夭折

うちの学生(+その他の知人の)友人が亡くなったらしい。
その人がいくつで、どんな人となりなのかはまったく知らないが、若くして亡くなった同級生のことを思い出した。
たしか、30代の初めだったはず……。



Natureの1991年など、論文の年号はしっかり覚えていられるのに、自分の関係することについての時間の記憶が曖昧なのはなぜなのだろう?
ネガティブなことは記憶から抹殺したいからかもしれないが、そうでなくても何年だったのか、自分がそのとき何歳だったのか、とてもぼんやりしている。
たぶん、「時間」は画像にならないからかもしれない。
論文の年号は、見たりタイプしたりするので画像化されるのだろう。

若くして亡くなった友人は客観的レベルでハンサムだったから、「神様は美しい人を早くお呼びになる」という言葉は本当だと思った。
もっとも、こっちは中学1年生で出会っているから、身長も低い坊やの頃を知っているので、だからどう、ということはないのだが。

高校と大学は違うところだったし、職場も彼は大手出版関係K社で、しかも担当が隔週刊の男性誌H(今は廃刊)だったので、ほとんど接点は無かったが、助手になってからのあるとき、突然、職場に電話がかかってきた。
今ならメールが送られたのだろうが、たぶん同窓生名簿などに番号が載っていたのだろう。
「折り入って話がしたい」ということだったので、職場の近くの喫茶店で久しぶりに再会した。

「……実は、肺癌らしい」
「えっ!?」
「本当はアメリカに1年、会社から留学させてもらう予定で、その前に精密検査をすることになって、レントゲンで影が見つかった」
「で、どうするの?」
「一応、手術で切除する予定」
「……そうなんだ。とにかく、気持ちを強く持って頑張ってね!」

確か、オペ後に一度、お見舞いに行ったと思う。
その後、彼は自宅療養となり、化学療法をどうするかについて再度相談を受けた。
今ならいろいろな情報をweb上で探すことが可能だが、今から10年以上前は、患者への告知は先に進んだものの、一般市民が知り得るデータには限りがあり、主治医の示す成功率をどう判断するかだった。
もちろん、どんなに知り得るデータが豊富になっても、本人やその家族にとっては、治るか、治らないか、という二択の問題が突きつけられるということには大きな差はないのかもしれない。
つまり「一回性」の問題でであって、証明できることではない。

化学療法で一度は回復したものの、オペ後1年ほどで腎臓と骨への転移が見つかった。
すがる思いで民間療法などもしたようだ。
だが、思いもむなしく、それから数ヶ月のうちに帰らぬ人となった。

お通夜の席に参列したのだと思う。
中学の同級生達のほとんどが集まった。
担任の先生もいらした。
一目で違う業界だと分かるような職場関係の方々も多数。
ある意味、賑やかな葬儀だった。

とても美しい奥様が目を赤く腫らしていた。
お父様、お母様、あと、弟さんだったかな、あまりちゃんと覚えていない。
こんな若くしてなくなる人がいるのかということを、改めて思った。

やりたかったことがどんなにたくさんあっただろう。
そもそも、まずアメリカで生活して、違う視座を得て戻ってきて、それを新しい仕事に活かしてみたいと思っただろう。
彼は逝き、私はここにいる。
生きている間になすべきことをしなくては……。


子供より長生きしてしまったお父様は、同級生達などに呼びかけて本を作った。
それぞれがエピソードを寄稿し、数々の写真とともに、美しく装丁された100ページほどの本が一周忌の頃に届いた。
奥様からは毎年年賀状が送られるようになり、その差し出し人名は数年の間、旧姓には戻されなかった。
たぶん、彼の死という事実を受け入れるのには、より身近な人ほど、たくさんのエネルギーとたくさんの時間が必要だったことと思う。


その後も、物理的に身近だった訳ではないが、この業界に残る上で大事な友人が夭逝した。
共通の友人から翌日の朝、仙台の自宅に電話がかかり、残された奥様の傍にいてほしいということで、葬儀の日まで京都にいた。
桜の花が散る頃だった。

この友人の場合は自らの命を自らの手で絶ったのだが、そんなにまで追い詰められていることを、ほとんどの友人達は知らなかった。
「うちの世代の生命科学のトップスター」という肩書きがそんなにも重くなりすぎたことを。
学生時代や米国留学時代の栄光を日本でうまく次のフェーズに繋げるには、彼は繊細すぎたのかもしれない。


あらためて思う、これらの友人たちの命の重み。
残された我々は彼らの分も生きなければ。
by osumi1128 | 2009-10-15 21:27 | 雑感

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