書評『未来をつくる図書館』その4:寄附の文化

これで最後の予定の『未来をつくる図書館」の書評、というより、本を読んで触発されてのエッセイのような文章です。
本日は、図書館を運営するための経済基盤について。

その前に「7年前に刊行された資料に基づいてICTに関する批評をするのは、どうなんでしょうか...」というコメントを残された方がいましたが、現在の日本の状況はどうなのかについて、いくつかのHPなどを見てみました(リンク先として挙げてあります)。
その結果、2003年に書かれた本書から、まだまだ学ぶことが多いなぁ……というのが正直な感想なのです。
もちろん異論のある方もいらっしゃるかもしれません。
また、もっと良い資料があれば教えて頂ければ幸いです。





どのような事業であれ、運営するためには資金が必要となる。
本書の第4章「図書館運営の舞台裏」には、そのあたりの事情について書かれていたのだが、「寄附の文化」の具体的なことを知るのに役だった。

すでに触れたが、ニューヨーク公共図書館は「公共」のための機関ではあるが、元々は2つの個人図書館が合併したものであり、現在ではNPOによって運営されている。
そういう意味ではむしろ、メトロポリタン美術館などに近く「市民の手で作られた」組織だ。
19世紀の時点で新興都市であったニューヨークが「世界文化を担うにふさわしい都市になるためには、経済面のみならず文化面を充実させることが不可欠」と考えられ、図書館や美術館を充実させることに心ある裕福な市民が私財を投入した。

現在、五番街と42丁目のあたりにある建物は1911年に開館した美しい大理石建築だが、この建物を建てるにあたって、NPO(当時は財団)と市が取り決めを行った。
図書館が市民に対して館や読書室を連日夜九時まで開く代わりに、市には建設用地と建築費、維持管理費を負担して欲しいというものだった。(p.157)

ハコの部分以外はNPOが頑張るので、ハコを作ってほしい、という訳だ。
実際に、ワシントンDCの議会図書館よりもはるかにお金をかけた、当時の最新設備の図書館が完成し、ニューヨーク市はその威信を世界に発信した。
スコット・フィッツジェラルドが『グレート・ギャッビー』を出版したときには出来上がっていたことになる。

その後も、鉄鋼王カーネギーが「それまでに築き上げた巨額の富を社会貢献のために」使うことによって、有名なカーネギーホールのみならず、多数の公共図書館が建設されたり、立派な「ローズ読書室」が整備されたり、前回紹介した「研究者・作家センター」はルイス・カルマン夫妻の寄附によるものだ。

では、現在(2003年時点)での資金調達戦略はというと、もちろんニューヨーク市からの補助金もあるが、民間からの資金も研究図書館では半分程度にのぼる。
そのため、資金調達のための費用として事業開発部関係で年間予算の1-5%が計上されているというから驚く。
具体的には「友の会」向けに各種講演会(「寄附講座」まで!)や定期刊行物を作成配布することから、寄附の額によっては晩餐会への招待や、年間2万5000ドル以上の巨額の寄附者は館長主催の評議会委員となる。
また、各種企業に図書館のスポンサーになってもらう、そのために図書館で展覧会などのイベントを開催し、企業のイメージアップにつなげやすいようにする。
さらに、図書館という「場」を貸し出すことも行われている(ちょっと触れたが、SATCでキャリーがウェディング・パーティの会場にしようと思ったのがまさにNYPLでしたね)。

チャリティーの晩餐会などの他に、ユニークだと思ったものとして「図書館で本作り」(子どもとその親向け)、「文学昼食会」(作家の講演やパネルディスカッション)、若年層向け「ヤングライオン」企画(ニューヨーク公共図書館のシンボルのライオンにちなんだ名前)がある。
ヤング・ライオンのメンバーたちは、図書館のtまえに自ら資金集めのイベント企画も行う。

若い世代に目を向けていることは重要だと思った。
さらに、政治家や地方公共団体等に対しても、図書館がいかに重要で良いサービスを行っているかをアピールしている。

長々とこのような事例を取り上げているのは、今後、法人化された「旧国立大学」の運営を考える場合に大いに参考になると思ったからだ。
「大学はアプリオリに大事」というコンセンサスは通用しなくなる可能性がある。
その前に大学は自ら「いかに重要で良いサービスを学生や市民に対して行っているか」についても考え、それを訴え続けていかなければならない。
ブランド力を築くには時間がかかり、それを維持するには努力が必要である。
そして、それを失うのは一瞬である。

*****
折しも、昨日は「9.11」すなわち、9年前、ニューヨークのワールドトレードセンタービルにジェット機がぶつかった日であった。
昨日のメトロポリタン美術館のHPのトップ画像に、日本のアーティスト杉本博司氏のワールドトレードセンタービルの写真が使われていたということを、7月の脳カフェの講師で来て頂いた鈴木芳雄さんのブログ「フクヘン。」を介して知った。
残念ながらトップページが日替わりのようで、もう残っていなかった。
犠牲者のご冥福と、その家族、友人の方々、ニューヨーク市民の方々の心の平安と、これからの世界の平和を心から祈ります。

【参考リンク】
『未来をつくる図書館ーニューヨークからの報告』(菅谷明子著、岩波新書)
ニューヨーク公共図書館
メトロポリタン美術館
鈴木芳雄さんのブログ「フクヘン。」9/11付け
by osumi1128 | 2010-09-12 22:58 | 書評

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