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地域住民コホート調査初年度の報告

もうすぐ東日本大震災から3年が経ちます。
復興事業の一つとして立ち上がった東北メディカル・メガバンク事業では、ゲノム・コホート調査の一貫として地域住民の健康調査をして、その結果を返却して協力頂いた方々の健康支援をサポートしています。
ちょうど今年度から本格的な調査が開始して、このたび3744人分の健康調査結果が集計され、昨日公表されました。
地域住民コホート調査初年度の第一次集計状況~調査協力者の27%に抑うつ傾向、5%にPTSDの疑いなど~
東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として計画され、宮城県では東北大学、岩手県では岩手医科大学が事業主体となり15万人規模のゲノムコホート調査を行っています。本調査では、2014年2月現在で2万人を超える地域住民の参加を得ています。
 東北大学は、東北メディカル・メガバンク計画の遂行のため、東北メディカル・メガバンク機構(機構長:山本雅之、以下ToMMo)を2012年2月に設立し、2013年5月から地域住民コホート調査を開始し、同じく2014年2月現在で9000人を超える宮城県からの参加者を得ています。そのうち、約4割にあたる3744人について、2013年12月末までに、調査を集計しました。
 集計状況から、3744人のうち27%の調査参加者に抑うつ傾向がみられ、被災体験や近親者の喪失の影響などが考えられます。更に、問診票調査の結果からは5%にPTSDの疑いが見られ、臨床心理士による電話等での支援が行われています。
 また約10%の調査参加者に心不全の指標、腎機能障害がみられましたが、これまでの研究と比べ著しい増加ではありませんでした。アレルギー検査では、実施した33種の項目のうちスギ花粉に関するものの割合が約40%と最大で、加齢とともにその割合は低下していくことがわかりました。
今後、コホート調査の結果の整理を進め、震災後の住民の心身の健康に影響を及ぼしている身体的・心理的・社会的な諸要因を明らかにし、支援や復興策の充実に結びつけていきたいと考えております。
こちらを元にして、本日までにいくつかの報道が為されたのでクリッピングしておきます。
震災のような過酷な環境変化は、弱者にとってより厳しいものだということを肌で感じています。


NHKニュース
ミヤテレ

「コホート調査」途中経過発表 27%の住民が「抑うつ傾向

河北新報

by osumi1128 | 2014-02-28 19:31 | 311震災 | Comments(0)

旅の総括(後編):ELyTワークショップ@フレジュス

無事に帰国しました。時差調整も大丈夫そうです♬ どちらかというと時計遺伝子が壊れているのかもしれません(苦笑)。

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*****

出張後半は南仏のフレジュス(語源はユリアスの広場という意味。かつてローマ帝国が現在のフランスまで広がっていたことがわかりますね)というところで開催されたワークショップへの参加でした。

リヨンからフレジュスまでの予定の列車が遅れて、乗り継ぎが違う列車になるなどの予定外のことはありましたが、大きな問題はありませんでした。

途中の車窓からは、いかにも南仏らしい建物や、葡萄畑が眺められました。


フレジュスの街はリゾート地らしい雰囲気で、しかも、道路にほとんど信号が無い。

イギリスのラウンドアバウト(round-about)とはちょっと形が違うのですが、でも似たような感じで、タクシーの運転手さんは迷うことなくどちらの車線にいれば、その先のカーブでどちらに曲がれるのかわかっているようでしたが、初めて来た方には辛いのではないかと思ってしまいました。


東北大学はリヨンのいくつかの研究機関との連携によるELyT Labという活動を行っており、数年前からワークショップとELyT Schoolというレクチャー・コース(施設見学なども含む)を開催しています。

立ちあげ第1回目はリヨンでの開催で、その次が仙台、その後、フランス側も少しずつ違う場所で開催していて、今回はCNRSの研修センターで開かれました。

フランスリヨン所在の著名大学であるECL(エコールセントラルドリヨン)並びにINSA-Lyon(フランス国立応用科学院リヨン校)、CNRS(フランス国立科学研究センター)と東北大学の4者を中核として結成された共同研究組織ELyT Lab(エリートラボ)は毎年、フランスと仙台で交互にサマースクール(ELyT School)を開校しており、毎年交互に仙台とリヨンでELyT SchoolやELyT Workshopを開催しています。
ELyT School in Lyonでは、東北大学は博士課程前・後期に在学する大学院生を派遣して、
  1. フランス等外国の文化・制度・教育・科学について受講し体験する、
  1. 全日程を通して英語で受講し、学生自身英語で発表し質疑応答する、また、英語・フランス語で生活する、
  1. 国際共同施設を見学する、
等の機会を提供する事にしています。

東北大学がグローバル化を推進する事業の一つとして位置付けられているので、最初の開会挨拶には、東北大側からは研究担当理事、国際交流担当理事がご参加でした。

かなりの内容が工学系なので私にとってはちんぷんかんぷんなのですが、まぁ、門前の小僧というつもりで参加しています。

こちらの話をする際にも、かなり異分野の方が聴衆であることを意識して、なるべく専門用語を使わないように心がけます。

英語がネイティブではない方々とのジョイントなのは、語学に関して劣等感を持たずに済むのが有難いですね。

 

このワークショップがきっかけで、この春からはダブルディグリー・プログラムの博士課程大学院生の方が来ます。

まぁ、そういう留学生リクルートや共同研究の仕組みでもあり、東北大学からリヨンへ留学する学生さんもいます。

 

以前よりも留学する人が減ったということを懸念して、文科省では「トビタテ! 留学JAPAN」を展開し、「恋するフォーチュンクッキー」の替え歌で「留学応援song」まで作ってプロモーションしています。

世界中から食材や衣料品が輸入され、インターネットで世界の様子も簡単に分るようになった今、わざわざ行ってみるほどではないと思う人が多いのかもしれませんが、やっぱり「百聞は一見如かず」なことが多いです。

また、せっかく留学するなら若い内の方が良いですね。

一生の友人が世界にいるのは素敵なことだと思います。


【関連拙ブログ】

留学のススメ

留学応援song:1分30秒後くらいに東北大学の有志の姿も!

by osumi1128 | 2014-02-23 09:18 | 旅の思い出 | Comments(0)

旅の総括前篇:リヨン訪問

ただいま第二の訪問地フレジュスですが、ネット環境が悪いので、画像は追ってアップします。
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TGVの列車の中です。
リヨンからエクサンプロバンス経由でフレジュス入りするはずが、最初の列車が15分遅れで乗り継げず、アビニョンにて乗換えとなって予定よりも到着が1時間以上遅れる見込み。
やれやれ、今回はなかなかすんなりいかない旅程です(笑)。
とりあえず旅の総括前編をしてみます・

今回のお伴の書籍は無し。
というのは、翻訳監修の仕事があって、それを片付けるのが先という至上命令だったのです。
原著はノーベル賞受賞者Eric KandelらのPrinciples of Neural Scienceの第5版。
抱えてくるには重すぎ、大きすぎですが、Kindleで買ってiPadに落としてくればまったく平気ということに気づきました。
これならどこでもオフィスですね♬

夜中の羽田便だったのですが、往路の新幹線が雪と風で一時運休の影響が残っていて、はやてに乗ったものの東京到着が3時間くらいかかりました。
途中、すぐ後のはやぶさには追い越されたので、今度同じような状況に陥ったら、はやぶさを選択するようにします。
それでも羽田に出発2時間前に着いたので、落ち着いて搭乗することができました。

パリ到着は、まだ薄暗い朝の6時半。
入国審査にかなり時間かかって、TGVの駅に辿り着いて、予約していた列車の変更をしました。
というのは、パリのリヨン駅からリヨンまでの列車を予約していて、それですと、空港から市内まで出ないといけなかったのですが、実際にはCDG空港から直接、しかもノンストップで2時間でリヨン到着という列車があったのです。
(今から思えば、このCDG駅で、他の切符の変更や追加も済ませるべきでした……)

予定の列車をリヨンで降りて、迎えに来て頂いたホストのお一人、INSA-Lyonの心臓・代謝・栄養研究ユニット(CarMeN)のNathalie Bernoud-Hubacに、リヨンからフレジュスまでの列車を、彼らが乗るのに合わせて変更するのを助けてもらったのですが、まぁ、時間のかかることかかること……。
何がそんなに問題なのか、フランス語でナタリーが会話しているので、まったく不明。
ともあれ一件落着と思って車でINSA-Lyonまで来たところで「この帰りのフレジュスからの列車が、パリまでではなくて、リヨンまでになっている!」ということに気づいて、「ごめんなさい、後でまた駅で変更しないと……」ということになりました。

4月からダブルディグリー・プログラムで来る予定の学生さんと打合せをして、一緒にお昼を頂いて、しばしメールチェックさせて頂いた後に、今度はその学生のAmandaにホテルまで送ってもらいがてら、駅に寄りました。
さて、そこから再度、フレジュスからCDG空港までの切符に変更してもらったのですが、もらったチケットの終着駅がパリ市内になっている!!!
さすがに今度はすぐに気づいて、再度変更してもらいましたが、いったいなんでこうなるの???

一つには、駅の窓口係の方の端末操作レベルが、JRさんの窓口とはえらく違う、という人的な問題があるでしょう。
ただ、チラッと見たモニタの入力画面は、あまりにもわかりにくいものだったので、そういうハード面?の問題もありえます。
でも、要するに、こういう状態だから皆が自分でネットで買うのが当たり前になってきたのね、ということは納得がいきました。
実際、もしかしたら、私が日本からネットで予約した画面の方が操作性は良かったような気がします。

d0028322_11010675.jpg2日目は、朝9時半にホテルにお迎えに来て頂いて、2つ目の訪問先のStem Cell & Brain Research Instituteに行きました。
マウスやサルの大脳皮質構築に関して著名な研究成果を挙げておられるColette Dehay先生のホストでセミナーをさせて頂きました。
画像はColetteとのツーショット。
手前に見えるのは、お土産にした可愛らしい布製の兎のお雛様。

この研究所はフランスの研究機構INSERMに属していますが、幹細胞と脳科学の研究者がPIとして10名程度集まっているという、ちょっと異色のところです。
セミナーの後で7名の研究者(1名のみColetteのポスドクさんで他はPI)と30分ずつのアポイントで話をした際に訊いてみると、要するに幹細胞も脳科学も、その中に非ヒト霊長類(つまりサル)を扱う方が数名いるので、その設備をシェアする、というところがポイントだったようです。

幹細胞では脳研究との境界領域である神経新生の研究者もおられましたが、他には鳥類のES細胞を樹立されている方などもいて、とてもユニーク。
ニワトリのES細胞を何に使うかというと、ワクチンを賛成させる細胞として応用できるとのことです。
それは確かに需要があるでしょう。
脳科学でも、cingulate cortexの皺が1本のヒトと2本のヒトでは、fMRIで見たときの画像の位置が若干異なるが、topologicalには同じと考えてもよい、というお話を聞きました。
でも、ということは、現在、普通に「テンプレート」に当てはめたり「平均化」している脳画像解析というのは、ずいぶんとバグを含んでいるものなのかもしれないと思いました。
このあたりは、今後要注意の研究ですね。

(旅の総括:後編につづく)

by osumi1128 | 2014-02-20 12:41 | 旅の思い出 | Comments(0)

最相葉月さんの『セラピスト』を読んで

d0028322_08032579.jpg初期のベストセラー『絶対音感』だけでなく、『星新一』や『ビヨンド・エジソン』など、インタビューによって人物に迫るノンフィクションでも独自の世界を展開される最相葉月さんの近著、『セラピスト』を読みました。

『星新一』などを読んだときと違って、今回は一気呵成ではなく、1章、1章、噛み締めながら読んだのは、本書の中に最相さん自身がカウンセリングを受けたり、施したりするという内容が含まれていたからかもしれません。

本書で扱われる「セラピスト」は、精神科医や臨床心理士など、いわゆる「カウンセリング」を行う方であり、こころの病を抱えた相談者(クライエント)に寄り添う仕事をする立場の方です。
この場合のクライエントは、こころの病を抱えた本人やそのご家族なども含みます。

もっとも大きく取り上げられているのは、日本にユング派の心理学を持ち込まれた河合隼雄先生と、精神科医の中井久夫先生ですが、その他にも何人かのセラピストが登場します。

河合隼雄がこころの病を癒やすために開発された芸術療法の中でも、「箱庭療法」が日本人に向いているではないかと工夫されたこと、その歴史や経過はとても読み応えがありました。
なんでも「言葉」にする西洋的なマインドとは異なる日本人にとって、「箱庭」をつくることは、こころの内面を表し、それを自身で見つめることによって自身のこころを立て直していくことに繋がる、というのが河合先生の意図されたことでした。

中井先生は画用紙に絵を描いてもらうことによって、クライエントのこころを感じ取ろうとする「色彩分割」「なぐり描き」「風景構成法」などを発展されました。
一人のクライエントとのセッションにかかる時間は約1時間ほど。
症状を訊いて薬を出すだけではない介入には、とても時間がかかります。

私自身がもっとも興味を持って読んだのは、本書の終わりの方に書かれた「だんだん<こころの病>のありかたが変わってきた」という部分でした。
例えば、「対人恐怖症」や「赤面症」に悩む人は減っています。
これは、「対人恐怖」が困るなら「引きこもればいい」という対応が昔よりも容易になったことによります。
「産業革命によって統合失調症(精神分裂病)が増えたという考え方があるそうです。
第一次産業を主体とした社会では「社会性」の必要度は低かったし、幻覚や幻聴のある人が「シャーマン」的な役割を果たしたかもしれません。
自閉症が増えたことにも、社会構造が変化したから、という解釈があります。
また、甲南大学のカウンセリングセンターに勤務する高石恭子氏の話によれば、最近は「もやもやしている」という言い方に象徴されるような、自分の感情が「怒りなのか悲しみなのか嫉妬なのか」分化していない相談が多いそうです。
このようにこころのあり方が自分にも見えていないと、言語によるカウンセリングだけでなく、箱庭療法さえもやりにくい、ということも書かれていました。

さまざまな社会的要因がいわゆる精神疾患の発症に影響することは大いに考えられます。
ただ、私自身は例えば自閉症が社会の構造が変化したことのみで生じているとは思っていません。
下のグラフは2011年にNature誌に掲載された記事から取りました。
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左のグラフは、1975年から2009年までの時点で自閉症と診断される方が5000人に1名だったのが、110人に1名に急増していることを示しています。
最近では88人に1名という報告もあります。
右の円グラフはその理由について考察したものであり、約25%は「診断基準が変わった」ことによるとされています。
つまり、それまで「精神遅滞」と診断されていた方が「自閉症」と分類される、というようなケースがこれに相当するでしょう。
その次に15%とされているのは、社会における認知度が上がったという理由です。
「自閉症」という言葉が人びとの間に知られるようになったことによって、例えば小学校の先生が「お子さんは<自閉症>の疑いがありますので、専門家に診断してもらってはどうでしょうか?」などと保護者に伝えるなどがります。
その次に10%の要素として上げられている「両親の年齢」に私は着目しています。
それは、これらの要素の中で唯一「生物学的要因」が含まれるからです(後述)。
4%として上げられている「social clustering」というのは、例えば、ハリウッドには良い自閉症の専門医やセラピストがいる、ということが広まって、自閉症の子どもを持った家族が、ではハリウッドに引っ越そうとなって、その地域の自閉症のお子さんの数・割合が増える、という場合です。
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案外、みなさんご存じないことなのですが、自閉症の発症と「父親の年齢」の間には、高い相関があります。
右図は、若い父親における自閉症発症率を1とした場合に、例えば50歳異常の父親ではその割合が9倍以上に上がると見積もられることを示しています。
この30年の間に、結婚年齢が遅くなったこと、また1978年から始まった生殖補助医療としての体外受精(IVF)も、結果として、女性が子どもを持つ年齢のみならず、その配偶者である父親の年齢も高齢化することになります。

上記の円グラフでは、46%が原因不明となっていて、他にも生物学的な要因があるのかもしれません。
基礎医学者という立場からは、そのような生物学的要因を明らかにすることにより、自閉症の子どもの早期発見、早期介入に役立つことができたらと考えています。

『セラピスト』の中には、箱庭療法を通じてコミュニケーション力を付けていったお子さんの事例が取り上げられていました。
「自閉症」と診断される子どもでも、その症状は様々であることを、私自身、発達障害の外来見学を1年ほどさせて頂いたときに実感しました。
一人ひとり、違った「自閉症」のあり方をとるのであれば、その治療・介入の仕方もパーソナルなものでないといけないのでしょう。
他のこころの病の場合も同様です。
そのためには、現状よりも多くのセラピストが現代の社会に必要なのだと思います。
また、生徒や学生の育ちに関わる教師・教員という立場の方には、セラピストとしての素養がより求められるような時代なのかもしれません。

【関連リンク】
HONZの仲野徹先生@阪大による愛あふれた書評♫
拙ブログの最相葉月さん著書関連:

『ビヨンド・エジソン』にみる12人のロール・モデル【加筆しました】 


by osumi1128 | 2014-02-15 08:50 | 書評 | Comments(1)

小保方さん関係(その8):「リケジョと割烹着」後日談【追記しました】

普段、科学に関心の無い方々まで巻き込むフィーバーはいずれ(オリンピックも開幕したし)収束するとは思っていましたが、さらにハイ・インパクトな話に持って行かれるというのは想定外でした。
まぁ、スキャンダルは強し。
でも、科学業界のスキャンダルよりも、明るい話題が上ったことは良かったと思います。

ところで、小保方さん関係ブログの2つめのエントリーとして「リケジョと割烹着」というタイトルの文章を書きました。
そこに以下のように書いたのですが……。
「割烹着」という言葉から、この衣服はもともと料理のために創られたように思われるかもしれませんが、実は「割烹着」は、理科実験を含む「作業着」として開発された、ということをご存知でしょうか?

割烹着は、実は日本女子大学校(現在の日本女子大学)で生み出されたものです(Wikipediaの情報は正確ではありません)。(原文ママ)
気になっていろいろ調べましたが、実は、赤堀割烹教場(現赤堀料理学園)がルーツだ、という記載がネット上から見つかりました。
このサイトには「1902年に三代目の赤堀吉松が、着物が汚れず、料理もしやすい服装を考えた結果、「割烹着」を考案、教場にて着用」となっています。
さらに、「日本女子大(正確には当時は日本女子大学校)に講師として赴く」とあります。
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1901年創立の日本女子大学のホームページには写真ギャラリーがありました。
この画像の中の「明治(創立期〜1912)」のところを見て頂くと、創立当時から「理科教室」(画像#9)が置かれていたことがわかります。
理科の講義は「家政学部」で行われていましたが、当初は「前掛け」をしていたようです(#10)。
それが創立から10年ごろには、「割烹着」が作業着として使われています(#21-23)。
(こちらにも#23の化学実験の風景画像を転載させて頂きます。)

歴史は口伝えされていく間に変わっていくのかもしれません。
また、今回あらためて感じたのは、種々の情報をweb上で簡単に探せる時代になったのは、探索好きな者として有難いのですが、逆に言うと、webに載っていない情報にアクセスするのに、心理的にとても困難を感じるようになってしまった、ということがあります。
もしかしたら、日本女子大の所蔵の文献の中には、割烹着のルーツについてきちんと記載されたものがあるかもしれませんが、それを探し出すのは、現在の私にはちょっと難しすぎますね。

もう一つ、今回、思っていた以上に「リケジョ」という用語が市民権を得たようです。
上記は本日付の読売新聞記事で、和歌山県農業試験場や近畿大学生物理工研究科で活躍する女性が取り上げられています。
「リケジョ倍増計画」を個人的に目論んでいる身としては、このように新聞などに取り上げて頂くことが、次の世代の女性の進学や職業選択にとって好ましいと思っているのですが、一方、「<リケジョ>というレッテルを貼られるのはイヤ!」という、現役の女性研究者や女子大学院生などから非難の声も挙がっていると聞きました。

何でも「差別だ!」と言うのは簡単ですが、「リケジョ」が差別用語と受け取られるのはどういう意味でなのか、少し考察してみました。

今回、「リケジョ」がフィーバー?したのは、「小保方さん」という、いわば「ロール・モデル」がいたことの影響は非常に大きいと思います。
仙台通信ではこれまでから意識的に多数の女性研究者を取り上げてきましたが(「ロール・モデル」のタグで検索)、社会的ムーブメントを起こすにはまったく力不足でした(苦笑)。
しかしながら、「画期的な成果を上げた若い女性研究者」ということに加えて、まぁ、有り体に言えばカメラ映りの良いこと、興味深い個人的エピソード(それを暴露できる資質)などが足されて、もしかしたら今年の流行語大賞が狙えるのでは?というレベルになりました。

そうすると、小保方さんのように「キラキラお姫様系」が「リケジョ」ではないでしょう、という声が上がるのは当然です。
例えばこちらは日刊SPA!のウェブ記事(2/3)
研究の現場はもっと地味ですし、ときどき言うのですが「研究は、毎日がハレ、すなわち素晴らしい成果が出るのではありません。ケ、ケ、ケ、ケ、ケ、ケ、ハレか、もっとハレが少ないくらい」です。
夜中まで実験して、朝、髪を振り乱して出てくる研究者は、女性も男性も多いですし、着るものだって白衣を着ないで、汚れても構わない格好で実験する方も多いと思います。
(注:ラボ着が白衣かどうかは、そのラボの環境や伝統によります。どの研究室も白衣着用という訳ではありません。また、ヒトES細胞を扱う実験室など、もっと重装備なところもあります)
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ただし、なにせ理系の女性は4年生の大学進学時点で25%程度のマイノリティーなので、世間一般の皆さんの「科学者」に対するイメージは「白衣のオジサン」です。
それを打ち破ることは、女子中高生たちに「理系って、こんなお姉さんもいるんだ!」という一定の効果があると思うのです。

「なぜ理系に進む女性が少ないのか?」については、昨年上梓した翻訳本をぜひお読み頂きたいのですが、日本でとくに大学進学時点においても女性が少ないのは、「文系・理系」という大学入試制度も問題だと考えます。
「女子はやっぱり文系だよね。理系なんか進学しても、就職先なんて無いよね?」という二者択一的な指向パターンを植え付けることは、大きな影響があるのではないでしょうか?

今回の報道フィーバーに対して、「科学の成果以外のところにばかり着目されている」ということを不満に思う方も男女限らず多かったようです。
こちらも、主に研究者や科学コミュニケーションに関係する方のご意見でしたが、気付いたのは、やはりネット記事の影響ということでした。
新聞では、科学的な側面についての記事が例えば1面に掲載され、小保方さんの人となりなどは3面扱いになります。
紙の新聞を読む方にとっては、1面だけ読む場合もあるでしょうし、3面は3面だと意識しながら読みます。
ところが、ネット記事ではフラットに同列扱いであり、さらにTwitterやFacebookなどのSNSで拡散される間に重みがついて、本来であれば3面扱いの記事の方がネット上ではたくさんツイートされたりする、という現象に気づきました。
また、SNSは自分の興味のある記事を目に触れる機会が増加するような仕組みが組み込まれていますので、「この記事はけしからん」という記事がたくさん飛び込んでくる訳です。

「壁をピンクに塗ったり、スナフキンのシールを貼っている」ことが、若い女性ではなくて年配の男性だったら、単に「キモイ」だけでしょう、なぜ、そこを取り上げる?というお怒りもありましたね。
(私は「壁ピンク」が許される理研CDBはいいなぁ、という感想を持ちました。以前、新しい建物に移る際に、「壁の色を変えたい」と事務方に言って即時却下されたので。別にピンクにしたかったのではないのですが、単調な色では気持ちが浮き立たない、科学のアイディアが生まれやすいような刺激のある環境にすべき、というのが、日本ではまだまだ通らないのです。)
これからもっと女性の科学者が増えたら、もっと多様な、個性のとんがった方も増えるでしょう。
今は「目立たないようにしよう」と思っている女性も多いはずです。

「海外ではもっと科学面が報道されるのに、日本では……」というご意見もありました。
そりゃそうですよね、若い女性が筆頭著者であろうと責任著者であろうと、もっと多数いるのですから、取り立てて問題になる訳がありません。
また、ノーベル賞受賞者だって、日本人が共同受賞しても大きく扱われることはありえません。
「いつも研究のことを考えています」というのも、科学者であればごく普通のことですから、取り立てて新聞記事の最初の1文にするほどのことも無いように思えます。

要するに、「リケジョ」が当たり前に貢献している社会になっていれば、今回の報道フィーバーにまではならなかったということではないかと考えます。

さて、ここで一つだけ、私なりのフォローアップで気付いたことを指摘しておきます。
(すべての小保方報道に目を通している訳ではありません。念の為)
小保方さんが「お祖母様からもらった割烹着を着て実験している」という報道についてです。
今回の研究の中心となった同センター研究ユニットリーダー、小保方(おぼかた)晴子さんは、祖母の教えを忘れない。2009年、世界的に有名な科学誌に掲載を断られ、ひどく落ち込んだ。その時、励ましてくれたのが祖母だった。「とにかく一日一日、頑張りなさい」。その言葉を胸に、祖母からもらったかっぽう着に必ず袖を通して毎日、実験に取り組んでいる。(1/29毎日新聞)
研究室のスタッフ5人は全員女性。研究室の壁はピンクや黄色で、好きなムーミンのキャラクターシールも貼っている。仕事着は白衣ではなく、大学院時代に祖母からもらったかっぽう着。「これを着ると家族に応援してもらっているように感じる」という。(1/30読売新聞)
昨年、理研のユニットリーダーになった小保方さんは、自身の研究室の壁紙をピンク色、黄色とカラフルにし、米国のころから愛用しているソファを持ち込んでいる。あちこちに、「収集癖があるんです」というアニメ「ムーミン」のグッズやステッカーをはっている。実験時には白衣ではなく、祖母からもらったというかっぽう着を身につける。(1/30apital)
読売の記事にあるように「大学院時代」に割烹着を着用していたのではないと思われます。
というのは、早稲田大学と東京女子医科大学の連携で行われていたグローバルCOEのパンフレット(PDF)には、小保方さんの留学レポートとして普通の白衣を着た姿があるからです。

まぁ、記者会見にしろ、研究所内の取材にしろ、ちょっと理研CDBの演出過剰(しかもオジサン目線で)な気がしないでもないですね……。
まんまと報道関係者が乗せられているというか、手玉に取られているというか……。

ついでに付け加えると、大学院生の育成支援プログラムであるグローバルCOEは、個人的には良い仕組みであったと思います。
教育や人材育成は5年などの「プロジェクト」で行われるべきものではなく、10年、20年という長期のプログラムが必要です。
基礎研究の振興とともに、GCOE復活も是非お願いします!>文科省関係各位

【追記】
本ブログをアップしたら、絶妙のタイミングでこんな記事が!
毎日新聞(2/9)
ふむ、これで最低もう一つエントリーできますね……ww

【関連リンク】

by osumi1128 | 2014-02-09 11:07 | 雑感 | Comments(4)

小保方さん関係(その7):STAP細胞のインパクトとこれから【追記しました】


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科学や研究に関連する話題は書こうと思えばことかかないのですが、そろそろ「小保方さん関係」でまとめるエントリーも収束させようかと思うので、締めくくりにあたって、再度、「STAP細胞」という研究がどのように面白いのか、私見を記しておきたいと思います。
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上記は理化学研究所・発生再生総合研究センターのプレス発表資料の図ですが、今回、どうやってSTAP細胞を誘導したのかという模式図です。
ここではマウスの脾臓から取ったリンパ球を、pH5.7という「酸性」の溶液に30分曝すという処理を行うことにより、未分化な「多能性幹細胞」をつくることができました。
リンパ球は、免疫機能に特化した「分化した」細胞ですが、それを「初期化」することができた訳です。

「初期化」自体はすでに、山中伸弥先生が4つの遺伝子を導入することによって、皮膚の細胞を胚性幹細胞(ES細胞)並に初期化できる(iPS細胞)ことを示されていたのですが、今回のSTAP細胞は2つの点でインパクトがあります。

1つ目は、どのくらい初期化されたのかが、iPS細胞や、iPS細胞がお手本としたES細胞よりも、さらに前にさかのぼった状態と考えられることです。
それは、すでに最初のエントリーにも書きましたが、STAP細胞を「胚盤胞」というごく初期の時期の胚に注入すると、胎仔の身体以外の組織である「胎盤」の細胞にも分化した、という実験から示されています。
胚盤胞の時期というのは、すでに、「内部細胞塊」という身体の細胞になる細胞群(ES細胞はこの細胞群からつくられる)と、外側を取り囲む細胞群に分かれていますが、STAP細胞は外側の細胞群に混じって、同じような運命をたどることができるのだと考えられます。

ES細胞が胎盤には分化できないというのは、もともとの由来がすでに「胎盤にはならない組織」であったので当然ですし、iPS細胞は「ES細胞的な細胞」を誘導しようとしてつくられたので、こちらも胎盤の細胞ができないのは、ある意味当然であるかもしれません。
また、移植医療への応用などを考える際には、別に「胎盤」が作られる必要はありません。
それよりも、患者さんにとって必要な種類の細胞を効率よく作ることができる方が、応用面としては重要でしょう。

STAP細胞から作られる細胞のバリエーションが広かったのは、ES細胞をお手本にした訳ではない、ということにあるかもしれません。
iPS細胞は、いわば「理詰め」で、「どうやったらES細胞に近い細胞を作ることができるか」を分子的に調べて24因子の候補から4因子で必要十分であることを見出していったのですが、STAP細胞は「いろいろなストレスを与えてみたら、酸浴がいちばんカンタンだった♫」というような軽やかさがありますね。

2つ目は、この研究が「初期化」の概念を広げた、ということです。

もともと、Vacanti教授が「幹細胞は小さい細胞だから、それを選別しよう」というところから、「選別するときに、細い管を通して、細胞を痛めつけることによって、幹細胞化しているのでは?」と、発想を逆転したところが、STAP細胞の着想に繋がりました。
まさに、コペルニクス的転回と言えるかもしれません。

実はiPS細胞が2006年にマウスで成功してから以降、世界中で様々な実験手技により「iPS細胞を作る」、あるいは山中4因子以外のやり方で多能性幹細胞を作る方法が試されました。

例えば、すでに国内特許が取得されているMuse細胞は、Multilineage-differentiating Stress Enduringという意味で命名されていますが、日本語にすれば「多種類の系列の細胞に分化する、ストレス耐性のある」細胞ということです。
Muse細胞を見出した出澤真里先生(東北大学医学系研究科教授)は、前任地の京都大学において骨髄由来の間葉系細胞に「トリプシン」という消化酵素をかけたまま一晩放置するという「失敗」をきかっけとして、「ストレス」に強い細胞が多能性幹細胞ではないか、そのような細胞は骨髄や皮膚などの生体組織に存在するのではないか、という研究成果を発表されていました。
Muse細胞に関するプロトコール

また、熊本大学の太田訓正さんは、マウスの皮膚の細胞をトリプシン処理し、そこになんと「乳酸菌」を入れることによって、多能性幹細胞を誘導できる、ということを発表していました。
熊本人財ネットワーク:乳酸菌で多能性幹細胞の作成に成功
もしかしたら、太田さんのプロトコールのポイントは、皮膚の細胞を「トリプシン処理する」というストレスだったかもしれませんし、乳酸菌がやや「酸性」の環境を与えていたかもしれません。

つまり、Muse細胞も、乳酸菌によるiPS細胞(iPSは本来induced pluripotent stem cellsという意味です)も、実は、細胞にとって強い消化酵素などの「ストレス」を与えることによって「誘導」される、ということがメカニズムとして含まれている可能性があると思われます。
今回のSTAP細胞は、そういう細胞の柔軟性というか、したたかさというか、ダイナミックな現象が起こりうるということに対して「一般化」できる概念を与えた、という意味で画期的なことだと言えるでしょう。

さて、この「ストレスによる初期化」は、さらに様々なアイディア、妄想をかきたてます。
膵臓から分泌される膵液に含まれますが、タンパク質のペプチド結合を切断することから、さまざまな生物学的実験に用いられています。
……ということは、膵臓の細胞はしょっちゅうトリプシンに曝されているのではないの???

あるいは、胃液はpH1.5程度の強酸性であり、タンパク分解酵素として「ペプシン」が含まれます。
……ということは、胃や食道(胃液の逆流を考えると)は、けっこうな「酸性環境」ではないの???
しかも、細胞を構成するタンパク質を溶かす酵素もあるし???

そういえば、かつて胃癌の原因として塩分摂取などが疑われたけど、今や「ピロリ菌」を除去すればリスクをかなり下げられることになっていますね。
じゃぁ、ピロリ菌って、いったい胃の中で何しているのでしょう???
【追記】
関連する興味深い論文をFacebook経由でTom Satoせんせいから教えて頂きました。多謝!
一般的に消化管の内面を覆うシート状の細胞群(上皮細胞)には、「陰窩(いんか)」と呼ばれるところに幹細胞が存在していると思われてきましたが、Troyという名前の分子を発現する分化した細胞は、刺激が与えられたり生体外に取り出されると多能性幹細胞として振る舞う、という内容ですが、これも、細胞レベルのストレスによって初期化が生じているのかもしれません。
Differentiated Troy+ chief cells act as reserve stem cells to generate all lineages of the stomach epithelium.
Stange DE, Koo BK, Huch M, Sibbel G, Basak O, Lyubimova A, Kujala P, Bartfeld S, Koster J, Geahlen JH, Peters PJ, van Es JH, van de Wetering M, Mills JC, Clevers H.
Cell. 2013 Oct 10;155(2):357-68. doi: 10.1016/j.cell.2013.09.008.

乳酸菌のように酸を生じる細菌は、大腸にもたくさん存在する可能性があるでしょうから、そういう環境も「酸性」なのでは???

あるいは、種々の呼吸不全や腎不全などの重篤な傷害によって、生体組織はやや酸性に傾いた「アシドーシス」という状態に陥ります。
(ややこしいことに、呼吸不全によってアシドーシスになるということは、「酸素」が足りないと「酸性」になる、のですが、これは明治時代くらいの日本語の訳語にルーツがあるので、いかんともしがたいですね……)
……ということは、アシドーシスの急性症状とは別に、長期的にみたら、からだの中で「酸性」環境に置かれた細胞がたくさん生じるのではないの???

ここまで書いて、すでにお気づきの方もおられると思いますが、もしかするとSTAP細胞のインパクトは、癌研究にも繋がるのかもしれません。
生体内の「癌幹細胞」は、さまざまな細胞レベルの「ストレス」によって生じ、癌幹細胞が多数増殖して「癌」になるということが考えられるかもしれません。
STAP細胞は「癌の芽」になっているかもしれません。

そして、むしろより大事なことは、そんな危うい細胞レベルの「ストレス」環境が生体内のあちこちに存在しているにも関わらず、たいていの細胞は初期化されたりしないのでしょうし、また、「免疫細胞」たちが生体内を見まわって、生じた「癌幹細胞」を見つけて退治してくれているのでしょう。
子どものときから発症する癌もありますが、成人期以降に癌の発症が多くなるのは、加齢とともに免疫系の不具合が生じてくることと無関係ではないでしょう。
また、免疫系の状態には、個体レベルの「ストレス」が関与していることについても多くの研究があります。
恒常的な「初期化を抑える」メカニズムこそが、癌の発症の予防に繋がるかもしれません。
(さらに妄想を膨らませれば、古今東西、呼吸法やら温熱療法やら、いろいろな「健康法」と言われるもののメカニズムを科学的に解き明かすことも可能になるかもしれません。)

ですので、今回のSTAP細胞の話は、筆頭&責任著者が若い日本人女性研究者であった、ということで日本国内に与えたインパクト以上に、世界中の研究者の脳を活性化したことは間違いありません。
次の研究のネタはいろいろなところに隠れていると思われます。
国家プロジェクトとしてどーんと応用に向けた研究費を付けるだけでなく、次の新しい基礎研究の芽を育むような施策を臨みます。

個々の研究は個人で、あるいはチームで行われますが、研究コミュニティーという、より大きな生態系も、何かのきっかけで大きく変わる可能性があると思います。
そういう意味で、今回のNature誌2本の論文は、「そのとき歴史が動いた」と、後から振り返って思えることになるのかもしれません(繰り返しますが、科学として今後の検証は必須です)。
今回の報道が、一般週刊誌での報道にまで繋がったことにより、普段は科学に興味の無かった方も含め、より多くの日本の方々が、その「歴史の一コマ」を目撃したという経験として、「2014年、STAP細胞」を覚えていて下さったらいいなぁと思います。

【追記141101】
理化学研究所の遠藤高帆研究員が、実験に用いられたとされる細胞遺伝子解析結果を論文発表されました。それによると、論文(取り下げ済み)の記載と齟齬があることがはっきりしました。とくに、キメラ作製により胎盤になるとされたFI細胞は、90%がES細胞、10%がTS細胞である可能性が私的されています。上記の予測は正しかったと考えられます。





by osumi1128 | 2014-02-08 09:51 | サイエンス | Comments(0)

小保方さん関係(その6):「万能細胞」は<万能>ではない

d0028322_07443087.jpeg註:STAP論文はその後、7月2日付で取下げられ、STAP細胞とされたものの実体はほぼES細胞であることが専門家による詳しい調査の結果、報告されています。

*****
本日よりソチ・オリンピック開催。
で、小保方さん報道、やや下火になった感もありますが、新聞に関連連載記事が出るなど、思ったより持続していますね。
(右図は朝日新聞の記事より転載)

一般向けの良い解説記事として以下をお薦めします。
元理化学研究所発生再生総合研究センター(CDB)副センター長の西川伸一先生のNPOサイトより

こちらは、日経バイテク編集長である宮田満さんのコラム
(MUSE細胞が何かについては末尾参照)





さて、先日、科学コミュニケーションが専門の北大のS先生からご連絡があり、「<万能細胞>という用語がなぜ<メディア用語>だとして問題なのですか?」というご質問がありました。

科学的な観点からは、その生き物の「すべての」細胞を生み出すことができる「受精卵」(有性生殖を行う生き物としては)は真の意味での「万能細胞」なのですが、それ以外の「幹細胞」、つまり「タネのような細胞」は本当に「万能」かは検証しきれないので「多能性幹細胞」と呼ぶのが正確です。
しかも、その細胞がどれだけ「多能性」を持つかについては、査読者の厳しい評価を乗り越えて確かめられて論文に記載されます。

もう一つの観点は、「万能細胞」という言葉が一般にひとり歩きすると、医療への応用を期待する患者さんやそのご家族にとって誤解が大きくなるという点です。
「万能細胞」と呼んでしまうと、元祖万能細胞のES細胞や、倫理的に問題のない方法で作られる万能細胞として画期的なiPS細胞や、(当時)第三の万能細胞という見出しもあったMUSE細胞や、今回の新型万能細胞であるSTAP細胞や、これからさらに開発される別のやり方でできるかもしれない万能細胞が、あたかも「どんな治療にも役立つ」という「万能感」をイメージさせてしまう、ということが問題であると思われます。

S先生は、もし前者の点であれば、科学用語としては「質量」と言うのが正しいが、一般には「重量」などと呼ばれるではないか、でもまったく問題ないでしょう、という点をご指摘になったのですが、私は第二の点もあるので問題なのです、とお伝えして、納得して頂きました。

最近はマスメディアの方々もそのあたり敏感になってこられたので、しばらく前よりはマシかもしれませんが、今回のSTAP細胞報道では、より広いメディアに広がったので、再度「万能細胞」という用語を見かけることが多くなりました。
上記に掲げた細胞たちがどれだけ移植医療等に役に立つのかについては、これから1つずつ検証していかなければなりません。
また、ヒトでの誘導が確立されているiPS細胞などは、患者さんの皮膚の細胞などを使って、病気のメカニズムを知るという基礎研究としての応用の方向性もあります。
実際、例えば脳に関係する病気(精神疾患など)については、肝臓や腎臓と違って「バイオプシー」などは行いにくいので、とくに成果が期待されているところです。
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iPS細胞を用いた最初の治療については、小保方さんと同じCDBに所属されている高橋政代先生の結果が楽しみです。
2012年12月の時点で、厚労省の倫理審査体制が整備されて、ようやく昨年2013年から開始されたところです。







d0028322_08185151.jpegMUSE細胞についての日経バイテク記事はこちら(2010年記事)


by osumi1128 | 2014-02-07 08:20 | 科学 コミュニケーション | Comments(0)

小保方さん関係(その5):いまどきの生命科学研究は(たいてい)チームで行う

註:その後、STAP細胞についてのNature論文2本は7月2日付で取下げられました。

*****
ソチ・オリンピックも近づいて、STAP細胞関連報道も少し下火になったのではと思いますが、現代の生命科学研究について考える良い機会なので、こちらは淡々と続けますww

小保方さんはこれまでに9本の論文を出していることは、PubMedという医学生命科学系を中心とした雑誌検索サイトですぐに調べられます。
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新しい順に挙がってくるので、それを遡っていくと、その方の研究の歴史が見えてきます。

小保方さんの最初の論文は、女子医科大学の岡野光夫先生が責任著者として出されている、組織工学系、より広く言えば再生医療の基礎研究です。

Subcutaneous transplantation of autologous oral mucosal epithelial cell sheets fabricated on temperature-responsive culture dishes.

Obokata H, Yamato M, Yang J, Nishida K, Tsuneda S, Okano T.

J Biomed Mater Res A. 2008 Sep 15;86(4):1088-96.

大学院の所属先である早稲田大学理工学研究科の常田聡教授が後ろから2番目に名前が入っており、おそらく直接指導された女子医科大学の大和雅之先生(現教授)が第二著者ですね。


その次の論文は共著者となっていて、常田先生がlast authorです。

Hollow-fiber membrane chamber as a device for in situ environmental cultivation.

Aoi Y, Kinoshita T, Hata T, Ohta H, Obokata H, Tsuneda S.

Appl Environ Microbiol. 2009 Jun;75(11):3826-33. doi: 10.1128/AEM.02542-08. Epub 2009 Mar 27.


博士課程時代の留学先であるハーバード大学のVacanti教授のところでの研究は2011年に発表されています。

The potential of stem cells in adult tissues representative of the three germ layers.

Obokata H, Kojima K, Westerman K, Yamato M, Okano T, Tsuneda S, Vacanti CA.

Tissue Eng Part A. 2011 Mar;17(5-6):607-15. doi: 10.1089/ten.TEA.2010.0385. Epub 2011 Jan 10.

こちらも、大和先生、岡野先生、常田先生のお名前が含まれます。


岡野先生のところから出た別の論文では第二著者として加わっています。

Development of osteogenic cell sheets for bone tissue engineering applications.

Pirraco RP, Obokata H, Iwata T, Marques AP, Tsuneda S, Yamato M, Reis RL, Okano T.

Tissue Eng Part A. 2011 Jun;17(11-12):1507-15. doi: 10.1089/ten.TEA.2010.0470. Epub 2011 Apr 12.


また、同じ年(豊作ですね)には筆頭著者としてNature Protocolという、最新の画期的な実験方法を中心とする雑誌の筆頭著者の論文が出ています。

Reproducible subcutaneous transplantation of cell sheets into recipient mice.

Obokata H, Yamato M, Tsuneda S, Okano T.

Nat Protoc. 2011 Jun 30;6(7):1053-9. doi: 10.1038/nprot.2011.356.


その次の論文はVacanti研からのものの共著者。

Effect on ligament marker expression by direct-contact co-culture of mesenchymal stem cells and anterior cruciate ligament cells.

Canseco JA, Kojima K, Penvose AR, Ross JD, Obokata H, Gomoll AH, Vacanti CA.

Tissue Eng Part A. 2012 Dec;18(23-24):2549-58. doi: 10.1089/ten.TEA.2012.0030. Epub 2012 Sep 24.


そして、STAP細胞の「多能性」(未分化な細胞がさまざまな種類の細胞に分化しうる性質)についてマウス個体を用いた実験で検証するために、若山照彦先生(現山梨大学)のところと共同研究を開始し、今回の論文の前に出た論文が以下になります。

Successful serial recloning in the mouse over multiple generations.

Wakayama S, Kohda T, Obokata H, Tokoro M, Li C, Terashita Y, Mizutani E, Nguyen VT, Kishigami S, Ishino F, Wakayama T.

Cell Stem Cell. 2013 Mar 7;12(3):293-7. doi: 10.1016/j.stem.2013.01.005.

エピゲノム研究で著名な東京医科歯科大学の石野史敏教授のお名前も見えますので、そのような実験も為されたのだと思います。


そしていよいよ(笑)以下の2本が今回の大きな報道に繋がったNature誌同時掲載の論文です。

Articleというより「大作」がこちら。

Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency.

Obokata H, Wakayama T, Sasai Y, Kojima K, Vacanti MP, Niwa H, Yamato M, Vacanti CA.

Nature. 2014 Jan 30;505(7485):641-7. doi: 10.1038/nature12968.


Letterという少し短い(それでも、Supplemental Information入れるとかなりの分量です)方がこちら。

Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency.

Obokata H, Sasai Y, Niwa H, Kadota M, Andrabi M, Takata N, Tokoro M, Terashita Y, Yonemura S, Vacanti CA, Wakayama T.

Nature. 2014 Jan 30;505(7485):676-80. doi: 10.1038/nature12969.


どちらも小保方さんは筆頭著者であり、main contributorですが、Articleの方のlast authorはVacanti先生、Letterの方が若山先生ですね。

ただし、「責任著者corresponding autor」としては、Articleでは小保方さん「かor」Vacanti教授、Letterでは小保方さん、若山さん、もしくは笹井さんとなっています。

若山先生はArticleの方では第二著者、第三著者に入っているのが笹井芳樹先生(理化学研究所発生再生総合研究センター<CDB>副センター長)、さらに丹羽仁史先生(同CDBのチームリーダー)と前述の大和先生のお名前も見えます。

Letterの方は、笹井先生が2番目、丹羽先生が3番目、その他、CDBの電子顕微鏡室の米村信重室長も加わっています。


このように、現在、生命科学研究では「チーム研究」が一般的になりつつあります。

実験物理学などとは異なるので、巨大な装置を皆で使って研究する、というのとはちょっと違い、それぞれの研究室の「得意技」で、より複合的な解析を行うことにより、仮説が正しいかを検証する必要があるからです。


もう少し詳しく見てみるとよくわかります。

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これらの方々が、どのようにNature Letterに貢献したのかについては、次のように記載されています。

Contributions
H.O. and Y.S. wrote the manuscript. H.O., Y.S., M.K., M.A., N.T., S.Y. and T.W. performed experiments, and M.T. and Y.T. assisted with H.O.’s experiments. H.O., Y.S., H.N., C.A.V. and T.W. designed the project.

著者名はイニシャルで書かれるので、ちょっとわかりにくいですが、スペース削減のためですね。

論文を執筆したのは、小保方さんと笹井さん、M.T.さんとY.T.さんは小保方さんの実験補助で、さらにVacanti教授以外が実験に加わったこと、プロジェクトのデザイン、つまり方向性などの方針を決めたのは小保方さん、笹井さん、丹羽さん、Vacanti教授、若山さん、ということになっています。

同様のことをArticleの方でも見てみましょう。

Contributions
H.O. and Y.S. wrote the manuscript. H.O., T.W. and Y.S. performed experiments, and K.K. assisted with H.O.’s transplantation experiments. H.O., T.W., Y.S., H.N. and C.A.V. designed the project. M.P.V. and M.Y. helped with the design and evaluation of the project.

こちらも、論文を執筆したのは、小保方さんと笹井さん、実験は小保方さん、若山さん、笹井さんが行い、小保方さんの実験補助をされたのがK.K.さん、プロジェクトをデザインされたのは、小保方さん、若山さん、笹井さん、丹羽さん、Vacanti教授で、Vacanti教授の弟さんと大和さんがプロジェクトのデザインや評価を助けた、とされています。

こういう論文著者のスタイルは、例えば数学科の友人K先生にはほとんど「意味不明」となります。

それは「アイディアは誰のものなの? 実験をしたのは誰なの? それ以外のヒトの名前を入れる必要はあるの?」ということなのだと思いますが、上記のContributionsに必ずしも表されないこととして、研究費としてのcontributionもありますし、お名前が挙がらない方で実験の補助を行った方もさらにいるのではと思います。

生命科学研究は、この半世紀くらいの間に、どんどん「ビッグ・プロジェクト化」してきたといえます。

一人の研究者のオリジナルなアイディアだけで「世間から注目される」研究成果として発表することが困難な時代となってきました。

これは、ある意味、研究者の「小さな喜び」を剥脱するものだと思います。

2012年のノーベル生理学医学賞を受賞されたJohn Gurdon先生の受賞対象論文が単著(single autor)であったことが懐かしいです。


243.

The developmental capacity of nuclei taken from intestinal epithelium cells of feeding tadpoles.

GURDON JB.

J Embryol Exp Morphol. 1962 Dec;10:622-40. No abstract available.


【追記】

ちなみに今でももちろん、single-authorだったりtwo-authorの論文は出ます。

two-authorの場合には研究を遂行した本人と、それを助けたボス(研究室主催者)というケースがほとんどですね。

例えば、こんな論文。

Parental olfactory experience influences behavior and neural structure in subsequent generations.

Dias BG, Ressler KJ.

Nat Neurosci. 2014 Jan;17(1):89-96. doi: 10.1038/nn.3594. Epub 2013 Dec 1.

これも、もしほんとだったらすごい! という画期的な神経科学の論文です。

マウスの親の代の「匂い経験」が仔や孫に伝わり、その差違に精子の嗅覚受容体遺伝子のDNAメチル化が変化していたというもの。

ただし、この2つの事象の因果関係などは、今後のお楽しみ。


【拙ブログ関連リンク】

小保方さん関連(その1):多能性幹細胞をつくる簡便な方法:幹細胞は実はストレスで誘導される

小保方さん関連(その2):リケジョと割烹着

小保方さん関連(その3):いのちを見つめる女性研究者

小保方さん関連(その4):目利きとしての発生再生総合研究センター








by osumi1128 | 2014-02-05 08:13 | サイエンス | Comments(0)

小保方さん関連(その4):目利きとしての発生再生総合研究センター

註:以下の記事はまだSTAP細胞論文についての疑義が生じる前に書かれたものであり、後半で女性研究者をロールモデルとして挙げることを目的としていますので、このままブログに掲載しておきます。2014年12月26日付で、STAP細胞は存在しなかったことが報告されています。


小保方さんの理化学研、年俸1億円の研究者も?

というタイトルの報道を見て、いくらなんでも小保方さん「の」理化学研究所と言われちゃうのは、なんだかなと思いましたので(苦笑)、小保方さんが所属されている理化学研究所発生再生総合研究センターについてご紹介します。

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理化学研究所は1917年に当時財団法人として設立された研究所です。
現在は独立行政法人として、2001年にノーベル化学賞を受賞された野依良治先生が理事長をされています。
詳しくはこちらの「理研について」をご参照下さい。

現在では15ほどの研究所(=センター)から成り立っている形であり、「日本で唯一の自然科学系の総合研究所として、物理学、工学、化学、生物学、医科学などに及ぶ広い分野で研究を進めています(上記HPより)。
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英語名称はRIKEN Center for Developmental Biology(略称はCDB)となっていて、「再生」という言葉は入っていませんが、もちろん、再生医療に向けた基礎研究、トランスレーショナルリサーチも行われています(後述)。
ちょうど2000年のミレニアム予算で作られた研究所で、すでに13年経過していますが、その間、センター長である竹市雅俊先生のリーダーシップにより、日本の発生・再生研究のメッカとしての位置は揺るぎないものになりました。

世界の発生関係の研究所の中では新しくできたCDBが短期間に伸びたことには、いくつかの理由があると思います。
まずは、センター長の竹市先生が、細胞接着分子カドヘリンの発見者として、世界的に著名な研究者であったことに加え、センター長としてのマネジメント力にも優れたおられたことが挙げられます。
(すでに慶應医学賞や日本国際賞も受賞されていらっしゃいますが、ぜひノーベル賞も!と個人的には応援しています!)
また、最初の組織づくりにおいて、「兼任を認めない」方針で、グループ・ディレクター(GD)もチーム・リーダー(TL)も採用することにして、キック・オフから誰もがエフォート100%で最高の研究を行ったということもあるでしょう。
GDの中で副センター長を務められてこられた西川伸一先生(下記リンク先も参照)や相澤慎一先生のご功績も多大なものがあるとリスペクトしています。
(また、現在の副センター長の笹井芳樹先生は、今回の小保方さんの論文をブラッシュアップしていくのに、大きな役割を果たされたのではないかと推察します。)
基本的にTLの任期は5年で更新は1回(つまりmax10年まで)、最初のセットアップは欧米並みに支援されますが、内部昇進は原則として無いという方針であったため、初期メンバーはかなり入れ替わり(TLからGDになられた方も一部あり)、切磋琢磨の意識と流動性が担保されていることも良い作用があったと思われます。
そして、立ちあげ時から広報担当者にDouglas Sipp博士という「外国人」を起用し、理研の「顔」をどのようにつくるか、見せるかについて、他の広報メンバーとともに海外に向けて強力に推し進めたということも重要な点であったと思います。
実際シップさんは元Nature編集者であり、さらに国際幹細胞学会におけるpublic relations関係でも活躍されています。

さて、CDBが小保方さんをユニット・リーダー(UL、TLよりも小規模の研究室主催者)に抜擢したのが2,3年前なのだと思いますが、学位取得後間もない若いPrincipal Investigator(PI、研究室主催者の業界用語)を採用したことについては前例があります。
昨年、母校の東京大学大学院医学系研究科の教授で異動された上田泰己さんも(そもそも、大学院生として東大に席を起きつつ、山之内製薬(当時)の研究室を主催していた方ですが)、そのような若いTLでした。
つまり、CDBは年功序列ではなく、若くても才能があればOKという研究所なのです。
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女性研究者の育成に関しても、CDBはなかなかのものだと思います。
初期メンバーとしては高橋淑子さんというTL一人だった時代もありますが(現在は、奈良先端大教授を経て、京都大学教授)、d0028322_10233156.jpg他にも、2010年から東北大学大学院生命科学研究科に着任された杉本亜砂子さんがCDB時代にも素晴らしい研究成果を挙げられました。





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d0028322_10343176.jpg現在の女性TLには、花島かりなさんや、iPS細胞を用いた最初の臨床治験に取り組んでおられる高橋政代さんもおられご活躍です。
かりなさんも政代さんもお母さん研究者でもあり、政代先生の方はすでにお嬢さんお二人が大学生となって楽になられたところでしょう。

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小保方さんのようなUL、すなわち、より若手のPIには他にも戎屋美紀さんという方がおられます。








ですので、一つ前のブログにも書いたように、CDBでは男女限らず、光る方々を採用する「目利き」としての能力が執行部のみなさんに高いこと、また採用された研究を育てる土壌があるのだと思います。

発生・再生に特化した研究所としての意義は、大学のような教育のエフォートが限りなく少なく、研究に専念できること、同じ研究分野の研究者が集まることにより、最先端の情報交換や共同研究が盛んになることなどがあるでしょう。
もちろん、その分、高い研究成果を出すことのプレッシャーは大きいと思います。

新しい形の独立行政法人になるというタイミングに、どのような方がセンター長になるのか、興味が持たれます(この際、ぜひJanet RossantやSally Templeなどの大抜擢を期待します♫)。
竹市センター長が築かれた伝統と栄光がさらに輝かしいものになることを心から応援しています!

【拙ブログ小保方さんシリーズはこちら】

【他の解説記事でお薦め】
NPO法人オールアバウトサイエンス:元CDB副センター長の西川伸一先生が立ちあげたNPOのHPより

1月30日:酸浴による体細胞リプログラミング(1月30日Nature誌掲載論文)


by osumi1128 | 2014-02-02 10:54 | 科学技術政策 | Comments(2)

小保方さん関連(その3):いのちを見つめる女性研究者

註:本記事はSTAP細胞についての疑義が生じる前に書かれたものです。女性研究者の応援のために書いたもので、多数のロールモデルがすでにいることを知ってほしいという内容であるため、このままブログに掲載しておきます。12月26日付で、STAP細胞とされたものは、実はES細胞であることが報告されています。

*****
理系女子(リケジョ)=女性研究者ではなく、もっと多様な職業に就いている方も、その予備軍もいますが、元祖リケジョといえば「キュリー夫人」を挙げる方が多いのではと思います。
実は、さらに昔、ニュートンと同時代に、フランスに「エミリー・デュ・シャトレ公爵夫人(1706ー1749年)」という方がいて、運動する物体の持つエネルギーが質量と速度の自乗に比例することを証明したり、ニュートンのプリンキピア・マテマテカの仏語訳を書いたりされていて、この方がリケジョ元祖かなぁと思っています。

日本では、女性が活躍しているのが、文学(直近の芥川賞や直木賞はすべて女性)、音楽(クラシックでもポップスでも女性も男性と同様に活躍)、スポーツ(もうすぐソチオリンピックですね!)くらいに限られていて、その他の業界は、科学に限らず産業界にせよ政治にせよ行政にせよ、どこも女性がとくにトップに足りない(under representative)のですが、女性研究者あるいは女性科学者という業界では、たった14.0%(平成25年男女共同参画白書)であり、お隣の韓国はというと16.7%で、さらに水を開けられています。
ですので、もっと女性が活躍した方が良いだろうと思って「リケジョ倍増計画」を(勝手に)推進しており、そういう意味で今回のような小保方さんの快挙は嬉しい限りなのです。
(国内で動乱も無い、平和な日であるという象徴でもあると思われます)

d0028322_21532882.jpg実は、昨年『なぜ理系に進む女性が少ないのか?』という本の翻訳を出させて頂きました。
そこでは「認知機能に性差があるのか?」「あるとしたら、それは生得的なものか、社会的なものなのか?」などの問いについての論説が15本取り上げられています。
女性と男性は染色体レベルでXX(女性)とXY(男性)の違いがあり、ゲノムレベルで言えば0.3%が異なっています。
種々の身体的な差異があるだけでなく、脳画像解析が進んだことにより、脳の構造や成熟の仕方、空間認知の仕方などに違いがあることも明らかになってきています。

この本の中に取り上げられていますが、PISAのデータを見ると、理科や数学のテストの「平均値」で日本の男子・女子に違いはありますが、統計的な「有意差」はありません。
それよりも、米国の男子の点数よりも日本の女子の点数が平均値で高いのですから、これは生物学的な差よりも社会的な差が大きいことは明らかです。
また、平均値の差よりもはるかに大きな「個人個人の差」があります。

さて、上記の拙翻訳本には含まれていないのですが、「学問に、学術分野に性差はあるのか?」という問いを立ててみたいと思います。

自然科学系の学会・協会の連合である「男女共同参画学協会連絡会」という組織があって、女性比率の調査やアンケート、それらに基づく提言の作成などを行っています。
その資料に「学生会員における女性比率(A)と一般会員における女性比率(B)の相関グラフ」があります。
このA/Bは「ガラスの天井指数」と称され、学生会員としてその学協会で象徴される学問分野に参画した若い女性が、どれだけ生き残っているかを示します。
もしA=Bであれば指数は1であり、たとえ参入する女性が少なくても、その方々が生き残ることができることを示します、
一方、指数が2であるということは、学生で入った女性の半分が脱離していくことを意味し、女性をうまく育てていないことになります。
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理系の中でも生命科学系の学協会は、女性比率が高めです(図の中の点で緑のもの)。
理学系・化学系、工学系になるにしたがって、女性比率は下がります(図の中の点で緑や青のもの)。
私が理事長を務める日本分子生物学会は、学生における女性比率が約35%程度ですが、格差指数は2.0に近いので、まだまだ女性の力を活かしているとはいえません。
学生会員における女性比率はほとんど同じですが、日本発生生物学会は格差比率がより1に近いので、女性が生き残りやすい環境であることが推測されます。
一方、日本細胞生物学会は、直近のデータでは格差比率はほとんど無い(=1)のですが、その理由は学生会員の女性比率が最近減ったからのように思われます。
その原因がどのようなことなのかは精査する必要があると思います。

さて、小保方さんは再生医療を目指してハーバード大学に留学した訳ですが、今回の研究は「応用研究」ではなく、発生生物学という分野とみなすことができる「基礎研究」です。
実は、発生生物学はこれまでから多くの女性研究者を魅了してきました。
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例えば、1935年にノーベル生理学・医学賞を初めて発生学の分野で受賞したハンス・シュペーマンのお弟子さんだったヒルデ・マンゴールドは、不幸にしてお亡くなりになったのでノーベル賞の受賞は叶いませんでしたが、彼女がいなければシュペーマンの「胚誘導」の受賞はありえなかったことでしょう。
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1995年のノーベル賞は「初期胚発生の遺伝的制御に関する発見」に対して3名が共同受賞になりましたが、そのうちの一人は、クリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルトという女性です。


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2007年のノーベル生理学・医学賞は、いわゆるノックアウトマウス作製に対して3名の共同受賞でしたが、これは抱き合わせで、基盤技術としてのES細胞作製に関して、マーティン・エバンス、特定の遺伝子欠損技術として、専門的にはhomologous recombinationと言われる技術の開発に関してマリオ・カペッキ、そして本当にノックアウトマウスを作って高血圧のモデルを作製したオリバー・スミシーズが受賞者になりました。
もし受賞対象がES細胞の作製であれば、間違いなく共同受賞であったはずなのは、ゲイル・マーティンという女性研究者でした。

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一方、日本には「日本国際賞」というノーベル賞に匹敵する賞があり、不肖ながら審査員を務めさせて頂いた2002年の受賞者は、アンジェイ・タルコフスキーとともに、アン・マクラーレンでした。
こちらの受賞理由は「哺乳類の発生生物学研究の開拓」ということになっており、やはり発生生物学分野の研究者でした。
キメラ作製などの初期胚の操作技術で有名な方ですが、このような研究の倫理的な側面についても深い関心を寄せておられた方です。
残念なことに、数年前におなくなりになりました。
マクラーレン博士の日本国際賞受賞講演の要旨(PDF)はこちら




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現在、国際幹細胞学会の会長を務められているのは、ジャネット・ロサーンですが、彼女ももともとは哺乳類の発生生物学を研究されていました。
(ちょっと個人的なエピソードがあります)

私自身も、研究の始まりが発生生物学だったので、とくにそのように思うのかもしれませんが、上記にお名前を挙げた輝かしい方々の他にも、自分が大学院生だった頃、女性でPI(研究室主催者)として活躍されていた女性研究者はたくさんおられました。
それは、日本の中の学会だけではわかりづらかったかもしれませんが、海外で開催される国際会議に出れば、よくわかる、つまり「見える化」されていることでした。
なので、自然と「頑張ってPIになろう!」と思えたのだと思います。

発生生物学で著名な女性研究者が多数輩出されてきたことは、その分野に進む女性の母集団が大きかったことの反映であると思います。
では、なぜ、発生生物学に惹かれる女性研究者が多いのかと考えると、これは、女性が「いのちに寄り添い、いのちを見つめる性」としての特質を持っているのかなと思うのです。
発生学、あるいは発生生物学は、受精卵から個体に至るまでの過程について、その仕組、メカニズムを追求するという学問です。
「子どもを生むことができる性」としての女性には、生得的な興味があるのではないでしょうか?

今回の報道で、小保方さんが中学生のときに書いたという読書感想文を目にする機会を得ました。
ちいさな、ちいさな王様』という、私も大好きな素敵な絵本で、子ども向けの絵本というよりもはるかに大きな含蓄がある本なのですが、その中で彼女の視線が「いのち」に向き合っていることを感じました。

ある意味、山中先生がノーベル賞を受賞されたときに匹敵するくらい、メディアの科学関係者のみなさんが活性化しているここ数日で、小保方さんの「若い女性」という属性の方が、本来の科学的な意義についての報道よりもエキサイトしているのではないかと懸念されていますが、「リケジョ応援団」を自負する私としては、どんな意味であれ、あるいは本人の意志がどうであれ、「リケジョ」が見える化されることを歓迎します。
いつか「リケジョ」がマイノリティーでなくなる日がくれば、もはやそんな報道は自然消滅するのだと思えるからです。

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by osumi1128 | 2014-02-01 01:07 | ロールモデル | Comments(0)