聴きに行きました「少年スギモトはいかにしてHiroshi Sugimotoとなったか」
2010年 04月 17日
その後、降ったり止んだり、だんだん雨に変わって、それももう少しのことでしょう。
さすがに白かった地面もすぐに地肌が見えてくるのは、やはり春。
朝から配水管清掃&消火設備点検を受けて、出張のモロモロを片付けたりして、一息つくのに『和楽』の3月号を読み直したら、「フランソワーズ・ジロー」について書かれた記事に目がとまりました。
ちょうど日本で展覧会があるのに合わせて書かれたものだったのですが。ピカソの愛人で2人の子供の母でもあった彼女が2回目に結婚した相手がなんとジョナス・ソークだと“さりげなく”書かれていました。
ちょ、ちょっと待って下さいよ、あのJonas Salkですよ。
「小児麻痺のワクチン開発」で有名なのかもしれないけど、それよりも、サンディエゴにソーク研究所という、ノーベル賞受賞者もたくさん輩出した研究所を設立した方ですよ。
生命科学系の研究者だったら、ソーク研究所に留学した方々や在籍する方が発表スライドの最初や最後に必ず使うのを一度は目にしているであろう、あの美しいシンメトリーな建物は、ルイス・カーンの設計ですよ!
つまり、ピカソの40歳年下で10年の間ミューズとして影響を与えたフランソワーズ・ジローが、サンディエゴに移ってジョナス・ソークに出会ったことによって、研究所の建物も素晴らしくなって、良い研究環境が生まれて……。
ソークには友人がたくさんいて、彼らの中には生前のジョナスに会ったことがある人もいるから、さらにフランソワーズ・ジローを介してピカソに繋がるとすると、ワタシから4人でピカソってことね。
やっぱりsmall world理論は正しいです。いっきにピカソとの心的距離が縮まりました(笑)。
さて、中国出張で先送りになっていたのですが、先週仕事の後に滑り込むことができたトークイベント「少年スギモトはいかにしてHiroshi Sugimotoとなったか」の感想などを。
(かなり長文になりました……)
杉本博司氏の作品を意識するようになったのは、前出の『和楽』の連載「苔のむすまで」を読むようになってからなのだと思います。
実際の作品を観たくて直島にも行きました。
杉本氏は、雑誌等で見ているのと同じ、ジーンズにラフなジャケットを羽織ってご登場。
で、その杉本氏をホストするお相手は、元BRUTUS副編集長の鈴木芳雄さんという、美術関係がご専門の編集者。
鈴木さんの方はブログ「フクヘン。」をずっと愛読しているのですが、最近はTwitter上でも@fukuhenとしていろいろポストしてらして、このイベントも最初に情報を得たのはTwitterのtime lineでした。
私としては杉本氏とfukuhenさんとどちらのお話も楽しみました。
中身については、fukuhenさんが、使われたPPTスライドとともに詳しくブログにエントリーされてますので、そちらをご参照下さい。
私にとって、一番興味深かったのは、杉本氏は「模型少年」であった、という事実です。
かねてより「男性科学者の3分類説」を提唱しており、「昆虫少年」「ラジコン・模型少年」「図鑑少年」と分けてそのメンタリティーの理解の一助にしていたのですが、これって、あまり「理系」に拘る必要もないってことね、と思い直した次第。
もっとも、杉本氏の作品の作り方は、かなり「理系」っぽくて、トークイベント開始前に流れていた映像でも、放電現象のインスタレーションの「実験」や、制作のための様々な機械や道具の揃え方などには唸らされました。
「昆虫少年」は文字通り、昆虫採集を趣味とする方で、極めると標本蒐集の方に行きます(養老先生や竹市先生など)。
「ラジコン・模型少年」は、外に出て虫を探すよりも、家の中で制作にいそしむタイプで、今でも秋葉原のパーツ屋さんを覗くのが好き(堀田先生など)。
「図鑑・カタログ少年」は、上記2つのタイプよりも身体を使わない精神活動派。
これらは、重なり合ったりもしますが、共通項としてのコレクション・マニアという性質もありますね。
コレクションという性癖は、アズマヤドリなど、凝った巣(本当の巣ではなくて、四阿)を造る南方の鳥を思い出させます……。
アズマヤドリの場合には雌に気に入ってもらうために、せっせと綺麗なパーツを集めて四阿を造るのですが、ヒトの場合にはコレクションは姓選択にはあまり関わりませんね(微笑)。
さて話は戻って、杉本氏の場合は、鉄道の模型作製と、鉄道写真の撮影がリンクしていたようですね。
その他の「メカもの」もお好きだったようで、『子供の科学』が愛読書。
(今は『大人の科学』となってしまっていますが……。
子供達が何かを「造る」という遊びをしなくなる傾向が、もし本当にあるのだとしたら、将来のcriativityがどうなるのかと、ちょっと心配になります。)
その他『模型とラジオ』『鉄道模型趣味』なども。
で、鉄道模型は「動く」ものなので、当然、走らせることになるらしいのですが(なにせ、私自身はそういう遊びをしたことがないので)、それが杉本写真の「ジオラマ」シリーズのルーツになった、という分析は、なかなか面白く思いました。
これは、ニューヨークの自然史博物館の「ジオラマ」の展示物を撮影したもので、背景と模型が画像の二次元の中では溶け込んでいる、という不思議な作品。
これが近代美術館に収蔵されたことが、今日の杉本氏の原点とも言われています。
「ジオラマ」と似たものとして「ポートレート」シリーズがあり、こちらは、「蝋人形となっている有名人の肖像写真」で、やはり二次元の肖像画が三次元になった蝋人形が、またもや写真に収められると二次元に戻る、という不思議さ。
その次の写真シリーズは「劇場」もので、「映画1本分の光の照り返しで歴史的に貴重な映画館建築を描写する」というコンセプト。
私が直島で見た「海景」シリーズもまた「時間の流れ」を二次元の世界に閉じ込めている点においては共通していますね。
「遷ろう時間」を気にするのは日本美術の神髄だと思います。
さて、そうやって鈴木さんが杉本氏を分析してらした訳ですが、それをトークイベントにするために、古本屋さんで『子供の科学』ほかの資料を収集。
杉本氏が使っていたカメラの型番等々への言及。
昔の「テープレコーダー」や「ポータブルテレビ」を説明するためにちゃんと画像をスライドに載せる、などなど、鈴木さんのプレゼンは用意周到。
あるいは一言で言うなら「メカ好き♡」なのでしょうね。

もちろん、鋭い分析はオタクな(失礼!)メカに止まらず、杉本氏がこっそり隠し撮りした「ローマの休日」のオードリー・ヘップバーンの「コンタクトプリント(ベタ焼)」にも向けられていたはずで、トークの時にあまり言及されていなかったのですが、コンタクトプリントには、どのショットの次にどれが映って、という、撮影者の心の動きを追ってたのではと思われます。
今となっては、何がきっかけでBRUTUS副編集長(当時)の方のブログに行き着いたのか思い出せないのですが、リンク張るようになったのは「写真特集 BOY'S LIFE」という2004年の号についての「思い」が面白いと思ったからのような気がします。
(表紙は上記号の表紙で、「フクヘン。」さんのエントリーからパクってます)
「少年写真」とはどういうジャンルなのかは言い難いのですが、一番分かりやすいところで言えば、乗り物系(鉄道、飛行機、自動車、などなど)、あと、工場の配管などもその類でしょう。
今回のトークにも出てきた杉本氏の写真も含まれています。
少年写真自体は、さほど心に響いた訳ではなかったのですが、面白いと思ったのは下記。
さて、さきほど「〈BOYS’ LIFE〉というタイトルに込めた思いはひとつには」と
書いた。実は裏テーマはもうひとつある。
それは当時いわゆる「ちょいモテオヤジ」の雑誌が全盛を誇っていて、
僕はそれを横目で見ながら「へー、みんなそんなにモテオヤジになりたいのか?
とビックリし、僕は(オッサンだけど)オヤジになるよりは
気持ちは少年のままでいたいなぁと考え、そういう想いを込めて作ったのだ。
「モテオヤジになりたければ、あちらへ。僕たちは永遠の〈BOYS’ LIFE〉」
みたいなサブタイトルを付けようとし、当時の編集長に止められた気がする(笑)。(上記08/06/28 |エントリより)
なんとなく通ずるものを感じるのがBRUTUS特別編集「井上雄彦」にまつわるモロモロ。
ちなみに、この人気漫画家の「井上雄彦・最後のマンガ展」は連休は3日からせんだいメディアテークで公開されます。
井上雄彦最後のマンガ展仙台版開催日決定