冷泉港亞州Francis Crick Symposium on Neuroscience【追記あり】

月曜日に上海経由で蘇州に行き、本日、総合科学技術会議基本政策専門調査会出席のために帰国しました。
向こうでは(いつもながら)ブログにアクセスできませんでしたので、とりいそぎアップします。

今回の国際会議はCold Spring Harbor Laboratory Meetingの中国版、Francis Crick Symposium on Neuroscienceへの参加です。
中国のうなぎ登りの経済力に物を言わせて、Cold Spring Harbor Meetingの中国オフィスを「冷泉港亞州」として、ここ蘇州のホテル&会議場の中に設置していたことを、こちらに来て初めて知りました。
施設は今年の1月に開設されたばかりで、建物やインテリア等のデザインはシティー・モダンなスタイリッシュな感じです。
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会議場には本家にある「二重らせんオブジェ」や「タンパク質立体構造オブジェ」のコピーもあります(笑)。
本家のオブジェはこちらを参照
本家の方はちゃんとしたアートだけど、コピーはアートの域には達してませんね。



しばらく前に、米国の民間団体が開催している3つの大きなシンポジウムとしてこのCSHL Meetingの他に、Gordon ConferenceとKeystone Symposiumがあることを書きました。
CSHLコースの運営(2006年7月24日)
それぞれの団体が、年間数十の、それぞれの研究トピックに特化した、参加者200-300名ほどの会議を科学者コミュニティーのために運営しています。
このようなミーティングは最先端の研究の情報交換と人材育成の意義を担っていますが、米国の場合には国の支援ではなくて、いわば受益者負担として科学コミュニティーが主体となって、さらに企業や個人からの寄付をもとにして運営されてきたという伝統があります。
日本にも内藤財団などがシンポジウムのご支援をして下さってはいますが、いかんせん、上記とは規模が圧倒的に異なります。

数年前に、米国のようなミーティングを日本でも国が支援して行うべきではないか、という議論が文科省系の委員会で為されたことがありました。
結局そのまま何も起こらなかった訳ですが、日本では科研費の「班会議」やグローバルCOEの主催するシンポジウム等が同等の役割を負っているといえるでしょう。
ただし、これらは数年のプロジェクトで行われていますので、継続性に欠けますし、研究を支える多様な人材の雇用創出にはつながりません。

今回、中国は政府主導によりCold Spring Harbor Laboratory Meetingのアジアオフィスを持ってきて、年間10ものシンポジウムを開催するという意気込みは、まさに中国の経済成長と科学政策の方向性を示すものだと感じました。
米国を追い駆けていた時代には、上記のような会議において研究人材を育ててもらっていながら、それなりの地位を築いた時期に、世界のリーダーとして相応しい行動を取らなかった、いわばNobles obligeに欠けた振る舞いであったのではないでしょうか?

さて、今更、冷泉港亞州を日本に持ってくることはできない状態な訳で、これからどのように対処すべきなのか、待ったなしの決断が必要なときと思われます。
米国の51番目の州になるのが良いのか、大きな隣国の配下となるべきか、あるいは独立路線を守るのか、大きな方針から決めていかなければならないでしょう。
その上で、どれほどの数と質の科学・技術人材が日本には必要なのか、どれほどを国が支援して育てていくべきなのか、それは、どのような教育環境においてなのか、国民全体の科学リテラシーはどのあたりを目指すのか、というバランスからも考える必要がありますね。

【追記】
ブログ読者の方から、上記の米国の会議も、NIHの会議用のグラントや企業等からの寄附(毎回のオーガナイザーが寄附集めに奔走する)で成り立っているとのご指摘がありました。
それはそうなのですが、運営母体の継続性という意味では日本の班会議等とは異なるという点を強調しておきたいと思います。

いずれにせよ、日本の科学・技術をとりまく環境に対しては、もっと危機感を持つ必要があると思います。
先日も引用させて頂きましたが、論文生産数そのものも低下傾向にあるのですから。
(数だけではないことは、もちろん明白ですが)
グラフで見る日本の科学研究の後退(?):日本の2005-2009の論文生産数は1999-2003の水準より減少
こちらのほかに、「論文占有率と被引用数の関係」で表した指標も、2000年くらいを境に後退している、というものがあります。
(すみません、ちょっとすぐに探せませんが、委員会で見た資料の中にありました)

*****
いくつか画像をどうぞ。
建物の外側です。
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Cold Spring Harbor Asiaのロゴマーク。ロゴが気になるワタシ。
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だいたい300名くらいの聴衆だったかと思います。会場の広さは500名収容くらい。
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数年前にノーベル賞受賞されたLinda Buck先生が初日夜にKeynote Lectureをされました。
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会場はWatson Auditoriumと言います。当て字が面白い。
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うちの研究室からは中国人ポスドクさんに参加してもらいました。かなりがんがん質問しまくってました。
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ミーティングなので食事情は毎日ビュッフェ。最後の日は本家ならロブスターディナーだけど、どうなるのでしょうね? 先に帰ってきてしまったので不明です。こちらは朝食のお粥。トッピングに内臓を煮たものや春菜載せて。
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by osumi1128 | 2010-04-15 22:25 | 科学技術政策

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