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心の復興を祈って:仙台市博物館で薬師寺のお宝を見てきた

仙台市博物館で開催されている「吉祥天女が舞い降りた! ー奈良 薬師寺 未来への祈りー」を見てきました。(画像はWikipediaより拝借)

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薬師寺でもごく限られた時期にのみ公開される国宝吉祥天女が、期間中、ずっと展示されているというのは、たいへんに有り難いことです。そのほかにも、国宝聖観世音菩薩立像、重文の四天王像、地蔵菩薩立像、弥勒菩薩坐像等、20数点が展示されていました。

吉祥天女は、思ったよりも小さく、館内の照明も暗くされているので、ヴィデオ解説を見てから、再度見なおした方が良いかもしれません。

聖観世音菩薩は銅造鍍金で艶があり、優しいお顔と若々しい体躯が印象的。普段は見られないであろう後面にも各種の飾りが施されているのが見られるのも、こういう博物館展示の有り難いところです。


また、今回、福島の能満寺というところにある虚空蔵菩薩坐像が、薬師寺の文殊菩薩坐像と同じ時期に同じ作者によって作られたのではないか、という可能性があるため、並べて展示されていました。


薬師寺は戦後も写経によって復興を目指すなどの活動をされたとのことで、今回の東日本大震災後も、管長はじめ、何度も被災地訪問もされており、今回の特別展も巡回はせずに仙台のみの開催とのことでした。「私たちは心の復興を祈ることで役に立ちたい」との管長の言葉が印象的でした。

すでに来場者は4万人突破とのこと。会期は6月21日まで。

おまけ画像:
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仙台市博物館には魯迅の碑や、伊達政宗胸像などもあります。新緑が美しい季節です。
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仙台市博物館から川内萩ホールまでは歩いて10分ほど。先日もご紹介した「カフェ・モーツァルト クレーズ・コーヒー」は週末も営業中。この日もほどよくお客さんが入っていました♬ 画像はランチの「ホエー豚とキャベツのパスタ」。
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萩ホール正面に広がる景色。今なら、カフェのベランダも気持ち良いと思います。
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by osumi1128 | 2015-05-31 21:25 | アート | Comments(0)

黒木先生によるiPS細胞解説本

今年の4月25日付で上梓された『iPS細胞 不可能を可能にした細胞』を、著者である黒木登志夫先生からご恵贈頂きました。黒木先生にとっては中公新書シリーズ科学バージョン第三弾です。他にも『知的文章とプレゼンテーションー日本語の場合、英語の場合』などもありますが。
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私にとっては、『科学者のための英文手紙の書き方』(朝倉書店)が黒木先生と最初の出会いであり、本当に何度も読み返しました。癌研究の権威であることはその後に知ることになり、また、実は東北大学医学部のご卒業であるということを知ったのは、不束かなことに、岐阜大学の学長をされるようになった頃からだったかもしれません。この当時のことも、『落下傘学長奮闘記』(中公新書ラクレ)にユーモア溢れる筆致で書かれています。

さて、iPS細胞に関する書籍は多数出ていますが、黒木先生の新書はきわめてわかりやすい。それは、「知的文章」に対する持って生まれたセンスと努力や、いくつかの挿絵まで描かれる才能に加え、先生ご自身が長く癌の研究者として活躍されただけでなく、学長や日本学術振興会顧問など、大所高所から広く科学分野を見渡すご経験を積まれていることも少なからぬ影響があると拝察します。

本書では、後半のiPS細胞を用いた応用について(第七章 シャーレの中に組織を作る、第八章 シャーレの中に病気を作る、第九章 幹細胞で病気を治す)の部分も2014年頃までの最先端の研究について触れてあり、もっともアップデートされていますが、私自身はむしろ前半部分、第一章の「からだのルーツ、幹細胞」や第二章「iPS細胞に至るルート」の部分が、再度、生物とは、人間とは、ということを考える上で読み応えがありました。もちろん、明日から始まる今年の医学部二年生相手の「発生学」の講義でも、参考書籍として紹介するつもりです。幹細胞研究に関係した研究不正についても触れられています。

山中伸弥さんご自身が序文を書かれ、オビには顔写真まで載っているのは、山中さんも黒木先生の『がん遺伝子の発見』(中公新書)を読んで得た感動を大事に思っていたからでしょう。以下、引用します。

1996年、私は三年間のアメリカ留学を終え、日本での研究を再開しました。しかし、さまざまな困難の連続で、研究に対する情熱を失いそうになっていました。そんな時、一冊の本が、科学に対する情熱を甦らせてくれました。本屋で偶然に見つけたその本を、私は何度も何度も読み返しました。務めていた大学に、その本の著者の先生が講義で来られた時、勇気を出してサインをして頂きました。私にとって障害忘れることのできないその本とは中公新書の『がん遺伝子の発見』、著者は本書を書かれた黒木登志夫先生です。(山中さんの序文より)

どんな分野であれ、生涯の間にそういう本や、そういう論文が書けたら素敵なことだと思います。頂いたサインを見返して精進します。
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【iPS細胞に関連して】
週刊ダイヤモンド5/30号が出ました! ちょうど上記と関連した話題がコラムの4回めとして掲載されています。



by osumi1128 | 2015-05-24 23:19 | サイエンス | Comments(0)

やっぱり研究はオタクだ(福岡伸一さんの講演会に行ってきた)

東北大学医学部の艮陵同窓会の年一回の総会に合わせて行う公開講演会は多数の市民が参加されますが、今年の講演者は福岡伸一さん。

大ベストセラーの『生物と無生物のあいだ』や『世界は分けてもわからない』など、生命科学研究寄りのご著書もあれば、フェルメールとレーウェンフックの関係を推理した『フェルメール 光の王国』もあり、フェルメール好きが高じて37点を原寸大ですべてディジタル化し、作品の制作順に並べた展覧会を主催するなど、幅広い活動をされています。毎年、1年生や2年生の講義の際に配布する「大隅推薦図書」にも必ず取り上げているのは、Nature論文の著者としての顔もお持ちだからです。

今回のご講演のタイトルは「生命をとらえなおす〜動的平衡の視点から〜」で、生命体をメカニカルで素子から成り立つものという捉え方ではなく、流動的で「動的平衡」にあるという視点もあることを、若くして亡くなったシェーンハイマーの実験を、チーズとネズミのアニメーションにしてわかりやすく話されました。

また、ご自身の研究内容についても触れて、膵臓で重要な働きをしているのでは?、と思って作ったとある遺伝子のノックアウトマウスが、まったく異常がなくてがっかりして、でも消化管のM細胞という特別な細胞で働いており、免疫細胞の活性化に重要であることがわかり、2009年に上記の論文発表にこぎつけたとのこと。ここまでなんと20年だそうです。研究というのは、何かを突き詰めて究めていくことですね。

ご講演自体は以前、いちど、日立グループの創業百周年の記念イベントでも聴いたことがあったのですが、今回仕入れた新しい話は、どのようにしてフェルメールに辿り着いたのか、ということがひとつ。

科学者はたいてい「昆虫少年」か「ラジコン少年」に分類されるのですが(女子はどうなる?ww)、福岡さんは前者。小さい頃に買ってもらった顕微鏡で蝶の鱗粉を見て感動したエピソードなどを話されましたが、その「顕微鏡って、いつ誰が作ったのだろう?」という興味から、レーウェンフックに辿り着き、さらに、そのレーウェンフックと同い年で同じデルフトにいたことがある画家というのがフェルメールだと知った、ということでした。

フェルメールは寡作なので、37点の「全点制覇」というのは、フェルメールファン(もしくはフェルメールオタク)の夢でもあり、福岡さんは10年かけてニアリー・コンプリートなのですが(どうしても現在見ることができないものが2点あり)、それを「一度に全部、見たい!」という夢を叶えたのが「re-create」の フェルメール展です。私も銀座で見ました。

現在、サバティカルでニューヨーク在住とのことで、その間になんとニューヨークでも同じ企画を行ったそうです。そうやって「オタク度」が世界的に知れ渡ると、ついには「真珠の首飾りの少女」を収蔵するマウリッツハイス美術館から電話がかかってきて、「ヴィデオを制作するので出演してほしい」というオファーが! どんな素敵な作品に仕上がったのかは、どうぞこちらのYouTubeを視聴あれ♬


現在、個人蔵のフェルメールがどうも日本にあるらしく「誰が所蔵されているのか、今、必死に調べているんですよね……」というのは、研究と通じるオタクな気持ちですね。

今日はご著書にサインを頂いてお名刺交換させて頂き、記念撮影。いつかゆっくりフェルメール談義をしたいものです……。
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【関連拙ブログ】

by osumi1128 | 2015-05-16 18:44 | 東北大学 | Comments(0)

「見える化」によるナレッジ・シェアリング

この週末は昨年度終了した文部科学省科学研究費の最終報告書と格闘しています。この数年で、年度ごとの収支報告や、新しく採択された研究費の交付申請書など、どんどんオンライン化されてきました。数年、秘書さんに任せていたことを今年は自分で行っており、現場の変化を実感しつつあります。

自分が研究者の駆け出しの頃にも、最初は確か手書きで報告書を書きました。日本語は小学校の時代から「マス目に合わせて文字を書き入れる」という手習いの伝統があるので、大人が書く報告書でも、そんな風にして「研究成果を600〜800字で記入のこと」となっていました。

平成26年度に終了した科研費の報告書は、「概要」の部分はむしろ少なくなって「300字」となりましたが、別様式のWordファイルをアップロードせよ、となっていました。10ポイントの字で二段組の報告書は、字数制限なし、図表の挿入OKとなっていて、大幅ボリュームアップ! 5年間頂いた研究費の報告書では、中身も、ですが、もちろん「論文発表・学会発表・図書」というパートも年数に比例して多くなります。細かい間違いをしないように、こういう業績を仕上げるのは根気のいる作業ですが、この5年間の自分の活動を振り返るには良い機会でもあります。

さて、この制度を社会の側から見てみましょう。「大隅典子 科研費」とキーワードを入力すれば、たちどころに私のドメインが挙がってきます。あるいは、「マウス音声コミュニケーション 大隅典子」でも同じサイトに行き着いて、そういうキーワードが入った研究課題を見つけることができます。いずれ、上記の報告書もこのサイトに載るものと思います(註)。また、個々の研究者には科研費を申請する際に「研究者番号」が与えられますが、さらにこの番号は「研究者リゾルバーID」とリンクしており、他のデータベースにまとめられている業績リストや、Researchmapなどに飛ぶこともできます。つまり、研究者の営みは、これまで以上に「見える化」されているのです。

これは、国民全体にとって大きな財産だと思います。私たち科学者は、プロ相手には英語で執筆する「科学論文」に大きな価値を置いていますが(分野にもよりますが)、多くの日本の方々にとっては、しかも専門外であればなおのこと、母国語である日本語で書かれた研究成果は、英語の論文よりも使い勝手があるでしょう。紙媒体の時代よりも、情報がクラウド化された現代では、科学者、研究者が、税金を使って行って得た「知」を皆で共有できるのです。時代は「ナレッジ・シェアリング」になったのだと思います。

逆に言えば、研究者はもはや象牙の塔に閉じこもることはできず、その行いは常にウォッチされているのだともいえます。かつて言われた「お天道様が見ている」という言い回しは、今では「クラウド様が見ている」ということでしょうか……。

「この報告書が誰かに読んでもらえて何かのヒントになればいいなぁ」と思いながら、人前にさらして恥ずかしくないようにしなければ、と改めて思いました。

註:この新しい様式の報告書はまだKAKENHIデータベース上で閲覧できる状態にはなっていません。我々が報告書を指定の学術振興会サーバにアップロードするのが5月半ばくらい。それが実際に個々の研究者のドメインに紐付けられるのだろうと思います。

by osumi1128 | 2015-05-09 22:45 | 科学技術政策 | Comments(0)

仙台発!「新茶の紅茶」

d0028322_10383601.jpg仙台発祥の食べ物と言えば、牛タン、冷やし中華、回転寿司、炉端焼きの4つが挙げられますが、「新茶の紅茶」が実は仙台発ということをご存知の方はかなりの通♬

摘み取られたばかりのお茶の葉を使った紅茶のことを「新茶の紅茶」と名付けているのですが、渋みをまったく感じません!

通販で売っています。

こちらの紅茶をサーブするお店もいろいろあるようですが、現在、本家はこちらの定禅寺通りのティールーム。

ガネッシュ・ティールーム 定禅寺通店
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この日はストレートのアッサム。カップはウェッジウッド。ちなみに、ミルクティーもミルクで煮出していて美味しい。
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ケーキセットはこの日はシフォンケーキ、チョコレートのレアチーズケーキ、ゼリーにクッキー。
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定禅寺通りに面した2階なので、今、けやき並木の新緑がとても美しいです!

【拙ブログ関連記事】
ブログを書き始めた頃に、仙台発祥食べ物について書いていました。




by osumi1128 | 2015-05-06 11:00 | 味わう | Comments(0)

「論文」という文化をめぐって

過日、都内某所で、とある新書の打合せをした。テーマやら、分量やら、スケジュールやらを相談し、ふと伺ってみた。
「参考文献などは、どういう風に引用したらよいでしょうか?」
「そうですね、できれば巻末にまとめて、章ごとに参考書等を挙げて頂くことを想定しています」
「本文中には入れない、ということですね?」
「はい、どうしても読みにくくなるので……」

我々研究者が書く科学論文や、多数の論文をまとめて研究分野の情勢や方向性を論じる総説などでは「論文を引用する」というのが徹底したルール。多くの場合、著者名と年を括弧内に示すが、番号になる場合もある。これは、自分の意見(賛成であれ、反対であれ)の「根拠」を客観的示すためなので、絶対に欠かせない。なので、大学院生の論文指導の中でも重要なポイントの1つ。

引用論文数に制限が無い場合にはさほど問題ではないが、某レター誌のように20件まで、などの制限があると、どの論文を引用するかは誠に悩ましい。そうすると、どうしても、オリジナルな発見を示した「原著論文」を複数挙げるよりも、それらを引用した「総説」を挙げざるをえないことになり、勢い、総説を掲載した方が引用されやすいので、雑誌のインパクト・ファクターが上がる、というからくりがある。

また、論文をポジティブな意味で引用することは、科学者が他の科学者をリスペクトすることを表す。つまり「あなたの論文を引用させて頂きました」ということは、実に謙虚な形で「あなたの研究が重要だと思っています♡」という気持ちを示すことになる。大学院生には、こういうことも伝えている(往々にしてスルーされることが多いので、覚えているかはわからないが……)。

さて、そのような科学論文全体の動向については、種々の統計に基づく分析が為される。今朝、Facebook経由でたどり着いた以下の記事では、日本からの論文総数、シェアの割合等がどんどん下がっていることが指摘されている。


ブログ主の豊田長康先生は、三重大学学長時代にお目にかかったが、当時からブログやツイッター等で科学技術政策の発信をされてきた方。拙ブログでも何回か取り上げさせて頂いている。

いくつかの解析をされているので、詳しくはそちらを参照して頂きたいが、ここでは私にとってもっともインパクトが大きかった各国の「人口あたり全分野論文数の推移」のグラフを「引用」しておきたい。下の方でほぼ横ばいの赤いグラフが日本。
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なぜ、日本のみで論文総数が2006年頃をピークに減少に転じたのか、種々の原因が考えられるが、研究者人口を増加させたにも関わらず、それに比例して研究費は増加せず、競争の激化も相まって研究者あたりの平均的な研究費は減少し、いわば、貧富の差が拡大していることが背景にあると思う。研究者人口が増えたのは、大学院の定員増加に舵を切ったためであり、そのこと自体は間違いとはいえないが、博士号取得者の人財活用は目論見どおりには進まなかった。大学院教育の負担が増えたことも、大学の法人化等への対応で種々の業務増加と相まって、研究そのもに割く時間が減ることに繋がった。

論文総数はアカデミアからのみならず、企業からのものも含むので、上記の動向には企業での論文に繋がるような研究活動が減少したことも反映されていると思う。勢い、アカデミアには「社会に役立つ研究」をすべし、というプレッシャーも大きくなっている。

いずれにせよ、政治家や行政官も含めた国民全体が、科学者の営みの表れの1つである「論文発表」を軽視する傾向があるのだとしたら、それは大きな間違いだ。ハイ・インパクト・ジャーナルに掲載される論文が出れば、そうではない論文などでなくても良い、なんてことはない。「キラキラ論文」を支えているのは、中堅どころの雑誌に掲載される地味で堅実な論文たちである。裾野の広がりなくして、高みは得られない。

1つの例を挙げておこう。山中伸弥さんはマウスの普通の皮膚の細胞を多能性のある未分化な細胞に初期化することができることを示して、2006年のCell誌に発表し、翌年、ヒトの細胞でも再現できるとCell論文が発表され、それが2012年のノーベル生理学・医学賞受賞に繋がった。この日本中で有名な研究成果のヒントを与えた論文は、京都大学の多田高さんが2006年にMethods in Molecular Biologyという雑誌に発表したものである。この研究では、線維芽細胞という普通の細胞を多能性未分化細胞の本家である胚性幹細胞(ES細胞)と融合させると、線維芽細胞が初期化される、という興味深い現象を示している。

第5期の科学技術基本計画の策定にあたっては、直近の成果だけでなく、日本が世界で信頼される論文を持続的に出し続けることに配慮して頂くべきと思う。そうでないと、科学の種は枯渇する。

by osumi1128 | 2015-05-02 09:50 | 科学技術政策 | Comments(2)