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東北大学知のフォーラム脳科学<技>無事終了とLichtman先生のこと

2年以上前から準備を始めたTohoku Forum for Creativity (TFC), Frontiers of Brain Science, Tools & Technologiesが今週月曜日に無事に終了しました。その後、引き続き第38回日本神経科学大会が神戸で開かれており、TFCのメインゲストのProf. Jeff Lichtmanをエスコートしつつ移動。アテンダント役を慶應大学の芝田さんにバトンタッチしてほっとしました。
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Lichtman(発音はリクトマンのように聞こえます)先生は、セントルイスのワシントン大学でMD/PhDを取得され、神経筋結合部のシナプス形成についての研究を展開。2004年に、Joshua Sanes先生とともにハーバード大学に移られた頃から、いわゆる「コネクトミクスconnectomics」を立上げ始められました。
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簡単に言うと、nmの分解能がある電子顕微鏡を用いて徹底的に細胞同士の繋がり(connection)、つまりシナプス形成を観察しよう、というアプローチなのですが、そのための連続超薄切片作製装置や撮影装置の開発、撮像された二次元画像からそれぞれの細胞の繋がりを手作業かつ人海戦術で色分けしていく、など、前人未到の世界を展開されています。

興味のある方はぜひ、こちらのTEDの動画を御覧ください。
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さて、アテンダントの役得として、仙台から神戸までの飛行機ではずっとお話をさせて頂きました。その中で「多くの神経科学者は、脳がどのようにして構築されるのか、発生発達現象にあまり興味を持たないが、実は哺乳類の神経機能発露にとって大事なのは、遺伝的に決められているプログラムよりも、活動は経験によって決まっていく神経結合である」という自説を展開されていました。これは、発生生物学出身の私にとっては、まさに膝を打つお話でした。

「昆虫などは、それぞれの生態系に合わせた神経プログラムがインストールされていて、個体ごとのバリエーションは限りなく少ない。でも、哺乳類は、決まっている部分よりも、後から経験によって変わりうる部分の方が圧倒的に大きい。ヒトはその最たるもの」とも言われていました。ちょうどまさに「個性の脳科学」についてどんな風に展開したら良いかと考えているところでしたので、非常に参考になるお話でした。

これまで、生命科学や医学は集団ごとの平均値にばかり注目しており、そのばらつきは「無い方が良いもの」と捉えてきたと思います。そのこと自体はもちろん大切なのですが、「はずれ値」に注目するような科学は成り立たないのかと思うのです。そうでなければ「天才の脳はどのように使われているのか、それはどのようにして出来上がってきたのか」などを理解することは不可能でしょう。あるいは「一回性」の科学は、科学になるためにはどうしたら良いのかと考えています。

知のフォーラム8月のテーマは「Development & Disease」です。脳の発生発達、進化、そして自閉症などの発達障害を扱います。ポスター発表や参加登録を受付中です!
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by osumi1128 | 2015-07-30 21:22 | サイエンス | Comments(0)

『はたらく細胞』

久しぶりに夏風邪をひいてこじらせました。葛根湯から小柴胡湯に移行するタイミングが早すぎたのに加えて、ここしばらく仙台でも暑い日が続いて、ついフラフラとエアコンの「健康冷房」という怪しげなボタンを押して寝たのも敗因。再びウイルスたちの逆襲にあって、私の免疫系細胞たちは総動員となった次第。
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……で思い出したこの漫画『はたらく細胞』、一応、ヒーローが白血球で、ヒロインが赤血球のようですが、リンパ球やら樹状細胞やらヘルパーT細胞やらナイーブT細胞やら、多数の細胞たちが出てきます。専門的には突っ込みどころも多々ありますが、細胞社会という捉え方としては大いに賛同。『もやしもん』がシリーズ終了してしまったので、その後を継ぐような立ち位置ですね。

個人的には「血小板」のちっちゃな女の子たちが好きです♬ 擦り傷ができたときに血小板がどんな働きをするのか、という部分で(以下、セリフを引用)
「はぐれないように勝手な行動はしないこと!」「はいっ!」
「GP1bとかをちゃんと使って飛ばされないようにすること!」「はいーっ!!」
「凝固因子は持ちましたか?」「持ったよー!!」
「よーしっ! それじゃいくよー!!」
ということで血小板ちゃんたちの大集団が働き始め……
「フィブリン集め終わりました!」
「はいっ! じゃぁ凝固因子を出してください」
「凝固因子でフィブリンをつなぎ合わせてね」
「いくよー!」
「よいしょーーーーーっ!!」
ばーーーーーん(効果音)
「血栓完成ーーーーっ!!」
というくだりは、何度読み返しても可愛い!

興味を持たれた方は是非、手にとってお読み下さい♬ 次号は11月頃に刊行とのこと。赤血球と白血球のロマン(←そんなもん、あるかい!というツッコミは置いておいて)はどうなるのでしょう? そもそも寿命もありますしね。今後が楽しみです。

*****
本日午後からは、いよいよ知のフォーラム脳科学<技>の国際シンポジウムです。


by osumi1128 | 2015-07-25 09:36 | 雑感 | Comments(0)

「正解」を求める指向性

連休の夜中、ニコニコ動画で東北大学大学院生命科学研究科の占部城太郎(←ジョジョとは関係ないとのこと)教授による、ミジンコの交尾実況中継と解説が為されました。生命さんの広報室、イイね! プレスリリースはこちら。
内容を解説した記事はこちら。
1時間ほど視聴していたのですが、大きい方が雌で小さい方が雄なのはわかりましたが、交尾したのかはわかりませんでした……。(画像は上記サイトより転載しました。ごめんなさい)
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その間、大量のコメントが付いていたのですが、中に「何が正解なの?」というものが多数あったことに、あぁ、そういう風に見ている方々がいるのね、と感慨深く思いました。

何か新しいこと、初めてのものを観察するときに、予め「正解」がわかっている訳ではないと思うのですが、「正解」が何であるか、その解説を求めてコメントし、その「正解」が見られる瞬間を待つ、というスタンスなのでしょうか。夜中にニコ動を見ている方々の年齢構成も男女比もわかりませんが、明らかにコメントを付けた方々の中には「正解」を先に知りたい、という方が一定数いたのだと思いました。

研究室に出入りしている医学部の学生さんなども、「この実験の結果って、どうなったらいいのですか?」と訊いてくる方がいます。「いやいや、それがわからないから実験しているんだから……」と返すのですが、若干不満そうな様子。早く「正解」を出して、先に進みたいような風に見えます。単純に、現在の入試制度が云々……とは言えないと思いますが、もし我が国で持続的に自然科学の研究者を輩出したいというのであれば、正解を覚えて、なるべく早く解答する、という思考パターンではない人材を育成することを考えないといけないと思います。

ミジンコのクルクル回る姿と見ながら、そんなことを考えました。

関連して、米国科学アカデミー紀要に掲載された、生命科学研究者のキャリアパス等に関する提言のPDFをリンクしておきます。


by osumi1128 | 2015-07-22 05:46 | 科学技術政策 | Comments(0)

東北大学知のフォーラム脳科学:サテライト・シンポジウム@神経科学大会のお知らせ

連休明けにはいよいよ東北大学知のフォーラム「脳科学の最前線」の7月イベントが谷本拓先生と松井広先生のオーガナイズにより開始します。21日からまずは顕微鏡関係5社によるデモ機を使った技術講習会です。初日はハーバード大学の水谷治央さんの講義の他、顕微鏡会社さんによるセミナーを行い、夕方からは6号館アトリウムにて懇親会です。土曜日25日から場所を片平に移して国際シンポジウム。Jeff Lichtman先生、Valentin Nagerl先生、重本隆一先生などをはじめとする多用な技術のエキスパートにより、講演を頂きます。登録されていない飛び込みの方も歓迎します(参加者多数の場合には、知の館1階ラウンジモニターで視聴できるようにします)。25日の懇親会も参加を受け付けます。

続いて、神経科学大会初日の28日の夕方に神戸国際会議場5階において、以下のようなサテライト・シンポジウムが開催されます。参加費無料、軽食付。学会本体に参加されない方含め、どなたでも参加できます。是非お立ち寄り下さい!
(下記、ポスター・チラシデザインは有賀雅奈さんです)
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日本神経科学大会サテライトシンポジウム
「Neuroimaging and its impact on our lives」 のご案内

初夏の候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。この度、第38回日本神経科学大会の公式サテライト行事として、ヒトの脳機能・分子イメージング領域の最前線で活躍する研究者を招き、「Neuroimaging and its impact on our lives」を開催することとなりました。
脳機能イメージングはポジトロン放出断層法(PET)や機能的核磁気共鳴画像(fMRI)、近赤外線分光計(NIRS)などの多様な手法を用いて研究が推進されてきました。その後、分子イメージングとして確立され、種々の神経精神疾患の臨床評価、認知症の早期診断・発症予測への貢献が期待されています。
下記のように、国内外で注目すべき成果を上げている研究者をシンポジストとして招くことができました。特に、Steven Laureys博士のグループは、重度の脳障害により昏睡や遅延性意識障害に陥った患者の痕跡的な精神活動を外部から評価し、回復をサポートするための方法を一貫して研究しており、世界的な第一人者として認知されています。Laureys氏の研究は多大な社会的インパクトを与え、バチカンのローマ教皇庁やTED Paris、TED Brussel等でも講演を行っていますが、日本で講演を聴く機会はほとんどありませんでした。また、岡村信行博士・田代学博士らのグループは、Alzheimer病患者の脳内に蓄積するタウタンパクを特異的に画像化するPET薬剤の開発及び臨床試験に成功し、その研究は世界的に注目されています。
東北大学の連続シンポジウム「Frontiers of Brain Science」の企画として開催される本サテライトシンポジウムを一つの場として、将来の脳科学の発展およびその社会的意義を見据えつつ、基礎研究者と臨床系研究者がそれぞれの立場から議論を交わす良き機会となれば幸いです。また、学部生や大学院生の参加も歓迎いたします。人間存在や哲学にも迫りうるこの新しい学際的環境の中で、若い感性からの率直な発言をぜひとも期待しております。奮ってご参加下さい。

平成27年6月吉日

Frontiers of Brain Scienceシンポジウム 総合オーガナイザー
東北大学大学院医学系研究科・教授 大隅典子
東北大学大学院生命科学研究科・教授 飯島敏夫


日時: 2015年7月28日(火) 18:30-21:30 (20:30より情報交換会。軽食を用意しております。)
会場: 神戸国際会議場 501室

シンポジスト:
田代 学 (東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター)
岡村信行 (東北大学大学院医学系研究科機能薬理学分野)
Steven Laureys (リエジュ大学、ベルギー)

by osumi1128 | 2015-07-19 17:21 | サイエンス | Comments(0)

豆腐の胡麻パクチー載っけ

先日、某所で頂いたものを真似て「豆腐とアボカドのパクチー風味」を作ってみて、かなり美味しかったので、アボカド無しでもいけるかな、と思って作ってみました。パクチーを刻んで小さなボールに入れたところに胡麻油をたらり。粗塩を振って、白胡麻加えて混ぜあわせて、お豆腐の上にトッピング。イケます! お豆腐は絹ごしよりも木綿の方が食感が合うと思います。パクチー好きな方、お試しあれ。
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by osumi1128 | 2015-07-13 07:45 | 味わう | Comments(1)

知のフォーラム脳科学8月イベント:ポスター発表募集中!

東北大学知のフォーラムの枠組みで脳科学に関するシンポジウム等を今月から9月までシリーズで開催します。本日は8月の「Development & Disease」の国際シンポジウムに関して、ポスター発表募集のお知らせです♬ 脳の発生、進化、発達障害の動物モデルと臨床という幅広いテーマで学際的に議論します。7月末までに登録された方の中からshort talksを選ばせて頂きますので、どうぞ奮ってご参加下さい。(ポスターデザインは知の創出センターのI渕さんによるものです!)
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by osumi1128 | 2015-07-10 11:51 | 東北大学 | Comments(0)

90分で脳の発生を概説してみた

とある取材のために、脳の発生について90分で語ってみました。相手の方、二名は、いわゆる「文系」で、高校の生物学もあまり印象に残っていない、というリテラシーレベル。パワポ無しでバランス良く話せるか、やっつけ勝負だったのですが、案外上手くいきました。というよりも、パワポに頼らず板書(実際にはホワイトボードにマーカー3色で図を描きながら)での説明だったことが功を奏した気がします。普段の授業では、総説から引用した模式図などを多用していますが、「時間が足りない!」と思っていたのは、実はエッセンスではないことまで盛り込み過ぎだったのかもしれないと気付かされました。話しながら、絵を描きながらの説明は、聴く側の理解のスピードとも合うのでしょう。来年の発生学の講義では今年よりもさらに板書を増やしても良いと思いました。正確に言えば、脳の発生について、そのエッセンスを語るには、質問を受けながらですと90分では少し足りませんでした。60分X2回分くらいがミニマムでしょうか……。135名相手の講義で、質問がほとんど無しだと60分に収まるかもしれませんが、できればインタラクティブにやりたいですね。
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by osumi1128 | 2015-07-08 21:44 | サイエンス | Comments(0)

留学生はアンバサダー

なでしこジャパン、残念でしたが、準優勝は快挙ですね。海外での活躍、何よりです。

日本の大学のグローバル化を進める施策が進みつつあります。当研究室に関して言えば、これまでに、中国、韓国、フランス、オランダからの留学生・外国人ポスドクを受け入れてきましたが、この夏からはうちの修士課程大学院生がEURONという枠組みを使って、10ヶ月のダブルディグリープログラムをオランダのマーストリヒト大学で過ごす予定になっています。渡航費、滞在費は日本学生支援機構(JASSO)、東北大学、マーストリヒト大学から支給されます。

大学院生とはいえ、日本から外国に行くということは、外交官、あるいはさらに言えば「アンバサダー」としての役割が求められていると思います。日本人の少ない社会で過ごす場合には、その人が唯一の日本人となるので、個人の性格、癖、習慣などが、「日本人って、皆、そうなの?」と受け取られても不思議ではありません。日本の歴史や文化を知らないと怪訝な顔をされるかもしれません。

鎖国時代にも日本の窓として交流のあったオランダで、サイエンスの面、文化の面で種々の経験をして成長してもらうとともに、日本の素晴らしさも伝えて来て欲しいと願っています。

Double European-Japan Master Degree in Neuroscienceについてはこちら
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by osumi1128 | 2015-07-06 21:47 | 科学技術政策 | Comments(0)

アボカドと豆腐のパクチー風味

過日某所で頂いたものがとても美味しかったので再現してみました♬
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【作りやすい量】
アボカド 1個
木綿豆腐 半丁
パクチー 1茎
胡麻油  大さじ1
粗塩   小さじ1/2〜1
煎り胡麻 大さじ1

【作り方】
1)よく熟れたアボカドを半割にして、種を取り出して皮を剥き、半分それぞれを、およそ4X5程度のダイス状に切る。
2)木綿豆腐を水切りして、アボカドと同じくらいの大きさに切る
3)パクチーを1cm程度に切り刻む
4)ボールに1)と2)を入れ、胡麻油と粗塩を入れて混ぜ合わせる。
5)少し置いてから、パクチーを入れて混ぜ合わせる。
6)盛り付ける直前に煎り胡麻を入れて混ぜ合わせる。

切るだけ、合えるだけのお手軽料理♬
これからの季節にビールとともにどうぞ!

by osumi1128 | 2015-07-01 21:59 | 味わう | Comments(0)

カヴァー・アーティクル

3月末に受理された大学院生が筆頭著者の論文が、このたび2015年7月号の表紙を飾りました。Journal of Anatomyという1867年に創刊された伝統ある雑誌で、解剖学・形態学に関する20誌の中の5位という位置づけです(Wikipediaによる)。内容は、これまで眼鼻の発生、脳の発生の鍵因子とされてきたPax6という名前の転写制御因子が、なんと精巣の中でも発現し、興味深い局在パターンを示すというものです。
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精巣の中では日々、精子が作られていますが、精巣でもやはり「幹細胞」というタネの細胞が存在していて、それを元にして「減数分裂」という特殊な細胞分裂により、遺伝子のセットを一揃えだけ備えた生殖細胞、すなわち精子の細胞が生まれます。遺伝情報が書き込まれている染色体を百科事典に例えると、ヒトの普通の細胞は、核と呼ばれる構造の中に、全23巻の百科事典を父方、母方から受け継いで2セット持っています。23巻の最後の1巻は特別で、Xという巻とYという巻があります。女性はお父さん由来とお母さん由来の2つのXという巻をもらい、男性はお母さんから受け継ぐXの巻と、お祖父さん、お父さんと男性にのみ受け継がれるYの巻を持っています。生殖細胞ではこの百科事典が1セットになります。このときに、お父さん由来、もしくはお母さん由来の1セットをそのまま受け継ぐのではなく、第1巻はお父さん由来、第2巻はお母さん由来、と異なる組み合わせのセットになって受け継ぎます。なので、同じお父さん、お母さんから生まれる子どもでも、もともとのお祖父さんのもの、お祖母さんのものがランダムに混ざるので、異なる百科事典のセットを受け継ぐことになります。

このような百科事典の受継ぎが起きるのが減数分裂という現象です。生殖細胞が作られる間、実は同じ巻の百科事典がいったん集められ、部分的にお父さん由来の部分とお母さん由来の部分が混ざった巻が新たに作られます(専門用語で言うならば、染色体の対合、交叉、組換えが生じます)。したがって、生殖細胞に持ち込まれる百科事典のバリエーションは途方も無い数になります。いわば、減数分裂という現象は、単に百科事典のセットを1つずつに分けて細胞に分配するだけでなく、有性生殖により卵子と精子が受精して2セットの遺伝情報を受け取る際の多様性を増す仕組みでもあります。

さて、学生K君が発見したのは、精巣の中のタネの細胞(精祖細胞もしくは精原細胞)や精母細胞において、これまで報告されていないPax6の局在と、精子形成過程における、そのダイナミックな変化でした。とくに、精母細胞のXY体と呼ばれる特殊な構造が形成される時期にPax6の非常に集積し、その段階から約24時間後には排除されて核全体に分布するという、非常に興味深い現象を見出しました。減数分裂の間に同じ号の百科事典が集められますが、Xという巻に比べてYという巻はとても薄い(すなわち、X染色体に比して、Y染色体はとても小さい)ので、かなり特殊なことが生じていると考えられています。例えば、これらの百科事典から情報が読み出されないように、特殊なタンパク質で回りを囲んでロックしてしまうような仕組みがあります(meiotic specific chromosome inactivation; MSCI)。ただし、百科事典のXの巻に記載されている「精子形成に必要な情報」のところだけは読み出しできるような機構もあります。XY体に集積したPax6がその間にいったい何をしているのか、大きな興味がわきます。(下の画像は、論文より転載。左よりステージI-III, V, VIII, X, XIIにおけるマゼンタがPax6タンパク質の局在を、緑は染色体対合に関わるタンパク質を示していますが、非特異的な染色が精細管周囲に見られます)
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今回の論文では「Pax6の機能」については解析せずに、まず「現象の観察」を報告しました。それは、機能解析のためには、いろいろな仕込みの実験をする必要があり、それにはとても時間がかかるからです。学生さんの学位取得を考えて、このタイミングでまず論文化するという作戦でした。また、そもそも脳の発生発達をメインに研究している私たちの研究室で精巣を研究したかというと、父親から次世代の脳の発生発達やその結果としての行動に及ぼされる影響について知りたいと思ったからです。Pax6について説明されていたweb上の情報では「精巣におけるPax6の発現はほとんど無い」ことになっていたのですが、Pax6遺伝子が傷ついた変異マウスの父に由来する仔マウスにおいて行動異常が見られたことから、「やっぱり自分の目で確かめた方が良いのでは?」ということから始まったプロジェクトでした。現在、今までの研究人生で、もっとも仕込みの長い研究をしています。Pax6とX染色体という手がかりの先に、本質的に重要な事象が隠されていると感じています。

  1. Ryuichi Kimura,
  2. Kaichi Yoshizaki and
  3. Noriko Osumi*

Article first published online: 1 JUN 2015

DOI: 10.1111/joa.12318


by osumi1128 | 2015-07-01 08:30 | サイエンス | Comments(0)