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第88回内分泌学会学術総会シンポジウムほか

昨日は第88回内分泌学会学術総会シンポジウムの座長と特別ランチョンセミナー講演にお呼ばれ頂きました。会長の伊藤裕先生@慶応大学医学部の熱い思いが随所に溢れ、ユニークな企画が満載の学会でした。

その特別シンポジウムは「現代科学における異脳たち」という副題が付いていて、以下の方々がご登壇。
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阪大の浅田先生のマシンガントークに始まり、ユーザ・インターフェース開発の五十嵐先生の開発アプリケーションのデモも面白く、東大に戻られた上田泰己さんのマウス脳や全身まるごと透明化のお話は、今後の展開がとても楽しみ。トリを務められた川渕先生は医療経済学のお立場からのご講演。拙い座長は後半2題の演者ご紹介をさせて頂き、シメはフロアにいらっしゃった井村裕夫先生を見つけて、こちらからご指名してまとめ的なご発言を頂くことができました。

浅田稔先生@阪大
五十嵐健夫先生@東大
上田泰己先生@東大
川渕孝一@東京医科歯科大

研究には、メカニズムの理解のための「Why」の研究と、応用のための「How」の研究があると思います。五十嵐先生の研究は、「どうやったら種々のインターフェースの使い勝手を良く出来るか?」という目的を持つ、典型的な「How」の研究だと思います。上田先生も、最終的には「生物の中でなぜ<時間>に応じた現象が生じるのか?」という「Why」の研究を目指していると思いますが、今回のご紹介の中心は、昨年2本のCell誌論文として出された「組織をまるごと透明化」する技術についてだったので、どちらかというと「How」が中心。浅田先生の広範なお話には、ロボカップのように「どうやったらFIFAで人間チームに勝てるロボットを創れるか?」や、そのために「ロボットに自主学習させるにはどうしたらよいか?」という「How」のプロジェクトと、そのことによって、「なぜ子どもは自然に学習できるのか?」というような「Why」のテーマも含まれているように思いました。

現在、自閉症の病態発症の分子レベルの理解を多面的なアプローチで進めようとしているところであり、浅田先生の研究プロジェクトの中で、胎児の動きをシミュレーションしていたものに興味をそそられました。自閉症研究というとすぐに「社会性」という話になりますが、感覚運動系の連合具合などはもっと注目されて良い神経基盤なのではないかと考えます。




by osumi1128 | 2015-04-25 12:44 | サイエンス | Comments(0)

研究室の1コマ:顕微鏡とスマホ

良い解析方法を確立して、かけた時間に比例するデータが出るフェーズに入った学生さん。コンフォーカル顕微鏡でZスタックかけて1枚の画像を得るのに6分かかる。それを何十枚もひたすら繰り返すとのこと。ちょうど毎週の進捗状況報告ミーティングでそんな話になり……。


私:ところで、その6分の間、スマホとか見てないよね?ww
学生さん:(ギクッ)
助教さん:あれ? 電話かけたら繋がるよね……?ww
学生さん:あ、いや、そんなには……(ごにょごにょ)
私:どこかの大学で、授業中にスマホをいじなかったらポイントがたまる、というアプリを利用しているって聞いたことがあるけど……。
講師さん:共通機器室に行くときにスマホを大隅先生のところに置いていって、触らなかったご褒美に先生からコーヒーチケット出すっていうのはどう?
学生さん;それは嬉しいですが(笑)……いえ、そんなことをしなくても、大丈夫ですっ!
(あくまでブログネタとお考え下さいww)


私が大学院生の頃は、まだ顕微鏡撮影はディジタル化されていませんでした。暗室で蛍光顕微鏡のフィルム撮影をするのに、何種類か露光時間を変えて、長いときには10分以上、息を潜めていたことを思い出します。その間、暗い中でいろいろなことを考えました。うまく撮影できているかな、このデータの次には何を撮ろうかな……など。


19世紀の解剖学者のカハールは、生涯に260本もの論文(ほとんど単著)を書いた方ですが、当時は写真として撮影するのではなく、標本を単眼の光学顕微鏡で見ながらスケッチしたものを図として添えていました。カハールは美しい顕微鏡スケッチを何枚も描きながら、神経組織の成り立ちに思いを馳せていたことでしょう。そのときに考えたことが、そのまま論文のテキストにもなったかもしれません。


スマホは便利な道具です。私の生活は、もはやスマホ無しでは成り立ちません。スケジュール確認もすぐできないし、乗換えを調べることもできません。地図アプリを便りに訪問先までアクセスするのは日常的。Googleさんに問いかければ何でも教えてくれるし、Facebookにアクセスすれば、友人の今日の様子を垣間見ることができます。


でもきっと、スマホが利用できない、利用しない時間も大事にしなければならないのでしょうね。一日は誰にとっても24時間しかないので。




by osumi1128 | 2015-03-27 22:23 | サイエンス | Comments(0)

江戸時代の木製顕微鏡から最先端イメージングまで:GTCカバーアートより

先のエントリーで国立科学博物館(かはく)の企画展のことを取り上げましたが、関連情報をクリップしておきます。

インターネットミュージアム:

国産顕微鏡100年展 ~世界一に向けた国産顕微鏡のあゆみ~

江戸時代の木製顕微鏡は、間近で見ると本当に丁寧な細工がしてあって素敵だなと思っていたのですが……。
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それが使われていたカバーアートを思い出しました(正確には、本日参加していた研究発表会でリマインドされましたww)。日本分子生物学会のオフィシャル・ジャーナルであるGenes to Cellsの2014年12月号の表紙がこちら。
表紙:透明化試薬で目指す『続・解体新書』?
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こちらのカバーアートでは、杉田玄白先生の前に顕微鏡が置かれていますが、実は最先端の「透明化」技術の論文の内容がデザインされているのです。4匹のネズミのうち2匹が透明化されていて、その試薬が酒瓶のような器の中に入っています。玄白先生の衣装には透明化試薬の化学式(亀の子ですね)が描かれていたのには、指摘されるまで気づきませんでした!

論文はこちら。
Susaki EA et al., Cell, 2014

Whole-Brain Imaging with Single-Cell Resolution Using Chemical Cocktails and Computational Analysis


by osumi1128 | 2015-03-24 19:00 | サイエンス | Comments(0)

大アマゾン展&国産顕微鏡100年展@国立科学博物館

学会2つ(神経発生討論会@九大と解剖・生理合同大会@神戸)をハシゴして仙台に戻る前にも一つ東京で研究発表聞きますが(インプット過多は体に良くない……><)、その話の前に、先日、見てきた国立科学博物館の特別展と企画展のご紹介。

国立科学博物館(愛称:かはく)の評議員を仰せつかっているため、過日の会議の後に現在開催中の展示を拝見する機会を得ました。

大アマゾン展(特別展)
アマゾンに生息する種々の生き物の剥製、標本やビデオなどが展示されています。
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中には、水槽にリアルなお魚たちも……。
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生き物系のみならず、文化的な展示もあり。
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こちらは、酋長の飾り。アマゾンの派手な鳥の羽毛を活かした芸術品ですね。
思ったよりも女性の来場者が多い印象でした。
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圧巻だったのは、最後の方にある4Kの巨大モニタでのビデオ上映。たしか10分くらいかかるものでしたが、見応えたっぷり。4Kは凄いですね! 女優さんには辛いでしょうが(苦笑)、自然界の生き物や風景を鑑賞していると、そのリアルさ、というより、もしかすると、リアルよりも多い情報に圧倒されます……。
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公式サポーターは「さかなクン」です(笑)。とある場所で、さかなクンと2ショットも撮影できます!?
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とても、とてもお勧めです! 6月14日までです。

国産顕微鏡100年展(企画展)〜世界一に向けた国産顕微鏡のあゆみ〜

もう一つは、ちょっとマニアックかもしれませんが、昨年のノーベル化学賞が「超解像顕微鏡」であったこともあり、顕微鏡の常設展に加えての企画展が開催中。

かはくの建物は昭和初期くらいでしょうか、重厚で木の彫刻やステンドグラスが素敵なのですが、シンメトリーな建物中央の吹き抜けを活かして、初めての国産顕微鏡の拡大模型がどーんと展示されていました。
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古い木製の顕微鏡などの展示も常設部分にあります。自分が使ったことのある国産顕微鏡も展示されていて、懐かしく思いました。

それから、現在「地球館」がリニューアル工事中であるために、なんと皆さん大好きな恐竜の骨の展示などは、普段の場所から移して展示されており、むしろ近くで見られるというお得感!(笑)。
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最後は、外の鯨の大きな模型を眺めて下さいね〜♬ 記念撮影スポットでもあります。
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かはくはボランティアさんも活躍しています。広報誌は「milsil(ミルシル)」という名前。PDFは下記から落とせます。

Facebookページもあるので、是非フォローを♬(ちょうど表紙画像がクジラですね)

by osumi1128 | 2015-03-23 22:38 | サイエンス | Comments(0)

岡部繁雄先生のセミナー:「観察」は科学の基本

医学系研究科共通機器室主催、ニコン仙台支店の共催により、東大の岡部繁雄先生のセミナーが開催されました。
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最新の顕微鏡技術として以下について、ご自身のシナプス(神経細胞の結合部)に関するデータを中心にしてご発表。
1. In vivo二光子顕微鏡
2. 透明化
3. 三次元電子顕微鏡
4. 超解像顕微鏡
「観察する」ことは科学の基本です。よく観ること、細かく観ること、違いを見出すこと、それが新しい発見に繋がります。そのために、人類はレンズを作って望遠鏡や光学顕微鏡を生み出し、細かい方向では電子顕微鏡を作りました。上記の新しいイメージング技術は、さらに新しい発見を生み出すことでしょう。To see is to believeです。

岡部先生は最後に1枚のスライドを示されて、新しい技術の創出がさらに新しい発見を生み出し、それが次のニーズを生み出すという循環になれば良いと話されました。
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ちょうど、昨年のノーベル化学賞が超解像顕微鏡技術に関するものでもあり、新しいイメージング技術は大きな注目を集めている分野です。研究科の共通機器室にもN-SIM/A1Rという超解像顕微鏡が整備され、やや遅れていた形態系機器も充実していくものと思われます。司会を務められた権田先生、大盛会のセミナーお疲れ様でした!
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by osumi1128 | 2015-02-24 17:27 | サイエンス | Comments(0)

週刊ダイヤモンドにコラム連載開始です

今年から『週刊ダイヤモンド』誌にコラムを連載することになりました。『大人のための最先端理科』というコーナーで、宇宙、地球、脳科学、数学、生命科学について5名の執筆者が交代で担当します。

大人のための最先端理科

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私の担当は「生命科学」です。
初回は(2月になってしまいましたが)年が改まって最初なので、「初期化」のお話。

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by osumi1128 | 2015-02-01 13:32 | サイエンス | Comments(0)

オリヴァー・スミティーズ先生の「ひらめきのヒント」

過日、東北大学をご訪問下さったオリヴァー・スミティーズ(以下OS)先生に、東北大学サイエンス・エンジェル(以下SA)がお尋ねしました。
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SA:どうしたら素晴らしいアイディアがひらめくのですか?
OS:それはね、とにかくよく眠ることだよ! 昼間、いろいろな経験をするよね。眠っている間に、脳の中でそれらがとても面白い結びつき方をするんだ。起きている間には思ってもみなかったようなこと同士がくっつくと、魅力的な仮説が出来上がっていたりするね。起きたらすぐに書き留めたりしないと忘れてしまうけど……。とにかく、ただ長時間働いて疲れてしまったら、けっして良いアイディアなんて出ないよ。

奥様の前田信代先生(NM)が補足されます。
NM:人に話すっていうのも大事じゃないかしら?
OS:そうだね、君にいろいろと話している間に、間違っていることに気づいたり、さらに面白いことがわかったりするね。

なるほど、スミティーズ先生が2007年のノーベル生理学医学賞に繋がる研究成果を上げられた背景には、「よく眠り、よく話す」ということがあったのですね……。身近にご自身も研究者である奥様がいらしたことを心から感謝している様子が感じられる、優しさ溢れるスミティーズ先生でした。ご訪問ありがとうございました!
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【大隅補足】
私自身、「ひらめき」は圧倒的に朝目が覚めてまだぼうっとしているときに感じます。文章を書いていて神が降臨するのは夜中だったりもするのですが。「ひらめき」が生まれる前提としては、結び付けられるべき「記憶」が脳の中に残っていないといけません。何も無い脳の中に「ひらめき」は生まれません。記憶をしっかりと定着させて、面白い結びつきを生じさせるためには「タグ(ラベル)」が必要だと思っています。つまり、記憶に「タグ」を付けるのです。いつ、どこで、誰とした会話なのか、誰がセミナーで話したのか、どのジャーナルに書いてあったのか、そういうことを無意識レベルでもタグ付けできるかどうかが、ひらめきの前提にあるように思います。セミナーのときに、私はかなりメモを取る方なのですが、その場合には、PCにタイプするよりも、MOLESKINEの方眼ノート(スクエア)にLAMYのカートリッジ万年筆でアナログに記録します。絵やグラフも簡単に描けますし、関連付けられる情報に→を引くのも簡単です。そうやっていろんなタグが付く気がするからです。あと、そのノートを折に触れ見なおして、さらに4色ボールペンでさらに思ったことなど書き留めます。必要に応じて、ノートの頁をiPhoneで撮影してEvernoteに放り込んでおいたりもします。



by osumi1128 | 2014-12-13 22:29 | サイエンス | Comments(0)

第41回神経内分泌学会にて講演:改めて「神経堤細胞の魅力☆」

高知大学医学部の岩崎泰正先生が大会長を務められた第41回神経内分泌学会にて、ランチョンの時間帯、井村裕夫先生の特別講演の前に講演を行いました。頂いたお題が『神経内分泌細胞のルーツ:神経堤細胞の魅力』だったのですが、私自身も自分の研究ルーツを振り返る良いきっかけになりました。
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神経堤細胞は、ヒトの発生であれば受精後第3週に現れます。神経管形成というダイナミックなイベントに伴い、神経上皮と外表上皮との境界部に形成される「神経堤」という領域から這い出した神経堤細胞は、わらわらと体内を移動しつつ増殖し、移動先で多様な細胞に分化します。

(右の画像は、神経堤に由来する細胞が緑色蛍光タンパク(GFP)で標識された発生途中(受精後13日目)のマウス胎仔です。)



神経堤細胞から派生する細胞・組織
●末梢神経系(脊髄神経・自律神経)のニューロン
●末梢神経系(脊髄神経・自律神経)のグリア(シュワン細胞)
●ホルモンを産生する神経内分泌細胞の一部
●皮膚のメラノサイト
●顔面と顎の骨・軟骨・象牙質を作る細胞
●脳を包む膜(硬膜・くも膜・軟膜)
●眼の虹彩・角膜の一部(内皮と実質)
●鼻の嗅上皮の一部(幹細胞含む)
●内耳の感覚細胞
脊椎動物の進化とともに八面六臂の活躍をするようになった細胞です。詳しくは「脳科学辞典:神経堤細胞」を御覧ください。さらに興味のある方は拙共著『神経堤細胞:脊椎動物のボディプランを支えるもの』(倉谷滋・大隅典子著、東大出版会)をご笑覧下さい(ただし絶版)。
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講演では、神経堤細胞に関係すると思われる神経芽腫のような腫瘍を取り上げ、もしかするとより普遍的に、腫瘍発生の「タネ」としての捉え方ができるのではないか、というような展望についても言及しました。

200名ほどの会場に立ち見が出たのも嬉しかったですが、講演後に懇談室で仕事をしていたら、何人もの若い方々が「もう少し伺って良いですか?」「別の講演と重なっていたので聞けなかったので教えて下さい」などと声をかけて下さいました。学会(meeting)は「興味のある研究者が直接会って、アイディアを交換する」ことこそが、その機能なのですから、このようなインタラクションはもっとも有意義なことです。

今回の学会は参加者300名ほどで、いわゆる「学会屋」さんが関与せず、また昨今のCOIの問題もあって製薬企業さんの関与も少なくなって、大会長の岩崎先生が心を砕かれて手作りされたことが伝わってきました。懇談室には高知のお菓子(ミレービスケット細切り芋けんぴなど)が置いてあったり(美味しかったです! あ、細切り芋けんぴパッケージに描かれているのは、高知ゆかりのやなせたかしさんのイラスト♬)。またご招待頂いた理事会の食事会は、土佐料理のお店「祢保希」で行われました。

上記の拙共著『神経堤細胞:脊椎動物のボディプランを支えるもの』(倉谷滋・大隅典子著、東大出版会)、そういえば1997年発刊なので、もう一度、私個人の視点で書きなおしてみたいと思いました。


by osumi1128 | 2014-11-02 09:31 | サイエンス | Comments(0)

2014年ノーベル賞自然科学系3賞の結果から思うこと

本日はノーベル文学賞の発表があって、残念ながら村上春樹ではありませんでした。ものすごく好きという訳ではないのですが、彼は自分でも翻訳を手がけているので、自分の作品が翻訳されて世界中で読まれることを最初から想定した文章を書いているという点において、ノーベル賞を取れるのかどうかが興味深いと思えるので。

さて、自然科学系の3賞のうち、今年は物理学賞について3名の日本人(より正確に言うなら、2名の日本人と、1名のアメリカ国籍を有する日本出身の方)が受賞され、これで19名となってオランダより多くなったはずですが、人口を考えれば、ドイツの健闘が著しいですね(図は下記のサイトより引用)。
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Here's A Beautiful Visualization Of Nobel Prizes By Country Since 1901

Read more: http://www.businessinsider.com/nobel-prizes-by-country-since-1901-2014-10#ixzz3FedhTgvN


青色発光ダイオードは、確かに街中にあふれているので、そういう「わかりやすい」ノーベル物理学賞も必要だったのかもしれません。

ここ10年くらいの生理学医学賞と化学賞は、どっちがどっちなのか、というところもありますが、今年の化学賞が「超高解像度の蛍光顕微鏡技術の開発」に対して授与されたのは、2008年のものと類似の方向性のように思います。下村脩先生がオワンクラゲから緑色蛍光タンパク質を発見して、それがマーティン・チャルフィーおよびロジャー・チェンによる遺伝子操作技術と合わせて、世界中の研究室で分子や細胞の標識に用いられるようになったのでした。1993年のキャリー・マリスも、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)という、これまた分子生物学の研究室であれば、どこのラボでも日常的に行う技術の開発です。

分子の構造決定に用いられるX線回折法は、例えば1962年のジョン・ケンドリューによるヘモグロビンの構造決定にも用いられましたが、1964年のドロシー・ホジキンがペニシリン、ビタミンB12、インシュリン等の構造決定を行ったことで受賞対象になりました。比較的新しいところでは、2003年のロデリック・マキノンがカリウムチャネルの構造決定によりノーベル化学賞を授与されました。同様に、高分解能NMR技術の開発により、1991年にリヒャエル・エルンストが、なぜか田中耕一さんと同じ2002年にクルト・ヴュートリッヒが(再度?)NMR技術で授賞していますね。

つまり、有用な、汎用性の高い技術の開発は受賞対象になる確率が高いと思います。

今年の生理学医学賞は「脳内の位置把握に関わる細胞の発見」に対して、ジョン・オキーフ博士、メイ=ブリット・モーゼル博士およびエドワルド・モーゼル博士に与えられました。昨年、2013年は小胞輸送、2012年はリプログラミング(初期化)、2011年は自然免疫と、神経系での授賞は2004年のリチャード・アクセルとリンダ・バック以来、10年ぶりということになります。……おっと、昨年の小胞輸送の受賞者のお一人、トーマス・スードホフ博士の研究は、シナプス小胞が関係する神経伝達についてのものでしたから、10年ぶりというのは不適切でした。
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オキーフ博士が1970年代に提唱し始めたのは海馬の中に「場所細胞 place cells」が存在するということでした。二次元空間の場所の感覚をラットが記憶し、特定の位置を通過するときに、海馬の中の特定の細胞が発火するという発見は、当時、斬新なものとして受け止められたことと思います。

「記憶に関する海馬の重要性」という意味であれば、オキーフ博士とともに、有名な患者HMについての報告を行ったカナダのブレンダ・ミルナ−博士(右の画像は、Wikipediaから拝借。TEDxMcGill2011のときのもの)が共同受賞となる、という選択もありえたのではないかと思います。

委員会はそういう組み合わせではなく、モーゼル夫妻を共同受賞者にした訳ですが、彼らは海馬と繋がっている嗅内野という部分に着目し、場所を認知してナビゲーションする細胞が、六角というか三角というか、そういう格子状に並んでいるらしいことを突き止め、そのような細胞にgrid cellsという名前を付けたのでした。

ちなみに、オキーフ博士は2012年に仙台を訪問されていました。「脳と心のシンポジウム」という国際シンポジウムで講演され(残念ながら所用により聞き損ねましたが)、その後、松島などを訪問されたようです。(松島遊覧船でカモメにはしゃぐオキーフ先生の画像は東北大学電気通信研究所の坂本一寛さんのFacebookから借用させて頂きました)
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場所の認知とその記憶、そしてその想起は、まだ二次元から三次元に理解を広げる必要があると思いますが、個人的には四次元に繋がる「時間の認知・記憶・想起」が面白いと、ずっと思っています。すでにイムノグロブリン遺伝子の組換えによりノーベル生理学医学賞を授賞されている利根川進博士は、理化学研究所・脳科学総合研究センターのセンター長でもありますが、マサチューセッツ工科大学(MIT)にも研究室を持っておられ、海馬の機能についての研究を展開されていますが、直近でScience誌に発表された論文では、時間の記憶に関わる特殊な細胞が嗅内野にあるのではと考え、この細胞群を「島細胞 island cells」と命名しておられます。ちなみに、この論文の筆頭著者は北村貴司さんです。

時間の認知・記憶にはいろいろな単位があります。東北大学の虫明元教授らは、運動の制御という観点から秒単位の時間を測る細胞が大脳皮質の運動野の一部に存在しているという内容をNat Neurosci誌に発表されました。私自身はもう少し長い単位の時間の認知・記憶に興味を持っています。例えば、カケスは4時間前に隠した餌と、124時間(つまり5日以上前)に隠した餌を区別して覚えているということが報告され、鳥も過去についてのエピソード記憶を持つらしいと考えられています(Clayton & Dickinson, Nature, 1998)。では、未来についての時間感覚はどうなのでしょう? 子どもが小さいうちは、「明日」くらいしかわからないのに、だんだんと「一週間」や「一ヶ月」「一年」という長さが理解できるようになり、もっと抽象的な「将来」まで人間は考えられるようになりますが、動物ではどうなのでしょうか?

もちろん、同じような興味を抱く研究者は他にもいます。大阪大学の北澤茂教授は、文部科学省の支援による新学術領域「こころの時間学」というプロジェクトを立ちあげ、認知科学だけでなく、心理学や言語学、哲学の分野の研究者まで巻き込んだチームで「時間」の認知のされ方について解き明かそうとチャレンジされています。今後の展開がとても楽しみです。


by osumi1128 | 2014-10-09 23:54 | サイエンス | Comments(0)

2014年ノーベル化学賞と母校の後輩のこと

ノーベル週間です。昨日の物理学賞が青色発光ダイオードの発明に関して日本人3名の受賞(画像はノーベル財団HPより)となったので、メディアはそちらで持ちきりですが、拙ブログは自分目線でのエントリーを続けます♫
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本日は化学賞の発表でした。その受賞対象はなんと「超解像蛍光顕微鏡」!(同じく画像はノーベル財団HPより) 化学賞としてはかなり珍しいのではないかと思います。化学は専門ではないですし、今年は2012年の山中さんのときのように、連続エントリーすることもないだろうと思っていたのですが、ちょっと待て、このネタなら書きたいことがありました。
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実は、先日、高校の後輩、有薗美沙さんが来て下さって、このような超解像顕微鏡を使ってマウスの神経細胞のシナプスの様子などを「生きたまま、超解像度で」観察して研究を行っている、というお話を聞いたところだったのです。有薗さんは、現在、理化学研究所脳科学総合研究センターの御子柴克彦先生の研究室に所属しつつ、フランスのボルドー大学の研究室に留学中です。この超解像蛍光顕微鏡を用いると、光の波長よりも径の短い分子さえも捉えることが可能となります。

「母校でセミナーなどしたい」というご希望を伺ったので、昨年、東北大学を訪問したスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)のご担当の宮城政昭先生にお話をつないだところ、ちょうどまさに昨日、Intelligence Cafeと呼ぶ活動でお話されたということを、宮城先生から伺った次第。ご縁ですね……。
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真ん中が有薗さん、右端は校長の原田和雄先生(うーん、セーラー服が懐かしい……)。皆さん、とても熱心にお話を聴いたそうです。(画像は許可を得て掲載しています)
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少人数だったためinteractiveに発表ができてとても楽しかったです。
カルシウムイメージングや一分子イメージングの動画、また超解像の画像に驚きの声があがり、イメージング技術の感動が伝わってとても嬉しかったです。
私自身も科学に興味のない母親に相手をしてもらって発表を練ったり学生の皆さんの反応をみることで、研究者以外の人へどのように自分の「わくわく」をわかってもらうかについて勉強することができました。
このintelligent cafeの取り組みは本当素晴らしいのでどんどん盛り上がっていけばいいなと思います。(有薗さん談)
研究の「わくわく」をどんどん伝えていけたらいいですね!

ちなみに母校ネタでは、先日、ウルグアイ大使に任命された同期の田中径子さんのプチ壮行会を、共通に存じ上げている東北大学法学研究科の水野紀子先生とともに、同じく昨日に行ったところでした。地球の反対側ですが、頑張って下さい!


にわかに始めたウルグアイ勉強の情報ソースの1つはこちら。1980年代に日本で2人目の女性大使としてウルグアイに着任された赤松良子氏のエッセイ『うるわしのウルグアイ』。

by osumi1128 | 2014-10-08 22:55 | サイエンス | Comments(0)