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東北大学縁の女性研究者#3:小谷元子先生

昨年度から東北大学世界トップ拠点、原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)の機構長になった小谷元子先生は十年来の友人です。
実は、中学校、高等学校が同じだったのを知ったのは、職場が同じ東北大になってから。
純粋数学とくに離散幾何解析学が専門の小谷さんは、2005年に猿橋賞を受賞されています。
すでにCREST研究「離散幾何学から提案する新物質創成と物性発現の解明」でもも数学の応用に取り組んでいますが、上記のWPIでは「数学と材料学の連携」を目指しており、機構の若手のメンバーのコラボレーション促進に尽力されているところです。
日経サイエンス紹介記事:フロントランナー 挑む 第22回 不連続なものの形の本質を探る(2013年1月号)
日経オンライン:「材料科学と数学を融合」 東北大原子分子材料科学高等研究機構長の小谷元子氏に聞く
知の明日を築く(2013/1/17)

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(画像は理学研究科・理学部HPより転載)
その小谷さんが、ケンブリッジ大学名誉教授のJohn Henry Coates先生を日本にお招きし、「週末どこにお連れしたら良いかしら?」と相談されたので、松島&被災地見学ツアーに御相伴することとなりました。
初日の松島は、私は東京で仕事が2つあったために夕食後からの参加でしたが、事前に「日本の古美術蒐集がご趣味」と伺っていたので、そのあたりの話題を振ってみると、出るは、出るは……

「どのあたりがお好きなんですか?」
「16世紀の有田が中心ですね。いろいろ集めていますよ」
「じゃぁ、根津美術館は行きましたか?」
「そこは行った。戸栗も行きました」
「じゃぁ、サントリー美術館は?」
「それはミッドタウンにあるものですか? ちょうど歌舞伎の展覧会になっていました」
「それは歌舞伎座が新装開店だからですね、残念。今度、正倉院展という、天皇家のお宝が年に1度展示されるときに合わせて来日されると良いかもしれません」
「それは是非、行ってみたいね。いつですか?」
……などと続き(←ほとんどオタクの会話ww)、収集品の画像をMacBook Airのモニタで見せて頂きました。

今回、韓国・日本滞在中にネットで購入したというお宝をトランクから出して見せて下さったのですが、江戸時代(たぶん)の、大きめの掛け袱紗(贈答品の上にかける布)のようなもので、とても凝った日本刺繍のモチーフは寿老人が鹿を伴っているというもの。
鹿の毛並みや、寿老人の衣服の襞まで、立体的に刺繍してある技術は、それはそれは見事なものでした。いやー、眼福至極。
うーん、ネットの2D画像でこれを落とせるという感覚は、只者ではないと感服致しました。
いえ、数学ではもちろん超有名な方なのですが、私との接点はアンティークだったので。

翌日は雪の松島となり、五大堂や福浦島を歩いて巡って、お土産物屋さんをひやかしてお昼を軽く頂いたあと、タクシーで宮城野区中野、荒浜、閖上と連れて行って頂きました。
中野ではちょうど、慰霊碑のある向かい側の仙台市立中野小学校に子どもたちや保護者の方々が集まっていて、ちょうど来週に行われる予定の校舎やプールのお別れ会のリハーサルをしているところでした。
慰霊碑に手を合わせた後、近づいてこられた地元の方が「この辺りは大変だったのですよ……」と話しかけられ、「そちらの外国の方は偉い方なのですか?」と聞かれるので、「ケンブリッジ大学の数学の先生です」「彼のお弟子さんが、300年越しの難問を解いたのです(←フェルマーの定理を解いたアンドリュー・ワイルズのこと)」と説明しましたら、「一緒に写真を撮ってもらえませんか?」と請われて記念撮影しました。

d0028322_2059186.jpg詳しくご案内下さったタクシーの運転手さん曰く「瓦礫の撤去は終わって、ようやくこれから解体作業だね。復興はまだまだかなぁ……」
昨年8月にも行った閖上は、桜の木が戻って来ていました。
開花は4月の半ば頃だと思います。

【関連URL】
拙ブログ:閖上に行ってきた
by osumi1128 | 2013-03-31 21:00 | ロールモデル | Comments(0)

神経神話のウソ? ホント?

ちょっと地元新聞の小さな連載コラム用の原稿を書いていて、「神経神話」についてこのようなweb記事を見つけました。
*****
さて神経神話クイズです。下記に挙げたなかで神経神話だとされているものは、いくつあるでしょうか。

1 私たちの脳は10パーセントしか使われていない
2 脳に関して重要なことはすべて3歳までに決まってしまう
3 幼児期における語学などの早期教育は必要である
4 クラシックを聞くと頭が良くなる
5 人には左脳タイプ、右脳タイプというものがある
6 成人の脳は新しい神経細胞をつくらない
7 ゲームをすると脳を刺激させ、脳を若々しく保つことができる
8 男性の脳と女性の脳は違う
9 お酒を飲むと脳の神経細胞が殺される
10 記憶力は向上させることができる
11 眠っている間も学習することができる
12 クスリは脳に穴を開ける
13 ワクチンは自閉症を引き起こす
*****
これ、すべて嘘(=神経神話)だとされているのですが、8は異議ありですね。

おそらく「男性の脳と女性の脳は違う」と言ってしまうと、違いが強調されるすぎるからなのかもしれず、フェミニストからは気に入らないと思われるでしょうが、生物学者としては「違うよね」と言いたい。

先日、遺伝リテラシーに関する学術会議のフォーラムで、「遺伝子が異なる」ということが「差別」に繋がるからよろしくない、というご意見がありましたが、全ゲノム解析時代になれば、「一人ひとり皆、ちょっとずつ違う」(異なるSNPの組み合わせなど)ことが理解されるようになるのではないかと思います。
また、DNAレベルの違いだけでなく、実際にはエピゲノムレベルの違いも大きいので、「遺伝子決定論」も、実は正しい部分とそれだけでは決まらない部分がある、ということが理解されれば、異なる塩基配列(ACTG)も「怖くない!」と思えるようになるのでは?

そういう意味で、一人ひとりの脳も、実はちょっとずつ異なるし、男女の脳も、形のレベル、機能のレベルでの違いがあることも理解が浸透して欲しいと思います。

「違う」ということは「優劣」ではないのですから。
by osumi1128 | 2013-03-23 22:17 | サイエンス | Comments(0)

楽しくなくちゃ!:リケジョトークはエンドレス♫

先週、紀伊國屋書店新宿南店で行われたトーク・イベントに行ってきました。
3階のタリーズさんの傍に設えられた会場に現れたのははこだて未来大学美馬のゆりさんと、毎日新聞社の元村有希子さん。
のゆりんさんは情報科学がご専門。
元村さんは、大学受験直前まで理系だったとのこと。
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お二人のトークショーがセッティングされたのは、どちらも昨年末に、『理系女子(リケジョ)的生き方のススメ』『気になる科学 (調べて、悩んで、考える)』を上梓されたことによります。

女子校出身の美馬のゆりさんは、理系的プラス女子的。
分析的かつコミュニケーションが得意。
これはイノベーションを進めるのに重要かもしれませんね。
そして、楽しく生きるという観点も。

元村さんが、毎日新聞の科学環境部に配属されたのは三十代半ば。
もともと理系だったのが、大学受験前に文転。
どうしようと思ったけど、わからないが武器になって、読者目線で記事が書けたとのこと。

美馬さんと、元村さんの出会いは、子ども向けのマンガ理系白書を作るという、文科省の仕事。
その折に、女子の主人公の役割についての意見で意気投合。
トークショーでも、お話が途切れず続きます♫

お二人とも、本の執筆の打合せしたわけでは無いのに、同じような話題や、テーマなどが挙がっていてびっくりとのこと。
イグノーベル賞や、時事問題でもある出生前診断なども。
また、お互いの本の中に、互いが匿名で登場しています。

元村さん曰く、現代は科学の進歩に社会が置いていかれる感じ。
知らない人が損をする的な言い方は気になる、と。
震災後に、これまでの科学報道への反省での落ち込みがあったけど、二年経って少し回復されたとのこと。

美馬さんは、かつてお台場の科学未来館の副館長で、サイエンスアゴラの発案者。
日本の科学技術の最先端を伝えるのが楽しかった。
今は函館でのローカルな活動をされています。
函館は、科学館が無いけど、ハコモノを作るのではなく、大学や研究機関をショーケースにしてしまおうという発想が、たぶんリケジョ的です。

私は元村さんのこの言葉を、今回のトークのお持ち帰りメッセージにしました。
科学は身近なもの。息をするように科学を楽しむ。水を飲むように科学を味わう。


それぞれからのお勧め本の紹介の後、来場者からの質疑応答もあって終了。
その後、サイン会となりました。
女子会には参加できず残念でした。
また近々お目にかかれれば!
by osumi1128 | 2013-03-16 23:33 | ロールモデル | Comments(0)

東日本大震災から2年目を迎えて

今日は東日本大震災からちょうど2年。
被災地だけでなく全国でさまざまな催しがあったことと思います。

私は東京出張で用務が2つありました。
昨年に続き、この日を皆とともに仙台で迎えられなかったことは、少し心残りです。
代わりに、東北大学大学院医学系研究科HPの震災関連記事をご紹介しておきます。

大内研究科長からのメッセージ
Message from the Dean
教職員黙祷の様子
東日本大震災に関連した研究成果等
東日本大震災記録集(PDF)
医学系研究科の取組み
東日本大震災の医学系研究科公式Twitterの記録

一番最後に紹介したTweetsまとめを改めて読みなおして、2年前のことを思い出しました。
土曜日に東北大学災害復興新生機構シンポジウムの後の懇談会の乾杯ご挨拶を頼まれ、普通こういうのは年長者がすることではとも思いましたが、お引き受けさせて頂いて、ちゃっかり女子学生入学百周年の宣伝もしつつ、まとめの言葉は、昨年、塩野七生さんが鼎談「瓦礫と大理石 廃墟と繁栄」で離されたことを引用しました。
この東北の地に人々が集まってくれば、きっと復興に繋がるでしょう。
起きてしまった震災を受け入れて、少しでも役に立つことができたらと願っています。

【拙ブログ】
ついに来た!M9.0@東北 (2011年3/12)
311震災から一年を迎えて(2012年3/11)
by osumi1128 | 2013-03-11 23:12 | 311震災 | Comments(0)

『よつばと! 第12巻』よつばちゃんはリケジョになるか?

d0028322_17591179.jpg昨日のこと、予約してあった『よつばと! 第12巻』がAmazonさんから届けられて一気読み!
巨匠と呼ばれる「あずまきよひこ」さんの『よつばと!』シリーズは、大好きな漫画です。

もう10年くらい前からの作品らしいのですが、物語は緑色の髪の毛という設定の5歳の「小岩井よつば」ちゃんが、5歳の7月、世間が夏休みになる頃に、綾瀬家の隣に引っ越してくるところから始まります。
1話が1日分くらいで進むので、10年経ってもよつばのカレンダーでは5歳の10月末くらい(笑)。

よつばは「とーちゃん」と呼ばれる翻訳家のお父さんに育てられているのですが、隣のお家の三姉妹(あさぎ、風香、恵那)やそのご両親、ジャンボ、やんだ、と呼ばれるとーちゃんの仲間などなど、皆に愛情を注がれているのがわかります。
妙にオトナな言葉を知っていて、でも使い方が微妙におかしかったり、子どもって、あぁ、こういう場面、いろいろあるよねー、という可愛いエピソード満載なのですが、今回改めて気づいたのは、よつばは未来のリケジョになるかも?ということでした。

よつばは周囲の生き物だったり、人間だったり、モノだったり、ものすごくよく観察しています。
(……という様子を、作者のあずまきよひこがよく見ている、ということでもあるのですが。
たしかに、背景のものすごく細かい描き込みなども、同じ指向性かも)
以下、ネタバレになるので、これから12巻を読もうと思っている方は飛ばした方が良いかもですが(笑)、今回のエピソードの1つに、青色のペンキを見つけて、それで机を青く塗る、というものがあります。

よつばは5歳の女の子ですから、当然のことながら、ペンキを上手に塗ろうとはするのですが、周囲にはペンキが垂れたり、それを踏みつけた足で歩いたところに足型が付いたり、ペンキの付いた手でこすった顔も青くなったり……。
で、机のペンキ塗りが完成して満足したよつばが、床が汚れていることにハタと気付き、雑巾で拭いても取れない。
え?と思って手を洗いに行くのですが……それも、と、取れない……!
よつばはかなり焦ります。
そして、周りを汚してしまったことにも気づき、とーちゃん(自宅で仕事をしています)から怒られるかとビクビクするも、仕事部屋から降りてきたとーちゃんは大笑い。
よつばが「(ペンキは)取れる?」と聞くものの、笑いながら「取れない(きっぱり)」と言い残します。

で、その後、いろいろ細かいエピソードを端折りますが、とーちゃんが魔法の水(アルコール)でペンキで汚れた床の掃除を一緒にやろうと勧めます(本当にアルコールでペンキが落ちるのか、疑問ですが、ボトルには「エタノール」らしき文字が読めます)。
よつばは「オトナの掃除だ!」と喜んで掃除に専念します。
そして……

……「てにそれしゅってして!」と、とーちゃんに言うのです!

この「ひらめき」って、科学者の卵だと私には思えます。
こういうセンスを伸ばしていったずっと先に研究もあります。
漫画の中でよつばちゃんがリケジョになるかどうかを見届けるのには、何年かかるのかわかりませんが、その素質は十分だと思います。
もしかすると、学校でいろいろなことを「教えられる」ことによって、自ら考えることが減ってしまうのかもしれませんね。

ともあれ、『よつばと!』は誰よりもイクメンに、そして未来のイクメンに一番読んでほしい漫画です。
子どもが少しずつ育っていく姿を見ることの楽しさがわかります。

とーちゃんは、よつばがペンキで汚した廊下を掃除して、最後1つだけ足型を残します。
「なんで?」
「んー、なんか記念だ」

是非お勧めです!!!

よつばと! 第12巻(あずまきよいひこアスキー・メディアワークス)
こちらもww
よつばとひめくり2013カレンダー
by osumi1128 | 2013-03-10 18:10 | 書評 | Comments(0)

時間の感覚(そしてプライスコレクションの話)

めまぐるしい1週間で、ブログ更新の時間が取れませんでした。
TwitterやFacebookのようなソーシャルメディアの利用が楽になったということも、まとまった内容のブログを書くことを妨げているのかもしれません。
でも、TwitterやFacebookは、基本的にはすでにwebに載っているコンテンツの二次利用が多いので、クリエイターとしてはコンテンツを作る方にエフォート割きたいのですが、種々、本来の業務があり……。
本日は「時間の感覚」というお題です。

今週、論文が1つ受理されました。
震災前から抱えていたものだったので、これでまた一つ、肩の荷が下りました。

昔は、論文投稿するのは国際郵便で、24時間営業の中央郵便局まで抱えて走った、という思い出を共有する世代の方々も多いと思います。
今はオンライン投稿が当たり前で、原稿はタイプした紙ではなく、ファイルを用意しておいて、それをアップロードしていくのですが、これがそれぞれの雑誌のスタイルが異なっていて、結構面倒。
アップロードに時間がかかるといっても、数時間で終わる訳で、郵便で送るよりははるかに短い。
かつては、さぁ、これでオフィスから届いた(received)のお知らせが来るまでは、acceptの期待に胸を膨らませて幸せな日々を過ごせる♫ とほっとした訳ですが、今は、「これこれがフォーマットに合っていません」「この項目が抜けています」などのお知らせが半日後に届いたり、あるいは「editorial reject」の連絡もあっという間に来ます。

あるいは、PCがいろいろなタスクをマルチにこなせるようになり、一つの画面での処理が遅いと、その間にメールを見たり、他の検索をしたり……。

そんな日々を過ごす間に、自分の時間の感覚はどんどん短い単位に移行している感じがします。
「待つ」という時間が持ちにくい。
もちろん、時間の感覚は生きてきた長さに反比例するという経験則のようなものもありますが、そこに昨今のIT化は拍車をかけている気がします。

お茶のお稽古に行く時間が取れていないのも最近の残念なこと。
お稽古の間、ほんのしばしでも、
お釜の煮え滾る音に耳を澄ませたり
お香の香りで鼻腔を膨らませたり
床の間の掛け軸の字を読んだり(←読めないので時間がかかる)
季節のお花のしつらいを愛でたり
茶筅を振りながら茶碗の中の景色だけを見つめたり、
……一切の余分な脳内マルチプロセスを排除してシングルタスクにするような、そういう時間が、実はとても大事なのかもしれないと、今、本当に思います。

さて、3月はいろいろな震災復興関連イベントが目白押しの仙台なのですが、イチオシはなんといってもこちら
仙台市博物館特別展「若冲が来てくれました プライスコレクション江戸絵画の美と生命」

先日、内覧会で見てきましたが、圧巻です!
作品数も多いですし、なにせお宝満載のプライスコレクションです!!!
そして、プライスさんご夫妻は「是非、子どもたちに見てほしい」ということで、高校生以下は無料!
若冲の圧倒的な作品の前で、時間を忘れる機会をまた作らなければ……。

中身を先に知りたい方はFUKUHENさんのブログをどうぞ!
でも、実際に見たら、もっと感動しますよ!
大きさも、質感も二次元はリアルに敵いません。

「若冲が来てくれました―プライスコレクション 江戸絵画の美と生命―」仙台市博物館

それから、こちらの豪華本、監修の辻惟雄先生は東北大学教授でもあられた方ですので是非!
ザ・プライスコレクション
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画像はiPhone撮影なので、ご勘弁あれ。
by osumi1128 | 2013-03-09 11:57 | アート | Comments(0)

野家先生の最終講義

d0028322_21581211.jpg団塊の世代の先生方が退かれるので、今年は73名(急遽、原山先生が追加)の大量退職となる年度末です。
最終講義もそれぞれ、あちこちで開催されていますが、本日は大ファンの野家啓一先生の最終講義が川内キャンパスB200号室で開催されました。
全国からもご関係の方々が集まられたようで、教室は立ち見も出るほどの盛況でした。

なんとタイトルは「無題(untitled)」だなんて、カッコイイ!
司会をされたのは門下の直江清隆先生

野家先生のご専門は科学哲学ですが、東北大学でご一緒した仕事は男女共同参画関係でした。
当時、副学長から理事として男女共同参画が所掌ミッションであったのですが、私としてはなんといっても東北大学図書館長であったことがもっともリスペクトしている点かもしれません。
最高学府の図書館の長というのは、もっとも「智」を治めている象徴だと思います。

野家先生はもともとは東北大学理学部の物理を専攻されたのですが、その後、哲学の道に進まれました。
冒頭で言われた、科学が未知の世界を水平的に広げるのに対し、哲学は既知のことがらを垂直に深化させるものである、という捉え方は、両方をご存知の先生ならではの鋭い比較だと思います。

イントロでは、半年前に最終講義の題目を求められて「無題」と伝えておられたこと、学生のレポートには「タイトルを必ず書くように」と伝えていて、それに対して「無題」というタイトルのレポートがあったら満点にしようと思っていたが、ついにそういう学生はいなかったこと、などの軽いエピソードが語られました。
本題では、そもそも「タイトルとは」というところから始まって、芸術の世界における「タイトル」が、「作品」という<主語>を説明する<術語>の関係になっている、という議論を展開されました。
そこから、話は<主語>の方に移り、日本語の<主語>は<主題>であることや、<主語>を<述語化>するクワインの存在論などに展開していき、巡り巡って、最後は先生が主張される「物語論」へと繋がりました。
知覚的事物への指示連関の強弱に応じて、各種対象は「存在濃度」をもつ。ただし、濃度の違いは程度「degree」の差であって、種類(kind)の差ではない。

このメッセージは、私にはすとんと腑に落ちました。
すべての存在は虚実入り交じったアマルガムであるという捉え方は、自分の感覚に近いものです。

終始、面白い喩えやジョークを織り込まれつつの講義で、最後のスライドでは、結局、非常に若い頃から「物語論」の萌芽があったこと、それに回帰していることを話された後、一番最後に、晩唐の詩人である李商隠の詩を挙げておられました(画像参照)。
出典は以下になります。
登樂遊原

向晩意不適,
驅車登古原。
夕陽無限好,
只是近黄昏。


このブログを書くためにWiki先生に訊いてみると、李商隠もまた「無題」の律詩を多数書いており、野家先生がご自分の最終講義に「無題」という題目を付けられたのは、その場の思いつきではないことがよくよくわかりました。

本日の最終講義に集まられた関係者の方々は、講義の後に、国分町でさらに議論を続けられたことと思います。
野家先生は、4月からは総長特命教授として、教養での講義に当たられるとのこと。
(なので、実は本当の意味での最終講義ではなかったのでした!)
またいつか、自由意志のお話などしてみたいです。
野家先生、どうぞお元気で!
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by osumi1128 | 2013-03-02 22:30 | 東北大学 | Comments(0)

東北大学ゆかりの女性研究者その2:水野紀子先生(法学研究科長)

d0028322_10374813.jpg今年は東北帝国大学(当時)に女子学生が入学して百周年なので、シリーズで東北大学縁の女性研究者をご紹介しています。
もっと頻繁にアップしたかったのですが、諸事情により遅れ気味……。
その1でご紹介した原山優子先生は、なんと今月から常勤の総合科学技術会議議員になられました!
総合科学技術会議議員名簿
これからの日本の科学技術政策の司令塔として、ご活躍頂きたいと心から応援しています!

第二回目は昨年度から法学研究科長を務められている水野紀子先生をご紹介したいと思います。

水野先生は、東北大学初の女性部局長であり、これは旧帝国大学の中でも初めて。
法学研究科は比較的早くから女性教授が多くなった部局ですが、部局長はトップダウンで決まるのではなく、ボトムアップに教授会構成員の互選により決定される訳ですから、水野先生が選ばれたということはとても大きな意味があります。
法学研究科メッセージ

水野先生のご専門は民法で、私が水野先生のお名前を知るようになったのは、国の「夫婦別姓制度」についての検討委員会のメンバーであった折に、何かの学内委員会の後の懇談会か何かでご一緒してお話を伺ったのがきっかけでした。
素敵なお宅にお邪魔してお茶をご馳走になったこともありますが、とにかく言葉遣いがなんというか、ほわんと丸くていらして、あぁ、見習わなきゃなぁ、といつも思います……。
厳しいことやキツイことも、水野先生に言われたらするっと腑に落ちそうな気になります。
そういう資質も、部局長というリーダーとして必要なことなのかもしれません。


先日、女性7名の女子会に男性1名という夕食会の折、話題になったのは、性転換して男性となった方がAIDによりパートナーの女性・妻に子どもを産んでもらうのは認められるかどうか、という、サンデル先生のトピックにしてもいいくらいの内容でした。
「AIDが許されているのであれば、元女性であってもその夫に同等の権利はあるでしょう」という意見もありましたが、水野先生は「子どもの側から見たら、自分の父親が実は女性であることを知った時点で、自分の父親が分からなくなり、アイデンティティーの喪失に繋がるのは宜しくない」というご意見でした。
私としては、もはや「ゲノム時代」に突入しており、誰もが自分のゲノムを知ることになれば、性転換はしていない父親であったとしても、生物学的な繋がりがあるかどうかは簡単にわかるようになるので、上記はあまり意味が無いのではないかと考えますが、これも、現時点の国民のゲノムリテラシーをどのように捉えるかによって、賛否両論だと思います。


実はちょうど昨日、日本学術会議主催のフォーラム「初等・中等教育課程における<ヒトの遺伝学>教育の推進と社会における遺伝リテラシーの定着」というイベントがあったのですが、フロアからのご意見として、「遺伝について教える」ことが、むしろ「差別」を生むことになるのではないか、と危惧する声が少なからずありました。
パネリスト側は、個人のゲノムを知ることは多様性の理解に繋がる、という立場にあり、より早い段階でリテラシーを付けることが、むしろ差別を解消するのではないかと考えていましたが、このような意識が浸透するのには、何度も対話が必要だと思います。

ちなみに、基調講演をされた元日本学術会議会長の金澤一郎先生はNPO法人遺伝カウンセリング・ジャパンの理事長をお務めです。
このNPOは次のようなミッションを掲げています。
「遺伝」という言葉をご存じでしょうか? 有名なメンデルのエンドウマメの形質が次の世代に伝わることや、人間の親から子にある種の病気が伝わること、などがいわゆる「遺伝」という現象です。

この遺伝の担い手が遺伝子で、その本体はDNA分子です。ですから、遺伝病はDNAのどこかに異常があって起こる病気です。

我が国では、一般社会の人々の誤解や無理解ゆえに、遺伝病の本人や家族には何の落ち度もないのに肩身の狭い思いをしておられます。ですから、患者さんや家族の人達はもとより、国民全体が「遺伝」や「遺伝病」を正しく理解する必要があります。

最近では、嬉しいことに「遺伝」や「遺伝病」について分かり易く説明してくれる「遺伝カウンセラー」が育ってきました。こうした遺伝カウンセラーの方々のもてる能力を十分に発揮してもらえるように、活動の環境を整備し、活動を支援し、その結果として社会全体の遺伝リテラシーの向上を図ることを目的として、私達はNPO法人を設立いたしました。

皆様のご協力を心からお願い申し上げます。

理事長 金澤一郎


ちなみに、東北大学大学院医学系研究科では、遺伝カウンセリングコースを開設しています。
医学系研究科の各種教育コース

このフォーラムにパネリストとして参加して、基礎医学研究者の生命倫理リテラシーも同様にもっと上げる必要があるのではないかと感じました。
普段、研究室の中だけで生活している研究者は、社会との接点が少ないので。
また追ってこの話題は取り上げたいと思います。

【関連リンク】
東北大学ゆかりの女性研究者#1:原山優子先生
by osumi1128 | 2013-03-02 11:07 | ロールモデル | Comments(1)