<   2014年 03月 ( 10 )   > この月の画像一覧

STAP細胞騒動から考える「科学論文とは?」

過日、「小中学生向けに研究不正についての解説」というテーマで某紙の取材を受けました。
いろいろと説明している間に、「そもそも小中学生には<論文>がどんなものかわからないので、そこからお願いします」ということになって、それなら拙ブログにもきちんと書いておこうと考えた次第。
「論文不正はあかん!」という話を研究指導者がする際にも、ちょっと役立つ小ネタかなと……。
「論文」は科学者にとっての大事な「作品」です。
だからこそ、丹精込めて心を込めてつくりあげなければならないのです。
d0028322_21125684.jpg
【<論文>というスタイルの確立】
17世紀に顕微鏡を開発したアントニ・ファン・レーウェンフックAntonie van Leeuwenhoekは、観察した微生物のスケッチをロンドン王立協会に書簡として送っていました。
今でもNatureやScienceにLetterという形式があるのは、その名残ですね。
やがて、同好の士が集まって「学会society」が形成され、学会が独自に「学会誌journal」を発行するようになります。

生命科学分野ではだいたい20世紀のはじめくらいまで、論文のスタイルは次のようになっていました。
タイトル(「ヒトの脳の発生についての組織学的研究」などという短いもの)
著者(けっこう単名が多い)
序論
材料・方法
結果
考察
要旨
「序論」では、その研究の「背景」と、何が「わかっていないか」、研究の「目的」などが語られます。
そして、その目的に適した「材料・方法」が選ばれ、実験を行った結果が述べられた後に、それについて考察し、最後に全体をまとめた要旨が付随する、というスタイルです。

ところが「要旨が先にあった方が内容が簡単にわかるよね」ということになって、順番が変わってきました。
タイトルも、以前は中身を読んでみないと中身がわからないものだったのが、もっとも論文の内容を短く表すものに変わります。
また「材料・方法」も、その研究手法を取り入れたい・再現したい研究者にしか必要ない情報だから、途中に入れなくても良いじゃない、という扱いになる雑誌もありました。
タイトル(キーワードが盛り込まれたもの)
著者(だんだん数が増えていく傾向に)
要旨
結果
考察
材料・方法
雑誌によっては誌面の都合上、字数制限が厳しく、材料・方法は現在「詳しくはラボのHPを参照」というような場合も多々あります。

STAP細胞論文の場合を見てみましょう。
タイトルは

Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency.

というものですね。
キーワードである「刺激stimulus」や「運命転換fate conversion」、「多能性pluripotency」が盛り込まれていて、ワクワクしますね。

もう1本の論文では

Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency.

というものになっています。
こちらも「二方向性の発生の可能性bidirectional developmental potential」「リプログラムreprogrammed」「獲得された多能性acquired pluripotency」などのキーワードから構成されています。
さりげなくこっちにも「獲得された」という用語が入っていて、「選別されたのではない」ことを強調しようとしています。

最近では、要旨の他に3〜4センテンスの結果のダイジェストを載せたりする雑誌もありますし、Natureの場合にはweb上では結果や考察の部分のサブタイトルをまとめて載せることにより、論文全体のストーリーが「なるべく早く」わかるようにしています。
この「わかりやすさ」を短絡的に求める風潮は、必ずしも科学の世界だけではない、現代社会における共通した問題点ではないか、ということを指摘しておきたいと思います。

【投稿された論文は専門家によって査読される】
かつて論文の原稿manuscriptは、A4やレターサイズの紙にタイプされて、ケント紙に貼った図表とともに、3セットか4セットが郵送で投稿submitされいました(40代以降の研究者であれば、中央郵便局まで走って持っていったという経験もあるのでは?)。

現在ではそのようなフォーマットに整えられた原稿のファイル(図表、動画なども)は、雑誌の編集部オンラインで投稿した後、編集者editorが指定する査読者reviewersによって審査されます。
レビューワーは論文を精査し、論旨はデータによって十分に支えられているか、論理の飛躍はないか、考察でオーバーな解釈は為されていないかなどを評価し、その内容をエディターに伝えます。
エディターは複数のレビューワーのコメントを複合的に判断することにより「改訂revise」して再投稿せよ、もしくは「不採択reject」(号泣)と決定し、「査読コメント」とともに投稿した著者に戻されます。
リバイス可能であった場合には、さらに追加の実験データを取らなければならない場合(major revison)もあれば(泣)、本文の書きなおしだけで済む(minor revision)の場合もあります。

もちろん最初の投稿で「素晴らしい」という高評価を受けることもありますが、大御所の方でないと?結構な確率で駄目だしをくらうことが多いですね……。

エディターは、学会のオフィシャル・ジャーナルでは、現役の研究者だったり、リタイアされた教授だったりですが、Natureのような商業誌では、研究経験のある方が専任で働いています。
レビューワーは、「匿名」で査読する(peer review)するのが一般的なので、「辛口」や「超辛口」のコメントをすることもしばしばです。
(ごく最近、名前を出して査読をするシステムの雑誌も出てくるようになりました。このことにより、行き過ぎた批判精神を改善する効果が期待されています)
何度かリバイスのやりとりをしたり、雑誌を変えたりすると、最初の投稿から2年、3年ということも多々あります。

なので、研究者としてやっていくための資質の一つは「諦めない」こと、精神的にタフであることだと私は思っていますが、大学院生にとって最初の論文までの道のりが長すぎるのは問題であろうと考えます。

NatureのSTAP論文はArticleもLetterも
Received
 
Accepted
 
Published online
 

と示されていますから、3月の最初の投稿の後に追加の実験が為されたものと思われます。
(雑誌によっては、リバイスした日付が情報として示される場合もあります)

【本来は学会発表の後に論文発表】
さて、学会という組織ができてからは、例えば年に1回「大会meeting」などが開かれて(仲間内では、このmeetingのことを学会と呼ぶこともあります)、その分野の研究者が会って互いに顔を合わせて、研究成果の発表に対して意見を戦わせるというステップを経て、さらにその批判やアドバイスに対応してブラッシュアップしてから論文として発表するのが一般的でした。
ところが、最近では、主に特許申請の関係から、学会発表はせずにぎりぎりまで密かに論文を作成して、先に論文発表したものを学会でも発表する、という方も増えてきました。
今回のSTAP細胞論文の場合も、学会発表はされていなかったと聞いています。

もし、STAP細胞論文が先に学会発表されていたら、まずは「それは(本当だったら)すごい、面白い!」として、発表を聴いた多数の研究者がさっそく実験を開始していたことでしょう。
そして、もしかしたら「再現性無いね」ということも、数カ月の間に徐々に幹細胞業界の間に知れ渡っていたと思います。
そうなると、普通は論文原稿の内容をよく理解できる同じ業界の専門家が論文の査読reviewを行うので、論文として投稿されても最初から注意深く査読されたかもしれません。
(まぁ、今「もし」を言っても仕方ないことなのですが……)
ともあれ、学会発表よりも論文発表が先になることが多い生命科学関係の論文には、このような問題が生じやすい背景があるのです。

ちなみに、生命科学分野では、学会発表自体のハードルは低いと思います。
それは、他の分野で行われるように、数頁にわたるプロシーディングスproceedingsを書く必要はなく(ここにどれだけコピペがあるのかは知りません)、英語で数百wordsの抄録abstractのみ、図表も無し。
なので、よっぽどのことがなければ、発表できることになっています。
だからこそ、学会発表でお試しをして、さらに揉んでもらってから論文、という順序であった訳です。

【現在、論文発表は研究者の業績評価でもっとも重要視されている】
小説の世界では、多作な方も寡作な方もいますが、代表作が1つでもあれば、あぁ、あの作家ですね、とわかるでしょう(それで生活できるだけの印税等の取得になるのかは不案内ですが)。
科学の世界では、たった1本の論文だけで、その科学者が素晴らしいと判断されることは無いと思います。
(その意味において、今回のNature2本の論文発表後に、拙ブログでポジティブなエントリーをしたことは、私がずっと行ってきた「リケジョ倍増計画」を推進したいという下心によるものであり、深く反省する次第です……)

科学者としての業績は、複数の論文の積み重ねにより、その人なりの世界を構築してはじめて理解されるものです。
したがって、数が多ければ良いと言うつもりはありませんが、論文として発表される作品の質と量が研究者の評価の対象になります。
就職の際には履歴書とともに「論文リスト」を提出しますが、研究費を申請する際にも業績リストが評価されます。
したがって、研究者はそのキャリアの間中、論文を書き続けるのです。

よく、うちのラボを訪問してくる大学院生志望者に「研究者ってどんなことをしている人だと思う?」と訊くと、「実験をする人」という答えが返って来ますが、「うーん、実験するのは実験補助者の人もそうだよね?」と言って「論文を書く人が研究者ですよ」と言うと、わかったようなわからないような顔をしています。
たぶん、学部生にはまだ「論文を書く」という経験が無いからかもしれませんが、学位を取った後でも「実験が楽しい(でも論文書くのは嫌い)」という人は、後々、研究者としてのキャリアを続けるのは難しいかもしれません。

【論文発表は通過点である】
無事に世の中に論文が出たとしても、その成果の上に次の研究を進める必要があれば、必然的にそのデータや発見の再現性を取ることになりますし、もし他の研究者も面白いと思えば、さらに他の研究室でも再現性を取る実験が為されるでしょう。
そうやって、新たな発見は徐々に確かなものとして定着していくことになります。
ですので、1、2本の論文が出たからといって、「まだまだ本当」かどうかはわからない、というのが科学の世界です。
なので、それをあたかも「決定的」のような科学報道に繋げることは大きな問題といえるでしょう。
「100年、200年経っても変わらない真理」であれば、その報道のために一刻、一日、一週間を争う必要はなく、数年にわたって経過を見届けることが大事なのではと思いますが、まぁ、これはそれぞれの業界で仕方のないことかもしれませんね。

【論文の取り下げは著者が行う】
現状において、論文の中に間違いが見つかった場合、その論文の取り下げretractionや訂正correction(erratum)は、著者全員の合意もしくは責任著者の判断により編集部に申し入れがあり、編集長や出版社と協議の上それを認めて、ジャーナルの紙面やwebでそれが告知されます。
したがって、今回のSTAP細胞論文について、匿名の方が「メソッドまるごとコピペがある」とか「これこれの画像の他の論文からの使い回しがある」ということを公表されても、Nature編集部としては「動けない」という判断であると思われます。
個人的には、雑誌の方針は「性善説」にもとづいていて、故意にであれそうでない場合であれ、不正が為された場合の対応には適していないように感じます。

冒頭にも書きましたが、論文は研究者の大事な「作品」なので、テストを受けるのとは異なります。
決められた時間内にどれだけ点数を取るか、ではなくて、自分の意志でどれだけ完成度を高めるか、という価値観が必要です。
もちろん、学位取得のリミットであったり、ポスドクの採用期限であったり、種々の時間的な制約はある中でのことですから、現実にはどこかに妥協点を求めなければならないのですが、「やっつけ」で行う仕事ではありません。
なので、時間もかかり、まだるっこしいところも多々あります。
科学の世界は、そういうのが嫌いな方には向いていない業界ともいえます。
むしろ近いのはスティーブ・ジョブズが言った有名な言葉です。
Stay hungry, stay foolish.

あるいはこんなエッセイもあります。
2008年にJ Cell Scienceという雑誌に掲載されたものですが、状況は今でも同じと思います。

次のエントリーくらいで、もう少し科学不正について考えることを記せたらと思っています。


by osumi1128 | 2014-03-29 21:14 | サイエンス | Comments(7)

STAP細胞騒動から考える研究広報と科学報道

日本でノーベル賞受賞でもない生命科学研究者の名前が2ヶ月にわたって一般週刊誌にも載っているのは二度目だったか三度目だったか……。
おそらくこの事例は我が国の科学コミュニケーションの歴史に残ることは間違いなく、10年以上「科学コミュニケーションは科学と社会の健全な関係を構築するのに重要」と言い続けた身として、STAP細胞騒動初期の拙エントリーに対する自戒も込めて記しておきたいと思います。

【追記】「科学コミュニケーション」をどのように定義するのかについては、人によって解釈が種々あると思いますが、私自身は「科学や科学者と市民を繋ぐこと、異なる分野の科学者同士を繋ぐこと、そこに存在するかもしれない齟齬や対立を認識し、必要に応じてその齟齬や対立を可能な限り少なくすること」のように広く捉えています。そのために、研究機関の行う広報活動やメディアの科学報道も科学コミュニケーションの一貫と考えます。サイエンス・アートも含んでいるつもりです。拙ブログも3割くらいはアウトリーチ活動として科学コミュニケーションの範疇に入る内容を含みます。

研究成果のマスメディア報道について思い出すことが一つあります。
たしか10年ほど前だったか、「生化学若手の会」という組織に呼ばれて科学コミュニケーションについてのパネル討論に参加しました。
拙「仙台通信」を手探りで始めた後くらいだったのですが、パネルには某大手新聞社の科学分野の記者の方もされていたので、その方に「新聞が大事な研究成果をあまり掲載しないのはどうか?」と問いかけたところ、
「新聞の使命は悪を暴くためにあるので、本来良い成果を載せるところではありません」
とキッパリ言われたのでした。
重ねて
「科学者がその成果が大事だと思うなら、自分で発表すれば良いでしょう。研究機関からの発表やブログなど、研究者サイドでできることはあるでしょう」
とも言われました。
その方の言葉は(上記は正確ではないかもしれませんが)とても私の心に突き刺さり、だったら自分でできるかぎりのことをしていこう、と思ったのでした。
(ここに2006年の当該ブログ記事がありました

「女子高校生夏の学校」と「生化学若手夏の学校」



もう一つ、個人的なことで恐縮ですが、私が科学コミュニケーションに関心を寄せるようになった背景には、父が鯨類学の研究者であり、国際捕鯨委員会の科学者委員会に毎年出席して、捕鯨において適切な捕獲頭数などをどのように科学的根拠に基いて決めるか、という仕事をしていることを知っていたということがあります。
実際には、科学的根拠があってもなお、政治的判断がそれを覆すことも度々だったのですが。

という訳で、研究機関広報にも携わっています。
10年前くらいから、ちょうど研究機関広報も変わり始め、「広報室」が設置されたり、広報の専門家が雇用されたりして、積極的なプレスリリースをするようになりました。
私が所属する東北大学医学部でも、5年前から広報室が立ち上がり、プレスリリース文にわかりやすく手を入れる、記者会見をアレンジするなどのサポートをしています。
もちろん、広報室としては、プレスリリースの結果が大きな報道(この場合、今のところTVや新聞報道、地方よりも中央メディア)に繋がってほしいと思って行ってはいますが、必要に応じて拡大解釈過ぎないようになどの配慮をしています。

さて、今回、最初に理化学研究所発生再生研究センター(CDB)から大々的な発表があり、この10年で積み重ねてきた実力のある研究所だからこそ、(あえて言えば)お作法に則っていない、きちんとした証明が為されていない(でもNatureに受理されてしまった)論文(しかもArticleとLetterと2つ)について、当初、誰も疑う人はおらず、さらに(あえて言えば)過剰な演出にハマったメディアが大フィーバー、ということになりました。
最近の報道によれば、取材用の実験室の内装や割烹着というアイディアは、CDB広報担当者によるものではなく、副センター長を含む論文の著者らの主導によって行われたそうですが、その結果が招いたことを振り返ると、広報担当者がブレーキをかけることができなかったことが残念です。
また、大きな発表という扱いだったために、CDBの広報と理研本体の広報との間での問題もあったかもしれません。

【加筆】メンデルが遺伝の法則を発見したと発表したとき、その発見は(捏造があったにせよ無かったにせよ)せいぜいが彼の名誉になるだけでしたが、現在の科学の発見は研究者にとってさらなる研究費の獲得や昇進に関わりますし、研究者を抱える研究機関にとっても大きな意味を持ちます。
今回、CDBあるいは理化学研究所は「STAP細胞」という研究成果(と思っていたもの)を、美しいパッケージに包み、魅力的なストーリーを付けてメディアに売り込みました。
その作戦は、企業が商品の販売戦略に則って「広告」「宣伝」するのとまったく同じでした。
ジョン・スカリーがアップルに引きぬかれたときに言ったように、人びとは必ずしも商品の中身を精査することなく、パッケージやストーリーが気に入ればその商品を良いと思うのです。
スカリーが大々的な広告を打ったマッキントッシュはもちろん性能もデザインも良かったこともあって売れた訳ですが、今回のNature論文2報はあっという間に種々の疑惑にまみれることになりました。

自戒を込めて言うと、私自身のブログでも、論文そのものの中身の詳細な検証を自分で行わずに最初のエントリーをNatureのエンバーゴすぐに書きました。
iPS細胞やES細胞を自身で扱ったことは無いので、そういう意味で専門家ではありませんが、発生生物学のバックグランドがあったので、概念として「細胞にストレスを与えると多能性幹細胞になる」というアイディアはとても面白いと思いましたし、さらに「胎盤の細胞にもなれる」というのはiPS細胞やES細胞よりもさらに細胞が若返っている点がユニークだと思いました。

今から思えば、電気泳動のデータの作為は見抜けなくても、Supplementalな動画を見ていたら、緑色に光っている細胞がマクロファージというお掃除細胞にどんどん食べられてしまっているような不自然さ(それって、もしかして死にかけている細胞じゃないの?)に気付けたかもしれません。
さらに言えば、極力、STAP細胞の発見(あったとして)に至る発生生物学の歴史や、今後の発展の可能性について重きをおきつつ話題を選んだつもりではありますが、筆頭著者が若い女性研究者であるという属性を持っていたことを、私自身も意識しながら書きました。
割烹着はちょっと調べて、少なくともハーバード留学時代や大学院時代には着用していないことの裏とりもして2月9日の時点でこっそり記しておきましたし、小保方氏だけが女性研究者ではないので、これまでからと同様にロールモデルとなる女性研究者を紹介しましたが、全体としてソチ・オリンピックまでこのテーマで書く、というキャンペーンを行ったのでした。

論文そのものを細かく検証した方々やデータの再現性を試みた研究者による疑義が表出され始めたのは、けっこう早くて2月5日からだったかと思いますが、その後、毎日のように論文不正と疑われる箇所が見つかり、ついに3月9日の時点で、当該Nature論文に対する疑義の中でも決定的な「博士論文からの画像流用」が発覚し(その博士論文自体もかなりの盗用があり)、3月14日に理研の理事長も出席されて4時間にわたる記者会見が為されました。
その時点では、調査委員会の調査はまだ途中であり、結論は出されていないのですが、「この論文はもはや論文ではないでしょう」ということが明らかであっても、法治国家である日本においては組織内での種々の手続きが必要なのだろうと察しています。

ともあれ、理研の記者会見後、3月19日に日本学術会議から「STAP細胞をめぐる調査・検証の在り方について 」が会長談話の形で表出されました。
STAP細胞の存在そのものについての検証に加えて、論文作成や記者発表の仕方についても検証すべきとされています。
今回の論文については、発生・再生科学総合研究センター(CDB)の幹部職員が共著者に加わり、当初、理化学研究所として成果をアピールしたにもかかわらず、既に中間報告でも多くの不適切な点が明らかにされていることから、研究実施及び論文作成・発表の過程における理化学研究所の組織ガバナンスの問題について検証すること。
そもそも、科学の世界では、ある論文が世に出て、それを他の方も検証し発展させることによって進んできました。
100年、200年、300年にわたって真実であるような発見の報道は、今日か明日かと一刻を争って為される必要はないはずです。
その意味で、とくに最近では紙媒体での発行よりも前にオンラインで先に公開されることも増えてややこしくなったエンバーゴのシステムも、雑誌の権利を守るという意味では必要なのでしょうが、各種報道機関が事前に取材して一斉にそれに合わせて報道するというスタイルは、不自然さを感じます。
せいぜいが、「先週、先月発表された論文によると……」くらいで良いのではないでしょうか?
科学報道はそういうものである、ということを常識にしてほしいと思います。

【加筆】もちろんこれはメディアだけの問題ではなく、研究機関広報の問題でもあります。
「わかりやすさ」という名のもとにパッケージングとストーリーテリングをどこまで行うのか、その誠実さが求められると思います。
とくに多くの研究機関が国からの資金によって運営され、国からの研究費がつぎ込まれていることは、研究機関広報の中立性や公正性が重要であるということを、今回の(ある意味)極端な事例から改めて問い直すことが必要です。

また、昨日(ほんとうに、毎日いろいろあります……)ハーバード大学のVacanti研のHPに、別のプロトコール(実験の手順書)が掲載されました。
d0028322_11422360.jpg
その中ではクレジットが明らかにされていない(誰が責任を持って書いたのかが不明)のですが、酸による処理の前に細い管を通す処理が必須であるとされており、CDBからNature Protocol Exchnageに投稿された詳細プロトコールとは齟齬があります。
雑誌の字数制限により論文中で「詳細プロトコールは研究室HPに置いておきます」と記すのは、最近では珍しくないことなのですが、今回のように重要な研究のプロトコールに関して、データも無く、ただ書いたものをweb上にアップして既得権を得るのであれば、科学の世界で築いてきたルールそのものが成り立たなくなります。
(データが付随していないという意味では、CDBからのNature Protocol Exchangeも同様です)

……本件についてはいろいろ思うことありますが、もっとも大事なのは、今後いかにして研究不正を予防するかという点にあると思います。
それについては、また改めて書きたいと思います。






by osumi1128 | 2014-03-22 11:26 | 科学 コミュニケーション | Comments(6)

東海岸出張(その3):NIH訪問

先週の東海岸出張の4日目に米国国立衛生研究所("本家”のNIHですねww)を訪問しました。
たぶんこれで3回目だと思うのですが、セキュリティーチェックは世界最高水準かと思います。
ボストンで1泊して、朝またUS AirwaysというシャトルでDCに戻り、いったん大きな荷物をホテルに預けてから地下鉄Red Lineに乗って北へ向かい、Medical Centerという駅の真ん前にNIHのGatewayがあります。

パスポートを提示してタグをもらい、持ち物のスキャンをして中に入ります。
今回は、昨年の東北大学ーNIH-JSPSシンポジウムでもお世話になった外山玲子先生にエスコートして頂きました。
d0028322_11034247.jpg


訪問先は、まずはビルディング#1、つまりヘッドクォーターの建物に、副所長のMichael Gottesman先生のところ(しまった! 画像を撮りそこねました……orz)。
NIHでは日本人留学生が減っており、その対策について意見交換をしました。
今後、NIHでも短期の留学生を受け入れるような制度を作りたいというご意向でした。

フロアの廊下には歴代の所長の肖像画が架かっていたのですが、その歴史の中で女性はまだひとり。
初めて1991年から1993年の間に
女性所長になったBernadine Healy博士は、在任中に女性特有の疾患研究の振興を先導するとともに、NIHのゲノム研究所を設立されたそうです。
説明書きにあるように、肖像画にはご家族の写真も描かれていますね。
d0028322_11153624.jpg






d0028322_21384926.jpgその後、Gottesman先生との会話で話題になった、Tohoku Experimental Journal of Medicine(TJEM)のハードコピーが図書館にあるというので、それを見に行きました。
確かに図書館の地下フロアの開架式の棚に、1981〜2008年の分が保管されていました!
TJEMは東北大学医学部内に編集部があり、戦時中も、そして3年前の震災時も休刊せずに続いた医学系の雑誌です。
ちなみに、現在の編集長である柴原先生が、毎月イチオシの論文を取り上げ、医学系研究科のFacebookでも説明を発信しています。

その後、NIH訪問前にランチをご一緒したShioko Kimura先生@NCI、向山洋介さん@NHLBIのラボを訪ねてディスカッション(それぞれ異なるビルディングにラボがあるので、かなりの運動量になりました♪)。
向山さんは若手のPIで、現在テニュア・トラック中です。
d0028322_11330458.jpg


さらに、うちの初代大学院生で、NIHのKen Yamada@NIDCR(National Institute of Dental & Craniofacial Research。そういえば日本には歯科と顎顔面関係のナショナルセンターは無いですね)のところで長くポスドクをして、現在はFDAのスタッフ・サイエンティストになっている遠藤幸徳君にも久しぶりに会いました。
Yoshi Yamada先生、Ken Yamada先生ともお話しできて何よりでした。
彼のデスクには、お嬢さんの若子ちゃん(もうすぐ中学生!)が描いた招き猫の絵があり、良いデータを招き入れるためのお守りとなっているそうです。
その甲斐あって、直近ではDev Cellに論文発表してました。
おめでとう!

その後、NIHや周囲の日本人留学生が主催している「金曜会」で、キャリアパス系のセミナーをさせて頂きました。
ちょうど、医科歯科の元ボスの留学先がNIHのNIDR(当時、現在のNIDCR)だったこともあり、私にとっては思いのあるエリアです。
おかげさまで50名くらいの方々に集まって頂きました。
また、Google+により遠隔地からの参加もあったようです。
やはりベセスダ周辺は日本からの留学生が多いところですね。
もちろん、DCは企業や行政から出向している方々もたくさんいるエリアです。
そういう意味で、生命科学、医学研究の異分野交流だけでなく、さらに広い異業種交流も留学するとしやすいですよね。

夜はこの金曜会のメンバー20名くらいと地ビールのお店に行きました。
元御茶ノ水で隣のラボにいた方にも会えて、世間は狭い!
d0028322_11514632.jpg
すでに先に帰られた方もいて画像に写っていないのが残念。
ちなみに下の方の外国人女性二名は店員さんです♪

この日も夜中に書き物していて、日本時間を引きずりながら生活してましたが、最後の日の朝は女子会のパワーブレックファースト!
ベセスダの住宅地にあるお洒落なカフェを会場にして、8:30から10名ほどの留学中の女性が集まってくれました。
初めての試みでしたが、これ、いいですね!
マンツーマン(? ウーマン・ツー・ウーマン?)でいろいろなキャリアパス関係のメンタリングの機会として。
2時間ほどお喋りをして、車でWashington DC Dulles空港まで送ってもらう中の一時も楽しかったです。
私自身もエネルギーをチャージさせてもらいました。
d0028322_12011599.jpg
全体をアレンジして下さった外山先生は、高校の先輩でもあります。
現在はNIHでキャリアパス系の部署にいらっしゃるのですが、北大の有賀早苗先生とは大学時代の同期とのことで、またしても世間は狭い……。
この日は、まだ小学校の息子さんの日本人学校の行事があるとのことで、早めに退席されましたが、本当にお世話になりました!
今年は、さらに2度、DC方面訪問予定です。

【追記】案の定、ですが、NIH Visitorの顔写真(パスポートからの転載)付き立入り許可証、戻すの忘れて持って帰って来ちゃいました。
外山先生曰く「皆さんお土産にされますね♪」とのことでしたので、手元に置いておきます。

by osumi1128 | 2014-03-21 12:06 | 旅の思い出 | Comments(0)

東海岸出張(その2):ボストン訪問

今回、さすがに日本から丸一日の会議のためだけに来い、というのは可哀想ということで、その後2泊分もSfNにサポートして頂きました。
そのうち1日はボストンに立ち寄り、コネクトーム技術で世界の先端を切り拓いているハーバード大学Department of Molecular & Cellular Biologyに所属されるJeff Lichtman先生のところを訪問し、2015年にご来仙の打合せをしました。

無事に交渉が終わった後、現在、Lichtman研に留学中の水谷さんにラボを案内してもらいました。
d0028322_22534986.jpg
d0028322_22535804.jpg
コネクトームは神経科学領域で最新技術の1つなのですが、簡単に言えば、電子顕微鏡を用いて、神経細胞同士や神経細胞と筋肉の繋がりなどを「三次元化して」観察しよう、という方法です。
まだ、どのようなやり方が最適なのかは日進月歩の段階で、Lichtman研でも機械の開発、材料の選定、ソフトの開発など種々の取り組みが行われています。
私自身は、別に神経細胞同士の繋がり(connection)を観るためだけにこの手法があるとは思っておらず、この新しい3D電顕で新たな発見が多数あると思っています。
これからの展開がとても楽しみです。
d0028322_23052345.jpg

その後、荷物をホテルに置いてから、元ポスドクさんでマサチューセッツ総合病院(MGH)の方の研究室に所属するNannanとランチを食べに行きました。
メールのやりとりはしていましたが、2年以上会っていないので、近況報告であっという間に時間が経ちました。
彼女はちょうど8週間のmaternity leave空けで、今は「時間が足りない! 人生が複雑!」と悲鳴を上げながらも、元気にやっているようで安心しました。
(画像を撮り忘れたのが、返す返すも残念です……。お料理の画像を撮るのは忘れないのですが、人物を忘れます……)

そうそう、この日、ボストンで泊まったのが、地下鉄のRed LineのCharles/MGH駅からすぐのところにあるクラシカルなホテル、John Jefferies Houseというところ。
水谷さんにお薦め頂いたのですが、ボストンにプチ・サバティカルしている間に知りませんでした。
なんと、このホテルを作った方が、MGHのEye and Ear Instituteを設立された方と聞いてびっくり。


Nannanとハグして別れてから、次の訪問先は、MGH駅からハーバードのNavy Campus行き無料シャトルに載って終点にあるビルの研究室。
Department of Radiologyの所属でAssistant Professorをしている荒井健先生のラボに、東北大学医学部基礎修練生の学生さんが海外研修中だったので、共同研究のご相談に行きました。
5ヶ月の滞在とのことで、しかも学部生なので、J1ビザではなく10年もののB1ビザだったですが、ともあれ、ボストンの寒さにもめげず、目一杯、有意義な時間を過ごしたようです。
比較的まとまったデータが出たので、今年、学会発表も予定しています。
これらの滞在は、東北大学の医学部の方からの支援を受けています。
d0028322_22540824.jpg
さらに夜は、ボストンのハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、マサチューセッツ大学、タフツ大学などに留学中やPIになっている日本人の方々との夕食会。
d0028322_22541812.jpg
留学する日本人は、たしかに実数として減少したので、文科省は「トビタテ!Japan」キャンペーンを張っていますが、私の周囲には留学生活を楽しんでいる方々や、海外でずっと活躍されている方が多いようです。

ボストン訪問は、預けた荷物(お土産に液体のモノがあったため)が空港で出てこないというトラブルに見舞われたり、華氏20°という寒さ+雪もありましたが、煉瓦の建物が懐かしかったです。

ちなみに、STAP騒動から逃れて東海岸に来たはずなのに、メールはどこまでも追いかけて来ていました(苦笑)。

by osumi1128 | 2014-03-19 23:22 | 旅の思い出 | Comments(1)

東海岸出張(その1):北米神経科学学会オフィス訪問

先週、米国東海岸に出張しました。
まず最初の用務は、北米神経科学(通称SfN)の国際委員会(IAC)出席です。

ワシントンDCのレーガン空港からはタクシーで(空いていれば)15分程度のダウンタウンは14番通りという目抜き通りのビルに会員数3万人のSfNのヘッドクォーターがあります。
d0028322_23214741.jpg
廊下にはSfNのミッションを表すポスターが。
Scientific Research
Professional Development
Public Outreach
Science Advocacy
d0028322_23312797.jpg
d0028322_23313807.jpg
d0028322_23314659.jpg
d0028322_23315660.jpg
これらの活動を支えているのは約80名ほどのスタッフ。
学位を持っている方、ポスドク経験者から、web関係の専門家、寄付を集める財務担当者、それらを支える事務系職員など、多様な人材が集まっています。
IACの会議でも、研究者の委員が8名くらいで、スタッフの参加は6名くらいだったかと思います。
研究者の意見を聞きながら、実際の活動はスタッフの方々が行っていきます。
d0028322_23220039.jpg
国際委員会の任務は、他の国際的な神経科学関係学会(欧州神経科学学会FENS、国際脳科学連合IBRO)や日本神経科学学会との間で行われている若手のトラベル・アワードの方針決定や応募者の審査がひとつ、もう一つは国際的な観点からのキャリア・ディベロップメントです。
現在、SfNにはnon-US(米国以外)の会員がなんと40%もいるので(その中で最大派閥がなんと日本人で3000人も会員となっています)、キャリア形成のアドバイスもそれぞれの出身国の事情等も考慮すべきということになりつつあり、国際委員会の所掌事項が増えたようです。
d0028322_23221181.jpg

ランチタイムに事務局長のマーティンが、初めてこのオフィスを訪れたメンバーにツアーをガイドして下さいました。

まず、このビル自体が環境に配慮したものとなっていて、SfNのオフィスも、使う内装材などがリサイクルのものだったり……というのをかなり長々と聞かされました。

次の見どころは、階段の一面に飾られたレリーフなのですが、これがなんと、カハールの有名なスケッチを元に、3Dプリンタで凹凸を出したパネル。
近所の芸術系大学学生の卒業制作だそうです。

d0028322_23223351.jpg
じゃぁ、1906年にカハールとノーベル賞同時受賞となったゴルジ先生のものは?というと、こちらのスケッチが(壁面に比べるとちょっと小さめww)。
階段の下の方の文字が浮かび上がっているのもカッコいい。
もっとも大きな文字がBrainなのですが(ちょっと人に隠れています)、文字の大きさはおよそ、学会誌であるJ Neurosciに出てくる文字の数に比例しているとか。
d0028322_23222183.jpg
日本で会員数だけなら同じ規模の学会はあると思いますが、きっと運営体制やオフィスはこんな感じではないのでしょうね……。
何でも米国がいちばんとは思いませんが、学会のあり方としてとても参考になりました。

(次はボストン訪問)

by osumi1128 | 2014-03-18 23:34 | 旅の思い出 | Comments(0)

STAP細胞顛末

ワシントンDC入りしました。
予想に反して昼間の気温が10℃より高いようです。

11jigenさんの検証によりSTAP細胞に関するNature Articleの図に、筆頭著者の博士論文からの図がスキャンしてコピペされていたことがわかり、共著者である山梨大学の若山先生から「確証が持てなくなった」というコメントが出されました。
STAP細胞の論文の問題について

山梨大からの発表によれば、手元にあるSTAP幹細胞を第三者の手に委ねて検証してもらう、とされています。

そもそもSTAP細胞が誘導できたのか、という問題とともに、私自身は今回のNature論文が出たときにもっとも「面白い!」と思った以下の点が気になります。
それは、「ES細胞は胚盤胞注入実験により胎盤組織にならないが、STAP細胞は「53%」の個体において胎盤組織に「10%程度」なった」という点です。
これは、ES細胞よりもSTAP化すると、さらに発生を遡ってリプログラミングしたことになるので、発生生物学的観点からはとても大事(おおごと)なのです。

ただ、11jigennさんのさらなる検証によれば、その博士論文の中にも多量の盗用があるようなので、そうなってくると何を信じてよいのやら……。

例えば、上記の実験を「捏造」するのであれば、以下のようなやり方が考えられると思います。
最終的に見せたいのは「胎盤に緑色に光っている細胞がいる」ことなので、胚盤胞の発生段階の胚を全身GFPで光るマウスから作って、それをバラバラにして若山先生に渡して注入実験を行った場合、若山先生にはそれがSTAP細胞か、Fgf4-induced stem cellsなのかはわかりません。
実際、論文には「Fgf4-induced stem cells」は「cag-GFP-labeled(全身光る)」とされているので、遺伝子の解析をしても区別は付かないでしょう。

唯一可能なのは、実際の実験ノート(もしあれば)や、動物実験施設における記録(誰が出入りしたのか、どのような種類のマウスがその実験のときに飼育されたり交配されたりしていたのか)を調べることだと思います。
STAP細胞であれば、生後すぐのマウスの脾臓の細胞をもとに作られているはずですから、cag-GFPマウスを交配して数日目の胚を得る、というようなことはしていないはずです。
……でも、これも動物施設ではなくて、通常の研究室内で交配などしていたらわからないかもしれません。


今回の事件では、私も多くのことを学びました。
最初のブログ記事の時点では、まさか捏造が含まれているなど思いもよらなかったので、今、読み返すとかなりイタいですが、自戒を込めてあえて取り下げないことに決めました。
(借用した画像は後で外しておきましょう)

若山先生は、世界で初めて「体細胞核移植によるクローンマウス」を作製された方で、それは「クローン羊」のドリーが生まれてから2年後のことです。
実際には、クローンマウスを作ろうとしたのは若山先生だけではなく、皆さん成功しなかったのですが、1981年に「成功した!」という捏造論文が出ています。

イルメンゼー事件~幻に消えたクローン成功~


この論文の元になっているのは、1958年のカエルでの核移植です。
そう、ジョン・ガードン先生が行って、ノーベル賞受賞に繋がった実験です。
(ノーベル賞受賞対象は、オタマジャクシの細胞の核を移植した1962年の論文ですが)
「カエルでできるなら、哺乳類でもできないか? できたら畜産などには役立つし……」ということでトライした研究者は1958年以降、世界中に多数いたはずです。
でも、20年経った1981年の時点でもダメで、1998年、つまりカエルの実験から40年経って初めて若山先生がマウスで成功したという、長い長い歴史があります。

ちなみに、このイルメンゼー博士は、他にも捏造論文を出したことを間接的に聞いたことがあります。
in vitro(実際には培養皿)で卵子と精子を受精させて、それを形がはっきりするくらいの胚(マウスなら10日目くらいでしょうか)にまで発生させた」というのですが、これも実際には発生6〜7日目くらいに起きる「着床」というイベントが無いと哺乳類の発生は進まないことが現在では定説となっています。

私がSTAP細胞で面白いと思ったもう一つのポイントは、「生体内でも何らかのストレス等により細胞が若返る(リプログラムされる)ことがあるのだろうか?」という点でした。
そういう細胞が「癌の芽(cancer stem cells)」になるのではないか、という妄想が湧きます。
この点については、私自身はポジティブに考えています。
Cell Reprogramという名前の雑誌も刊行されているくらい、研究人口は多い分野で、Cell誌の2月号にはこんな論文も出ました。

Nonstochastic Reprogramming from a Privileged Somatic Cell State


ですので、STAP細胞問題は、1年で再現性がどうこう、ということではなく、もっと長い目で見るべきなのではないかと思います。

ただし、それと研究不正の問題はまったく別のことです。
科学には愛と誇りをもって臨みたいものです。

科学への愛と誇り(このタイトルは、東北大学の『研究者の作法ー科学への愛と誇りをもってー』という冊子のタイトルから取っています)


by osumi1128 | 2014-03-12 04:18 | サイエンス | Comments(25)

祝!稲葉カヨ先生にロレアルーユネスコ女性科学者賞

渡米前にバタバタとしている間に、お伝えし損ねていました。
京都大学副学長の稲葉カヨ先生に2014年のロレアルーユネスコ女性科学者賞が授与されることが発表されました。
おめでとうございます!
追って詳しい情報を入れます。

d0028322_07371888.jpg

昨日の若山先生の発表を受けて、そろそろSTAP細胞関連のまとめを書かないといけないと思っています……。
では、本日昼便にて東海岸へ。
14:46は機上で迎えます……。

by osumi1128 | 2014-03-11 06:26 | ロールモデル | Comments(0)

杜の都女性研究者ジャンプアップ事業 for 2013総括シンポジウム

昨日は仙台では朝また雪がちらついていて、本当に春を待つ気持が強くなる時期ですね。
そんな中、今年度まで5年間、文科省のご支援により行ってきた「女性研究者育成支援促進プログラム」である「杜の都女性研究者ジャンプアップ事業 for 2013」の総括シンポジウムが開催されました。
(追って画像をアップします)

植木理事の開会のご挨拶の後、ご来賓として、文科省の科学技術・学術政策局人材政策課人材政策推進室長の和田勝行様から、文科省の施策や動向含めてのご挨拶・プレゼンがありました。
続いて、同じく女性研究者育成支援事業を積極的に展開されてきた北海道大学の有賀早苗先生からも応援メッセージがありました。
北大の女性研究者育成支援推進室のキャッチフレーズは「Rain or shine, make your way with our support」というもので、傘をさして長靴を履いた女性がロゴマークのデザインになっています。
これは、「傘や長靴は貸してあげるから、自分で自分の道を歩いて下さいね」というメッセージとのこと。

その後、東北大学のこの5年間の取り組みについて、養成支援班、世界トップクラスリーダー養成班、新ネットワーク創生班、研究スタイル確立支援班からと、田中真美先生からの総括と展望について報告がありました。
東北大学では原則として「女性枠」を設けることなく人事を行って来ましたが、5年間で50名の女性教員が新しく採用されました。
ただし、転出した方も19名なので、増加分は31名。
東北大学外でのプロモーションなどもありますが、この理由についても今後精査することにより、さらにどのような支援が必要なのかを明らかにしたいと考えます。
効果的であったと考える制度としては「澤柳フェロー・部局メンター」という複数メンター制度です。
「門戸開放」の理念を打ち出した初代総長の澤柳政太郎先生のお名前を冠した「澤柳フェロー」は、折々のランチミーティングなどに出席して、若手女性教員のロールモデルとしてメンタリングの役目を果たし、さらに部局長など(ほぼ男性)もメンターすることにより、女性研究者育成の視点を持って頂く効果などがあったと思われます。

その後、スキルアップ支援により、国際会議出張などを行った2名の方と、新規採用から4名の方に研究紹介・支援の紹介を頂きました。
1名の方は「子どもの調子が悪かったので連れて来ました。すみません」と仰って、小さなお嬢さんと一緒に登壇されていました。
研究発表はそれぞれとても力強く、総合大学として多様な女性研究者が活躍していることが「見える化」されていると思います。

東北大学のこの10年間の男女共同参画という、より広い視点で振り返ると、
1)歴史の共有:日本発の女子大生入学
2)全学推進体制:総長以下、担当理事、担当総長特別補佐、委員会と推進室、それらを支える事務系職員の方々
3)ボランティア精神:男性も含めての応援マインドの醸成
というような点が成功のポイントだったのではないかと考えます。
また、最先端次世代研究開発支援プログラムに8名の女性が採択されるなど、それぞれの分野で活躍する女性研究者が東北大学に在籍すること自体が、その実力を表すものと思われます。
昨年、IUPACのWomen of Chemistry and Chemical Sciencesを栗原和枝先生が受賞されたことも喜ばしいことでしたし、育成支援推進室副室長であり、WPI-AIMRの機構長である小谷元子先生は、4月からは総合科学技術会議の非常勤議員にもなり、中央の意思決定機関において参画されることになっています。

来年度からは、これまでの研究補助者の支援では「理・工・農」という縛りがありましたが、それを自然科学系の部局に拡大したり、ベビーシッター経費を男性にも拡大するなど、東北大学独自の予算で新しい「東北大学男女共同参画推進センター」という体制のもとに進めていきます。
それにともない、MORIHIMEのホームページもリニューアルする予定です。



by osumi1128 | 2014-03-07 13:18 | 東北大学 | Comments(1)

平成25年度東北大学サイエンス・エンジェル活動報告会

昨日、東北大学サイエンス・エンジェル(SA)活動報告会が片平キャンパスで開かれました。
今年度は2013年が東北大学に日本で初めての女子学生が理学部に入学した記念の年でもあり、63名のSAが総長から任命を受け、30ものイベントに関わりました。

各種イベントの中での定番は、7月末のオープンキャンパス時における女子高校生向けのもの。
多様な理系学部・研究の紹介や、進路相談など、毎年工夫を凝らして開かれています。
d0028322_22522823.jpg
今年は百周年記念の「紅(くれない)色」の記念ロゴ入りTシャツでした。来場者は90名とのこと。
d0028322_22560548.jpg
女子高校生の感想です。
●今どんなことをしているかとか、高校のときどんなきっかけや理由があって理系に進んだかなど、たくさんのことを聞けて、とても参考になりました
●学部の雰囲気や生活など、知りたい情報が詰まっていました    
SA自身も、その存在意義を感じることができるきっかけであったという感想を持っていました。

高校、中学、小学校への出張セミナーも計10校に出向きました。主に東北地方の学校ですが、高校ではスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)指定校などからの講師派遣要請などもありました。母校でのセミナーを行ったSAもあり、感慨深いものだったようです。小学校での開催は、仙台市教育委員会の事業への参画であったり、PTA主催の研修会への参加もありました。画像は宮城第一高校でのセミナーで、ちょっと見えにくいですが、SAオリジナルのパーカーを着ています。
d0028322_23064119.jpg
生徒さんたちの大学進学のモチベーションを上げるのに役だっている様子が伺えます。
大学に入学したいという気持ちが高まってきたため、志望校について調べると同時に今回の講演で得たことを活かして日々努力を積み重ねていきたいと思いました。
d0028322_23151203.jpg最近増えてきたのは、企業のCSRで行われるイベントへの出張依頼です。例えば日本IBM主催、JR東日本共催の「エキサイトキャンプ in 仙台」、河北新報社&東京エレクトロン宮城の主催による「楽しい理科のはなし2013〜不思議の箱を開けよう〜」など。男女共同参画関係NPO主催のイベントもありました。

右の画像は、エキサイトキャンプでのワークショップで使われたカードゲーム。それぞれの画像の繋がりを示しているようですね。他にも、DNAの配列をもとにビーズのストラップを作ってお持ち帰りしてもらうものや、発泡スチロールにオレンジオイルを垂らして溶かし、スタンプを作成するなどが子どもたちに大人気だったとのこと。企業のイベントに参加することによって、SA主催のイベントの経験値も上がったようです。

子どもたちだけではなく、保護者の方々からも熱心な質問を受けたりして、理系女子の存在感をアピールできたと思います。

d0028322_23214641.jpg女子学生入学百周年記念ではいくつかのイベントがありました。左のポスターデザインは、東北大学の図書館本館で開催された展示の案内で、オープンキャンパスに合わせて開催され、見学者は延べ360名にのぼったそうです。SAの活動紹介だけでなく、学生生活やキャンパス紹介も為され、東北大学史料館所蔵の「女子入学をめぐる文科省の質問状」「合格通知発送文案」や当時の学生集合写真なども展示されました。来場者に書いてもらった「感想ノート」もSAたちの良い思い出になったことでしょう。

担当SAさんからは「女性が高等教育を受けることができるようになったことの意味を感じました」という感想が発表され、自らが体験することが大きな気付きに繋がるのだと思いました。

これらの画像は図書館HPにも掲載されています。







そして、8月8日の女子学生入学百周年記念シンポジウムとそのプレイベントでもSAたちは大活躍でした。
d0028322_23280890.jpg
「リケジョと考える100年後の未来」をコンセプトに、女子高校生と考えた100年後は、実際にどのようになるでしょう?
d0028322_23335831.jpg
シンポジウムでは、SA代表の高橋さやかさんが、パネル討論にも参加したのでした。詳しくは別エントリーをご笑覧あれ。
d0028322_23353371.jpg
2013年は百周年だったので、いろいろなメディアにも取り上げて頂きましたが、NHKのEテレ人気番組「すイエんサー」にも「大学からの挑戦状シリーズ」に出演。里見総長、小谷WPI機構長にも出ていただいたゴージャスな企画になりました。残念ながら「割り箸でなるべく長い構造物を造る」という課題ではすイエんサー・ガールズの高校生たちに負けてしまったのですが、このあたりSAたちのひらめきや度胸をどのように育むか、今後の改善点にも繋げたいと思います。
d0028322_23375229.jpg
この出演後に、NHKテレビ放送60周年記念イベントとして、お台場は日本科学未来館における「知の格闘技 全国大会」も行われ、東大、北大、京大とともに東北大学SAチーム、すイガールとのトーナメントになって、結果は3位でした。
d0028322_23420931.jpg
勝負が終わった直後は、「もっとこうすればよかった」、「どうすれば勝てたんだろう?」などと考えて、箸(テーマの題材)を見ると頭の中で勝手に組み立ててた自分がいました。悔しさや反省点もありますが、今では未知な事へのわくわく感メンバーと一生懸命戦ったドキドキ感が強く心に残っている気がします。
活動報告会では、さらにネットワーキンググループからの報告もありました。また、SAのOG会である「輝友会」の活動報告が為され、SA活動で得た「ヨコのつながり、タテのつながり」を将来も続けようと呼びかけられました。きっと10年後、20年後にかけがえのない人脈=財産になっていると思います。
d0028322_23490937.jpg
報告会後に、茶話会と、輝友会との合同の懇親会が開催されたようです。

日本の女性研究者は14%と、欧米の半分以下、それは、大学時点から理系に進学する女性が半分であることにもっとも大きく依存しています。
東北大学サイエンス・エンジェルの活動は「身近なロールモデル」として、小さなお子さんから女子高校生まで、あるいはご両親や学校の教員の方々に「理系女子という選択肢もあり」というご理解を頂くための、次世代育成支援です。
そもそも理系・文系のような枠組みが近い将来無くなれば良いと思っていますが、そうでない間は個人的に「リケジョ倍増計画」を推進したいと思っています。


by osumi1128 | 2014-03-03 00:03 | ロールモデル | Comments(0)

旅の総括(画像編)

あまり自由な時間も無かったので撮った画像は多くないのですが、旅の思い出画像をアップしておきます。
ようやく新しいスタイルのexiteブログ編集画面に慣れました。
画像のアップなどはやりやすくなっていますね。

こちらはリヨンの中心部のホテル傍の街角。こういうヨーロッパの石畳が好き。
d0028322_11551029.jpg
市場やスーパーを見るのが好きです。
d0028322_11552852.jpg
食事して帰ってきたときの広場からの風景。リヨンはフランス第二の都市ですが、パリより落ち着きがありますね。ちょうどTGVで2時間くらいの距離なので、方向は反対ですが、東京と仙台のような関係かな。
d0028322_11561498.jpg
フランスの食事で一番嬉しいのは、パンとバターが美味しいこと。もちろんワインも、テーブルワインレベルのものがコスパ良いし。こちらはリヨンのホテルの朝食。
d0028322_11565453.jpg
今回のイベントは、フランスのCNRSという研究機構の研修施設での開催でした。集合写真を撮ろうとしているところ。
d0028322_11572024.jpg
こちらが、今度来るリヨンからの学生さんとそのボスのナタリー。
d0028322_11574659.jpg
ポスターはなんと屋外にボードを出して設置。青い空がいかにも南仏です♫
d0028322_11590755.jpg
建物屋上からの風景です。オレンジ系の煉瓦の屋根と白い壁のお家が南仏風。
d0028322_11593650.jpg
最後の朝食はシャルル・ド・ゴール空港隣接ホテルにて。なかなか良いホテルでした。一番近い空港直結はシェラトンでしたが、こちらはシャトルバスで数分のところ。普段は朝食食べられないのですが、時差があって朝ごはんが夕ごはん近いタイミングなので……^^
d0028322_12003342.jpg


by osumi1128 | 2014-03-01 12:17 | 旅の思い出 | Comments(0)