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最相葉月さんの東工大講義『生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか』

d0028322_23183514.jpgノンフィクション・ライターの最相葉月さんが、東京工業大学のいわゆる教養科目で、金曜日の朝1限、200名を超える学生相手に4ヶ月にわたって12名の研究者等を取り上げて「生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか」という講義された。そんな講義が身近であったら、是が非でも、もぐりで聴講したいが、幸い、その内容は書籍という形で読める。『生涯を賭けるテーマをいかに選ぶか』(最相葉月著、ポプラ社)で取り上げられたのは以下の方々(敬称略)。

最相葉月(兼ガイダンス)
下村脩:ノーベル化学賞受賞
山内一也*:感染症研究
マリー・キュリーと弟子・山田延男:物理学
佐々木玲仁*:原子核物理学から心理学へ
ウェクスラー家の人々:ハンチントン舞踏病研究のための民間活動
古澤満*:分子進化学
江坂遊*:システムエンジニア兼ショートショート作家
猿橋勝子:気象科学者
石田瑞穂*:地震学者
中井久夫:精神科医
柏野牧夫*:聴覚研究者
ジャニン・べニュス:バイオミメティクス研究者

*印を付けた方は、なんとゲストとして講義に登場。実に贅沢な科目である(溜息)。

すでに、最相さんの著書『いのち 生命科学に言葉はあるか』『ビヨンド・エジソン』『セラピスト』で取り上げられていたゲストの方も多いが、若い学生さんとの質疑応答やメッセージが、それぞれの経験や立場から伝えられているのがいい。ロールモデルは多様であればあるほど参考になるのだ。

とくに、物理学から転向して臨床心理士として仕事をされている佐々木玲仁氏や、システム開発のキャリアと作家業を両立されている江坂遊氏など、二足の草鞋というかデュアルキャリアというか、東北大学出身のノーベル賞受賞者である田中耕一さんの言葉によれば「π型人間」(軸足が二本ある)的な方が取り上げられていることは、これからますます発展しそうな融合的な分野に進みたい方にとって、良いモデルとなるだろう。

私自身の研究分野に近いのは古澤満先生。古澤先生には助手の頃にお目にかかっており、提唱されている「不均衡進化説」自体は折込み済み。でも、学生さんへのメッセージとして「自分がやりたいことが決まったら、それを常に頭の中に浮かべておくことが大事」というのが心に残った。天才なら何かを発見してやろうと思って考えてできるかもしれないが、「普通の人間は無理やりに、頭にいつも目標を描きながら生活するしかない」とのこと。科学者としては、どんなに雑事があろうとも「これを知りたい」という目標を頭の隅に置いておくのが良い。

一方、NTTコミュニケーション科学基礎研究所で聴覚研究をされている柏野牧夫氏が、自閉症の病態理解に独自のアプローチで迫ろうとしているのが印象的であった。最相さんにとってはご著書の『絶対音感』の延長上に、自閉症の方の感覚が「絶対音感的」なことが位置するのだと思うが、私自身、研究の出口を自閉症等の発達障害に置いているので、一度お話を直接伺ってみようと思う。柏野氏のメッセージは「結局好きなことをやるしかないんじゃないか。……あれこれ考えて、仮説立てて試してみたら、この間よりちょっとうまくなったっという、その小さい部分が一番おもしろい。わりとそういうことだけで、きています。」とのこと。

もう一例、治療法が見つかっていない神経難病であるハンチントン舞踏病の理解や研究推進のために、財団を設立するなどしているウェクスラー家の方の話は武藤香織さんによる翻訳本『ウェクスラー家の選択』で知っていたが、改めて、科学研究を推進するのは科学者・研究者だけではないことを感じた。

さて、最相さんにとっては「テーマがすべての原動力」(オビより)とのこと。
テーマがある限り、
たぶん私は仕事を続けていきます。
それは研究者のみなさんにも
通ずるところがあるのではないか。

年の瀬に来し方を振り返り、来る方向を見据える上でも、本書がちょうど良い機会となった。

【関連拙ブログ】




by osumi1128 | 2015-12-29 23:17 | 書評 | Comments(0)

大学における研究費執行をどのように改善すべきか?

昨年も12月最後の金曜日には大きな記者会見があったようだが、今年は研究費の不正使用に関して、億を越える金額のものが、会見前からニュースに流れた。前代の教授の頃からの「預け金」が見つかったということらしい。大学が法人化以降、会計管理はどんどん明瞭化されている中で、今頃こんな事例があったのかと驚きを禁じ得ない。

さて、研究コミュニティーとしては「こんな事件があると、また種々の管理が厳しくなって余計な雑務が増えるのではないか」と戦々恐々している方が多いのではないかと思う。研究費使用の不正は分野を超えたインパクトが大きい。

そのような中、「こういう問題は<単年度会計>のためだ」という意見がネット上では多く見受けられた。例えば、理研の中川氏がまとめたtogetterを参照のこと。
200名弱がネットで投票を行って、そのうち77%の回答が「単年度予算のルールを撤廃する」というものであった。

また、神戸大の榎木氏もYahooニュースに以下のような文章を載せている。
確かに、私自身、ヒューマンフロンティアサイエンスプログラム(HFSP)の研究費を頂いたときに、予算が普通に繰り越せることにびっくりし、本当に有難いと思った。とくに初年度の研究活動はいろいろなことが予定どおりには進まないことも多いので、執行できなかった経費を自年度繰越しすれば良いだけなのは、無駄な物品購入を防ぐ効果もあるだろう。実際、文科省の科学研究費でも所定の手続きにより次年度繰越や、前倒しでの執行も可能になりつつある。

しかしながら、例えば今回のような研究費使用のルール違反は、仮に単年度会計を撤廃しても生じるのではないかと私自身は考える。最大の問題は、倫理観の欠如であろう。研究倫理の徹底は当然として、単年度会計云々より、もっと根本的に不正が起きにくく、なおかつ、研究者も大学の事務系職員も余分な仕事が増えないような仕組みを考えるべきなのではないだろうか?

ここでは、米国で見聞きしたり、間接的に聞いた執行方法について考察してみたい。

例えば博士研究員が研究に必要な物品の購入を考えたとする。彼・彼女はネットでカタログを見て、その情報をラボの「発注システム」上でオンラインで入力する。ボス(PI)が買っても良いと判断すると、「Approved」をクリックする。秘書もしくはラボマネージャーが、承認された物品の発注を行う。品物が宅急便で届くと、元々の物品を必要とした博士研究員が先の発注システム上で「Received」をクリックする。Invoiceがラボ宛に届くと、秘書もしくはラボマネージャーが研究費執行用の所定のクレジットカードで決済する。クレジットカードで執行できる予算は決まっており、カード会社からは毎月、執行額や残高が届く。

これに対して、日本の大学では、以下のようになるだろう。

博士研究員がカタログを見て(場合によってはPIの判断を仰ぎ)代理店に発注する。代理店の営業担当者が運ぶ品物は、まず部局事務の「検収センター」で「見積もり」伝票と同じ品目の物品が届いたかどうかのチェックを受け、その後、研究室に納品される。「見積もり・請求・納品」のいわゆる「三つ組伝票」を元に、研究費の代表者(もしくは秘書)がエクセルファイル上で所定の書類を作成する(←紙媒体!)。三つ組伝票のうち、納品書はラボに保管され、請求書とともに研究室からの伝票が部局の用度係に届けられる。用度係はその伝票を元に、大学の会計電算システムに入力する(二重の入力の手間)。用度係から代理店に入金が為される。

私が助手(現在の助教に相当する職位)だった頃は、カーボン紙(←若い方は知らない?)を間に挟んで、手書きで伝票作成をしていたのだから、エクセル入力になっただけでも革新と言えなくは無いが、日本の大学ではいかに無駄が多いシステムを未だに行っているのかわかるだろう。まぁ、江戸時代から行われている「内需拡大」の名残なのかもしれない。あるいは、大学のあるような地方都市では、雇用の確保にもなっているだろう。

米国のシステムでは、クレジットカード会社が残高計算をしてくれる(日本だって、大きな企業だったら、ある程度以上の職位の方なら仕事用のクレジットカードを持たされて、それで決済できる)ので、その分の人件費は大幅にカットできる。ラボの秘書さんやラボマネージャーは、かなり大きなラボは別として、一人の秘書さん(ラボマネ)が2つ3つの研究室の発注の面倒を見る。もし、不正な納品が行われた場合に、研究室に所属する秘書の場合には、それを告発すると自分の職が失われるかもしれないが、複数のラボに関与していれば、そういうリスクも経るだろう。

カード会社が入っている場合に、不正なお金の流れ方もチェックされやすいだろう。繰り返し、巨額の発注が特定の企業に対して為されているときに、大学本部に連絡するようなルールを作っておけばよい。

この際、根本的に日本の大学の研究費会計システムをIT化してはどうだろうか? 外れ値の不正のために、すべての研究者に対して現行のシステムの人力でのチェックを厳しくするだけでは、ますます、我が国の研究力は低下してしまうと思った方が良い。



by osumi1128 | 2015-12-27 23:32 | 科学技術政策 | Comments(2)

週刊ダイヤモンド連載コラム第50回は新春特大号に掲載

クリスマスは平常営業。今年の年末年始は御用納めと初仕事がどちらも月曜日。やれやれ……。

さて、今年から書かせて頂いた週刊ダイヤモンドの連載コラム「大人のための最先端理科・生命科学」が、ちょうど新春特大号に第50回として掲載予定。お正月なので干支にちなんだ話題です。どうぞご贔屓に♬(日頃からネタ探しをさせて頂いています)
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by osumi1128 | 2015-12-25 22:31 | サイエンス | Comments(0)

研究不正のエビデンス

今月18日に第5期科学技術基本計画が閣議決定された。
科学技術分野への投資額として「2020年にGDPの1%」という目標が掲げられ、総理の言葉として「若手研究者が最大限、力を発揮できる環境を整備していく」と報道されている。科学技術政策に関連する問題として、2015年の最後の月に研究不正について振り返りたい。

2014年に生じた大きな研究不正問題は、広く国民まで巻き込んだ「事件」となった。当時、これはあくまで「はずれ値」であって、大多数の研究者は不正には関わっていないのだから問題ない、という意見や、再現性の無い論文はやがて淘汰されるのであるから目くじらを立てるほどのことはない、という見方もあったし、もっと多数の論文不正が関わる事例もある、という指摘もされた。(そもそも、種々の不正は研究業界だけに見られるものではなく、今年で言えばオリンピックのエンブレム問題や、マンション杭打ちデータ捏造なども報道されているが、ここでは触れない。)しかしながら、Retraction Watchというサイトによれば、リトラクト(撤回)された論文のワースト30のうちに、日本人研究者が責任者として関わっているものは5報もある(現時点)。あるいは、国別で言えば、米国、中国、ドイツについて第4位が日本である。

●Retraction Watchについての説明はこちらの白楽ロックビル先生のブログ参照

FangらのPNAS論文によれば、論文不正の増加は、世界的にはおよそ2000年頃からとみなすことができる。
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この時期は、世界中(とくに米国、中国)において論文数が伸びた頃に一致しているが(下図参照)、単に数が増えたから比例して論文不正が増えたというよりも、論文総数に対する「割合」が3倍以上に増えているので(B図)、不正行為自体が増加したことを示していると考えられる。

我が国の論文数の伸びは、1980年代から2000年まで米国に比例して増加したが、その後、物理・化学・生物等の分野では、2004年頃をピークとして論文数は伸び悩んでいることは科学技術推進において大きな問題である。(豊田先生のつぼやきブログから拝借)
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論文数が伸び悩んでいるにも関わらず、2004年以降にも論文不正が生じてきたのだとすれば、それは頻度が増加していることになるのではないか。したがって、健全な科学の営みを継続するためには、単に研究費をつぎ込めば良いということではなく、なぜ、どのようなときに不正が生じるのかについて深く考えて真摯に対応する必要があるといえる。

今年度から、それぞれの研究機関における研究の公正性に対する取り組みが本格的に始まっている。CITIなどe-leaningを利用した研究倫理講習などは最低限のことである。「どのような取り組みをすれば科学における研究不正を防ぐことに繋がる効果が高いのか」などについては、社会科学系の研究者にぜひ取り組んで頂きたい研究テーマである。過日、BMB2015という学会の研究不正関連セッションにおいて、全体討論のときにワシントン大学の鳥居啓子先生が紹介されていたが、米国ではグループごとに異なる指導をした後で、研究不正に対する意識がどのように異なるかなどを調べた研究にもとづいて、研究倫理に関するワークショップなどが行われているという。研究不正対応にもエビデンスが必要であろう。

【参考サイト】
上記PNAS論文をもとにした考察など、西川伸一先生による記事の1つ。考察として、「研究費予算額で個人のキャリアが決まる競争社会型のアメリカの制度に近いほど不正が増え、それに伴い撤回が増える」ことを指摘されている。

黒木登志夫先生のご著書が来年上梓される予定と聞いているが、それまでの間はこちらの『iPS細胞』(中公新書)の中に書かれた研究不正への考察を参照のこと。
上記書評について拙ブログ




by osumi1128 | 2015-12-20 12:21 | 科学技術政策 | Comments(1)

いくつになっても冬休みの宿題が無くならない><

2015年も残りあと10日ほど、今週、最後の講義を川内キャンパスで行いました。「ジェンダーと人間社会」という全学教育(いわゆる教養科目)のオムニバウ講義を1コマ担当しました。タイトルは「性の決定」。生物学的な視点からの「性」についての話でした。
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(週刊ダイヤモンドのコラムとしても書いています♬)

講義の最後に「ミニッツペーパー」という小さな紙に感想などを書いてもらうのですが、皆さん楽しんでもらえたようで、けっこう長いコメントが多かったですね。来年はまた一工夫します。

「大学の先生は夏休み・冬休みが長くていいですね」と言われることがありますが、まったくそんなことはありません!!! 授業の担当が無いときにも、研究は平常営業ですし、学生さんは学部生だけではなく、大学院生もいます。

さらに最近、何か「夏休みの宿題」や「冬休みの宿題」が増えている気がします……。この時期、締切が年明けに設定されている申請書や評価書などが……。年明け早々の「班会議」での研究成果報告もありました。┐(´д`)┌ヤレヤレ

大人になったら冬休みの宿題から解放されると思っていたのですが、まだまだ続くようです。

by osumi1128 | 2015-12-19 20:22 | 雑感 | Comments(0)

数値目標Yes or No?

ノーベルウィークのさなかの12月10日、次の五カ年の科学技術政策の基本となる「第5期科学技術政策」の最終答申案がまとまったという報道があった。科学技術分野における「人材力の強化」や「知の基盤強化」が大きな目標として掲げられ、政府の研究開発予算としてGDPの1%(26兆円)という投資目標が明記されたことに加え、若手研究者、女性研究者関連で数値目標が書き込まれた。

2年ほど前から議論されてきた科学技術基本計画であるが、当初、「数値目標」は入れない方針と聞いていた。変更されたのは、パブリックコメントやその他の意見が反映されたものであろう。若手研究者関係では、「現在4万4000人いる40歳未満の大学教員を1割増加」という数字が入り、女性関係では「自然科学系の女性研究者の新規採用割合を現状の25.4%から30%に」という数値目標が掲げられた。

この「数値目標」に違和感を覚えるという方は少なくない。もともとアカデミアにいる研究者は自由な発想にもとづいて自らの研究を遂行するのが本務であるため、「数値目標」という考え方とは相容れないということもある。昨年まで理事長を務めた日本分子生物学会では、この12月3日に行われた年1回の総会において、「理事の女性比率」に関する数値目標についての申し合わせ事項を削除するという決議を行った。今期は理事でもないので、理事会での議論についてはわからないが、この学会の会員における女性比率が約30%であり、理事選挙において特別の策を講じなくても3割の女性会員が理事に推薦されたことが何期か続いたので「もう、別にいいだろう」ということになったのであろう。次の理事選挙の際には、「現在、本学会の女性会員比率は35%です(←例えば)。この点も考慮した上で理事の推薦をお願いします」的な文章を入れるなど、きっと一工夫が必要なのではないかと、個人的には考えている。

また、女性研究者の採用目標の数字だけ掲げても、職場環境がそれに対応していなければ達成は難しい。そもそも、この問題は女性への対策だけ考えていても駄目なフェーズに入っている。家事や子育てが女性の側に重くのしかかっている現状のまま、女性を多く採用しましょう、というのは採る方にも採られる方にも過酷なことになる。しかも、男性側からも不満は出るし、女性も「女性枠で採用された」というレッテルは負のスティグマになる。

日本分子生物学会は2年前から「男女共同参画委員会」を発展的に「若手キャリアパス委員会」へと改組し、若手研究者の問題と女性研究者の問題を融合的に扱うようにした。日本分子生物学会における男女共同参画は、山本正幸先生@東大(当時)が理事長の頃に大坪久子先生@東大(当時)がワーキング・グループを立ち上げられたのを元とし、それが委員会になって種々の提言などを文科省に提出するなどの活動を行っていたものである。今年の年会においても、実に活発な議論が為され、学振のRPD制度(育休を取得した方なら男女ともに使え、出身研究室をホストにすることも可能)を、さらに使いやすいものにできないか、など実質的な意見が出ていた。男性が育児に参画できていない現状を変えることは研究業界だけでなく、根本的な問題である。
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折しも、Facebookのマーク・ザッカーバーグは第一子が生まれて2ヶ月の育休を取ると宣言した。カナダの新首相の組閣メンバーが、男女同数、各種マイノリティー(身体障害者も含む)への配慮も為されていることについて「どうしてこういうメンバーなのですか?」という記者の質問に「??? 2015年だから?」という爽やかな答えをしたのも耳に新しい。数値目標が無くても意思決定の上位にいる方々が折々にpolitically correctな対応をされることが、もっとも重要なのではないかと思う。

by osumi1128 | 2015-12-13 09:54 | 科学技術政策 | Comments(0)

哺乳類は「乳房類」:小川眞里子先生のご講演など@第12回東北大学男女共同参画シンポジウム

BMB2015@神戸から戻ったら、仙台は雨まじりの寒い日でした。掲載の時期が前後しますが、11月21日に第12回東北大学男女共同参画シンポジウムが開催され、種々、興味深いお話を伺ったので、いくつか残しておきます。
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総長の開会ご挨拶ならびに、文部科学省研究振興局長の小松弥生様のご来賓お祝辞の後、昨年から始まった「澤柳政太郎記念東北大学男女共同参画賞」の授賞式がありました。今年は、自然科学系分野で長年、男女共同参画や女性研究者育成支援にご尽力されてこられた大坪久子先生@日本大学薬学部にA賞が、若手向けのB賞はグループ受賞で「新大Wits」が受賞となり、短い講演が為されました。
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大坪先生はご留学先のストーニーブルック時代に米国で男女共同参画運動が推進されており、帰国されて日本の現状を変えなければと思って、日本分子生物学会に男女共同参画ワーキンググループを立ち上げられ、その後、男女共同参画委員会になりました。種々の学会が連合して情報交換などを行う男女共同参画学協会連絡会でも活動され、大規模アンケートに基づいた種々の提言などをまとめられました。それらの成果の一つは、日本学術振興会のRPD制度です。出産育児などで一時、研究活動を中断された方(男女問わず)が「リスタート」するための支援としてのPD枠を設けたもので、これは順調に運用されています。東大を退官された後も、女性研究者の「Visibility調査」などを続けてこられました。私にとっては、男女共同参画について無知な頃から種々教えて頂いた先輩の女性研究者のお一人です。今回の東北大学からの賞が、さらに大坪先生のご活動に活かされてほしいと願っています。
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「新大Wits」の活動は、東北大学サイエンス・エンジェルをお手本としたものということですが、女子大学院生だけでなく、男子も参画。出前授業やサイエンス・セミナーなどを開催されています。今回は代表の中野享先生が活動の様子を披露されました。
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さて、基調講演のお一人は、三重大学名誉教授の小川眞里子先生。東大教養のご出身でもあり、ご著書も多数あるのでご存知の方も多かったのではと思いますが、「近代科学の歴史とジェンダー」というタイトルでご講演頂きました。イントロで「リカちゃん」のプロフィールご紹介。「数学は苦手」というキャラクター設定は、多くの女子に(そしてその親などにも)「女子は数学は苦手」という意識を刷り込んでしまうのでは、というつかみから始まり、話はヴェサリウスの時代へ。男性の骨格の隣に置かれたのは、人間以外の動物で、当時もっとも知性があると思われていた「馬」。さて、女性の脇に置かれた動物は何でしょう???

答えは「駝鳥」!
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なぜ、駝鳥なのかというと、骨盤が大きい、大きな卵をたくさん産む、頭は小さい、首が細くて長い、という点が「女性らしさ」を表すということだったのです。(ここでも小川先生は駝鳥の卵の模型を持参され、それを会場の聴衆に渡すなどの、科学コミュニケーションとして素晴らしいスキルを発揮されていました♬)
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その次の話題が、リンネにより四足動物に「Mammalia ママリア」という分類名がどのような経緯や背景で付けられたのか、ということ。日本語では「哺乳類」なのでわかりにくいですが、「mamma」というのは「乳房」を意味します。つまり我々は「乳房類」なのです!

この背景には、当時は「乳母」の制度が普通で、地位の高い方の家庭が、子どもを地位の低い「乳母」に育てされる、乳母をする女性も、自分の子どもはさらに貧しい母親の乳母に預ける、ということが一般的であったとのこと。そのために乳幼児死亡率も非常に高かったのを改善するには、「子どもは母の手で、母乳で育てることが重要」という意識の醸成を図る必要があり、そのキャンペーンに一役買ったのが、科学者のリンネだったという訳です。
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つまり「母性愛」とは、自然や本能としてに備わったものではなく、近代が生み出した歴史的な概念、というのが小川先生の主張です。詳しいお話を知りたい方は、ぜひ、こちらの小川先生のご高著『甦るダーウィンー進化論という物語』や、翻訳された本『女性を弄ぶ博物学ーリンネはなぜ乳房にこだわったのか?』を御覧ください。

もう一人の特別講演は、明治学院大学の柘植あずみ先生。「男女共同参画は科学と高等教育をいかに変革できるか?」というタイトルで、生殖医療について男女共同参画の観点からの問題点をご指摘になりました。ご自分のHPでも発信されていますので、こちらを御覧ください
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さて、気づかれた方がおられれば、すばらしい目の鋭さと思いますが、上のポスターに掲げた試験管の中の二重らせんデザインは、実は「逆向き」です! 実際には、こういう逆向きの二重らせんも世界には存在するのですが、多くは反対向き(時計回り)です。つまり、現状で、まだまだマイノリティーである女性を象徴していたのでした!





by osumi1128 | 2015-12-05 10:46 | 東北大学 | Comments(0)

SANAAのホールで特別講義@岡山大学医学部

分子生物学会年会@神戸の前に、岡山大学医学部の大内淑代先生のお招きにより、1年次学生さんたちを相手に特別講義を行いました。なんと、その講義の場所はJunko Fukutake Hall(通称J Hall)。岡山県生まれの福武純子氏(福武教育文化振興財団副理事長)のお名前を冠したところでした。建築デザインは、かのSANAA!!! ということでテンション上がりました♬ いいなぁ、岡山大学医学部生。もちろん、この建物は市民も訪れやすい開かれた場を提供するというコンセプトで作られているので、コンサートなども定期的に開催されているのですが。追って画像、追加します。
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うーん、スタイリッシュ♬
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講義終わって、大内研関係各位と記念撮影♬


by osumi1128 | 2015-12-01 01:04 | サイエンス | Comments(2)