<   2016年 07月 ( 5 )   > この月の画像一覧

科学における創造性と使われる言語について

先月の『新潮45』の特集記事が「世界<日本化>計画」というもので興味深く読みました。かねてより我が国における英語教育については種々思うことがあります。
d0028322_23563287.jpg
特集の中の、科学ジャーナリストの松尾義之氏による「なぜ日本人は毎年ノーベル賞を取れるのか」という記事では、他のアジア諸国と異なり日本では「日本語=母語で科学や技術を勉強することができた」ためノーベル賞受賞者が非西洋諸国の中でもっとも多いということが主張されています。同様の内容は、言語生態学者の鈴木孝夫氏の論考「日本語と日本文化が世界を平和にする」の中にも登場します。

我が国では、江戸末期から西欧近代文明を取りれるため、幕府の蕃書調所(ばんしょしらべしょ)を中心として、西洋文明の言葉の意味を正確に理解した上で、もっとも適した「漢語」に翻訳されました。大学で細胞生物学などを教えるときに、クラスに中国人の留学生がいると、「<細胞>も<染色体>も、日本で作られた訳語ですよ」と伝えることがあります。彼らは中国での翻訳が先だと思っていることが多いのです。

さて、松尾氏の主張は、科学分野の勉強をする場合に、母語で深く学ぶことが可能であるために、オリジナリティのあるアイディアに繋がるのではないかということです。また、母語であるために、日本独特の感性と結びつきやすいことも、ユニークな発見をもたらすという側面もあります。つまり、科学における創造性に関して、自在に操れる母語を使うことが可能な日本は、独特の立ち位置にあるという訳です。

こちらについては、昨年3月に開催されたノーベル・プライズ・ダイアログ東京2015にパネリストとして参加したときのこと、田中耕一氏(つい「先生」と言ってしまうのですが、いつも「僕は<先生>ではありません」と否定されます……)が言われたことに近いものがあります。田中氏は「日本の<漫画>がユニークな発想に繋がる」と主張されています。

ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2015報告書

脳科学の観点からは、母語で論理的な思考が確立する前の段階からの英語教育にはメリットもディメリットもあると考えられます。二ヶ国語を操ることができるバイリンガルの人の脳を機能的脳イメージングにより調べると、「バイリンガルの人は脳の広い部分が活性化している」ことがわかります。これは、脳の多くの部分を使っていることになるので性能が良い、という捉え方もありますが、一方で「脳に負荷をかけている」ことでもあります。したがって、キャパの大きい人であればメリットが大きいかもしれませんが、キャパの小さい人にとっては過剰な負担になるかもしれません。

バイリンガルの人の脳については、例えば、こんな一般向けの記事も参考になるでしょう。
バイリンガルな人の「脳の構造」についての最新報告

もちろん、インターネット上では英語のコンテンツ方が日本語よりも圧倒的に多いので、英語を理解できることは非常に得であるという面はきわめて重要であると思います。とくに、日本から英語で発信する部分が圧倒的に足りていないので、このようなスキルを持った人材は必要と思います。ただ、国民のどれだけの人々がどのレベルで英語を習得することを目標にしているのか、単に義務教育における英語の授業を中学校から小学校に下ろしただけでは宜しくないと思うのです。逆に、国語=母語でしっかりロジックを教える、客観的な文章を理解し、書けるようにする教育は、もっと必要ではないでしょうか。

大学院教育の現場でも、英語化の波は押し寄せており、学会発表も英語で行うところが増えつつあります。先生方の中には「深い議論がしにくくなって、教育的な面から心配だ」という声も聞かれます。うちのラボでは以前よりオフィシャルなセミナー(論文紹介や進捗報告)は英語で行っているので、大学院生たちはたいへんだと思いますが、なるべく終了後に日本語でもフォローのディスカッションをするように心がけています。

結局のところ、言語であれ、科学であれ、教育は画一的で簡単な方法は無いと思った方が良いと思います。一人ひとり、相手に寄り添って、そのレベルや性格、向き不向きに合ったやり方を取るしか無いのでしょう。

【参考】
日本語の科学が世界を変える(松尾義之著、筑摩選書)


by osumi1128 | 2016-07-30 23:59 | 科学技術政策 | Comments(0)

『とめはねっ!』で現代の書道の動向を知りました

高校時代、芸術系の科目として音楽、美術、工芸、書道の四択があって、書道を選択していました。PC時代になって、手書きが読めないくらい悪筆の現在からは想像できません……。うちの学生さんとのやりとりでも、学生さんはこっそり秘書さんに私の手書きのコメントの読み方を訊いていたりするくらいです。小学校、中学校は祖父の影響もあってマシだったはずなのですが……。ともあれ、その書道の授業は面白かったです。判子を彫ったり和綴じを習ったり、単に書くことだけではなかったこともあり。

最近になって『とめはねっ!』という漫画を一気読みしました。舞台が鎌倉市にある高校ということも馴染みがあって、随所に懐かしい地名もあり。篆書、隷書、あるいは前衛書などの解説も久しぶりに面白かったです。
d0028322_23182406.jpg
でも、びっくりしたのは、高校書道部の全国の大会のレベルがものすごく高くなっているという事実。揮毫のパフォーマンスの大会などがあることも初めて知りました。

普段、自分の気持ちや考えを表すには、はるかにキーボードを使う方が手書きよりも楽なのですが(漢字が出てこないことも多いですし……)、やっぱりアナログな世界も大事だなぁと思いました。「臨書」といって、要するに過去の素晴らしい書をお手本に書き写す、それによって、原著の技術や精神性を学ぶというスタイルがありますが、これなんて、コピペしてしまったら何にもならない。最初から最後まで書き損じもできない緊張感の中で、3000字もの大作を仕上げるなど、精神的にもタフになるでしょうね。

先日のソウルの学会場で見かけたハングル文字の書を再掲します。きっと、この作者のスタイルなのだろうと想像するのですが、内容が読めないというのが悲しい……。
d0028322_23332777.jpg

by osumi1128 | 2016-07-25 23:37 | 書評 | Comments(0)

7月はゲスト対応月間でした

5月末まで取り込んでいたので、今年は7月になってから外部講師によるセミナーが多くなりました。

トップバッターはフロリダ大学の染谷慎一先生。共同研究者です。創生センターの感覚器コアセンターと脳神経科学コアセンターとの共催かつ東北医学会特別講演として星陵オーディトリアムで行いました。
染谷先生は加齢性難聴研究のオーソリティーですが、さらに最近では加齢の男女差に注目されています。仙台には2日間滞在され、東北メディカル・メガバンク機構の見学などもされました。
d0028322_09450890.jpg

続いて、京都大学腎臓内科の柳田素子教授です。決して発生はご専門ではなかったのですが、無理を言って7月11日に医学部医学科2年生対象の「発生学」の特別講義をお願いしましたが、学生の評判は素晴らしいものとなりました♬ 学生さんの質問にも丁寧に答えて頂きました。心から感謝致します!
d0028322_09340527.jpg
d0028322_09351681.jpg
さらに、その日の夕方からは、腎臓のコアセンターと脳コアセンターの共催でのセミナーも。
d0028322_09361851.jpg
d0028322_09364646.jpg
柳田先生、ありがとうございました!

続いて、7月14日に、東大薬学の一條秀憲先生をお招きして、創生センターの第1回基礎部門合同セミナーとしてのトークをして頂きました。
d0028322_09384481.jpg
恩師にあたる宮園浩平先生と、留学先のボスCarl-Henrik Heldin先生の画像を。
そして翌日には、歯学部発生学の枠での特別講義をして頂きました。実は一條先生は大学の同級生で、まさに実習室での席も背中合わせという近い関係。歯学部の学生さんたちに、研究の面白さが伝わったものと思います。(画像の写りが悪くてごめんない)
d0028322_09431114.jpg
そして、7月最後のゲストは、元北米神経科学学会会長、コロンビア大学のCarol Mason教授でした。第39回日本神経科学大会の特別講演に招聘されていたので、厳しい日程の中、さらに東北大学まで足を伸ばして頂きました。
前日、仙台駅までお迎えした後、2時間コースで、瑞鳳殿→青葉城址→大崎八幡と回りました。
d0028322_09490629.jpg
セミナーは東北医学会特別講演として開催され、最新のunpublished dataもたくさん披露頂きました。アルビノと視神経投射との関係は、とても不思議です……。今後の展開が楽しみ。また、Cyclin D2に関する共同研究も進めたいと思います。
d0028322_09514169.jpg


by osumi1128 | 2016-07-24 09:53 | 東北大学 | Comments(0)

ソウルに行ってきた:アウェイでの第46回日本神経精神薬理学会

ちょうど1週間ほど前、ソウル出張でした。仙台からはアシアナ航空が仁川国際空港まで、毎日1往復就航しています。インチョンはソウル市内から遠いですが、新しくて大きな国際空港です。今回は第46回日本神経精神薬理学会(JSNPソウル)でのシンポジウム講演だったのですが、大会長の池田和隆先生が、国際学会のCINP2016(International College of Neuropsychopharmacology)と続けて同じ会場での開催という大胆な試みをされ、アウェイであるにも関わらず、650名もの参加者であったとのこと。ソウルなのに、多くの知り合いと御一緒というのは、なかなか不思議な感覚でした。
d0028322_22525640.jpg
d0028322_22530509.jpg
着いた日が大雨だったこともあり、翌日が発表、その翌日の朝の便で戻りというスケジュールであったので、どこも訪問できなかったばかりか、一度も韓国料理を食べない、という国内旅行のような具合……。世界は狭くなりました。大会会場はCOEXといって、国際会議場にホテルや広いショッピングモールが付随するコンプレックス。

発表したシンポジウムは精神栄養がテーマで、脂質脳科学の方の話をしました。セッションが並行して6つくらいあって、自分の発表と重なっているセッションを聴くことができなかったのが唯一残念なことでした。今回は、池田先生がかなり頑張ったのだと思いますが、基礎系、しかもゼブラフィッシュやショウジョウバエの研究者まで巻き込んだセッションがありました。翌日の指定セッション「日本における脳と心の研究の動向」も聴きたかったですが、月曜日に授業があり帰仙しなければなりませんでした。
d0028322_22533631.jpg
初日の懇親会は着席のディナーでした。池田和隆先生@東京都医学総合研究所のご挨拶。
d0028322_22541943.jpg
CINP理事長の山脇成人先生@広島大学。
d0028322_22541346.jpg
CINP2016ソウル大会長のJun-Soo Kwan先生のご挨拶。
d0028322_22542808.jpg
JSNP理事長の石郷岡純先生@東京女子医科大学から、岩本和也先生@熊本大学ほかの表彰。池田先生のところの女性研究者の方が気を利かせて浴衣でアテンド♬
d0028322_23174539.jpg
会場にいろいろなアートもあったのですが、一番印象的だったのがこちらの「書」ですね。ハングル文字の書は初めて見た気がします。日本の書のカテゴリーだと「かな」に相当するってことでしょうか……。

韓国は、もっとも近い隣国なのに、漢字をあまり使わないため、むしろ遠い国のような気がします……。中国本土や台湾の方が、字体は異なっても共通の文化を感じることができるので。でも、韓国でも中学から漢字を習うように最近変わったと聞きました。10年経つとずいぶん印象が変わるかもしれませんね。





by osumi1128 | 2016-07-09 23:21 | 旅の思い出 | Comments(0)

大人のための最先端理科第75回

今週号に拙コラム掲載中です。電子版もあります♬
d0028322_21335272.jpg



by osumi1128 | 2016-07-06 21:34 | サイエンス | Comments(0)