黒木登志夫先生からご恵贈頂きました。黒木先生にとっては中公新書シリーズ科学バージョン第三弾です。他にも『知的文章とプレゼンテーションー日本語の場合、英語の場合』などもありますが。
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私にとっては、『科学者のための英文手紙の書き方』(朝倉書店)が黒木先生と最初の出会いであり、本当に何度も読み返しました。癌研究の権威であることはその後に知ることになり、また、実は東北大学医学部のご卒業であるということを知ったのは、不束かなことに、岐阜大学の学長をされるようになった頃からだったかもしれません。この当時のことも、『落下傘学長奮闘記』(中公新書ラクレ)にユーモア溢れる筆致で書かれています。

さて、iPS細胞に関する書籍は多数出ていますが、黒木先生の新書はきわめてわかりやすい。それは、「知的文章」に対する持って生まれたセンスと努力や、いくつかの挿絵まで描かれる才能に加え、先生ご自身が長く癌の研究者として活躍されただけでなく、学長や日本学術振興会顧問など、大所高所から広く科学分野を見渡すご経験を積まれていることも少なからぬ影響があると拝察します。

本書では、後半のiPS細胞を用いた応用について(第七章 シャーレの中に組織を作る、第八章 シャーレの中に病気を作る、第九章 幹細胞で病気を治す)の部分も2014年頃までの最先端の研究について触れてあり、もっともアップデートされていますが、私自身はむしろ前半部分、第一章の「からだのルーツ、幹細胞」や第二章「iPS細胞に至るルート」の部分が、再度、生物とは、人間とは、ということを考える上で読み応えがありました。もちろん、明日から始まる今年の医学部二年生相手の「発生学」の講義でも、参考書籍として紹介するつもりです。幹細胞研究に関係した研究不正についても触れられています。

山中伸弥さんご自身が序文を書かれ、オビには顔写真まで載っているのは、山中さんも黒木先生の『がん遺伝子の発見』(中公新書)を読んで得た感動を大事に思っていたからでしょう。以下、引用します。

1996年、私は三年間のアメリカ留学を終え、日本での研究を再開しました。しかし、さまざまな困難の連続で、研究に対する情熱を失いそうになっていました。そんな時、一冊の本が、科学に対する情熱を甦らせてくれました。本屋で偶然に見つけたその本を、私は何度も何度も読み返しました。務めていた大学に、その本の著者の先生が講義で来られた時、勇気を出してサインをして頂きました。私にとって障害忘れることのできないその本とは中公新書の『がん遺伝子の発見』、著者は本書を書かれた黒木登志夫先生です。(山中さんの序文より)

どんな分野であれ、生涯の間にそういう本や、そういう論文が書けたら素敵なことだと思います。頂いたサインを見返して精進します。
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【iPS細胞に関連して】
週刊ダイヤモンド5/30号が出ました! ちょうど上記と関連した話題がコラムの4回めとして掲載されています。



by osumi1128 | 2015-05-24 23:19 | サイエンス | Comments(0)