班会議も終わり
2009年 08月 13日
その次の4日目が所属する第4領域「分子脳」と第3領域「神経回路」との合同班会議というメインの日。
という訳で、「脳と心のメカニズム」から出席して国内出張としては長い方だったのですが、昨晩戻りました。
書類上は「連続する3日を年次休暇として申請」することになっているので本日は「休み」ですが、いろいろとたまっている仕事があります。
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昨日、最終便で仙台に戻るとき、ちょうど24年前の1985年の8月12日に羽田から伊丹に向かった日航機が御巣鷹山に墜落した事故のことを思い出しました。
その知らせを知ったのは西海岸での国際学会に参加して帰る日のサンフランシスコ・クロニクルという新聞だったのですが、日本地図が南北逆さまに載っていました。
記事を作った人が大きな事故に動転してミスった、というよりは、東洋の島国の形態をデスクもよく認識していなかったのだろうと想像します。
この事故に巻き込まれた犠牲者の中に、大阪大学の塚原仲晃先生がいらっしゃいます。
当時、私は発生生物学を志して大学院に入ったばかり(よって、学会参加は情報収集を目的としていて自腹)だったので、塚原先生のことは知りませんでしたが、当時の日本を代表する神経科学者であったために、こちらの業界での衝撃は大変に大きかったことを、その後、折に触れ伺うようになりました。
塚原先生はネコの中脳赤核という部分のニューロン(神経細胞)をモデルとして、神経活動によりシナプスが異動する(ニューロンの新たな場所に発芽する)ことを示され、神経回路構築の可塑性を強く主張されたのでした。
脳の中のダイナミックな変化という意味では、その後、海馬などにおいて新たにニューロンが生まれ、神経回路に組み込まれることが分かってきたのですから、この四半世紀の神経科学の発展は、次々と教科書の記述が書き換わるくらいの勢いですね。
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さて、ワークショップは以下のような内容でした。
Summer Workshop2009 プログラム
“The Pathomechanisms of Brain Diseases: New Technologies and Approaches”
8月11日(火)
10:00-10:50
John R. Cirrito, (Washington University School of Medicine, St Louis, USA)
「Synaptic-dependent regulation of amyloid-beta metabolism in vivo」
10:50-11:40
Brian J Bacskai(Mass General Hospital / Harvard Medical School, USA)
「Calcium dysregulation in Alzheimer’s disease」
13:00-13:50
Asa Abeliovich (Columbia University, New York, USA)
「Transcriptional and post-transcriptional gene regulation in neurodegeneration: analysis of miRNA function」
13:50-14:40
Hiroshi Tsuda ((Baylor College of Medicine, Houston, USA)
「Pathogenesis of amyotrophic lateral sclerosis, a fly’s view」
14:40-15:00
Break
15:00-15:50
Paul J Muchowski (University of California, San Francisco, USA)
「Genetic dissection of amyloid toxicity in yeast and mice」
15:50-16:40
Craig M Powell (UT Southwestern Medical Center, Dallas, USA)
「Genetic animal models of autism: molecular mechanism to potential therapies」
二人目の方のマウス脳におけるアストロサイトのin vivoカルシウムイメージングも非常に面白く、「アストロサイトの活動による血管の収縮・拡張はイメージングできますか?」という質問をしたのですが、やっぱり考えていることは同じで、いわゆる現在の脳イメージングは血流=神経活動と近似しているのですが、それが本当なのかということを検証していこうとしているのだと思われました。
私が一番興味があったのは最後の方ですが、現在、ヒト遺伝学的解析によって次々と明らかになってきている自閉症関連遺伝子について、遺伝子改変マウスを作製し、その行動解析を行ってモデルとしての有効性を検証する、という研究スタイル。
Powell博士が扱っている遺伝子はneuroligin3, 4, 1と、癌にも関わるPTENです。
とくにPTENはシグナル系がかなりはっきりしているので、その下流の阻害剤として知られるrapamycinという薬剤をPTENノックアウトマウスに投与して、症状の改善が見られたことも発表されていました。
もちろん、これをそのまま自閉症のお子さんに応用するということにはなりません。
PTENシグナルの異常は自閉症の病態発症の一部であって、原因の可能性は他にも多数あります。
メカニズムの違いによってはrapamycinの効果は無いでしょうし、また、発症前から投与することが実際に可能かという問題もあります。
将来的にゲノム診断などをすれば可能になっていくのかもしれませんが、かなりデリケートな倫理的問題を含みますね。
非常に残念なのは、精神疾患領域におけるこのような最先端の発表を聞いている臨床家(心理カウンセラー含む)が日本ではとても少ないことです。
今年度で終了する「統合脳」は脳神経科学の広い領域をカバーしているとはいえ、現場の臨床へのフィードバックには大きな労力と時間がかかるでしょう。
基礎研究と患者さんサイドがもっと近くなったら良いと私は思うのですが、このことについては、また別の折に。