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「留学すると日本に戻れない」のか?

NIH-Japan-JSPS Symposiumという国際会議に出席するために米国ワシントンDCに出張してきました。もともとは東日本大震災後に、米国国立衛生研究所(NIH)から寄付や被災研究者受け入れの援助を頂き、昨年5月にお礼の意味も込めてNIHの研究者10数名を東北大学にお招きしてシンポジウムを行い、石巻へのツアーなども行ったのですが、今年はそれをNIHで行おうという企画でした。さらに背景にある意図としては、かつてNIH全体で300名もいたという日本人研究者が、現在では200名ほどに減少しており、NIHとしてもっと多数の日本人に来てほしいというがあり、日本学術振興会(JSPS)も加わっているのは、「海外学振」と呼ばれる博士研究員の海外派遣制度を支援しているからです。
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初日の朝一番の発表だったので、行きの成田のラウンジや飛行機の中でもKeynoteのブラッシュアップをして臨みましたが、前日入りした夜は、DC泰山会という、高校のプチ同窓会にお呼ばれして、種々の分野においてDCエリアで活躍される10名ほどの方々とご一緒しました。やはり、同じ高校で3年を過ごしたというだけですぐに打ち解けられるのは良いですね。

シンポジウムの内容そのものは追って研究科HP等に掲載されると思いますので、ここでは2日目の夕方に行われた「NIH金曜会X UJAプレゼンツ 日米日本人研究者交流会:研究キャリアに関するパネルディスカッション」と、帰りの日の朝のパワーブレックファーストという名の女子会に参加したことを元にして、いわゆる「<留学>のススメ」についての私見を述べたいと思います。

金曜会のイベントでは5名のシンポジウム参加日本人教授が登壇し(私もその一人でした)、上記の組織が行った世界180大学、360名ほどのアンケート結果をもとに、「今、海外で博士研究員(ポスドク)などをしている日本人がどんなことを心配に思っているか」等について、じゃぁ、どうすればよいかなどを話しました。女子会の方は、メンターとして「お姉さん(私もその一人)」側が4名、NIHのいろいろな研究所で研究をしている女性ポスドクが9名と少人数の会でしたので、さらに個別のアドバイスなどをしました。

「留学する(海外でポスドクなどをする)と<帰ってこられないのではないか>」という不安が多い(だから留学する人も減っているのではないか)」ということは、今回のアンケート以外にも目にしたことがあります。登壇された私以外の先生方は皆、海外でのポスドク経験者でしたが、ポスドク経験の無い私も含めて「どうしても日本に帰らなければならないの?」という疑問が湧いて、ちょっと「問題設定が違うのではないか?」というギャップを感じました。

私を含めて今ポスドクをされているよりも10歳以上、上の世代は、まだ日本にポスドクのポジションが少なかったということもあって、博士号取得後に助手(当時)になれず、でも研究したいと思えば、海外に行くしかなかった、という時代でした(その意味において、我々の世代からのアドバイスは、直接そのまま役に立つかどうかは、それぞれ判断頂いた方が良いでしょう)。そのような方の中にも、海外で研究室主催者(PI)になられた方もいらっしゃいますし、皆がどのようなキャリアパスであったのかについての客観的なデータは見たことがありません。でも、海外にポスドクに行く前に、「戻ってくる宛がある」のは臨床系の方に限られていて(これは今でも同様の構図と思います)、そうではない理学系の友人も「研究を続ける、できるだけ良い研究環境に身をおく」ために海外での研究生活にチャレンジしたのだと思います。結果として、若いうちに海外の研究者(後に著名になる方含め)とのネットワークができることも、留学経験者の方々のキャリアパスに有利になったものと拝察します。

たぶん、登壇者らが一番しっくりこなかった質問は、「日本でポジションを得るためにコネクションはどの程度必要か?」というあたりだったように思います。「コネクション」の定義にもよりますが、今どき「有名ボスからねじ込まれて採用した」というようなことが可能な、ある意味<優雅な>研究室はありえないでしょう。どんなPIであれ、自分の研究室を良くするのに必死な訳ですから、採用候補の研究者はできるだけ優秀で前途有望であってほしいでしょうし、研究室に足りない技術や知識を持ち込むことを期待されていると思います。独立したテニュア・トラックのポジションなどでも同様の構図です。その研究科や研究所をより良くすることに貢献して頂ける研究者を、採用する側は切望しているのです。

女子会の際に、おそらくこのパネル・ディスカッションに参加されなかったと思われる方が、つまり独立に、同様の質問をされました。曰く「業績が良いのに公募に落ちたのは、すでにコネのある方がいたからなのでしょうか?」 一般論で語るのは難しいのですが、インパクトのある論文を出していても、採用する側の求める方向性の研究で無ければ、ポジティブに作用しない場合もあります。あるいは、面接してみたらプレゼンや質疑応答から、本人の研究資質に疑問を感じることがあったかもしれません。つまり、インパクトのある論文が出せたのは、そのボスが偉かったからではないの?ということですね。

さて「コネクション」ですが、これは「与えられるものではない」とオトナたちは思っています。「コネクション」という日本語の語感が悪ければ「ネットワーク」と言い換えても良いでしょう。良いネットワークは努力してゲットすべきものです。それは、大学院の研究室を選ぶとき、ポスドク先を選ぶときにPIを誰にするか、という選択だけではなく、学会(meeting)に参加した際に、同世代の研究者との情報交換も必要でしょうが、論文で名前しか知らない著名な研究者と話をすること、ただ話をしただけでは相手は覚えてくれる訳はないので、学会から戻ったら御礼のメールを出しておくこと(返事は期待せずに)、その学会のときに発表した内容が論文になったら「あなたのアドバイスにより無事に論文が出ました。ありがとうございました」と伝えることなどにより積み重ねていくことができます。

私自身は、伝統ある研究室の出身ではなく、プライベートな事情により留学の機会を逸してしまったということもあり、若い頃、自ら必死にネットワークを作る努力をしてきました。確か、アイオワで学会があった折、当時は海外出張の旅費を出せるような研究費は持っていなかったので、自腹で行ったということもあり、ソルトレイク・シティのユタ大学のマリオ・カペッキ先生のところに留学中のC先生に帰路で寄りたいと連絡したところ(ファックスの時代ですね……)、「来るならセミナーしますか?」と言われて、「あ、はい、光栄です。アレンジお願いします」ということで、のちにノーベル生理学・医学賞を受賞されることになるカペッキ先生のラボでセミナーをさせて頂いたというのが最初だと思います。「そうか、名もない私でもセミナーさせてもらえるんだ!」と知って、それ以降は自分で、「今度、ロンドンに行くのでラボを訪問させて下さい。可能であればセミナーもしたいです」と面識の無いGuy’s Hospitalの先生にも直接コンタクトを取るようになりました。留学できなかった分を少しでも補いたいと考えていたからです。ちょうど30代前半の頃ですね。

(昔のことを思い出したついでに、そのユタ大学での人生初海外セミナーは、天候不順によりアイオワからの飛行機が遅れ、乗継地のシカゴの公衆電話(!)からC先生に連絡を入れ、「わかりました。たぶん、なんとかなるでしょう。荷物は預けましたか?」「いいえ、幸い、キャリー・オンしましたッ!」ということで、空港に迎えに来て頂いたC先生の車の中で、35 mmスライドをカルーセルに並べて(……時代だ……)、ユタ大学の駐車場からセミナー会場までダッシュしてなんとか時間に滑り込んだ、という曰くつきでした。ふぅ……(汗)。時代を感じさせるエピソードですね。カペッキ先生のオフィスの壁に自転車が吊るされていたことなど、ふと当時の情景が蘇りました。)

今ならメールを入れて、訪問したい、セミナーをさせて頂きたいと伝えれば良いので、20年前よりもずっとハードルは低いのではないでしょうか。知らない研究室でセミナーをすることは、ジョブ・トークのための予行練習になるでしょう。

日本とのネットワークについて、「留学先のボスが、学会発表などは論文がまとまらないと行かせてくれない」という話も女子会で聞きました。もちろん、ボスの研究費でサポートしてもらう場合には、ボスの意向に従うしかないでしょう。何かの折に(もしくは理由を作って)自腹で定期的に帰国してセミナー・ツアーをすることは、もしそうしたいと思えば自らの意志で達成できると思います。国内の移動については、余裕のある訪問先ラボであればサポートしてもらえるはずです。未発表データを話すことができない場合にも、ラボ訪問だけなら留学先のボスに遠慮する必要はないでしょう(さすがにその場合は国内寮費のサポートは難しいでしょうが)。そのラボの若い方々にとっても、留学先のことを知るチャンスになるのですから、歓迎してもらえると思います。

ともあれ、サステナブルな科学者コミュニティーを作るためには、おそらく学協会のような組織がそれぞれの分野の若手をエンカレッジすることに、これまで以上に努力することが必要だと感じています。自分たちが若手の頃にはそんなサポートはされず、ボスにはたてつきつつも奉仕してきた世代として、納得いかない先生もおられるかもしれませんが、学会がそれなりの年会費や大会・年会等の参加費を取って運営するのであれば、サイエンティフィック・セッション以外にも、参加して得られるものがある企画が必要でしょう。ここでは割愛しますが、多様なキャリアパスのロールモデルの提示も重要ですね。ちなみに、昨年に引き続き、日本分子生物学会では今年の年会用にも、海外在住研究者の年会発表のための旅費支援を行っています。

最後に、NIH女子会で出たアイディアとして、「留学復帰ポスドク制度」はどうか、という話になりました。これは、現在、育児休業取得者(男女限らず)のための枠として学振の「育児休業復帰博士研究員RPD」という制度があることに倣ったプランです。一定期間(どのくらいの長さにすべきか、要検討)海外でポスドク等を経験した若手研究者(年齢制限はどうするか?)のための、2年程度(長いのは有り難いが予算には限界あり。どの程度の期間が適切か?)の研究費付き特別研究員枠(何人程度が適切か?)を想定しています。できれば、1000人を超えるアンケートの数字に基づいてほしいところですね。そのような提言を文科省に持ち込むなどしてみてはいかがでしょうか? それから、いろいろな制度ができても周知されないこともあるので、例えば、分生Facebookなどに「イイね!」をして頂いて、各種のお知らせがプッシュされるようにしてみて下さるとよいかもしれませんね!

RPD制度は、男女共同参画の長年の活動や、学協会連絡会という組織の2万人規模の大規模アンケートの結果に基いて、ボトムアップな提案が、当時の学振の久保真季氏のご尽力もあって実現したものです。制度はこのように一人ひとりの力の積み重ねで変えることが可能と思います。
by osumi1128 | 2014-10-26 22:55 | 若い方々へ | Comments(9)

価値ある博士号取得者に必要なのは「問題解決力」以上

昨日、生化学若い研究者の会(通称:生化若手の会)主催のフォーラム「価値ある博士号取得者になるために必要なこと」に呼ばれてお話をしてきました。

私以外の登壇者が、吉田文先生@早稲田大学と森郁恵先生@名古屋大学と「全員女性」っていうのも興味深いことでした。

3人の講演の前に「生命科学夏の学校」で行ったアンケート「質の高い博士号取得者はどのような素養を身につけた人材であるか」の結果として、上位に「問題解決力」「コミュニケーション力」が挙げられたということが紹介されました。講演後のパネル討論ではそれを受けての議論があったのですが、「問題解決力は<普通>であり、質の高い博士号取得者を目指すのであれば、それ以上でなければならない」という点において登壇者の意見が一致していました。

「問題解決力」という言葉からは、「問題はどこかから・誰かから与えられる、それを解決する」というような意識を感じます。おそらく、大学受験、大学院受験までは、そういう能力を鍛えるように訓練されているのだと思います。でも、大学院以降は、一流の研究者になるためにも、博士号取得者として違うキャリアパスを目指す場合も、「<問い>を立てる力」つまり「問題発掘力」や「問題設定力」が重要なように思います。

パネルの最後にフロアから「ではどうやったら<問題設定力>を上げられますか?」という質問が出て、「セミナーに参加したときなど、背景を聴いている間に<自分だったら、どんな問いを立てるか、どうやって解決するかをシミュレーションしてみては?」、「他の広い研究分野を知ることによって、未解決の問題や、解き方のツールを発掘する」などのアドバイスが為されました。

自分の発表では「<タグを付ける>ことと、ネットワーキングが大事」ということに加えて、依頼されていた「研究倫理」関係の話をしたのですが、結局時間が足りなくて用意したスライド、使い切れなかったので、こちらに貼り付けておきます。
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このスライド、「価値ある博士号取得者として備えるべき素養」に対する私なりの考えというつもりで用意したのですが、5つの「力(ちから)」がカタカナの「カ」に見えるのが面白い(ウコンの力、とかですねww)ので、それをジョークに使おうと思っていたのです(←ネタバラシww)。でも、パネル討論のときに「英語や国語など書く力が大事」ということだけは伝えました。

3つの「性」のところに「計画性」を加えることもありだと思っています。とくに時間を「逆向きに捉える」ことが大事で、「今日、これこれをやったから、明日はこうしよう」だけではなく、「いついつまでにこうしなければならないから、その前のいついつまでにこれこれをしよう」という計画を立てることができるかが大事だと思います。

これらは、すべての点において卓越していることが大事、というよりも、自分の個性を自覚することが大切だと思います。その足りないところを、友人や同僚と協力することによって補うことができるからです。高学歴の方は往々にしてプライドが高いことがあって、他人に相談しないことも多いですが、自分の欠点を素直に認めることは、どんな世界でサバイバルするたえにも鍵となるでしょう。
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最後に伝えたかったのは「みんなちがって、みんないい」ということを謳った金子みすゞの詩でした。これも、パネル討論のときに「某会社の入社式の様子、30年前と今とでは違っていて、今はみんな画一的な<リクルートスーツ>を着ていて、<人と同じ>になろうとしているけど、価値ある博士号取得者に求められているのはそうではない」ということを話しました。今の若い方々は(……という台詞は平安時代の文献にもあるとのことですがww)「空気を読む」ことに意識を向けすぎているのではないかと危惧します。これは「問題解決力」が大事だと思う精神にも、どこかで繋がっているような気がします。「空気を読む、ボスの意図を汲み取る」ことが重要だと考えすぎているのではないかと思うのです。

多様なキャリアパスについては、サイエンス・ライター、科学雑誌編集者(日本語でも英語でも)、ジャーナリストなどもありましたが、スペース不足により割愛。ただし、これらはみな「書く能力」や「取材する力」が必須です。画才があればサイエンス・イラストレータなどもニーズは大きい(ただし、きちんと職業として認知されリスペクトされることが必要)。もっとマルチなタレントを活かしたキャリアパスもあると思います。森先生のお話の中には、森研出身でURAになった方のことが取り上げられていましたね。「研究担当や国際対応の理事の下で活躍する」なんてURAは、かなりやりがいのある仕事だと思います。その場合には、やはり「自分で問題を設定する能力」が求められるでしょう。

フォーラム後に主催者、パネリストを囲んでの懇親会もあったのですが、都合により失礼させて頂きました。皆さん、盛り上がったかな?
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by osumi1128 | 2014-10-19 09:52 | 若い方々へ | Comments(4)

ポール・ナース卿の考える科学と社会のあり方

この週末は体育の日にちなんだ連休でしたが、土曜日(10月11日)に読売新聞社調査研究部主催の「ノーベルフォーラム:次世代へのメッセージ」にパネリストとして参加しました。
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追って、本紙に詳しい報告も掲載されると思いますが、今年のノーベルフォーラムでは、「科学の信頼回復のために」という全体テーマでした。

ノーベル賞受賞者として、小柴昌俊先生(2002年物理学賞)とポール・ナース卿(2001年生理学医学賞)が基調講演をされました。小柴先生は「自分の信じることを、情熱をもって、何度もチャレンジすることが大事」というメッセージを。

ナース博士は、どちらかというと英国王立協会(Royal Society)会長としての立場での御講演で、あまりご自分の研究の話をされなかったのですが、「Trust in Science」というタイトルで、近代科学の歴史や王立協会のモットー「Nullius in verba(言葉によらず)」を紹介しつつ、遺伝子組み換え作物、狂牛病、地球温暖化等にまつわる科学と社会の関係について触れて、「科学は客観的事実の積み重ねが大事。ただし、その解釈などでは間違うころもある。科学が<疑う>ことに立脚しているということを、科学者も市民もよく認識することが大切」というお話をされました。
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その後、休憩を挟んで、読売新聞社の芝田裕一氏のコーディネートにより、ポール・ナース先生、大阪大学准教授の中村征樹氏とともにパネル討論を行いました(中村さんは、先日の科学と法律に関するシンポジウムでもご一緒でした)。研究不正の背景やその防止のために何をすべきかについて話をしました。
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打合せを兼ねた昼食時にもポール・ナース先生といろいろお話をしましたが、Royal Societyの立ち位置について伺ったのが興味深かったです。

「政治家がどのような施策を取るのであれ、必ずロイヤル・ソサエティーには諮問されます。もし、科学的に誤った政策を掲げて、それを実行しようとすれば、ロイヤル・ソサエティーはそれに対して異議を唱えるからです。ロイヤル・ソサエティーは政府とは独立しており、中立な立場で科学的な意見を述べることになっています。ときには意見を取りまとめるのには1年くらいかかることもあります。もっと急ぐ場合には数カ月の場合もありますが。また、私自身が個人的に発言する場合もありますが、まったくの<個人>ではありえないので、そういう場合も、周囲の信頼できる仲間の意見も訊いた上で話すようにしています。」

さすが、1660年に設立された王立協会ならではの歴史と成熟度を感じる言葉でした。ロイヤル・ソサエイティーのフェローが何人いるのか聞き損ねましたが、上記のような諮問に対応する「科学審議会 Science Council」と呼ばれる執行部メンバーは20名ほどとのこと。「分野は満遍なく選ばれているのでしょうか?」と伺うと「うーん、必ずしもそうではないね」とのことでした。会議は20名以上いても、実りある議論にはならない、ということを聞いたことがありますので、ある程度、種々の専門性をカバーしつつ、ロイヤル・ソサエティーとしてのcoherent voiceを出すためには、20名程度の執行部で対応するというのが現実的なのかもしれません。その他のフェローの方々は、それぞれの立ち位置でロール・モデルとして活躍されることを期待されているようです。例えば以下のように、英国放送協会(BBC)でのインタービューがwebに載っています(ちなみに、ロイヤル・ソサエティーの建物はBBCにも近いですね)。

iPlayer Radio: BBC Radio 4:The Life Scientific

追って、読売新聞には報告記事が掲載される予定です。

【参考】
柳田充弘先生ブログ「生きるすべ」:出発の日の朝食時に(2012年5月25日)

by osumi1128 | 2014-10-13 20:51 | 科学 コミュニケーション | Comments(0)

2014年ノーベル賞自然科学系3賞の結果から思うこと

本日はノーベル文学賞の発表があって、残念ながら村上春樹ではありませんでした。ものすごく好きという訳ではないのですが、彼は自分でも翻訳を手がけているので、自分の作品が翻訳されて世界中で読まれることを最初から想定した文章を書いているという点において、ノーベル賞を取れるのかどうかが興味深いと思えるので。

さて、自然科学系の3賞のうち、今年は物理学賞について3名の日本人(より正確に言うなら、2名の日本人と、1名のアメリカ国籍を有する日本出身の方)が受賞され、これで19名となってオランダより多くなったはずですが、人口を考えれば、ドイツの健闘が著しいですね(図は下記のサイトより引用)。
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Here's A Beautiful Visualization Of Nobel Prizes By Country Since 1901

Read more: http://www.businessinsider.com/nobel-prizes-by-country-since-1901-2014-10#ixzz3FedhTgvN


青色発光ダイオードは、確かに街中にあふれているので、そういう「わかりやすい」ノーベル物理学賞も必要だったのかもしれません。

ここ10年くらいの生理学医学賞と化学賞は、どっちがどっちなのか、というところもありますが、今年の化学賞が「超高解像度の蛍光顕微鏡技術の開発」に対して授与されたのは、2008年のものと類似の方向性のように思います。下村脩先生がオワンクラゲから緑色蛍光タンパク質を発見して、それがマーティン・チャルフィーおよびロジャー・チェンによる遺伝子操作技術と合わせて、世界中の研究室で分子や細胞の標識に用いられるようになったのでした。1993年のキャリー・マリスも、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)という、これまた分子生物学の研究室であれば、どこのラボでも日常的に行う技術の開発です。

分子の構造決定に用いられるX線回折法は、例えば1962年のジョン・ケンドリューによるヘモグロビンの構造決定にも用いられましたが、1964年のドロシー・ホジキンがペニシリン、ビタミンB12、インシュリン等の構造決定を行ったことで受賞対象になりました。比較的新しいところでは、2003年のロデリック・マキノンがカリウムチャネルの構造決定によりノーベル化学賞を授与されました。同様に、高分解能NMR技術の開発により、1991年にリヒャエル・エルンストが、なぜか田中耕一さんと同じ2002年にクルト・ヴュートリッヒが(再度?)NMR技術で授賞していますね。

つまり、有用な、汎用性の高い技術の開発は受賞対象になる確率が高いと思います。

今年の生理学医学賞は「脳内の位置把握に関わる細胞の発見」に対して、ジョン・オキーフ博士、メイ=ブリット・モーゼル博士およびエドワルド・モーゼル博士に与えられました。昨年、2013年は小胞輸送、2012年はリプログラミング(初期化)、2011年は自然免疫と、神経系での授賞は2004年のリチャード・アクセルとリンダ・バック以来、10年ぶりということになります。……おっと、昨年の小胞輸送の受賞者のお一人、トーマス・スードホフ博士の研究は、シナプス小胞が関係する神経伝達についてのものでしたから、10年ぶりというのは不適切でした。
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オキーフ博士が1970年代に提唱し始めたのは海馬の中に「場所細胞 place cells」が存在するということでした。二次元空間の場所の感覚をラットが記憶し、特定の位置を通過するときに、海馬の中の特定の細胞が発火するという発見は、当時、斬新なものとして受け止められたことと思います。

「記憶に関する海馬の重要性」という意味であれば、オキーフ博士とともに、有名な患者HMについての報告を行ったカナダのブレンダ・ミルナ−博士(右の画像は、Wikipediaから拝借。TEDxMcGill2011のときのもの)が共同受賞となる、という選択もありえたのではないかと思います。

委員会はそういう組み合わせではなく、モーゼル夫妻を共同受賞者にした訳ですが、彼らは海馬と繋がっている嗅内野という部分に着目し、場所を認知してナビゲーションする細胞が、六角というか三角というか、そういう格子状に並んでいるらしいことを突き止め、そのような細胞にgrid cellsという名前を付けたのでした。

ちなみに、オキーフ博士は2012年に仙台を訪問されていました。「脳と心のシンポジウム」という国際シンポジウムで講演され(残念ながら所用により聞き損ねましたが)、その後、松島などを訪問されたようです。(松島遊覧船でカモメにはしゃぐオキーフ先生の画像は東北大学電気通信研究所の坂本一寛さんのFacebookから借用させて頂きました)
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場所の認知とその記憶、そしてその想起は、まだ二次元から三次元に理解を広げる必要があると思いますが、個人的には四次元に繋がる「時間の認知・記憶・想起」が面白いと、ずっと思っています。すでにイムノグロブリン遺伝子の組換えによりノーベル生理学医学賞を授賞されている利根川進博士は、理化学研究所・脳科学総合研究センターのセンター長でもありますが、マサチューセッツ工科大学(MIT)にも研究室を持っておられ、海馬の機能についての研究を展開されていますが、直近でScience誌に発表された論文では、時間の記憶に関わる特殊な細胞が嗅内野にあるのではと考え、この細胞群を「島細胞 island cells」と命名しておられます。ちなみに、この論文の筆頭著者は北村貴司さんです。

時間の認知・記憶にはいろいろな単位があります。東北大学の虫明元教授らは、運動の制御という観点から秒単位の時間を測る細胞が大脳皮質の運動野の一部に存在しているという内容をNat Neurosci誌に発表されました。私自身はもう少し長い単位の時間の認知・記憶に興味を持っています。例えば、カケスは4時間前に隠した餌と、124時間(つまり5日以上前)に隠した餌を区別して覚えているということが報告され、鳥も過去についてのエピソード記憶を持つらしいと考えられています(Clayton & Dickinson, Nature, 1998)。では、未来についての時間感覚はどうなのでしょう? 子どもが小さいうちは、「明日」くらいしかわからないのに、だんだんと「一週間」や「一ヶ月」「一年」という長さが理解できるようになり、もっと抽象的な「将来」まで人間は考えられるようになりますが、動物ではどうなのでしょうか?

もちろん、同じような興味を抱く研究者は他にもいます。大阪大学の北澤茂教授は、文部科学省の支援による新学術領域「こころの時間学」というプロジェクトを立ちあげ、認知科学だけでなく、心理学や言語学、哲学の分野の研究者まで巻き込んだチームで「時間」の認知のされ方について解き明かそうとチャレンジされています。今後の展開がとても楽しみです。


by osumi1128 | 2014-10-09 23:54 | サイエンス | Comments(0)

2014年ノーベル化学賞と母校の後輩のこと

ノーベル週間です。昨日の物理学賞が青色発光ダイオードの発明に関して日本人3名の受賞(画像はノーベル財団HPより)となったので、メディアはそちらで持ちきりですが、拙ブログは自分目線でのエントリーを続けます♫
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本日は化学賞の発表でした。その受賞対象はなんと「超解像蛍光顕微鏡」!(同じく画像はノーベル財団HPより) 化学賞としてはかなり珍しいのではないかと思います。化学は専門ではないですし、今年は2012年の山中さんのときのように、連続エントリーすることもないだろうと思っていたのですが、ちょっと待て、このネタなら書きたいことがありました。
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実は、先日、高校の後輩、有薗美沙さんが来て下さって、このような超解像顕微鏡を使ってマウスの神経細胞のシナプスの様子などを「生きたまま、超解像度で」観察して研究を行っている、というお話を聞いたところだったのです。有薗さんは、現在、理化学研究所脳科学総合研究センターの御子柴克彦先生の研究室に所属しつつ、フランスのボルドー大学の研究室に留学中です。この超解像蛍光顕微鏡を用いると、光の波長よりも径の短い分子さえも捉えることが可能となります。

「母校でセミナーなどしたい」というご希望を伺ったので、昨年、東北大学を訪問したスーパー・サイエンス・ハイスクール(SSH)のご担当の宮城政昭先生にお話をつないだところ、ちょうどまさに昨日、Intelligence Cafeと呼ぶ活動でお話されたということを、宮城先生から伺った次第。ご縁ですね……。
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真ん中が有薗さん、右端は校長の原田和雄先生(うーん、セーラー服が懐かしい……)。皆さん、とても熱心にお話を聴いたそうです。(画像は許可を得て掲載しています)
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少人数だったためinteractiveに発表ができてとても楽しかったです。
カルシウムイメージングや一分子イメージングの動画、また超解像の画像に驚きの声があがり、イメージング技術の感動が伝わってとても嬉しかったです。
私自身も科学に興味のない母親に相手をしてもらって発表を練ったり学生の皆さんの反応をみることで、研究者以外の人へどのように自分の「わくわく」をわかってもらうかについて勉強することができました。
このintelligent cafeの取り組みは本当素晴らしいのでどんどん盛り上がっていけばいいなと思います。(有薗さん談)
研究の「わくわく」をどんどん伝えていけたらいいですね!

ちなみに母校ネタでは、先日、ウルグアイ大使に任命された同期の田中径子さんのプチ壮行会を、共通に存じ上げている東北大学法学研究科の水野紀子先生とともに、同じく昨日に行ったところでした。地球の反対側ですが、頑張って下さい!


にわかに始めたウルグアイ勉強の情報ソースの1つはこちら。1980年代に日本で2人目の女性大使としてウルグアイに着任された赤松良子氏のエッセイ『うるわしのウルグアイ』。

by osumi1128 | 2014-10-08 22:55 | サイエンス | Comments(0)

祝!ノーベル生理学医学賞が「場所細胞・格子細胞」の発見に

科研費申請の山場と論文投稿が重なってデスクワークに没頭している間にノーベル賞ウィークの最初の発表、生理学医学賞の受賞者のアナウンスがありました。
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今年は神経科学! しかも、齧歯類を用いた空間認知記憶のメカニズムについてということで、子年生まれとしては二重に嬉しいです。さらに3名の受賞者のお一人が女性だったことも個人的にはとても嬉しい。(画像はノーベル財団のHPより拝借)

賞金の半分が授与されるJohn O'Keefe博士@UCLの研究は1970年代にさかのぼります。海馬という記憶に重要な脳の構造に、「場所細胞 place cells」という細胞が存在していて、ラットが二次元空間のある場所を通過したときに「発火する」ことを見出したという有名なお話です。

O'Keefe, J., and Dostrovsky, J. (1971). The hippocampus as a spatial map. Preliminary evidence from unit activity in the freely‐moving rat. Brain Research 34, 171-175.

O´Keefe, J. (1976). Place units in the hippocampus of the freely moving rat. Experimental Neurology 51, 78-109.

その仕事を引き継いで発展させたのがMoser夫妻@ノルウェー科学技術大学。この場合は、海馬ではなくて、嗅内野と呼ばれる部位なのですが、ちょうど「格子状の細胞 grid cells」が場所の認知に合わせて活動することを発見し、位置、方向、速度などが感じ取られているらしいことが示されました。私は方向音痴ではありますが、たぶん「方向」と「速度」は感知できているのではないかと思っています。

Fyhn, M., Molden, S., Witter, M.P., Moser, E.I., Moser, M.B. (2004) Spatial representation in the entorhinal cortex. Science 305, 1258-1264.

Hafting, T., Fyhn, M., Molden, S., Moser, M.B., and Moser, E.I. (2005). Microstructure of spatial map in the entorhinal cortex. Nature 436, 801-806.

Sargolini, F., Fyhn, M., Hafting, T., McNaughton, B.L., Witter, M.P., Moser, M.B., and Moser, E.I. (2006). Conjunctive representation of position, direction, and velocity in the entorhinal cortex. Science 312, 758-762.

今見たら、このモーゼル先生らの論文には、Menno Peter Witter先生が共著者になっていましたが、ウィッター先生は何度も東北大学で特別講義をして頂いています。ウィッター先生も海馬のご専門です。
(東北大学脳センターHPより)

現在、日本人の田代歩さんという方が、つい先ごろまでこのノルウェー科学技術大学で独立ポジションでおられたようです。神経新生の研究分野の大御所、Fred Gage研出身で、現在はシンガポールでラボを持っている模様。若手の海外での活躍は何より。でもって、直近の日本神経科学大会では以下のような講演が為されたようです(生憎、聞き損ねました……)。
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4つ目の演題の田代歩さんという方が、まさに、海馬歯状回の神経新生と空間情報記憶の研究を融合的に発展させておられるようです。ちなみに、このシンポジウムのオーガナイザーの井ノ口馨先生は、以前CRESTの同じチームにご参画頂いた、高校の大先輩であり、共同研究者です。北村貴司さんは、元井ノ口研、現利根川研@MITで、海馬の神経新生が記憶の消去に関わることを2009年にCell誌に発表された方。

「脳は3歳で完成する」という神経神話は正しくなくて、海馬などでは生涯にわたってニューロンが産生され続けますが、そのことが動物の記憶・学習・気分に大きく影響することがどんどん明らかになりつつあります。上記のCRESTは、そのことを強く提唱したプロジェクトでした。
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海馬は、有名なHM氏の症例から、短期記憶に重要であることが知られるようになりましたが、ヒトでは相対的に小さいことと、サルでは電極が刺しにくい深いところにあるため実験しにくいことから、齧歯類での海馬の機能や神経新生の研究は、ともすると軽視されがちでした。しかしながら、例えば、アルツハイマー病の初期の症状が「外に出て行って戻って来られない」などの空間認知の異常であったり、海馬の萎縮であることも知られるようになって、ヒトでもその重要性が少しずつ浸透しつつあると思われます。

ちょうど、先月9月21日に行われた東北大学包括的脳科学研究・教育推進センター主催の市民講座のテーマが「海馬」だったのは、なんとタイムリーなことでしょう! 河北新報の8日付に報告記事が掲載予定です。

by osumi1128 | 2014-10-07 00:38 | サイエンス | Comments(1)

公開シンポジウム・科学研究の規制と法 ~「研究不正」をどう扱うべきか?~(9/28)

先週の日曜日、標記のシンポジウムに呼ばれて講演とパネル討論を行いました。
全体のオーガナイズは、東京大学法学研究科の米村滋人先生(昨日の別エントリー参照)でしたが、東北大学の水野紀子先生(元法学研究科長)のプロジェクトの方も共催なので、東北大学のHPにも告知が為されていました。

「科学者の倫理とは?」「誰が『研究不正』を認定するか?」「『正しい』科学研究とはどういうものか?」研究不正問題の背景に潜むこのような問いに答えつつ、科学研究に対する社会の向き合い方、法制度のあり方について考えます。(HPより転記)

日時:2014年9月28日(日)13:00〜17:00(予定)
会場:東京大学医学部教育研究棟14階 鉄門記念講堂

<総合司会>
水野紀子・東北大学教授(民法)

<講演・パネルディスカッション>
大隅典子・東北大学教授(発生発達神経科学)
中村征樹・大阪大学准教授(科学技術社会論/科学技術史)
藤垣裕子・東京大学教授(科学技術社会論)
米村滋人・東京大学准教授(民法・医事法)

<パネルディスカッションご登壇のみ>
長谷部恭男・早稲田大学教授(憲法)
町野朔・上智大学名誉教授(刑法・医事法)

参加者の林衛先生@富山大学から画像を頂きました。ありがとうございました。
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d0028322_10331686.jpg米村先生は、登壇者かつ会場仕切りも行っておられたので、上のパネリストが揃った画像に無かったので、ご発言中のものをこちらに(他の画像と大きさアンバランスですねww)。

8月末に決定された文科省の研究不正ガイドラインについて、その矛盾点などしてきされていました。本ブログでも何度も述べていますが、多くの科学者が研究不正に無関心なままに、拙速に作られた感のある制度が先走ることを私もとても憂慮しています。みなさん、自分の研究費については熱心なのですが……。

ガイドラインの件については、先日も、文科省の方とお話する機会がありましたので、その点はお伝えしておきました。部署が異なるとなかなか話が難しい点もあるのですが、経緯を見守りたいと思います。

ちなみに、総合司会を務められた水野先生が冒頭のご挨拶の中で「研究者は社会の中で、ペット>のようなもの」という比喩を使われました。以前にも確か伺ったことがあるのですが、個人的にはツボですね。社会が豊かで平和であればこそ生かしてもらっている存在だと、私も思います。戦争が起こったら、直接関わる研究以外は行うことはできないでしょう。ノーベル生理学・医学賞を受賞したリタ・レヴィ=モンタルチーニは、ユダヤ系イタリア人で第二次世界大戦中に迫害を受け、自宅の部屋にインキュベータを持ち込んで、ニワトリ胚を用いた移植実験などを細々と続けたと自伝に書いてありましたが、今やそういう素朴なサイエンスではない時代になっています。


再生医療イノベーションフォーラムのイベントと重なった日程でしたが、多数の記者さんたちも参加されていました。追って、岩波の『科学』にも記事掲載予定とのことですが、直近で出た日経の記事のリンク先を貼っておきます。


by osumi1128 | 2014-10-05 11:01 | 科学 コミュニケーション | Comments(0)

日本学術会議サイエンスカフェ:あなたの情報 あなたの遺伝子~法律と科学は何を決めてくれる?~

先週、日本学術会議が主催するサイエンスカフェをコーディネートしました。
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遺伝子診断サービスが増えてきた昨今の状況を踏まえて、科学の立場と法律の立場から、遺伝情報を考える、というテーマで行いました。

講師の米村滋人さんは、医師であり、元東北大学、元東京大学法学研究科の准教授で、民法・医事法が専門ですが、震災復興ボランティアにもご尽力されています。



参加された35名は、かなり意識の高い方々であり、仕切る必要が無いくらい、次々と活発な質疑応答となりました。遺伝情報のデータベースの商業的な利用、もしお見合いの釣書に使われるようになったら、など、これからの社会では遺伝情報とうまく付き合っていく必要があります。そのためには、遺伝子やゲノムの働きを理解することが大切だと思います。

by osumi1128 | 2014-10-04 22:47 | 科学 コミュニケーション | Comments(0)