書評『未来をつくる図書館』:「知的インフラ」としての図書館とは?その1【訂正!】
2010年 09月 05日

神戸から仙台に戻って来ても涼しくない、というのが今年の夏。
やれやれ、真夏日はいつまで続くことやら。
先日、ボストンでお目にかかった菅谷明子さんの御著書『未来をつくる図書館ーニューヨークからの報告』を神戸からの帰路で読み始めた。
2003年に岩波新書として刊行されたものだが、とても新鮮だった。
本書で中心となっているのは、マンハッタンの中心部、五番街と42丁目がクロスする交差点にあるニューヨーク公共図書館The New York Public Library。
この図書館は「公立」ではなく、もともとは個人のふたつの図書館が合併してできたものであり、鉄鋼王カーネギーなどの大口の寄付により、複合的な図書館としての現在の形が整えられていった。
運営はNPOによってなされている。
まずは、いくつかの数字を紹介したい。
全米には約1万6000の公共図書館があるが、この数はアメリカを代表するハンバーガーチェーン・マクドナルドの全米店舗数1万2000をはるかに上回る。2000年には11億4628万人が訪れ、17億1396万点の資料が貸し出された。…10年前に比べると実に2倍に増えている。…日本では人口4万9000人あたりに1館ある計算だが、アメリカではその約3倍の1万6000人に1館となる。(p.19-20)
舞台芸術図書館では「音」も立派な資料の一部である。…マリア・カラスの公演、テネシー・ウィリアムズの詩の朗読、ケネディ大統領のスピーチから、ラジオドラマやテレビの特番まで50万本ものテープが集められている。…5000本にのぼるドキュメンタリーなど映画のビデオテープ、8500本の16ミリフィルムのほか、CDも3万5000部を所蔵している。(p67)
ニューヨーク市五地区全体の図書館来館者数は年間4100万人。この数は、市内の全文化施設への来館者とメジャーなスポーツチーム観戦者を加えた数をしのぐほどだ。(p.92)
他の分野と同様に、ニューヨーク公共図書館では医療関連のデータベースも無料で提供している。データベースには300の健康関連の刊行物と1200のパンフレットが全文取り出せるものや、20の健康参照図書が検索できるもの、また、米国で認可されている全処方薬、サプリメント、市販の薬品の情報が集まったものなどがある。より専門的な調査には、学術雑誌540誌の全文と、570誌の要約が調べられるデータベースも利用でき、図書館カードがあれば暗証番号を使って館外からもウェブサイト経由で閲覧が可能だ。(p.106)
ニューヨーク市全体では毎日10万人もの子どもが図書館に足を運ぶほか、年間2万5000以上の講座が開かれ60万人が参加している。(p.117)
本書で繰り返し紹介されているのは、図書館が単に書物等の資料を「アーカイヴ」するだけではなく、いかに市民がそれを活用できるか工夫されている事例である。
例えば、科学産業ビジネス図書館(通称シブル)では、デジタル環境が充実しているほか、種々の「ビジネス講座」が開催されている。
9.11のテロの際には、図書館のサイトを利用して素早く情報提供の体制が整えられた。
子どもの教育に関して図書館もコミットし、本の選び方のアドバイス、宿題の支援、インターネットの使い方の伝授なども、地域の図書館が行う。
(医療情報の提供に関しては、あらためて書いておきたいので、ここでは略)
これらに関して「図書館が行う事業か?」という疑問・批判もあるかもしれない。
日本のように、図書館が「公共」である場合には、活動の制限もあろう。
だが、誰もがアクセスしやすい「知的インフラ」の恩恵に被ることができるようにするには、「敷居を低くする」ことは大切なことだろう。
ちなみに、ニューヨーク公共図書館はいろいろな映画のシーンでも使われている。
例えば有名なのはゴーストバスターズ。
比較的最近だとSATCのキャリーが"ビッグ"とのウェディングパーティを挙げようとしたのもこちら。
【関連リンク】
『未来をつくる図書館ーニューヨークからの報告』(菅谷明子著、岩波新書)
ニューヨーク公共図書館
ゴーストバスターズDVD
Sex and the City (Movie/DVD)