時間の使い方(若い方々へ):その2

外を歩くのに丁度良い季候になったので、週末、自宅から大学まで歩くようにしている(悲しいことに、春は花粉症で外に出るのが辛い…)。

続けて歩くとだいたい1時間くらいなのだが、途中、カフェで一休みしたり、お店やギャラリーを覗いたり、面白いと思ってiPhoneデジカメで撮った画像をTwitterを介してアップしたり……という「ながら散歩」。

例えば、この週末の体育の日はこんな具合。
仙台街歩き101011
その前の週はこんな感じ(投稿したのが時間順でなくて……苦笑)。
土曜日の街歩き

「二足歩行」と「言葉を喋る」のが人間らしさだと思うので、その能力が損なわれないようにしないと、と思う。

さて「時間の使い方」の続きのお話……。
【2.時間の流れを逆向きに考えよう】




今日、これこれを行ったから、明日はその続きであれをしよう、明後日は……、そうすると来週にはこうなっているだろう……。
こういうforwardな時間の捉え方はもっとも基本的なことである。
でも、こういう時間の使い方だけでは、大きな仕事を成し遂げるには足りない。
今日の分の達成度のズレが、毎日、毎週、毎月溜まっていくと、大きな誤差が生じてしまい、当初の計画が成り立たなくなるのだ。

以下は生命科学系の研究者向けの実例になるが、その他の分野の方なら、それぞれの事情に合わせて読み替えてもらえばよい。

もし、3ヶ月後に論文を投稿しようと思ったら、英文校正に1週間かかるとし、さらに共著者の方々に読んでもらうのに1週間見るとして、2ヶ月半前には本文も図も出来上がっていないといけない。
普通の原著論文の構成は以下のようになっている。
表紙:1頁
要旨:1頁
イントロ:3〜4頁
結果:6〜8頁
ディスカッション:3〜4頁
材料&方法:3〜4頁
文献:4頁〜5頁
付図説明:3〜4頁

この計算で23-31頁分になる。
(かつて主流であった〈ダブルスペース〉ではなく、ワープロ時代の標準である〈1.5スペース〉としての計算。)

どんな順序で書いていけばよいかは、それぞれ指導者によっても好みが大きいと思うので、ここでは割愛しておくが、ディスカッションやイントロを練るには2週間くらいはかかってしまうこともあるから、2ヶ月後の時点で、結果・材料&方法・文献・付図説明が終わっていないといけない。
だから、1ヶ月後の時点でデータが完全に出そろって図がファイナルに近い状態になっていないといけない。
そうすると、図が6つくらいあるすると(実際には最近ならSupplemental Figuresも同じくらいの数あったりするけど)、2週間で3つのペースで図が作れないと間に合わない……!

…という計算になる。

もっと長い時間スケールの話をしよう。

例えば40歳のあなたは、どんな立場でどんなことをしていたいのか?
そのためには、35歳までに、どんなスキルや素養を身につけ、どんな経験をしておけば良いのか?
さらにそのためには、30歳までに、どこまで到達していればよいのか?

さて、こうなるとまた具体的に考えられなくなる方のためには、こんなヒントがある。

研究者コミュニティーのポータルサイトとしてResearchmapというものがある。
そこには、各人の情報が公開されていて、例えば、うちの元助教のNさんはこんな具合
今年38歳で独立のチャンスを狙っており、神経発生の分野で目下の論文数が19本。
留学したのが35歳のときで、その時点の論文が13本。
30歳の時点ではうちの助手をしていて、その時点で5本。
平均すれば、学位取得頃から年1本以上の論文が(筆頭著者以外のも含めて)発表されている計算になる。

もちろん、論文の数は分野によって大きく異なる。
また「数」だけが問題なのではないので、それぞれの被引用数などはGoogle Scholarなどで調べて頂けばよい。
PIになってしまった人の分は、とくに生命科学分野の場合にはそのラボの大きさ等で論文数は大きく異なるから、半独立くらいまでの方のデータが、とくに若い方には参考になるだろう。


つまり、もうすぐ学位が取れそうだから、次はポスドクになろう……という直近のforwardな目標と、人生半ばの時点において、どんな環境で何をしていたいか、という目標の間を、reverseな時間の流れで考えることが必要なのだと思う。

*****
「時間の使い方」の最後の話は「他人の時間を上手く使おう」の予定。
by osumi1128 | 2010-10-12 02:28 | 若い方々へ

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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