科学者のアウトリーチ活動って何だろう?

梅雨明けが待たれるこの頃です。
体調を崩される方も多いかもしれませんね……。

先日(7/3日)行った第5回脳カフェですが、250名ほどの来訪者(受付通過しない方もあって、正確には把握できず)のうち98名からのアンケートを回収して、自由記載のご意見などをじっくり読んでいます。
リピーターが1/3で、新規の方が2/3なので、このバランスは丁度良いかと。
講師のお二人(川畑秀明さんと鈴木芳雄さん)のお話も大変好評で、良い人選ができたということには満足。
モデレーターとして参加した総合討論のところについては、この時間を削って講師のお話を長くした方が良かったかなぁ、という思いもあり、いつかまた次の機会でもあればと考えています。

【追記】
ちなみに脳カフェの様子はこちら(講演の動画リンク付き)




さて、選挙の前でしたが、研究者のアウトリーチ活動について科学技術基本政策策定の基本方針(案)では以下のように描き込まれています。
○研究者は、それぞれの研究について、内容や成果を分かりやすく発信する取組を進める。例えば、3千万円以上の公的研究費を得た研究者には、小中学校や市民講座でのレクチャーなどの科学・技術コミュニケーション活動への貢献を求める。また、公的資金による研究論文は、可能な限り機関リポジトリに登録することとし、その際には、一般向けにも分かりやすい数百字程度の説明を添付する。
○アウトリーチ活動の普及・定着を図るため、大学の組織的な取組を支援 するとともに、研究者等のアウトリーチ活動への参画が業績評価に反映 されるようにすることが求められる。


これまで一貫して科学コミュニケーションの重要性を主張してきた立場としては、ここまでの書きぶりになったことに驚くとともに、大丈夫かなぁ、と思うところもあります。
小中学校でお話をするというのは、高校生以上に向けた講義・講演とは大きく異なるノウハウや経験が必要だと考えられますし、市民講座も一方通行になりがちなところがあります。
では、いわゆる「サイエンスカフェ」ならいいか、というと、これもまた日々努力が必要です。

脳カフェで私たちが気にしてきたことの一つは、なるべく聴衆の多様性が確保されることでした。
つまり、これまで「脳科学って何?」と思っていた方に、できるだけ語りかけたかったのです。
この手の「タダで行われるサイエンス・セミナー」の常連の方々だけでなく、高校生や主婦の方などに是非参加してほしいと思っていました。
その意味で、今回の第5回は「脳とアート」というテーマにしたこともあり、参加者の女性比率が向上しました。
(アンケート回答者の中では女性が58名と優勢でした。)
年齢層は10代から70代まで分布しています。
(これも、今回の回答者では20代がもっとも多いという結果になりました。)

そのために、講師の人選だけでなく、ポスターやチラシのデザイン、告知の仕方(ウェブだけでなく、河北新報や仙台闊歩など地元メディアへの御願い、チラシを置いてもらうこと)等、いろいろ地味な裏方仕事も行わなければなりません。
幸い、東北大学脳科学グローバルCOEの場合には、事務局体制がしっかりしているので年に2回ペースでこういうイベントをこなしていますが、研究者個人で行うのは大変かもしれません。

やはり、研究費配分機関、学会、研究機関等がサポートすることが必要なのではないかと思いますし、そのための専任のポストが確保されることがなければ、皆が疲弊してしまうのではないでしょうか。

また、イベントを行えば研究者のアウトリーチ活動になるのか、という点も問題です。
上記「基本方針(案)」では、研究内容を機関リポジトリに登録することや、英語の論文などの要約を日本語で載せることを推奨しています。
これらは(嫌な言い方ですが、税金で研究を行っている以上)最低限のことだと思います。
ただし一般の方には、単発の論文の要約が日本語になっていたとしても、その研究の意義や位置づけを理解することは難しいのではないでしょうか?

もっと多様なアプローチが必要だと考えます。

サイエンスにまつわる本はもっと出版されることが望まれます。
もし電子書籍がそれに適した形態なのであれば、大いに活用されるべきでしょう。
某TV局の「歴史秘話ヒストリア」の科学版もあったらいいなと思います。
ポドキャスティングも、英語ベースの名だたる科学誌は出していますが、日本で雑誌を発行している学会には、そこまでの力はありません。
(ちなみに日本分子生物学会では、現在、著名な大御所の先生のご執筆によるシリーズ書籍の刊行を目指していますが、読者対象は専門家に進みたいと考える若い方々かと。)

サイエンスカフェを行って、来て頂いた方にさらに情報を提供するようなフィードバックは、どうしたら良いのかなどとも思っています。
ちなみに、今回の脳カフェでも、せんだいメディアテークさんに「脳科学本コーナー」を作ってもらっていました。
東北大学脳科学GCOE広報担当者からの推薦本は、こちらのBrain & Mind第10号の中に掲載されています。
Brain & Mind第10号(PDF:13MB)

そういう多様なアウトリーチ活動を行うには、科学者だけでなく、多様なスキルや経験を有する方々との協力が必要であり、繰り返しますが、そういう人材のためのポストが望まれます。
同様のことは、例えば生命倫理に関わるような人材にも言えるのですが、これはまた追って、エントリーしたいと思います。
by osumi1128 | 2010-07-15 09:23 | 科学技術政策

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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